海藻で代替ツナを開発したベルリン発フードテック「BettaF!sh」CEO、Jacob氏インタビュー

成長の鍵は世界最高の商品を提供するための探求心と、大企業とのコラボレーション。
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今回、SUNRYSEでは、ベルリンのフードテックスタートアップである「BettaF!sh」へのインタビューを行なった。同社は海藻を原料に代替ツナを開発しており、それを使ったピザやサンドイッチといったすぐに食べられる商品の開発も実施、2021年10月末から販売を開始している。

同社はまず、2019年に「Nordic Oceanfruit」(2022年2月現在も販売中)として海藻製品の製造・販売を開始した。おいしく、環境にもプラスの影響をもたらす海藻製品の開発提供を目標に、2020年にはGerman Food Startups AwardsやInnovate Awards!など、多くの賞を受賞してきた。

また、同社は2021年12月にヘルシンキで開催された世界最大級のスタートアップカンファレンス、Slushにも参加しており、SUNRYSEのSlush速報記事でも紹介した。

参考記事:【速報】Slush2021 Day2イベントレポート:Slushから見る脱炭素化への動きとコロナ禍で生まれたスタートアップ

今回、ベルリンのフードテックスタートアップの中心地でありコワーキングスペース、「KITCHENTOWN」にある「BettaF!sh」のオフィスに伺い、同社CEOのJacob von Manteuffel氏へインタビューを行なった。

BettaF!shはどのようにして始まったのか、教えてください。

今回インタビューに答えてくださったJacob氏(写真左)と共同創業者のDeniz氏(写真右)

写真:BettaF!sh

私と共同創業者のDenizが3年前に一緒に始めました。私たちはお互い海藻の研究をしていて、私はドキュメンタリーを撮影、彼女はドイツの食品会社で技術革新のためのスカウト活動をしておりそこで知り合いました。

それから、ちょうど私がそのドキュメンタリーのプロジェクトを終えた時、Denizは新たな冒険を探していました。そこで海藻で何かを始めようと決めたのです。この後すぐにはっきりしました。韓国や中国の産業がどれほど大きなものになりうるかを目の当たりにしたのです。そしてここヨーロッパ、また北欧地域やノルウェーで、海藻業界のパイオニアに出会いました。

その結果、ヨーロッパで海藻の養殖方法が知られていることと、ヨーロッパ独自の種類があることが明らかになりました。しかしドイツの人々は、日本料理が好きで、寿司などの日本食に使われる海苔などの海藻は食べますが、現地のものと一緒に海藻を食べることはありません。

そこで私たちは、主な問題は需要であることに気づきました。海藻の需要を高めれば、海に対するポジティブなインパクトが生まれるということです。そこで、より多くの海藻への需要を高め、おいしくて食べやすい、見栄えのするものを作りたいと思うようになりました。そこで、「Nordic Oceanfruit」という製品から始めたところ、すぐに多くの注目を集め、ドイツの大手スーパーマーケットからのオファーもありました。

それからはとても速いスピードで成長し、その過程で今後は魚の分野にも進出すべきだと思うようになりました。そして、海藻でツナを見立てたブランド「BettaF!sh」を立ち上げ、来月には4つの国で発売される予定です。ドイツ語圏はドイツ、オーストリア、スイス、それからデンマーク、そしてイギリスも次のターゲットとして狙っています。今年はより多くのヨーロッパの国々で展開したいです。2022年秋に4,000のスーパーマーケットで発売を開始する予定です。

Slushに参加したのは何故だったのでしょうか?また参加してみてどうでしたか?

