Apr 24, 2020
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Insight

HR領域の動向:データ・ドリブンとマインドフルネス

テクノロジーの導入が進むHR分野において、ワーカーのメンタルヘルスをどうケアするか。その動向を紹介する。
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この記事は翻訳転載であり、配信元または著者の許諾を得て配信しています。
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HR領域で見られる昨今の動き

HR・バックオフィスの領域はグローバルに見て、働き方の多様化と生産性向上のための効率化が唱えられていることもあり、テクノロジーの導入が活発に行われている。それに伴った傾向として、昨今見られる大きな動きが3つ挙げられる。チームや組織単位でのペーパーレス化、タスク管理可視化と効率化、メンタルヘルスケアの導入である。

特に、ペーパーレス化、タスク管理効率化のためのデジタライゼーションとしてはHRテックの導入が盛んであり、日本国内においても2020年現在、多くの企業・組織が何らかの形でHRテックをオフィスや業務に取り入れている。また、従業員の労働環境やメンタルヘルスを注視しての生産性向上についても様々な企業が目を向け始めており、その結果として何らかの形でメンタルヘルスケアを職場に取り入れる例も数多く見られる。職場環境を改善することが業務の生産性自体にダイレクトな影響を与えるとの考え方が浸透したためである。

実際の市場規模の数字からも、各所でのHRテックの導入・活用とその市場のスピード感を持った成長がはっきり見て取れる。IMARC Groupによると、2014年から2019年にかけて年平均約14%のスピードで同市場は拡大している。また今後5年間の成長スピードは、働き方の変化や技術の発展に伴い、さらに現在の2倍になると予測されており、動向が注目される分野の一つだと言える。

今回のインサイトではHRテックとその背景、そしてメンタルヘルスケアのオフィスへの導入について見ていきたいと思う。

HRテックとは?なぜ必要か?

はじめに、HRテックについてもう少し詳しく見ていきたい。HRテックとは、HR(ヒューマンリソース=人事関連)とテクノロジーを掛け合わせた造語であり、従来人事部が中心になって行ってきた業務 (勤怠管理、給与計算・支払い、採用、育成、評価など) を効率化・高度化するためのソリューションとしてのテクノロジー全般を指す。より客観的な人材マネジメントの実現に貢献する技術として、各企業・組織においてその導入が活発化している(参考)。日本国内でも少子高齢化等の影響も受け、2019年以降これらテクノロジーの導入の活発化が顕著である。

HRテックサービスの分類と概要

1. 労務管理

労働時間管理や福利厚生計算業、安全衛生管理、社員のライフイベントに沿って生じる必要な諸手続きの管理、労使関係管理など、従業員が働くための環境整備・事務手続きに必要なデータを管理し、業務の運営効率化を図るツールとしてのテクノロジー導入が代表的なHRテックの例の1つである。労務関連業務を一括管理できるプラットフォームやツールが世界のスタートアップでも数多く開発・提供されている。

労務管理のHRテックの特徴としては、業界や業種に拘らず、全ての企業において必要となる人事や労務関連の事務仕事をよりシンプルで簡易なものにすることが可能であり、その代わりに企業のコアビジネスとして重要な業務にリソースを集中させ、人材中心の仕事運びを行うことを可能にする。実際に労務管理のHRテックを提供するスタートアップの例を一社見たいと思う。

Justworks: 充実のサポート体制を誇る人事労務管理クラウドサービスを提供するニューヨーク発のスタートアップ。給与計算、福利厚生、人事、法務・コンプライアンスのサービス全てをワンプラットフォーム上で提供している。人事関係の担当者がいなくてもサポートデスクが充実しているため、いつでも相談することが可能であり、複雑な税務処理、コンプライアンス業務を安心して行うことができる。

2. タレントマネジメント

労働者の募集から採用、育成、評価等、業務員が持つタレントを一元管理し、組織横断的に戦略的な人材配置や開発をより効率よく行うためのテクノロジー活用もまた、業界に拘わりなくよく見られる。対人間業務の典型例とも言えるタレントマネジメント業務は、従来人間にしかできない業務だと考えられてきたが、ビッグデータや機械学習などの技術的な発展により、ヒトの勘や経験に頼る形からデータ・ドリブンで客観的な形式へと変化している。特に採用や評価に関しては、人事担当者の主観に頼る従来の形式よりもデジタル化することでより客観的な判断が可能になると言う点でマネジメントの質が高まる可能性も示唆されており、期待が高まっている。ここでも一つ例を挙げる。

