Withコロナ: イスラエルで成功した中小企業&地域経済の支援ビジネスとは?

イスラエルの「Colu」は独自のアプリを使って「市民参加型」の地元経済回復プロジェクトを成功させた。アメリカでの展開も開始した同社が、コロナウイルスのパンデミック下で街中の中小企業や地域全体の経済回復をサポートする独自の手法をリポートする。
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2020年始めにコロナウイルスのパンデミックが世界中の国々を襲い、それぞれ断続的な閉鎖やロックダウンに踏切らざるを得ない状況になって以来、特にスモールビジネスは新しいビジネスモデルに対応するための資金やインフラ不足により事業の継続に苦心している。特に都市部においては、自宅待機の増加やオンラインショッピングの成長によって街中の人手が減り、大幅な収益減が起こっていることにほとんどのスモールビジネスが気づいていることだろう。

そんな中、イスラエルのテルアビブを拠点とするテックスタートアップ「Colu」は、地元での買い物やボランティア活動、イベント参加、などに対してリワードを提供し、「シビック・エンゲージメント」つまり市民参加の促進を支援している。2014年に創立した「Colu」は、地域経済の活性化を促し、住民やビジネス、行政を結び、そして住民のモチベーションを上げるための「シティコインシステム」を導入してきた。

2020年3月中旬から始まったテルアビブ含むイスラエル全土の部分的なロックダウン政策の間、「Colu」はアプリを通したリワードプログラムを用いて市内の経済回復をサポートした。3月17日から31日までで、スモールビジネスは総額14万5,000ドルの利益を得たほか、5月までの統計では約400万ドル相当の経済効果があったという。さらに、ビジネスオーナーからの報告によると、同期間における購買活動の約30%は「Colu」ユーザーによるものであり、同社の報告ではテルアビブ市の投資に対して8.7倍ものリターンが得られたとのことである。

「Coluのミッションは、都市の本当のポテンシャルを解放し、個々人に力があり人々の繋がりがより濃くなるような、そして個々に信頼を持ちつつもお互いに手を取り合えるような、そんな場所になれるようにヘルプすることにあります。また、私たちは、スモールビジネスが都市という一種のエコシステムの中で大きな役割を果たしているように感じています。それは、スモールビジネスが決して単に人々の雇用などの場だけでなく、都市に個性を与えるような存在でもあるからです。」と同社のグローバルビジネス開発マネージャーであるElad Erdan氏はNocamelsの取材に対して語っている。

「Colu」のアプリは、地元での購買活動、リサイクル、公共交通機関の利用など、都市経済の存続に貢献した市民に対してリワードを用意している。また、独特の「アーバンストーリー」機能では、住民は市の取り組みやプログラムの情報に加えて、地場企業やその経営者陣、文化、多様性についてなど、多くの学びを得ることができるようになっている。

住民にローカルビジネスの最新情報を提供するために、「Colu」は自社のアプリに直接加盟店を登録させている。これにより、企業は「シティ・コイン」(=独自のポイント)を受け取ることができ、月に何度か、実際のキャッシュに換金することも可能だ。

「私たちは、地元企業のためのオンボーディングの機会を提供し、マーケティングプラットフォームとしての利用を通して顧客獲得とストーリーの拡散に努めています。」とErdan氏は述べる。

「Colu」は、都市がローカルエコノミーを活性化させるための6つのステップを用意している。同社は、都市と協力して、強み、弱み、機会、脅威(SWOT)にフォーカスした分析を行い、その上でローカルビジネスやそのスポンサーをサービスに登録している。住民はアプリをダウンロードし、市民参加型のプロジェクトを通じてコインを貯め、市中の店舗などで使用することができる。このアプリによって統計情報として、投資収益や利益配分、アクティブユーザー数、認知度などの詳細も提供されている。

このアプリは、コインリワード、カスタムグラフィックによる達成記念表示、そして「The Girl Power Challenge」のようなゲーム要素も取り入れられている。例えば、住民が女性オーナーの店舗で買い物をすると特別なコインを獲得できたりするのだ。

パンデミックの発生に際して、「Colu」はこの世界的なヘルスクライシスの中で各都市がその行政サービスの中で取り得る対応に関する5つの重要事項をまとめ上げた。それは、まず第一に、正確な情報と行動指針を伝達するためのスマートなコミュニケーション方法の確立。第二に、緊急対応のために必要な住民のボランティアデータ等の収集。第三に、住民によるボランテイア活動や救援活動への協力を促進すること。第四に、住民の備蓄意識の向上など、適切な備えの奨励。そして第五に、コミュニティやスモールビジネスの業績回復支援である。

テルアビブにおける成功

Erdan氏によれば、Amazonで購入した商品の15%が地元産であった場合、地場産業の利益は1,760万ドル増加し、また人口20万人規模の都市であればその財政において年間88,000ドルの増収が見込めるという。このことを考慮し、「Colu」はまずテルアビブ市のヤッファ地区におけるエルサレム大通り沿いの産業再生に注目した。この地区ではライトレールが建設されたことで通行人が減り、週によっては一度に5つもの店舗が閉店せざるを得ない状況にあったという。