Slushでは、ただ自分たちの商品を人々の試してもらいたくて参加しました。私たちは缶で売っているのではなく、すぐに食べられるようなピザやサンドイッチといった商品を展開しているため、Slushのようなカンファレンスで簡単に提供でき、色んな人に試してもらうこともできました。私たちはこの分野で世界最高の製品を提供している自信があるため、まず人々に私たちの製品を知ってもらい、試してもらいたかったのです。

私たちは今回Slushでは資金調達をしませんでしたが、味と食感に関しては、多くの肯定的なフィードバックをもらいました。Slushは一般的に食品に焦点を当てたイベントではないのですが、食品関連の投資家の方々もいて、「BettaF!sh」について知ってもらえたこともよかったです。

Slush2021のメディアラウンジで提供されていた「BettaF!sh」。通常のツナ缶と同様の味と食感が再現されていた。写真:筆者撮影

北欧地域への進出も考えてのSlush参加だったのでしょうか?

そうですね。今、デンマークから始めていますが、スーパーマーケットのシステムなど、かなり複雑です。また、現在「BettaF!sh」のリードインベスターもスウェーデンですね。スウェーデンは私たちにとって興味深い市場ですが、展開する国リストのトップには入っていません。

展開していきたいトップの国としてイギリスが挙げられます。「BettaF!sh」のような調理済み製品やサンドイッチの巨大な市場であり、ツナの市場としてもより興味深い市場ですので、イギリスへなるべく早く展開していきたいです。

美味しさの秘訣は何でしょうか?

海藻とプラントベースの材料、タンパク質繊維の組み合わせが非常に重要で、この味を作り出しています。そしてもちろんそれをちゃんと提供することも重要ですよね?私たちはおいしいサンドイッチを作る必要があります。もし缶で提供し、消費者が美味しいサンドイッチを作れないと、「これは美味しくない」となってしまいかもしれません。これが私たちが調理済み食品を提供することにこだわる理由です。

今回インタビューに際していただいた「Nordic Oceanfruit」製品と「BettaF!sh」のサンドイッチとピザ 写真:筆者撮影

「BettaF!sh」という会社の名前の由来はどこから来ているのでしょうか?

「BettaF!sh」には2つの意味があります。会社の名前自体は東南アジアの魚である、ベタ・フィッシュから来ています。同じ種類の魚を同じ水槽に入れるとケンカをするそうです。もう一つが”Better than other fish”で、私たちの製品はヴィーガンなので、魚と対抗するという意味もあります。

なぜベルリンを選んだのですか?

いくつかのことが重なって、私たちはベルリンを選びました。私たちの会社が設立されてからすぐ、政府から助成金をもらい、オフィスも手に入れたので、ベルリンに来ました。実は私はハンブルグ出身で、ハンブルグにもオフィスがあり、チームはベルリンとハンブルグに分かれています。

「BettaF!sh」のベルリンオフィスにて。写真=筆者撮影

ベルリンのフードテック・シーンをどう見ていますか?

様々なアプローチやソリューションが生まれてきていてとても面白いし、イノベーティブですね。例えば、代替肉や代替ミルクなどの多くの製品が生まれてきています。フードテックのスタートアップとしてベルリンにいることは、とても良い環境だと思います。一方ドイツでは一般的に食品産業、大企業、大規模工場が多大な利益を得ています。ベルリンはスタートアップには良いのですが、食品業界という観点ではまだまだドイツは大企業が中心にいます。

ベルリンのフードテックスタートアップが集まるコワーキングスペース「KITCHENTOWN」写真:筆者撮影

「Nordic Oceanfruit」は設立から3年以内にも関わらず、すでに多くのスーパーマーケットで展開されていて、成長がとても早いですね。その秘訣は何でしょうか?

フードテックのスタートアップが参入しやすいのもドイツの良さですね。私たちはドイツの大手スーパーマーケットである「ALDI」とグローバルパートナーシップを結んでおり、彼らが4,000店舗への展開をサポートしてくれました。これは本当に素晴らしいコラボレーションでした。「ALDI」はスイスやデンマーク、オーストリアにも展開しているため、現在ではこれらの国での展開に向けて協力してくれています。

私たちのチームは各店舗に回れるほど大きなチームではないからこそ、大規模な企業とのパートナーシップに焦点を絞りました。だからより早く成長できたのだと思います。一方で最終的にはとても良い製品が必要だと思います。それが一番大切なことです。私たちは非常に優れた製品を開発・提供できていることに満足しているので、それは本当に助けになっています。

今後の課題はありますか?

