「Slush 2023」がフィンランドのヘルシンキで開催された。日程は2023年11月30日、12月1日だ。Slushとは次世代の革新的な起業家を生み出し、支援することをミッションに掲げる、学生主導の非営利的なムーブメントである。
公式ウェブサイトが「Slush 2023」開催前に見込んでいた数字は、3,000人の投資家とともに、5,000人のスタートアップ企業の創業者や経営者が集まり、その運用資産は3兆ドルにのぼるというものであった。
Slushにはフィンランド首相も登壇することがあり、大型ピッチイベントである「Slush 100」の優勝スタートアップは世界中から注目を集める。Nokiaの隆盛と衰退を経て北欧で立ち上がったスタートアップ・エコシステム・ムーブメントは、欧州を中心に世界のスタートアップエコシステムから注目を浴びている。
参考記事:Slush100ピッチコンペティション2022 注目のセミファイナル出場20社
参考記事:(2022年)Slush100優勝は、移民の課題解決を行う「Immigram」:抗議により優勝の取り消し
参考記事:Marimekkoの生き残り戦略:Slush2022 イベントレポート
実際に「Slush 2023」へ参加するため世界中から集まった4,600人のスタートアップ創設者と経営者は、公式ウェブサイトの発表によると、87%がヨーロッパ人、40%が北欧人、26%がフィンランド人、7%がアジア人、5%が北米人だとわかっている。開催された会議の件数は16,500件だ。
「Slush 2023」の中でスタートアップ企業のために開催・提供されたのは、Slush 100、Founders Day、Startup Studio、STARTUP BOOTHS、FOUNDER EXPERIENCE EVENTS、MEDIA BANK FOR STARTUPS、Speaker Q&Asである。
「Slush 100」は「Slush 2023」で最も優れた初期段階のスタートアップに1,000,000ユーロが投資されるピッチイベントだ。イベント内で最も注目されるセクションであると言っていい。
スタートアップ企業やそれらのファウンダーに提供されるものは以下がある。いずれも公式ウェブサイトの直訳に近いため、詳細を知りたい方はSlush公式に問い合わせいただきたい。
Founders Dayは世界最大(*1)の創設者のみの集まりであり、メンタリング、ワークショップ、講演、体験などが提供されなどが提供される。Startup Studioはディープテクノロジー、AI/ML、宇宙技術の分野を中心に80社が紹介される場だ。STARTUP BOOTHSはアーリーステージのスタートアップ企業が出展できるブースである。FOUNDER EXPERIENCE EVENTSはSlushの本イベントが開催される前にアクティビティが提供されるものだ。MEDIA BANK FOR STARTUPSはジャーナリスト向けのソースバンクであり、スタートアップがメディアとのコネクションを作るきっかけを持つことができる。そしてSpeaker Q&Asは45分間の質疑応答の時間であり、創業者や経営者たちが、現在ではユニコーン企業に成長したかつて初期段階を経験したスタートアップ企業 - 例えばAirbnbなど - に、アドバイスを求めることのできる機会だ。
「Slush 2023」に参加したスタートアップ企業以外のステークホルダーは、投資家やVC/CVCパートナー、メディア、ボランティアである。
投資家は将来のユニコーン企業に出会い、投資をして、リターンを得る機会を常に探しており、Slushにも「Accel」「General Catalyst」「Lightspeed Venture Partners」「NEA」「Northzone」を筆頭に数多くのVC/CVCが参加している。
会場にはメディア枠で参加した数百人のジャーナリストたちもいる。スタートアップ企業が知名度を上げるために、メディアの存在は欠かせない。
そして学生ボランティアたちも主要なステークホルダーだ。Slushは学生ボランティアによって運営され、ボランティアは10の部門に分かれて活動する。
2023年のSlush 100で優勝したのは「Faircado」だ。
(画像:Faircado公式ウェブサイトより)
オンラインショッピング中に、新品の代替品として中古品の選択肢を表示するブラウザ拡張機能を提供している。現在のリニアエコノミー(直線的な経済)をサーキュラーエコノミー(循環的な経済)に変えるために設立されたという。
同社は、世界中で毎秒9,000台のスマートフォンと衣類を満載したゴミ収集車に相当するものが埋め立て地に捨てられており、全体の中で循環経済の一環として複数回再利用されているのは、世界の資源のうちわずか約9%でしかなく、可能な限り中古品の購入を人々に奨励しようとしている。
