「AsiaBerlin Summit」は2022年9月12日から9月16日に開催された、ベルリンとアジアのスタートアップエコシステムを繋ぐカンファレンスである。今回SUNRYSEでは、同カンファレンスの現地取材を行なった。本記事ではベルリンのスタートアップエコシステム、カンファレンスの様子を紹介する。
ベルリンはロンドン、パリ、アムステルダムに並ぶ主要なスタートアップ都市であり、世界中から起業家が集まっている。業界別では、フィンテックやモビリティ、アーバンテック、ヘルステック関連のスタートアップが多いのも特徴だ。他にも特筆すべき点として、ベルリンは他のドイツ国内やヨーロッパの都市に比べて家賃が安く、多くのアーティストや起業家が集まってきたことから、クリエイティブテックスタートアップの存在も大きい。例えば、アート、NFT、VR/AR、ファッション、エンターテインメントとテクノロジーを組み合わせたソリューションを提供するスタートアップも増えている。また、ベルリンで最も大きいコワーキングスペースである「Factory」はアーティスト・イン・レジデンスを構えており、アーティストとスタートアップが協業できる空間・プログラムを提供している。
写真:SUNRYSE
「AsiaBerlin Summit」では、ベルリン州のスタートアップ支援機関「Berlin Partner」による、ベルリンのスタートアップエコシステムを紹介するセッションも開催された。ベルリンにおけるスタートアップの歴史として、1989年にベルリンの壁崩壊後、シード期のクリエイティブスタートアップがベルリンに集まったそうだ。2000年代のインターネットバブルを経て、2010年代にはチャレンジャーバンクの「N26」や都市型農業の「Infarm」、昨年日本進出を果たした「HelloFresh」などのユニコーン企業が次々と誕生した。「Berlin Partner」によると、2022年9月現在、ドイツ国内スタートアップの約17%がベルリンに集まり、SaaSスタートアップが26.8%を占め、25のユニコーン企業が存在しているという。
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また、ベルリンはドイツ国内で一番お金が集まる場所であり、200近いVC、約80のアクセラレーター&インキュベータープログラム、ベルリン州政府やベルリン投資銀行によるサポート、エンジェル投資家のコミュニティも活発であることが挙げられていた。さらに、ベルリンのスタートアップエコシステムに関して「企業はドイツ中にあるが、イノベーションのハブや研究機関はベルリンにある」と特に強調していた。
「AsiaBerlin Summit」が開催される前日には前夜祭として、渋谷区による海外起業家支援プログラム、「Shibuya Startup Support」が「Japan Meets Berlin」を開催した。同イベントは、「Shibuya Startup Support」のグローバルアンバサダーを務め、日独を繋ぐオープンイノベーション・スタートアップ支援を行う「CROSSBIE UG」山本知佳氏、「ソフトバンクインベスメントアドバイザーズ(SBIA)」パートナー、チーフオブスタッフ兼CEO室長を務める佐々木陽介氏が主催した。
スピーカーとして渋谷を拠点とする、ストリートアートに特化したNFTマーケットプレイス「TOTEMO」の共同創業者、小林未菜実氏が登壇した。小林氏から同社紹介と設立の背景、なぜNFT×ストリートアートなのかについて紹介が行われた。ストリートアートの性質として、天候による劣化や破損、状況によっては違法性があること、マネタイズが難しいことが挙げられる。そこで「TOTEMO」では、ストリートアートをNFTと組み合わせることにより、ブロックチェーン上にアート作品を永久保存し、デジタルデータとして販売、作品の所有権を確認できる仕組みを提供している。また、同社のサービスにより、ストリートアーティストのマネタイズや、コレクターがストリートアーティストを支援できるプラットフォームの形成を可能にしている。渋谷を拠点として選んだ理由として、渋谷は東京の中心地であるだけではなく、あらゆるジャンル、特にエンターテインメントとテクノロジーの最先端であり、クリエイターの聖地、そして国内外のスタートアップを支援する体制が整っていることが挙げられていた。
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イベント会場はNFTコミュニティの勉強会が定期開催されるベルリン市内のバーで行われ、会場を埋め尽くすほどの参加者が集い、特にクリエイティブ関連の起業家やスタートアップ、日本でのインターンシップを希望している現地の学生も多く見受けられた。また、ベルリンに拠点を置く日本発のデザインコンサルティングファーム「Goodpatch」も参加していた。
ヨーロッパ、アジアからスタートアップや起業家、VC、スタートアップ誘致を進めたい行政・自治体が参加し、日本からは東京都、兵庫県、神戸市、渋谷区が参加していた。同カンファレンスではメインテーマとして「SDGs」を掲げており、17あるSDGsのどの課題解決を目指しているか、各セッションで明確に示されていたのが印象的であった。