PredictiveHire: 全ての接客業種における求職者に対しての一次面接を代行し、面接担当者の時間効率化を図るプラットフォームを運営・提供しているオーストラリア発のスタートアップ。特に接客業種にターゲットを絞った上で、人材採用プロセスにおける時間の効率化を図る。接客業種の求職者に対しての一次面接をAIチャットが代行するという形式でのソリューションであり、求職者はいつでも自分の好きな時間に同プラットフォーム上で一次面接を受けることができる。アルゴリズムによって次々に投げかけられる質問に順番に回答していく形式であり、大抵の職種において15分程度で簡単に一次面接を完了することが可能である。現在は5カ国語に対応しており、25万回以上の面接データが溜まっている。1,500万語句以上を今までに分析しており、60個もの要素を用いて求職者の選別が可能である。現在15個のアルゴリズムが設定されている。

3. 組織マネジメント

組織マネジメントもまたタレントマネジメントと同様に、データを活用することでより客観的なマネジメントを可能にすると言う点で優れており、効率よく良い組織・チームを作り、コラボレーションとエンゲージメントを高めると言う目標でのテクノロジー導入が進んでいる。

Reflektive: 従業員の業務へのエンゲージメントを計測し、それらデータを簡単に管理できるプラットフォームを提供するアメリカ発スタートアップ。従業員と経営層がお互いにより上手く共に働いていける環境づくりの一環として、従業員のパフォーマンスの管理を簡易化するプラットフォームになっている。従業員のゴール設定やパフォーマンス、フィードバックにフォーカスし、企業風土の醸成を推進し、また従業員と経営層が相互にフィードバックをすることで各企業のミッションに沿って個々の能力を伸ばせるよう設計されている。これらのフィードバックデータは蓄積され、誰もが簡単に現状分析することができる。

Zapiens: チームの知識を把握し能力を適切に伸ばすことで、生産性を向上させるQ&A型の学習プラットフォーム・アプリを運営・提供するスペイン発スタートアップ。AIの「Zap」とのチャットボックスが備えられたQ&A型のプラットフォームとなっており、企業内やチーム内での効率的なコミュニケーションを促進すると同時に、企業内やチームの認知されていない適性を発掘し、効率的な企業成長に繋げるといった効果が期待できる。特に大企業においては、実際の売り子やカスタマーサービスを担当する人員に対して特別なトレーニングや教育を用意していない場合が多いが、この学習アプリを利用することによって個々人がそれぞれ簡単なQ&A形式で製品やサービスに対しての理解を深め、チーム全体の知識を深めることが可能である。

HRテックの活用領域拡大の背景

このように、HR・バックオフィス業務において従来人の手で行われていた作業の多くがテクノロジーの導入によって自動化されたり、簡易化が図られている。このスピーディーな変化の背景として、グローバル全体での労働環境の多様化・変化分析技術・ツールの発展産業・組織心理学あるいは認知科学の普及と発展という3つの要素が挙げられる。

労働環境の変化としては、昨今のデジタライゼーションの影響で産業やビジネスの枠組み自体に変化が生じ、マニュアル化の可能な単純作業の多くが機械に取って代わられるのと同時に、人間にしかできない業務として従業員に求められる能力にも変化が生じている。従業員に求められる能力の変化とはつまり、人事部がマネジメントしなければいけない能力の変化とも言える。そのため、これらの新しい能力をいかに客観的にそしてデータ・ドリブンに把握し、必要があれば育成していけるかがHRの業務を行う上で今後重要になってくると考えられる。

また分析技術・ツースの発展としては、長い歴史を持つ単純作業の自動化に加え、技術の発達に伴い、RPAやチャットボットの導入が脚光を浴びている。さらに、分析や予測のツールであるHRアナリティクスに関しても進歩が著しく、これまで経験や勘に頼り、“なんとなく”で行ってきたデシジョンメイキングについてもHRアナリティクスの利用によって、データ・ドリブンに行えるようになった。アナリティクスに必要なツール等がより安価に獲得できるようになったことが主な理由である。

3点目の産業・組織心理学と認知科学の発展に関しては、労働環境という1つの組織現場において個々人のパフォーマンスを高めるための要素等を心理学的に考察できるようになった点が新しい。特に教育制度等についてアダプティブラーニングの取り入れによって、従来と比較し、より効率よく従業員の能力の把握・育成が可能になった。学術的な論拠に基づいた最善の職場環境を創出することを目標に、新しい形式でのテクノロジーの導入・活用が行われている。

メンタルヘルスケアの導入: マインドフルネスな職場環境

これらの背景事情に伴い、冒頭で述べたHR領域におけるトレンドの3つ目、メンタルヘルスケアの導入についても考察できる。いずれのHRテックも、またそれらの導入に至るまでの市場・傾向の変化も、労働者のエンゲージメントの向上、そして結果的に生産性を向上させることを目的としている。消費者の動向について見ても、日々の生活のスピード感が高まったことで、自身の生活をストレスフルだと認識する人々が増えており、その解決策を提供し得るメンタルヘルスケアに関わるプロダクトやサービスにはグローバル全体で多くの需要が見られる。時間に追われず、ストレスフリーで幸福度の高い時間を送りたいと言うのは万国共通の人々の根本的な願いの一つであり、それは職場環境においても同様である。

