シンガポールの大手出版社が最近行った調査で、社会におけるアートやアーティストの価値についての議論に火がついた。調査では、回答者の70%以上が芸術家を不必要な仕事と捉えていることが分かった。
後に、この調査の回答が、現在進行中のCOVID-19のパンデミックと密接に結びついていることが強調された。というのも、この状況下において、健康や食料などの必要不可欠なニーズが間違いなく頭の中のトップに置かれるからだ。しかし、芸術と芸術教育の価値をめぐる議論は続いた。
応用数学、工学、スタジオアートという異色の組み合わせを嗜んだ元学生として、これがSTEMの将来、特にデータとAIの分野で何を意味するのかについて考えてみたいと思う。
多様性については多くの議論がなされているが、多様性を受け入れるということは、経済的、政治的、社会的に大きな問題だ。多様性とは、違いを受け入れることであり、男性、女性、NLPエンジニア、データアーティスト、意思決定者に対し、同じ型に当てはまるよう強制しないことである。
AIに関しても、これはよく当てはまる。データ・ドリブンな未来に向けて進む中で、AIは今後、データやエンジニアリングのスキルだけではなく、判断力、意思決定力、人間力のようなスキルをも(むしろより重要なスキルとして)発揮する必要があると言われている。
私は過去10年以上、3つの国をまたいで、科学ベースのヘルスケアプロジェクトから純粋なテックへと分野を変えつつ、テクノロジーの世界に身を置いてきた。しかし、私は技術系のキャリアパスを選んだわけではない。早いうちから人に焦点を当てたキャリアを望んでおり、テクノロジーはそのための単なる媒体に過ぎなかった。私の本当の情熱は、今も昔も”数学的なストーリーテリング”に向けられているからだ。
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さまざまな分野を勉強するという選択によって、分析的スキルと創造的スキルを縒りあわせ、スマート義肢装具のためのロボットアームを作るという類の画期的なイノベーションの現場に携わることができた。またその後は、世界を渡り歩き、大手テクノロジー企業に関して自身の見識・世界観を掘り下げていくことができた。
GitLabでの現在の仕事で私が最も気に入っているのは、新しいイノベーションを通じて世界中のお客様のために技術を働かせることだ。確かに、今ではAIのレンズを通して、これまでできなかったことを解決できるようになったが、情熱や才能の多様性を受け入れてこそ、効果的にこれを実現できる。
人間として、私たちは確実性と再現性に安らぎを見出す。雇用者が優れたデータサイエンティストを雇うためには、ロボット的スキル(Python、統計、プレゼンテーション)のチェックリストに頼ることが最も確実な手法に思われるだろう。しかし、優れたAIモデルを構築するためには、数学者だけでなく、詩人、ストーリーテラー、言語学の専門家なども必要である。
アナリティクス(分析的思考)とソフトスキルを2つの異なるスキルセットとして捉えるのではなく、人間の問題解決スキルという同じジャンルの一部として捉えるべきだ。ツールを巧みに扱うのは技術だが、人間の問題を創造的に解決するためにツールを上手く適用するのはアートだと言える。したがって、アナリティクスはソフトスキルのサブセットであり、その逆もまた然りだ。
STEMの専門家としての私たちは、日常生活で、顧客のニーズや問題点、要望を理解するために、積極的に聞き役に徹する必要がある。この理解があって初めて、ニーズを解決するためのアナリティクスソリューションを創造的に生み出し、そのソリューションが顧客の旅路全体にどのように適合するかをはっきりさせられる。
人類とテクノロジーが共存し、私たちの生活が何らかの形でテクノロジーと絡み合う時代になってきた。技術的なスキルを高めることが最も重要であることは否定できないが、クリティカルシンキング、コミュニケーション、意思決定などのスキルも同様に重要だと思われる。
例えば、純粋な数学は工芸品だが、応用数学とそれを使って問題を解決する方法はアートだ。同様にAIにおいても、データ、ツール、高速コンピューティングエンジン、テンソルフローなどの高速数学的ソリューション、機械学習(ML)運用、AIOps、データ運用に拡張されたDevOpsフレームワークなどがあるが、これらすべてのツールや概念を人間の問題を解決するためにどのように適用するかはアートの域の話なのだ。
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STEMだけでなくアートの分野においてもAIの真のパワーを発揮させるために、私たちは、あらゆるジェンダーのそれぞれの髄の強さのようなものを取り入れ、あらゆる種類のマインドを調和的に受け入れる必要がある。
AIにおける多様性とは、情熱と個性を受け入れ、統一された機械予測やストーリーテリングの中で創造的に活用できるプラットフォームを持つことである。またそれは、個々の特有の強みを受け入れ、お互いの弱点を補完し合うことであり、相互に貶め合うことなく、異なるバックグラウンド、年齢、性別、マインドセットなどの調和の中で問題解決を通して自由を見つけ出すことだ。
GitLabでは、「Diversity, Inclusion & Belonging(DIB)」という言葉で、多様性のある労働力と、誰もが自分らしくいられる環境を作るための取り組みを語っている。
このアプローチは、より優れたAIモデルを生み出すだけでなく、コンピュータとの関わり方を根本的に変え、人間同士の交流や社会をより効率化し、最終的にはデジタル化されたエコシステムが人類の進化に関わる重要な問題や障壁を解決するだろう。
AIドリブンの世界による真の可能性を実現するためには、科学であれ、技術であれ、芸術であれ、哲学や国際関係であれ、若者が差別なく純粋に自分の情熱を選択できるように支援することが重要である。
翻訳元:Why the future of AI needs more of diversity and the arts