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今年のオープニングでは、東京とベルリンをオンラインで繋ぎ、「日独産業協会(JDW)」のディレクター、Anne Pomsel氏の挨拶にはじまり、小池百合子東京都知事によるビデオレターも話題となった。ビデオレターでは東京都内にて2023年2月27、28日に開催予定の大型スタートアップイベント、「City Tech Tokyo」の告知も行われた。
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また、今年は昨年に比べて、よりインタラクティブな会場設計となっており、スタートアップやスタートアップの支援機関によるブースが設置され、参加者同士のネットワーキングや交流がより一層活発に感じられた。
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また、会場内でNFTアートの展示が行われていたことも印象的であった。実際にキュレーターの方から展示されているアートの説明や紹介をしていただいた。
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カンファレンスの注目セッションとして、ベルリン発の都市型農業ソリューションを提供する「Infarm」のエンジェル投資家であり、日本に同社を展開した平石郁生氏が登壇した。平石氏は同社について、インターネットはもちろん、AI、IoT、機械工学、バイオテクノロジー等、ハードウェアとソフトウェアの両方の技術が必要であることから、都市型農業界のテスラと表現していた。
また、平石氏が「Infarm」への投資や日本市場参入支持した理由について、平石氏の実家は福島県にあり東日本大震災の影響を大きく受けたことや、日本は台風などの自然災害が頻繁に発生するために持続可能な農業が困難であること、また農業従事者の高齢化という問題も抱えていることから同社に興味を持ったという。
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イベント2日目の夜には「AsiaBerlin Summit」のサテライトイベントとして、兵庫県、神戸市と「SDGsチャレンジ」による「Japan Berlin Impact Night」が開催された。イベントでは、神戸市のスタートアップ支援の紹介や、神戸市が今月から応募を開始する「The Next Kitchen 2023」の告知も行われた。このプログラムでは、欧州のフードテックスタートアップ、事業規模を急拡大するスケールアップ企業を募集している。例として、肉、魚、日本酒(ノンアルコールなど)の代替品、消費習慣の変化、環境負荷の低いパッケージ、健康的な食事、代替農法、システム及び物流の改善、神戸牛から発生するメタンガスを減少させるための動物飼料の変更、などが挙げられていた。選ばれたスタートアップは2023年2月に日本でのビジネスマッチングに参加できる。
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他にも、イベントではSDGsチャレンジプログラムに採択されている日本のスタートアップ4社とドイツのフードスタートアップ3社によるピッチが行なわれた。日本からは、60%の女性が抱える性交時の違和感を改善する潤滑剤を提供する「Unwind」、市民活動の情報発信アプリを開発した「Tamema Inc.」、各国政府や国際機関の発信するルールなどの情報を一元化・可視化するサービスを提供する「OSINTech」、感情を記録してAIロボットと会話するアプリおよび、認知行動療法に基づいたメンタルセルフケアを実践できる従業員向けプログラムを提供する「emol」がピッチを行なった。ドイツからは、海藻で代替ツナを開発し、プラントベースのサンドイッチやピザを販売する「BettaF!ish」や、ビタミンを配合したチューインガムで栄養失調に対処し口腔衛生を改善する「VitaGum」、都市型農業のパイオニア「Infarm」によるピッチが繰り広げられた。
イベント3日目はベルリン市内の各施設でのサテライトイベントとなっており、モビリティに特化したベルリンのコワーキングスペース「Drivery」にて、横浜市に関連するイベントが開催された。会場では、横浜市の紹介と2022年12月に横浜で開催予定のスタートアップイベント「テックビズコン(今年はモビリティに特化)」や、ロボティクスに焦点を当てた「ロボットワールド」の紹介がされた。また、モビリティスタートアップと協業したい日本企業によるリバースピッチも同時に行なわれた。イベントはコワーキングスペースの入り口イベントスペースで行われ、多くの現地の起業家やスタートアップが立ち止まって話を聞いていた。
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今年の「AsiaBerlin Summit」では、多くの日本の自治体が現地で参加し、日本のスタートアップエコシステムを盛り上げ、海外スタートアップを積極的に受け入れようとしている点が印象であった。今後SUNRYSEとしてもスタートアップ、企業、行政の協業をサポートし、より促進させていきたい。