ユニコーン?ゼブラ?もう呼び名にこだわるのはやめよう

これらの言葉の意味をよく考え、人々の言葉に耳を傾けてみると、スタートアップ業界には何か”腐敗”したものがあることは明確だろう。
マーケティング VC/CVC

ここ何年もの間私達は多数のスタートアップ企業がそのアイコンに”動物王国”に由来するもの(時にそれは架空の動物であった)を使用するのを見聞きしてきた。ユニコーンやラクダのようなラベルは近年急増傾向にあり、伴って人々の興味を強く引いていた。私達は皆アイコニックなラベルが大好きだ。それがあるというだけでとても良い物のように思えるし、企業を説明する際のショートカットの役割も果たす。そして何より、その”glamour"、”素敵な感じ”を企業に与えてくれる。

しかし、これらの言葉の意味をよく考え、人々の言葉に耳を傾けてみると、スタートアップ業界には何か”腐敗”したものがあることは明確だろう。これらのラベルは所謂ミスリードを引き起こす可能性も高く、企業に対する誤解を招いて本来の役割を失ってしまっているというケースも多い。ここではそれら”ラベル”を全員が使うことを止め、本当に大切な事に集中すべきではないかという話をしていこう。

1. 動物王国

もう少しラベルについて詳しく理解してもらうために、まずはよくある例をいくつか用いて、それらが本当に意味することは何かを分析させてほしい。よくある例の1つは動物に基づいているパターンだ。

スタートアップ業界がそうであるように、”動物王国”というのは何かとても強い魅力に溢れ、個性や特徴をあらわにしている。私達はそれらの特性をスタートアップ企業に准えて、ラベルとして使ってきたように思う。

しかしながら、このような動物を使用したスタートアップに対するラベルは一朝一夕にしてできたものではない。それは移り行く社会経済とテクノロジーの発展と共に少しずつ変化しながら使用されてきた。

以下、スタートアップ業界でよく扱われる動物についての見識である。

参照:For COMEUP 2020, the post-pandemic future will be led by startups

”ユニコーン”は既に広く一般的に使用されており、それを止めるのは殆ど不可能に近い。他によく使われるラベルを考えてみても、世界の状況に対応したものであったり、ユニコーンの欠点をカバーするものだったりする。

そしてこれらの動物の特性をより深く分析していくと、全ての動物はスタートアップの根本的な特徴に基づいているということがわかる。これらには明確な違いがあるとは言い難く、その使用を正当化することは難しい。

2. これはただの”流行り”である

例えばファッション業界に於いて新作がトレンドのデザインに偏りがちなのと同じく、スタートアップ企業のラベルにも数年かけて変わっていく流行りがある。しかし、ここにはもう少し科学的根拠があるー

”ユニコーン”が使われ始めたのは2013年前後、スタートアップ企業がそれ以前の約倍の速度で成長し始めた時期である。その背景にはテクノロジーの発展、私有資本金の増加や企業戦略の急激な成長などがある。

ユニコーンはかつてとても珍しい”品種”だった。しかし近年では10億ドルのサラブレッドの”馬小屋”は世界に350頭ほどの”ユニコーン”をもたらした。今日では”ユニコーン”は「評価された企業」以上の意味合いを持つ。寧ろ、それはスタートアップを築いていく哲学やエトス、そしてプロセスを象徴していると言っても過言ではない。

それから早3年が経ち、2016年、”ゴキブリ”ラベルが使われ始めた。3年前とは全く違った状況であったこの時期は、世界経済がぐらつく中でスタートアップの資本金も底を付きつつあった。これまでの”ユニコーン”や急成長するテック・ビジネスのような資本金に頼ったビジネスモデルでは生き残っていけなかった。