ビジネスモデルは、ブラウザ拡張機能に商品を表示する中古品販売プラットフォームから手数料を受け取るものだ。日本に置き換えると、メルカリ、楽天ラクマ、ZOZOUSEDなどを筆頭とする中古品プラットフォーマーを取りまとめているプラットフォームブラウザ拡張機能、と言えるだろう。SUNRYSEのデータベースでは2023年1月に紹介を開始した。
プラットフォームは各業界や分野に増え続けており、新しくはない。そして、“プラットフォーマーのプラットフォーム”の例も、格安航空券サイトの販売情報やホテル宿泊予約サイトの情報がGoogleのChromeで一度に確認できるように、目新しいものではないかもしれない。
しかし地球環境への悪影響が懸念され続けているファッション分野を中心とした同社のようなソリューションは、サーキュラーエコノミーなどの循環型経済の達成を掲げる欧州がファッション分野で進める動きにも則しているだろう。欧州には高級ブランドの本社や拠点が多いが、高級ブランド各社は、盗難や安く売られることを防ぐために売れ残った商品を破壊処分していることでも知られる。(ただし目的や経緯は異なるにせよ日本でも衣料品に対する同様の動きは見られ、欧州に限らない。参考)
地域や業界として循環型経済の達成に向けてどのような動きが取られるのか、引き続き注目したい。
「Slush 100」は、その年のSlushが定めた条件に適したスタートアップが申請することができるピッチコンテストだ。国際法律事務所DottirがSlushのコンテスト全体における公式デューデリジェンスパートナーである。
2023年の「Slush 100」ピッチコンテストの応募条件は2020年中またはそれ以降に法人化され、株式資金調達で75万ユーロ未満を調達したスタートアップであることである。
優勝企業は注目され100万ユーロの投資を受け、広く注目される。しかし優勝せずとも100社に選出されることにも大きな価値があるだろう。投資家やVC/CVCは業界に特化した新しい製品やサービスのアイデアを持っているスタートアップ企業を探していることが非常に多い。
「Slush 100」で優勝しなくとも、まず100社に選ばれ、その後50社、20社と絞られることで注目されるだけでも、スタートアップ企業は自社の新しい製品やサービスに理解ある投資家やVC/CVCと出会うきっかけとなり、大きな機会を得ることができるかもしれない。
2023年の「Slush 100」選出企業は公式ウェブサイトでも確認できる。
(画像:Slush公式ウェブサイトより)
ピッチコンテスト「Slush 100」では100社、50社、20社と絞られていく。ここでは2023年の「Slush 100」で最終的に絞られた20社のうち、Faircadoを除く19社を紹介する。
(画像:公式ウェブサイトより)
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製品開発チームのためのツールである。主に顧客から収集する定性的なデータをソースとし、顧客の洞察を自動的に取得して分類し、製品開発チームが開発の優先順位などをつけることができるようにするものだ。「Hubspot」「Salesforce」「Intercom」「Slack」「Zendesk」などのCRMプラットフォームと接続して使用できる。
(画像:公式ウェブサイトより)
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同社は気候リスクは金融リスクであるとし、財務パフォーマンス管理を改善するためのB2B意思決定・インテリジェンス・プラットフォームを提供している。資産の物理的な気候リスク、資産の外部相互依存性と収益や事業運営への影響の評価ができる。
(画像:公式ウェブサイトより)
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企業が社内でナレッジツール、オンボーディングツールなどの用途で使用できるツールである。ツールには同社が開発したAIモデルを使用している。同社は「インターネット検索アプリケーションで知られるユーザーエクスペリエンス(UX)を会社にもたらす」と明示しており、ツールの利用者となる企業の社員は、自社の事柄、自分の業務に関連する事柄をテキストや画像で検索し、検索結果を得られる。ドイツにあるDSGVO準拠の認定サーバー上でのみ情報をホストしている。
(画像:公式ウェブサイトより)
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ニュースメディアのサイト上で研究者が一般市民と議論する新しいコミュニケーション・エコシステムの提供を目指している。
2023年12月の時点で構築中であり、実際に参加できるコミュニティやウェイティングリストなどは公開されていない。共同創業者の2人は、金融とメディアに関する経歴を有している。
(画像:公式ウェブサイトより)
