Slush2021 Day2イベントレポート:Slushから見る脱炭素化への動きとコロナ禍で生まれたスタートアップ

Slush Day2の中でもEUにおける脱炭素化に向けた市場動向を反映したスタートアップと、パンデミックの影響を受けて成長しているメンタルヘルスとVR・AR系スタートアップ、そしてSlush全体から見える今後のスタートアップ動向について考察していく。
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本記事では、Slush Day2の中でもEUにおける脱炭素化・サステイナブルな市場動向を反映したスタートアップ、加えて、パンデミックの影響を受けて成長しているメンタルヘルスや、VR・ARのスタートアップをその背景と共に紹介する。そして、Slush全体から見える今後のスタートアップ動向について考察していく。

EU全体の脱炭素の流れやサステナビリティのニーズに向き合うスタートアップ

EUでは2021年7月に国境炭素税(Carbon border tax)の導入が提案され、2023年から段階的に導入、2026年に最終的なシステムが稼働する予定となっている(参照)。今回のSlushでも、消費財、食品、ソフトウェア、投資など、引き続き多様な分野においてサステイナブルや脱炭素に関するスタートアップが登場した。

参考記事:欧州脱炭素化の現状

SKOSH AB(消費財)

https://www.skosh.se/

高品質で再利用可能なスプレーボトルと、水道水に溶かして使用するタブレット・パウダー状の洗剤により、プラスチックゴミの出ない洗浄液を提供するスウェーデン発のスタートアップ。衣類の洗剤や食器用洗剤などの商品展開となっている。

同社によると、35%の北欧の消費者はプラスチックフリー製品を積極的に探しているという。また、滞在していたヘルシンキ市内のスーパーや薬局でも、プラスチックフリー製品(固形石鹸など)を簡単に見つけることができ、ヨーロッパにおける関心の高さが伺われた。Slush100に登場したフィンランドに拠点を置くLuonkosも、固形の体用保湿オイルや顔用のクレンジングを提供していた。

BettaF!sh(食品)

画像提供:Samuli Pentti, Slush2021

https://betterfish.de/

海藻を主原材料として、100%プラントベースのツナを提供するベルリン発スタートアップ。今回のSlush会場のメディアラウンジで、同社のツナを使ったサンドイッチが実際に提供されており、通常のツナ缶と同様の味と食感が再現されていた。

画像提供:Esa-Pekka Mattila, Slush2021

食品に関しては、卵、魚、チーズなど、代替タンパク質に関するスタートアップが見受けられた。また、フード・バイオテック分野に関してはDay2のトークセッションでも「What's happening in biotech」というテーマで、「FabricNano」Grant Aarons氏、「New Culture」Inja Radman氏、「Atomico」パートナーのIrina Haivas氏による議論が行われた。セッションの中で、同業界はここ数年間の技術発展に加え、市場からの需要の高まりが組み合わさり、注目すべき業界であることが述べられていた。

Carbonlink(ソフトウェア)

https://www.carbonlink.fi/en.html

企業におけるカーボンフットプリントを自動で可視化するシステムを提供する。同社のソフトウェアと企業の経理情報を結びつけることで、移動や消費財など、それぞれのカーボンフットプリント量を可視化できるシステムとなっている。同社以外にも今回のSlush全体を通じて、データの可視化、特に環境指数の可視化に関連した、KausalFinz.などのスタートアップが複数見受けられた。

Eco tree(投資)

https://ecotree.green/en/

木を購入し、その木のオーナーとなることで、購入後もその木が吸収した二酸化炭素の情報を知ることができ、成長後の木材の販売利益や加工したプロダクトとして受け取ることができるサービスを提供する。同社のサービスは、より手軽にサステイナブルな行動を起こすことができるだけではなく、そのインパクトを認識できる点が魅力となっている。

パンデミックの影響で加速した、多様な働き方やメンタルケアのニーズに向き合うスタートアップ

HR・バックオフィスの領域はグローバルに見て、働き方の多様化と生産性向上のための効率化が唱えられていることもあり、テクノロジーの導入が活発に行われている。それに伴った傾向として、昨今見られる大きな動きが3つ挙げられる。チームや組織単位でのペーパーレス化、タスク管理可視化と効率化、メンタルヘルスケアの導入である。