参照:4 key growth metrics startups should watch closely

翌年2017年、”ユニコーン”は教育やヘルスケア、ジャーナリズムなどの非営利団体や社会企業を破壊してしまった報いを受けた。そこで登場したのがシマウマ、”ゼブラ”だ。ここでの資本金システムは部分的に破綻しつつある社会だった。企業利益を得ながら意味のある問題解決を図り、既存の社会構造をリペアしていく、これが”ゼブラ”だった。

2018年、狂った評価により”フェイクユニコーン”の出現が相次ぐ中、言われ始めたのがサイ、”ライノ”である。これは言わば”ユニコーン”の安全版の様なものだった。東南アジアは可処分所得の”黄金時代”に突入しつつあり、”ライノ”企業人口が一番多かった。型にはまらない自由裁量での支出が増え、とても良いプラットフォーム企業が作られた。

あっと言う間に時は過ぎ2020年、世界がパンデミックに直面している。スタートアップも一番大きな被害を受けている企業の一つだろう。シリコンバレー以外のスタートアップは、しかしながら、砦を守っている様に思える。新興市場では多くの企業がより少ない資本金や”生態系”のサポートでも存続している。従って、ラベル”ラクダ”は様々な”気候”に適応し、”食料”が数ヶ月なくてもその厳しい環境を生き抜いていける、その様な企業を指している。

3. この風潮が教えてくれること

テクノロジーや経済の些細な変化は新たな動物を用いたラベルの出現に繋がるだろう。しかし、繰り返しになるが、その突飛なラベルはまた「ユニコーンではない」ことを品を変えて表しているに過ぎないだろう。創始者としては、その様なラベルよりも変わり続ける時代を予測、分析し、適応していくことに注力すべきだろう。

4. ラベルはファウンダーに明白な利益を生み出すものではない

ラベルでのスタートアップのカテゴライズが明白な利益を生み出すものではないなら、果たしてそれを続ける必要はあるだろうか。おそらく、ラベルはファウンダーの目標設定や、スタートアップを形作っていく際に役に立つと言う意見があるだろう。しかし、宗教的なドグマや教えがそうである様に、結局は同じ様なゴールに収束してしまう。

参照:3 mistakes early-stage startups in Singapore make in product development

全てのラベルに象徴されるモデルは基本的に、経営やその保持という点に於いてスタートアップを正しい方向に導くだろう。あなたの企業が”ユニコーン”であろうと”ラクダ”であろうと、そのビジネスは人間の仕事量やあなたの創意工夫によって成り立っているのだ。

もしあなたがファウンダーで、その様なラベルを企業イメージの”ごまかし”や人々の”バズ”のために探し求めているとしたら、その決定を見直す必要がある。ステークホルダーやメディアにラベルを用いて良い印象を持たせる事ばかりに注力し、実際の商品や経営を蔑ろにしたばかりに、多くの企業がボロボロになっている。

そのような道を辿った企業の1つがTheranos Inc.だ。Theranosはヘルスケアテクノロジーのスタートアップであり、2015年には100億ドルと評価されていた。血液検査業界に革命的な変化をもたらすとうたっていた同社だったが、CEO Elizabeth Holmes と 先代のRamesh Balwaniによって強調されていた全く新しいテクノロジーは遂に言及されることがなく、詐欺だったことが判明した。

同社は出資者から7億ドル以上を騙し取っていた。このサガの後、Holmesは会社のコントロールができなくなり、何百万もの金銭を返した上で、以後10年幹部や経営陣として働くことを禁じられた。

”ユニコーン”のようなラベルは”生態系”にとって一番怖い形で入り込んできた。今ではスタートアップのファウンダーはその”ユニコーン”だというステータスを欲しがり、彼らは平気でショートカットを使おうとし、時には不道徳なルートを取ろうとする。

近年では評判のラベルを追い求めることが「百害あって一利なし」であることは明白なのだ。

5. ”ラベル”ではなく”ビジネス”

誤解をしないでほしい。大きなステップアップを目指す企業が全て失敗の道を辿ると言っているのではない。私達が皆違う指紋を持つのと同じように、スタートアップ企業もそれぞれのユニークなビジネスモデルやプロセスを持っているだろうということだ。全ての企業が個々のレースを走っているし、そのゴールの仕方もまたそれぞれなのだ。