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宿泊施設でない限り、無料で、物件や空いており使用されていない空間を掲載・閲覧できるプラットフォームだ。同社は倉庫やセルフストレージへの移動に伴う二酸化炭素の排出量と、温室効果ガスの40%が不動産セクターから発生しておりそのほとんどがコンクリート、金属、ガラスの生産によるものであることを問題視している。
プラットフォームはC2C、C2B、B2Bなど多様な使い方が想定され、対象を限定していない。不動産や空間の所有者は所有物件や空間を掲載でき、掲載物件や空間を利用したい場合は利用申請をする。宿泊物件や倉庫物件など、空間の利用方法を限定しないことで利用者の幅が広くなっている点が特長だ。プラットフォームに掲載される空間は、未使用のガレージ、ドライブウェイ、物置、地下室など多岐にわたる。
(画像:公式ウェブサイトより)
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AIアシスタント、ではなく、アシスタント以上に複雑なタスクができるAI「Herbie(ハービー」)」を開発した。「Herbie」のイメージ画像として公式ウェブサイトでは猫のキャラクター画が描かれている。AIにある無生物感を打ち消し親しみやすさを覚えるための工夫だろうか。
マーケティング、研究、ビジネスアナリストなどが同社ツールを活用できるとしており、「10人で1週間かかる作業をわずか3時間で達成した」とも紹介されているがその作業内容は明らかにされていない。2023年12月の時点でベータ版を提供しており、利用には登録が必要だ。
(画像:公式ウェブサイトより)
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チュートリアル動画を簡単に作ることのできるツールを提供している。同ツールで作る動画の種類として、従業員のオンボーディング動画、従業員用研修動画、組織における新しいソフトウェアツールなどの導入用動画、同僚や顧客用のサポート動画などを挙げている。
録画・記録、動画データの編集、共有のための編集(字幕や翻訳)が簡単にでき、価格設定も無料プラン、月額60ユーロの小規模チーム向けプラン、エンタープライズ向け大規模プラン(価格応相談)とシンプルだ。
(画像:公式ウェブサイトより)
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企業の支払いシステム管理を担うB2Bツールを提供する2022年に創業されたイタリアのスタートアップだ。
企業によっては役職として支払いマネージャーが存在するが、多くの企業はその役職が存在せず、経理、財務、運用チームの誰かが担当することで実施されており、数多くの支払いチャネルの管理が煩雑になっている点を同社は問題視している。そのボトルネックを解消できるインテリジェンスツールとして開発された。
(画像:公式ウェブサイトより)
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拡張現実で楽器練習ができるツールの開発を進めている。タブレットもしくはコンピューター、ピアノなどの楽器、楽器横に設置するスターターキットを使うことで拡張現実を活用して楽器練習や演奏経験を充実させることができる。
2023年12月の時点で3種類ある製品のうち1種類のベータテスターを募集している段階であり、3種類いずれも製品のローンチには至っていない。
ベータテスターを募集している製品はピアノ用であり、他2種類は、ギターとウクレレ用、そしてドラム・チャイム・マリンバなどに対応する製品だ。つまり鍵盤楽器、特定の弦楽器と打楽器に対応していることがわかる。
管楽器も指あるいは腕の動きなどを要するが、それ以上にマウスピース周りあるいは楽器に吹き込む呼吸などの要素が演奏を大きく左右するため、拡張現実で支援できる割合が少ないはずだ。そのため同社が鍵盤楽器、弦楽器、打楽器に焦点を当てたのは妥当と言えるだろう。
また、ヴァイオリンやそれ以上の中低音弦楽器に対応するためには、楽器の傍でスターターキットを設置するために十分な高さのあるスタンドなどが必要になるであろうことから、今後ソリューションを他の楽器に拡大するのかに注目したい。
(画像:公式ウェブサイトより)
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女性が日々対処する、子宮内膜症などの痛み、感情の動き、月経期間の変化、鎮痛剤の服薬習慣などを記録するためのアプリだ。アプリには、記録した内容を活用し、通院時にアプリを通じて医療従事者がわかるように説明するための「ドクターモード」が搭載されている。
月経あるいは周辺症状がある女性の全員が、自分自身のことであっても、適切な言語化ができるわけではない。しかし最適な治療を導き出すためには医療従事者が患者の状況を正確に理解する必要がある。月経や周辺症状の記録にとどまらず、アプリのモードを切り替えるだけで記録したデータを専門家に対して翻訳や伝達できるような、ツールが仲介の役割を担う点が新しいといえるだろう。
