Slush2021 サイドイベントレポート:開催地フィンランドにおけるXRとフードテックの主要プレイヤー集結

Slush開催前後には、ヘルシンキ首都圏を中心として複数のサイドイベントが開催されていた。本レポートではそれらサイドイベントの中でも、特に現地の個性が際立ったXRと食に特化した2つのイベントを紹介する。
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Slush開催前後には、ヘルシンキ首都圏を中心として複数のサイドイベントが開催されていた。Slushが公式に運営するイベントから、ヘルシンキ市(Helsinki Partners)、大学、研究機関など、さまざまな団体が主催するイベントが開催され、その対象も、スタートアップ、投資家、VC・CVC、メディアなど多岐に渡った。本レポートではそれらサイドイベントの中でも特に現地の個性が際立ったXRと食に特化した2つのイベントを紹介する。

多種多様なXRプロダクト

人間の芸術性を解放するツールから、災害時に活躍するドローンまで

Helsinki XR Centerは、ヘルシンキ市が出資している大学隣接の施設で、XR関係者向けのコワーキングスペースの提供やアーリーステージのスタートアップへの支援などを行っている。また、XRに関する学位の取得も可能だ。Slush2021の開催前日の11月30日には、メディア向けのイベントが開催され、SUNRYSEの取材チームも人間の芸術性を解放するツール、没入感のあるドキュメンタリーから、災害時に活躍するドローンまで多種多様なXRプロダクトを体験することができた。今回は筆者が実際に体験した4つの注目すべきプロジェクトについて紹介する。

Skeleton Conductor

Skeleton Conductor」は、誰でもクリエイターになることができるXRアート体験をもたらす。同社サービス名の通り、ユーザー自身が粒子の動きを操る指揮者になれる。手足にセンサー付随のデバイスをつけることでユーザーの動きがリアルタイムでマッピングされ、オーディオビジュアルアート作品が完成されていく。

AUDIOSPACE.io

引用:https://www.audiospace.io/

AUDIOSPACE.io」は、クラウドベースのARオーディオ制作システムを開発している。ゴーグルを着用すると、3Dの楽曲制作インターフェースが現実世界と重ね合わさって目の前に現れ、直感的な操作で作曲が可能だ。これまで、クリエイターたちはパソコンでの作業を余儀なくされてきたが、このシステムを利用することで、彼らが世界中の仲間たちと一緒に、よりクリエイティブに楽曲制作を行えるようになる。

Anarky labs

参考:https://helsinkixrcenter.com/hub/anarky-labs/

Anarky Labs」は、プロのドローンパイロット向けのXRソリューションを提供。AR技術を用いて、ドローンの位置、方向、バッテリー、GPSの状態などの重要なデータを、ドローンがいる空中で可視化する。消防、警察が出動するような障害物がある現場での活躍が期待されている。

361(TimoWright)

参考:https://helsinkixrcenter.com/hub/361-team/

361(TimoWright)」は、360度ビデオカメラで世界中の家庭を撮影した没入型の短編ドキュメンタリーシリーズを提供。ヘルシンキの移民一家とその子供、東京のホームレス、ダルフールの難民家族、トラックに住むトラック運転手など、視聴者はそれぞれの家庭の生活に没入できる。次なるプロジェクトとして、福島第一原発事故で現在立ち入ることのできないエリアでのドキュメンタリーも現在制作中とのことだ。

試験的に製品化 < XR技術を用いることの必然性が感じられるプロダクト

全体を通して「技術を試験的に製品化した」というわけではなく、各分野においてXR技術を用いることの必然性が感じられるプロダクトが多かった。必要性の高い分野から法人・ビジネス向けに実用化されていく流れが想像される。また、3DアートというジャンルやNFT市場の確立と相まっての盛り上がりも期待されるだろう。

フィンランド発の個性溢れる食関連スタートアップ

Slush2021の開催に先立って11月30日に開催された北欧のスタートアップ情報を提供するメディア、ArcticStartupが主催した食に特化したサイドイベント「Tonic21」。スタートアップ、起業家、食品メーカー、小売チェーン、投資家、研究者など、食に関わるプレイヤーが集結した。会場となったヘルシンキ市内の「Heard Rock cafe」では、舞台でのピッチや講演の他、フィンランド発のスタートアップ各社が、実際に自社のプロダクトを提供し来場者との交流を行った。今回は、実際にプロダクトを提供していたスタートアップの中から4つをピックアップして紹介していく。

Leikkala

Leikkalaは魚のすり身を用いた代替肉製品を提供するスタートアップ。日本のかまぼこをモデルに、ローズペッパー、ハーブ、スモークなど現地の食嗜好に合わせて開発されたプロダクトとなっている。 同社が原料とするローチ(淡水魚)の消費により、富栄養を引き起こす原因となるリンを削減することができ、水質の保全にも貢献している。近年フィンランドでは、このような未利用の水資源を活用する動きがあり、フィルムやゲル、ゼラチンなどへの加工が始まっている(参照)。

REBL eats

REBL eats」は保存料や添加物を使用せずプラントベース食品を提供するフィンランド発スタートアップ。パッケージには、リサイクル段ボールを使用し、プラスチックの使用量を抑えている。また、同社は気軽にプラントベース食品を購入できることを目指しており、実際にSUNRYSEの取材チームもヘルシンキ市内のスーパーマーケットで購入することができた。値段は他のチルド食品に比べると2〜3ユーロ高いものの、味は本当にプラントベースの食品なのか疑うほどしっかりとした味付けになっており、満足度が高い商品だ。

Probitat

Probitat」は、植物由来の発酵食品製造に使用する発酵スターターを提供する。同社の発酵技術と栄養価の高い素材を組み合わせ、持続可能で、ビタミンやミネラルが豊富な、より美味しい食品の開発を目指している。特に同社の発酵技術を応用し、カシューナッツを原料とした乳フリーのチーズやヨーグルトなどは、栄養が欠乏しやすいというヴィーガン食の課題解決が期待されている。会場では、新製品のカシューナッツを発酵させたチーズやカフェオレが提供されており、発酵の可能性を体感することができた。

PARTY BUGS

PARTY BUGSは食用の昆虫で、パーティー用のスナックを提供するスタートアップ。市場には健康志向の昆虫食が数多く登場する中、より気軽に昆虫食の美味しさを体験して欲しいという思いから誕生したそう。実際に試食させていただいたが、衝撃的な見た目に反して、ビールなどのアルコールに合いそうな美味しいスナックに仕上がっていた。日本への展開も考えているとのことだ。

バラエティに富んだフード系スタートアップ

本イベントは、研究技術を応用した食品から、一風変わったユニークな食品まで、バラエティに富んだスタートアップが集結し、フィンランドの食関連スタートアップの盛り上がりを体感することができるイベントとなっていた。

次回、Slush Day1でのピッチセッションの様子と注目のスタートアップ、各業界の傾向についてお届けする。


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執筆者
大石 麗央 / Leo Oishi
researcher
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