Slush2021レポート:いまだフェムテックを語る必要はあるのか?

ヨーロッパのVCや有識者は今、フェムテックについてどう考えているのか。
イベント フィンランド Femtech・Femcare ヘルスケア VC/CVC

今回、SUNRYSEではSlush2021での現地取材を行い、その中のセッションのひとつである「Do we Still Need to Talk About Femtech -いまだフェムテックを語る必要はあるのか-」に参加した。本記事では、このセッションからの学びと現状のフェムテック業界、そして今後の同業界に関する考察をまとめた。

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人々の間で知識をつけ、議論を起こすための「フェムテック」

このセッションのスピーカーには、ディープテックなどのアーリーステージVC「Speedinvest」ベンチャーパートナーDeepali Nangia氏、ヘルシンキ拠点のシードステージVC「Maki.vc」インベストメントディレクターPauliina Martikainen氏、健康状態や妊娠のしやすい時期、月経周期が適正かどうかなどを把握できるモバイルアプリを新興国市場に提供している「Grace Health」ファウンダー・CEOのTherese Mannheimer氏が登壇した。モデレーターは北欧、ロンドン、ニューヨークに拠点を置くVC、「Northzone」 Vice PresidentのSarah Nockel氏が務めた。

2021年12月にフィンランド・ヘルシンキで開催された「Slush」の様子(SUNRYSE取材班撮影)

フェムテックの課題

セッションではまず、フェムテック業界における課題として、需要と投資額に大きな差が生じていることが挙げられた。女性特有の問題解決を目指し、全人口の半分を閉めるユーザー抱えているにも関わらず、フェムテック企業はマネタイズに苦労している。その理由として、女性がそもそも意思決定の場に少なく、実際に投資家の95%は男性であるという。そこで、Deepali Nangia氏は「女性投資家が必要であること。そして、なぜその製品にニーズがあるのか、実際の市場の大きさを投資家に理解してもらうために男性投資家への教育が必要不可欠です」と説明した。

また、Nangia氏は、「イギリスのエコシステムにおいて、健康のために資金を増やす重要性と女性の健康は長期的に必要であり、その背後にあるデータや科学を構築することが重要であるものの、これは非常に難しいです。というのも、歴史的に女性の健康に関して、常に資金不足、研究不足、サービス不足であり、イノベーションが不足しているからです。例えば、1960年代からインターネットやスマートフォンなどのテクノロジーが大きく進歩してきたのにも関わらず、女性の身体に関する科学はほとんど進歩がありません。フェムテック業界において投資家は、長期的な視野に立つ必要があります」と述べた。

ソリューションがまだまだ足りないことも話題に上がった。具体例として、中絶手術後の心と体のケア、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、妊娠中・妊娠後のケア、LGBTQ+のセクシャルヘルス、有色人種(乳児死亡率が高い)、更年期、金銭的負担の多い体外受精(IVF)などが挙げられていた。

女性の生涯に渡る健康をサポート

他にも、Maki.vcのインベストメントディレクターPauliina Martikainen氏は、今フェムテック業界に対して気になることとして、「今さまざまな製品がプレシードやシードで多くの企業が参入しているが、これらの異なる製品がいつ、どのように収束していくか」提起した。

結論として、最終的には、女性特有の課題解決に向けて、今あるさまざまなサービスやプロダクトを組み合わせたり、女性の生涯に渡る健康をサポートしたりするサービスが増えると予想しているという。例として、月経周期のトラッキングが「oura」に搭載されたことや、2021年10月にMaki.vcがリードインベスターを務めたフェムテックスタートアップ「Jennis」が挙げられていた。

Jennis」は、すべての女性向けのホルモンサイクルトラッキングとフィットネス、トレーニングを統合し、身体的・心理的な効果を最大限に発揮できるようサポートするアプリを開発・提供している。同社はプロダクト開発を通じて、女性の健康におけるジェンダーデータギャップ(スポーツや運動の研究のうち、女性だけの参加者による研究はわずか6%)改善にも取り組んでいる。今後は、トレーニング以外にも、睡眠、栄養、ストレス解消など、ホルモンの健康や総合的なウェルビーイングに重要な役割を果たす要素も構築していく予定だ。

「Jennis」HP より引用:https://www.jennis.com/

他にも、Slushの一大セッションであるピッチコンテスト、Slush100のファイナルを制し、優勝を勝ち取ったのはフェムテックスタートアップ 「Hormona」だった。同社はホルモンバランスのトラッキングアプリを提供しているスタートアップである。独自のテストとアプリにより、全ての女性が知っておくべき重要なホルモンバランスの情報の追跡、洞察、アドバイスをリアルタイムで提供可能なプラットフォームを提供している。

参考記事:Slush 100 ファイナリスト3社紹介:注目のピッチステージ詳細と審査員による質疑応答

同社によると、80%の女性がホルモンバランスの乱れに悩んでおり、また75%以上の女性が自身のホルモン状態について理解していないと感じているという。一方、ホルモンバランスは、エネルギーの代謝や血圧、体温、メンタルヘルスや体の健康に影響を与え、実際に45種類もの症状がホルモンバランスと関連している(同社調べ)。具体的に、ホルモンバランスの乱れを放置すると、不安障害や自律神経失調症のような病気に発展してしまう恐れ、PMS(月経前症候群)や生理不順、不正出血、不妊、更年期障害などの婦人科系の疾患、抜け毛やニキビ、性欲低下などといった症状として現れることもある。

参考記事:ピッチコンテストSlush 100でフェムテックスタートアップ「Hormona」が優勝【独占インタビュー】

最後に、より多くの研究が行われ、人々の間で知識をつけ、議論を起こすためにも「フェムテック」という用語は未だ必要であるとし、セッションの幕を閉じた。

Do we Still Need to Talk About Femtech - YES!

次回、女性のライフサイクルに応じてサポートするフェムテックと同業界の未来について、今あるフェムテックソリューションの例を挙げて考察していく。


表題画像:Photo by Redd on Unsplash (改変して使用)

執筆者
中嶋 清楓 / Sayaka Nakashima
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