(画像:公式ウェブサイトより)
同サービスでは、所有物件の価値を高め、財務状況を改善するための分析・資金確保ができる。具体的には、物件の改修や修繕を行い物件の価値を高めるための資金、エネルギー効率を向上させて燃料費を削減するための先行投資、また物件所有者の個人的な資金確保の支援などを受けることができる。
共同創業者は、インペリアルカレッジロンドンで学びコンサルティング関連の職歴を複数持つSchuldenfrei氏と、VCやYahoo!での勤務を経て、2021年にIPOしたデジタルツインプラットフォーム「Matterport」に6年以上在籍しその後「Factored」の創業に至ったRabee氏の2名だ。
(画像:公式ウェブサイトより)
中小企業、スタートアップ企業向けにカスタマイズ可能な法務管理ソリューションを提供している。法的問題を効率的に処理ためのツールであり、法務担当者が少ない、あるいは、いない場合もある中小組織を対象にしている。
特にスタートアップ企業は、創業者や創業メンバーに法務知識がないこともよくあり、またスタートアップ自体のソリューションに対して法整備の方が追いついていないようなこともある。限りある起業家のリソースを適切に配分できるバックオフィスツールであるといえるだろう。
(画像:公式ウェブサイトより)
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心臓病患者のためのデジタル治療法を患者、臨床医、プロバイダーの三者に対して提供している。同社が扱っている治療プログラムは最も一般的な4つの心疾患リスク状態を対象としており、科学的根拠に基づいた医療介入だ。このプログラムは、薬物療法との併用療法として処方できる。
心疾患リスクを持っている患者は15億人存在する。心臓病患者の負担する高額な医療費、社会の医療システムで増え続けるコストなどを問題視しており、それらに対するソリューションを提供する。2023年12月時点で、利用開始に向けたウェイティングリストを公開している状態だ。
(画像:公式ウェブサイトより)
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企業が導入し、従業員に対して健康上、特にメンタルヘルスの問題が発生したときにリアルタイムで検出できるツールである。従業員が問題に気づくことができ、対応を支援するほか、同ツールの利用者(総務人事などの部門が想定される)は、データを使用してホットスポットの理解や根本原因分析を行うことができる。ツールにはAIアルゴリズムが使われており、有効性は一流の学術雑誌での査読済の研究を通じて検証されたものである。
(画像:公式ウェブサイトより)
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引っ越しが多い人やノマドワーカーなどが利用者となる、自宅住所に関連するすべての記録を表示および管理できるツールだ。私たちの居住情報は、様々な場所で使われている。賃貸の場合は物件の契約先などを筆頭に、クレジットカード会社、光熱費、Wi-Fi契約の電話会社、各種サブスクリプション契約先企業など、多様なサービスプロバイダーが保有している。引っ越しが多い人やノマドワーカーでなくてもこれらの管理はコストがかかるものだが、創業者自身のこれらの経験を踏まえて開発された。
(画像:公式ウェブサイトより)
クリエイティブな仕事についている人のためのクリエイティブを作成するためのAIツールだ。同社は燃え尽き症候群を問題視している。2022年のSlushにおいても、燃え尽き症候群を問題視したヘルスケアスタートアップが「Slush 100」に選出されたが、引き続き欧州あるいは特定の業界で課題になっているのだろう。同社によると、18歳から30歳の若いクリエイターの90%が燃え尽き症候群で倒れているとしており、これによる生産性の損失コストは世界中で数十億に達するのだという。
2023年12月の時点で、ツールの使用を希望する場合は問い合わせフォームに入力する仕様になっており、名前や企業名、メールアドレスのほか、(同AIツールの利用を予定している)プロジェクトとその内容と納期を入力することが求められる。
参考記事:女性として起業家になる 経験から得た自信と勇気 Velbi共同創業者・CEO Piia氏 インタビュー
(画像:公式ウェブサイトより)
開発者へオンボーディング、オフボーディング、そして業務を維持するための支援をするAIツールを開発している。スプレッドシートやNotionで使用でき、ソフトウェア開発者が開発チームに参加してから活躍するまでのライフサイクル全体を1つのプラットフォームで管理できる。
2023年12月の時点でベータ版に対する早期アクセスを開放しているが、限られたべータテスターを募集している段階である。