引用:HR領域の動向:データ・ドリブンとマインドフルネス

COVID-19の影響により、多様な働き方や人々のメンタルヘルスへの注目がさらに集まっている。今回のSlushでもリモートワークやメンタルヘルス関連の様々なソリューションを提供するスタートアップが多く見られた。

参考記事:【コロナ禍のビジネス】事業継続のために必要な5つのアクション

Grace Health(ヘルスケア)

https://www.grace.health

画像提供:Esa-Pekka Mattila, Slush2021

「Grace Health」は約19億人存在する、新興国の女性が利用しやすいチャットボットとモバイルアプリを介して、本格的な女性向けデジタルヘルスケアプラットフォームを構築。2021年12月現在、80万人の女性が同社サービスを利用しており、健康状態や妊娠のしやすい時期、月経周期が適正かどうかなどを把握することができる。また、今年のSlush 100のピッチコンペティションで優勝した「Hormona」も女性のヘルスケアにフォーカスしたサービスである。

参考記事:ピッチコンテストSlush 100でフェムテックスタートアップ「Hormona」が優勝【独占インタビュー】

Mindclip(ソフトウェア)

https://www.mindclip.com/

チームのタスク管理とあわせてメンタル・ストレスの状態を可視化するアプリを提供している。具体的にアプリは、ユーザーは自分の行動を他のチームメンバーがどのように受け止めているか、簡単なアセスメントに基づいて認識し、行動や精神状態に対する自己評価と他者評価の比較によって、より良いチームの状態を構築できるよう設計されている。今年のSlushでは同社の他にも、「Spring Health」などの労働環境の改善に取り組むスタートアップが見られた。

Moodmetric(デバイス・ソフトウェア)

https://moodmetric.com/

メンタルヘルスに着目し、燃え尽き症候群を回避することを目的に、ストレスを感じる瞬間を測定するスマートリングを開発している。2021年12月現在はヨーロッパを中心に展開しており、主な顧客企業は研究機関がメインとなっている。バーチャルリアリティとの掛け合わせで研究を行うなど様々な場面で応用が期待される。

Glue(デバイス)

https://isoft.ai

「Glue」は、バーチャル空間での学習、共有、計画、創造を可能にするコラボレーション・プラットフォームだ。没入型の3Dグラフィックス、バーチャルリアリティ、クラウドコンピューティング技術を結集し、遠隔地にいるチームと対面でのミーティングと同様の体験をすることができる。今回Slush会場のデモでは、5キロ離れたオフィスにいる社員とVRを用いたコミュニケーションを体験することができた。リモートワークにおけるチームメンバーとのリアルな交流の実現が期待される。

SILENT SPACE(デバイス)

https://www.silentspace-oad.com/en/

コワーキングスペースにおいてノイズを軽減して快適な空間を作り出すことや、機密性の高い会話のマスキングを可能にするスタートアップ。競合と比較して、快適な空間の実現と会話のマスキングの両方に力を入れている点が特徴的である。

Slush 2021から見えてくる動向

今回のSlush 2021はCovid-19の影響もあり、アジアからの参加者は限定的であった。国単位でブースを展開していたのは、開催地であるフィンランドに加え、ドイツ、イギリス、フランスがメインであり、各国のスタートアップエコシステムへの注力度が伺われた。

現地で実際にブースを出していたスタートアップの方からは、「Slush 2021の全体の傾向としてクリーンテックやサステイナブル関連のスタートアップが想像していたよりも少ない」という声が複数挙がっていた。

また、例年と比較して規模の縮小、かつ短期間での開催準備となったことで、全体の傾向が捉えづらくなっている可能性もあるとの指摘があった。実際に、規模の縮小に伴い参加者の人数制限が行われたため、多様なスタートアップを紹介するというよりは、各国の強みとする分野のスタートアップを紹介している印象を受けた。

一方、今回のSlushでは全体の傾向を捉えづらい印象があったが、11月にリスボンで開催されたweb summit 2021に参加した方によると、同サミットではサスティナブルやブロックチェーン、NFTに関するスタートアップが盛り上がっていたとのことだ。

Slush 2021はコロナ禍での開催となり来場者は8,800人と、例年と比べて規模は縮小したが、1,700人もの投資家が参加し、合計で1兆円近いAUMに達した。次回のSlush 2022は、2022年11月17, 18日に予定されている。

執筆者
藤澤みのり / Minori Fujisawa
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