参照:Tech for good: How 3 startups leveraged a messaging app to serve the community during COVID-19

例えば建設業界を例に見てみよう。ユニコーンリストにWhiting-Turnerのような企業は見られず、物凄い評価は付いていないものの、彼らの収益は何十億にも達する。これは単にラベルの定義する評価にはフィットしなかった、というだけだ。

ではスタートアップ企業は何を是とし、何に注力していくべきのなのか。私は下記に挙げるようなビジネスの根幹を大切にしていくべきだと思う。

収入と利益率

スタートアップに於ける最も一般的な問題の一つがこれだ。利益をあげるためのクリアな道筋が確立できておらず、投資の段階に戻ってしまう。もしあなたの企業がトラックレコードを以って購買客層を分析したり、問題解決の根幹を探っているのなら、既に他の企業よりも一歩リードしているのだ。他社はその最重要事項にフォーカスせず、”イノベーティブ”という概念だけに頼って顧客や利益を掻き集めようとするだろう。

ビジネスモデル

成長し成功するビジネスには、強固なバックボーンが必要だ。ビジネスモデルはカスタマーバリューの計画や値段設定を行う際の助けになる。どのようにビジネスを運営し、利益をあげるには誰をパートナーにすべきか、そしたサプライチェーンをどのように構造化すべきか等、多くの問題解決のガイドになる。

業務形態やパートナー、プラットフォームの正しい組み合わせを見つけることは容易ではない。それがこんなにも多くの企業が失敗してしまう理由であり、それを正しく行うことが成功の鍵とも言える。インフラや従業員など本当に大切な事に投資をする事こそ、スタートアップに於けるヴィジョンの指針であり、確かな意思決定なのだ。

サステイナビリティ

市場はアクティブに10億ドル以上の評価を疑う理由を探している。一度一歩引いて、カスタマーの意見や満足度、ブランドのポテンシャル、今までの歴史や記録など様々なことを評価し直してみるのは大切だ。それは細かい監査と忍耐力を要し、はりのあるバックボーン作りは勿論多くの時間が必要だ。しかし、結局のところ、マーケットを揺るがし、企業をより邁進させるのは一種のフレームワークなのだ。

参照:In brief: Investments in SEA startups double inQ2 despite pandemic; GreenPro invests in Ata Plus

野生生物が全て違うように、全てのラベルも同じような将来が待っている訳ではない。まして、この広いスタートアップ業界で”オールインワン企業”は誰の興味も満たさない。従って上に挙げたような最重要事項にフォーカスしていくことが成長への正しいアプローチなのだ。

6. 来たる未来

スタートアップはゴキブリでも、ユニコーンでもラクダでもサイでもないー 他人がまだ気付いていない機会に気付き、挑戦し続ける人々の集まりだ。成功するスタートアップを作るには何物のも負けない根気と、長い年月、市場の変動性への予測やリスクマネージメント、そして少しの運が必要だ。

使われるラベルに関係なく、注力する点の変化が2020年には必要だ。ファウンダーは次の”ユニコーン”になることを夢みるのではなく、少ないVCでも自足していける企業作りに集中すべきだ。ラベルを追い求めるよりも、ファンドリターニングで多くの収益をあげられるスタートアップにするための話をしよう。

イノベーションやテクノロジーが前代未聞のスピードで成長していく中、同じ様に称されたり、”団栗の背比べ”の様にみなされる企業は二つと無い。私達の起業家としての旅は唯一無二なのだ。それが私がスタートアップを特定の単語で表すことに警鐘を鳴らす全ての理由だ。

翻訳元:Why we need to stop glamourising startups with fancy labels and focus on real metrics

記事パートナー
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執筆者
秋山凜 / Rin Akiyama
Researcher&Writer
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