実際に数字で見てもその傾向は顕著で、ウェルビーイング市場はグローバルに見て大きく成長している市場の1つである。The Global Wellness Instituteによると2017年にはその市場規模は430億ドルであり、年々6%以上のスピードで成長を続けている。Wellableによって行われた調査によると、35%以上の企業がこの分野への投資を行なっていると答えている。

また、Google社もこのチームの生産性向上を考える際に重要な要素として5つの要素(サイコロジカルセーフティー・相互信頼性・構造と明確さ・仕事の意味・インパクト)を挙げているが、そのうち重要度の高い2つがメンタルヘルスに直接の関わりを持つ。サイコロジカルセーフティー(心理的安全性)と相互信頼性である。それぞれ、「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる」こと、「チームメンバーが他のメンバーが仕事を高いクオリティで時間内に仕上げてくれると感じている」ことと定義されており、これらを適切に享受するためには、“居心地の良い”職場・チーム内環境が求められる。

偏見の排除と生産性向上

実際に、そのための取り組みとして、様々なバックオフィスツールが台頭してきている。特に、チーム内・社内における偏見を排除することが重要だと考えられており (ここでの偏見とは、意識下のもの・無意識下のもの両者を指す)、メンバー内で適切な関わり合いをお互いに持てているか、人物同士の関係性等で見られる懸念を可視化・数値化するなど、データ・ドリブンにソリューションを提供するツールも多々見られる。ここでも関連スタートアップの例を1つ見てみたい。

Cassiopeia: 健康的な企業文化やオフィス環境を促進することで、人々の職場におけるメンタルヘルス状態を向上させるツールを提供するイスラエル発のスタートアップ。社内・チーム内のメンバーの行動等をデータ化し、実際に目に見える形での問題(いじめ問題や差別問題・ハラスメント問題)が起こる前に危険部署・人物を炙り出すことができる。それぞれの無意識下での偏見といったこれまで数値化・データ化が困難だと思われてきた領域におけるデジタライゼーションによって、環境を乱す危険因子を早期に発見し、アラートを流すことのできるツールには今後も大きなニーズが期待できる。

メンタルヘルストレーニング取り入れ

職場においてもストレスフリーで幸福度の高い時間を過ごしたいといった抽象度の高い願いを実現するための取り組みとして、偏見を取り除くほかに、メンタルトレーニングの重要性が強く主張されるようになった。実際、2017年には約14%の成人が日常生活にマインドフルネストレーニング(メディテーションの時間等)を取り入れているというデータさえある。これは2012年の4.1%と比較しておよそ3倍であり、現在も右肩上がりで増加している。職場でも同様の傾向が見られ、マインドフルネストレーニングを職場に取り入れる動きも活発化している。

米国でのマインドフルネスブーム

特に、マインドフルネス意識が殊更高く、一つの大きなトレンドとなっているアメリカにおいては、大手・中小企業の3割以上がマインドフルネスをベースとした研修を取り入れているとのデータもあり、この系統のサービスには高いニーズがうかがえる。そして、今後も類似のトレーニング・研修等を取り入れる企業数は増すと予測されている。特筆すべきは、本格的な療養よりも簡単なメディテーション(瞑想)やメンタルトレーニングの需要が増え続けていることであり、今後もより多様な層が簡単に職場でトレーニングを受けることを可能にするようなツール・サービスが求められるだろう。

HRテックのポテンシャルと今後

ここまで見てきたように、HRテックの導入は事実活発化しており、今後もより一層広い場でその技術の導入が見込まれ、また期待される。ただし、同時に課題も山積する分野である。例えば、より正確にデータ・ドリブンな人材マネジメントを行うためには定量的なデータのみならず定性的なデータの活用も必要であり、そのためにもより多くのデータの収集と蓄積が求められている。HRテックのメリットとして、その客観的な判断力をあげるためには、より多くのデータを収集し、正確性の向上を今以上に図る必要がある。

また他の業界・分野と同様、HRテックにおいても課題視されるのは、プライバシー管理の問題である。先の例で言うと、人物同士の関係性を測る際に、匿名性をどこまで保てるかと言う課題が出てくる。また、人間関係のような本来数値化・データ化不可能であるはずの抽象度の高い概念全てを数値化することに対しての懸念も拭えない。特に、HRやバックオフィスの業務というのは人間を扱う領域でもあるため、どの程度データや数値に執着すべきかという点に関しては熟考が必要である。

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