SOVN
(画像:公式ウェブサイトより)
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歯ぎしりの習慣を持っている人のためのウェアラブルデバイスを開発、販売している。歯ぎしりは睡眠中に無意識下で行われることもあり、調査によると最大30%の人が何らかの方法で歯ぎしりをしており、成人の約10から15%が睡眠中に痛みを伴う歯ぎしりに苦しんでいると推定されている(参考)。同社のソリューションは、2023年のCESで「Innovation Awards」を受賞している。
(画像:公式ウェブサイトより)
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認定された専門家同士が安全につながることができ、スマートビジネスを行うためのプラットフォームである。このプラットフォームが焦点を当てているのは廃棄物業者だ。プラットフォームではコミュニティに参加できるだけではなく、廃棄物およびリサイクル商品のデジタルコンプライアンスを遵守できることから、利用者はサスティナビリティへの取り組みを強化することができる。
欧州を筆頭に世界の廃棄物リサイクル市場はさらに拡大、成長が期待される。日本には同様のプラットフォームがあるだろうか。必要とされるだろうか。起業家やシリアルアントレプレナーは同プラットフォームから何かヒントを得られるかもしれない。
Slushは業界特化型のイベントではなく、毎年の「Slush 100」における優勝企業は、業界や分野が固定されているわけでもない。これにより、どのスタートアップが優勝するかわからない感覚も、人々の注目を集める理由の一つかもしれない。業界特化型ではないスタートアップピッチイベントは、どこが優勝するのだろうか?、その理由となる社会背景には何があるだろうか?、などを考察するのがとても面白い。
スタートアップ業界や資金調達市場でここ数年必ず話題に上がるのは人工知能関連の話題だ。2023年の「Slush 100」でも関連企業が目立つ。
しかし「Slush 100」の優勝スタートアップは中古品市場にアプローチしており、最終的に絞られた20社にはまた別で廃棄物リサイクル市場へアプローチしているスタートアップも存在するなど、欧州・北欧が何に期待を寄せているのかが垣間見えるようであった。
すでに世界にある中古品の流通を円滑にする動きは、持続可能な開発目標の12である「使う責任と作る責任」の達成にも寄与するだろう。中古品の流通が円滑になれば、新品が必要とされる量は減るかもしれず、それに伴い製造や流通過程の環境負荷を減らせるだろう。絶対に新品のモノでなければならないと考えている生活者も、意外と少ないのかもしれない。日本でも、新品との違いがわからないような新古品の流通も多く、ドレスや袴・着物などの冠婚葬祭関連衣料品などは購入して所有せずレンタルする動きも昔からある。
中古品は新品よりも安くコストを抑えることができるからかもしれないが、例えば日本には「型『落ち』」といった言葉もあり、新品を購入しないことが、新品を購入できない、として揶揄されるようなことがある。だがこれからの世代や時代は、企業だけではなく生活者個人も「地球環境への配慮を持っているか」という点で、見方や扱い方、価値観などが少しずつ変わるかもしれない。
また、2022年に続き、2023年の「Slush 100」の最終20社の中にも燃え尽き症候群を問題視してソリューションを提供する企業があることに驚いた。欧州・北欧では特に注目されているのだろうか。
2022年の「Slush 100」に選出されたフィンランドのスタートアップ「Velbi」は燃え尽き症候群を根絶するためのアプリを開発していたが、2023年11月に操業を停止した。持続可能な方法で規模を拡大するためのビジネスモデルや資金を見つけることができず、資金が枯渇し、クローズに至ったことを創業者兼CEOが公表している。2021年に創業され、2022年にSlushで注目され、しかし2023年には操業停止に至った事実は、スタートアップ企業に求められる期待と成長の大きさ、ビジネスモデルとマーケットフィットのバランスの難しさ、「Slush 100」での選出が長期的な未来を保証するものではない事実、起業家と従業員たちの存在などを考えさせられる。
SUNRYSEやSUNRYSE MAGでは引き続き、現在の課題や将来の課題に取り組むスタートアップの様々な側面に注目し、紹介していきたい。
Blackboxでは渋谷区と連携し、日本のスタートアップ企業を海外に紹介している。英語のスタートアップメディアであり、日本語で提供しているものではないが、興味のある方はぜひウェブサイトを訪問いただきたい。
表題画像:Photo by Mohammad Saifullah on Unsplash (改変して使用)
執筆:古川 絵理
編集:藤澤 みのり
SUNRYSE MAG記事公開日:2023年12月29日