今後の課題は2つあり、チームの成長と、COVID-19によるグローバルサプライチェーンが挙げられます。

私たちは現在16人で、素晴らしいチームに恵まれていますが、私たちがより成長していくために積極的に新しいメンバーを採用中です。現在のチームメンバーは、食品技術の開発チームが会社のほぼ半分を占めています。そしてマーケティング、ビジネス、ファイナンスに携わるメンバーがいます。ベルリンは仕事を探している人には良いマーケットでありますが、採用側からするとどのスタートアップも人を雇おうとしているので、人材の確保がとても難しいですね。

それとは別に、グローバルサプライチェーンにおいて課題があります。例えば、本来パッケージのデザインから印刷において4週間でできたのが、COVID-19のパンデミックによる影響で今では何ヶ月もかかります。一方、パッケージの持続可能性に関して言えば、私たちは最高のリサイクルしやすいパッケージを作っています。プラスチックはごくわずかしか使っていません。

グローバルに出荷できるパッケージ。ドイツ語、オランダ語、フランス語、英語、スウェーデン語、デンマーク語で説明が記載されている。写真:筆者撮影

アジアに進出する予定はありますか?

アジアは水産物において世界で最も大きな市場です。私たちはインパクト重視な企業であり、主な目標は漁獲量を減らし、海に良い影響を与えることです。それを実現するためには、人々が多くのシーフードを消費するアジア、特に東アジアで展開する必要があります。日本の企業とはまだ話したことはありませんが、アジアの他の企業とは話をしています。

今後の予定を教えてください。

新しい海藻を栽培し、ヨーロッパにおいてサプライチェーンを構築していく予定です。今はすでに食べられるサンドイッチやピザを販売していますが、今後はグローバルに展開していくためにも、缶で海藻ツナを提供したいと考えています。そのためには、本当に美味しい製品を作らなければなりません。海藻ツナ以外にも、他の種類の海藻を使って違う食品に見立てる構想もあります。

写真:BettaF!sh

編集後記

今回のインタビューを通して、ドイツの食品業界において大企業の存在感は強い一方、大企業とスタートアップの協業やコラボレーションが進んでいることを改めて実感した。実際に筆者の住んでいるベルリンでは、どこにでもあるチェーン店のスーパーマーケットでスタートアップによる商品を見つけることも珍しくない。

また、日本では食品として一般的に流通している海藻が、ヨーロッパではイノベーティブなものとして捉えられていることは非常に面白い。SUNRYSEでは海外スタートアップに関する情報提供を行なっているが、一方で日本やアジアの影響を受けた製品やサービスも多々目にする。

実際に今回SUNRYSEで参加したSlushでも、「BettaF!sh」以外にフィンランド発フードテックスタートアップ「Kamaboko Finland」は、日本のかまぼこからインスピレーションを受けて、捨てられてしまう魚でハムを見立てた製品「Leikkala」の開発提供を行なっている。

参考記事:Slush2021 サイドイベントレポート:開催地フィンランドにおけるXRとフードテックの主要プレイヤー集結

私たちの身近なものの中に、世界に打ち出していける製品やサービスがまだまだあるのかもしれない。

今回試食させてもらった「BettaF!sh」新商品のピザ。味は本物のツナと間違えてしまいそうになるくらいだった。また、商品の材料は全てヴィーガンであるため、チーズも乳製品のチーズに近い濃厚な味となっており、ヴィーガンの人にとっても満足度の高い商品だろう。この1枚のピザで3ユーロで、手の届きやすい価格設定となっている。写真:筆者撮影


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執筆者
中嶋 清楓 / Sayaka Nakashima
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