他にも道路閉鎖の影響を受けた100社以上の地場産業に対し、同社はテルアビブ市や各種財団などと連携し、地域経済の活性化を進めてきた。テルアビブコインという独自のポイントシステムによって、「Colu」は同地域内における買い物に30%のキャッシュバック特典をもうけ、市から提供された15万ドルのリワード資金をもとにサービスを展開している。

同社によると、2018年のアプリ立ち上げからちょうど45日も立たない期間で、地域内の消費活動が745%増加し、スモールビジネス全体の利益は70万ドルも増加したとのことである。同アプリは、キャッシュバックとゲーム要素を組み合わせたことでついに2万3,000件を超える取引数を記録した。

「このシステムは循環する経済の構築を促すものであり、使用した資金は最終的に市のもとへ戻り、その分はマイノリティ支援や公共交通機関の整備などに活用することができます。」とErdan氏は述べた。

「Colu」は他にも国内ではハイファ、また国外ではベルファストなどの都市でもサービスを開始した。以前はイーストロンドンリバプールでもサービスを運営していたが、残念ながら今年初めにサービスは終了したようである。

米国アクロン市の事例

今年初め、「Colu」は米オハイオ州アクロン市と協定を結び、Akroniteというオリジナルのアプリを作り上げた。これは、これまでの「シティ・コイン」ではなく、「Blimp」(=飛行船)という単位のポイントシステムを利用している(同市を拠点とするGoodyear社の飛行船事業にちなんで)。また、アクロンは米国最大のおもちゃの製造拠点であったことから、アプリの素材はおもちゃをイメージした作りとなっている。

アクロン市統合開発局でイノベーションや起業家精神を重視しているHeather Roszczyk氏によると、アクロンのメインストリートにおける多くの店舗は、ヤッファのエルサレム大通りと同様に、大規模施設の建設によって経済状況が悪化しているという。

「オハイオでもパンデミックが発生し、私たちは多くの企業が閉鎖を余儀なくされる姿を見てきました。その点、Coluはすぐに準備が可能で、他の都市での実績がある製品を用意していたのです。そして、私たちはこのサービスであればできるだけ早くトライし、改善し、何よりも行動を起こすことが可能であると考えたのです。」と同氏は語った。

テルアビブと同じように、「Colu」はアクロン市の多くの企業をAkroniteに登録しており、今後も独自のリワードシステムを活用して地域経済の活性化をサポートしていく予定である。同社のErdan氏によれば、分野ごとにキャッシュバックや特典の仕組みは異なるという。

さらに、「Colu」は黒人、LGBTコミュニティなどのマイノリティに属する人々が運営したり関わっている企業のAkroniteへの登録を通じて、彼ら彼女らのビジネスをサポートすることも目標としている。

「例えば、『Women’s History Month』の期間中は、女性オーナーの店舗での買い物に特別なリワードを付与したり、他にも黒人の方が経営するお店での買い物に特別報酬を用意したりすることができます。このアプリでは、ビジネス全体だけでなく、特定の分野や層に対して効果を集中させることができるような自由自在のオプション設定が可能なのです。」とRozzczyk氏は説明した。

Akroniteのアプリ自体は現在、ベータ版であるが、Rozzczyk氏によるとこのアプリは非常に大きな反響を持って迎えられているという。これを受け、Akroniteは2020年7月末の完全ローンチを予定しており、アクロン市はこのプロジェクトに6万ドルの予算を用意している。ローンチされたアプリはまずアクロンのダウンタウンや大学周辺などで展開されるという。

COVID-19との向き合い方

このほど米国では、2兆ドル規模の経済刺激策としてコロナウイルス救済・経済安全保障法(CARES法)が可決された。同法は多くの苦しむスモールビジネスを廃業の危機から救ったが、同政策は住民の消費促進ではなく直接企業への助成や融資を行うという手法が用いられた。

「米国など各国の政策の問題点は、いずれも一度きりの助成にとどまっているという点です。過去数カ月分の損失補填にはなるかもしれませんが、長期的な支援に繋がっているとは言いづらいでしょう。」とErdan氏は述べている。

その点「Colu」のアプリは、住民による地元での消費を通じて間接的に中小企業を救うという点に重点をおいているという。

最後に同氏はこう付け加えた。「現在、レストラン、映画館、美容院、化粧品店などあらゆる業界のローカルビジネスに大きな影響が出ています。我々は今すべきことは、住民が買い物のためにストリートに戻ることを手助けし、市民全員で共同体意識を作り上げるためのサポートなのです。」

翻訳元: https://nocamels.com/2020/07/colu-cities-pandemic-civic-engagement/

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執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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