【金融業界の未来】ネオバンクは金融業界に変革を起こすか?

自らは銀行免許を持たず、既存の銀行と提携してネット上で金融サービスを展開する「ネオバンク」が、欧米を中心に台頭している。デジタルバンクと特徴を比較しながら、ネオバンクの利点や現在地を探る。
金融 ブロックチェーン EC

2011 年にMarc Andreessen氏は「Wall Street Journal 」に、「Why Software is Eating the World」という有名な記事を公開した。「今後ソフトウェア企業は、伝統的な非ソフトウェア産業の役割を引き継ぐほどに、大きく成長するだろう」という言及は、間違いなくその通りになっている。彼は更に「ソフトウェアはあらゆる産業のバリューチェーンに大きな影響を与えている。これからは、ソフトウェア革命の到来を想定する必要があるだろう」と綴っている。

 

他の業界と比べて、銀行業界はディスラプションの動きが鈍い業界の1つである。しかし現在は、ソフトウェアやインターネットの力が銀行業界に多大な影響を与えている。

その一方で「銀行はすでにソフトウェアを多くの場面で使用している」と指摘する人もいるだろう。しかし、最先端の銀行でさえ、ソフトウエアを開発しているというよりは、単に購入しているというのが適切な表現である。

これは、フィンテックが今後数年間で銀行業務をどのように変貌させていくかを考える上で、非常に重要な部分である。「デジタルバンク」はすでに市民権を得ているが、その定義はそれぞれの解釈によって大きく異なる。伝統的な銀行は、新しくモバイルアプリを立ち上げ、それを「デジタルバンク」と呼んでいる。しかしオンラインでビジネスを展開する新しい銀行は、自らを「デジタルバンク」と名乗り、伝統的な銀行が提供しているサービスのほぼすべてを網羅している。

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デジタルバンクとネオバンクの未来像

将来的には、すべての銀行が銀行免許をもつ必要はなくなるだろう。その代わりに、ソフトウェア開発や顧客体験にもっとエネルギーを注く企業が、銀行免許を保持している企業と提携することで、独自のサービスを提供できるようになる。

海外を見渡すと、シンガポールではデジタルバンクが大きな話題を呼んでいる。シンガポールの中央銀行に相当する通貨金融庁(MAS)は2019年、デジタルフルバンク(DFB)ライセンスを最大2件、デジタルホールセールバンク(DWB)ライセンスを最大3件発行すると発表した。

 

銀行免許をもつデジタルバンクは、従来の伝統的な銀行にとって強力な競合となるだろう。しかし、現在はあまり知られていないネオバンクのビジネスモデルこそ、より革新的であることを証明する必要がある。

デジタルバンクの場合は多額の払込資本要件(DFBの場合は15億シンガポールドル)が課せられており、事前に事業計画を十分に練らなければならない。そのため、スタートアップのようにピボットを実施し、新しい機能やサービスをユーザーと共にテストすることは難しいだろう。また、既存の銀行がもつ金融インフラと類似するものを構築するために、多くの資金を費やす必要もある。

 

 

デジタルバンクとネオバンクの違い

 

銀行免許

ネオバンク:自らは保持する必要がなく、ライセンスを所持する企業との提携のほか、電子マネーや証券などの他のライセンスを利用することもできる。

デジタルバンク:標準の銀行免許、もしくはデジタルバンキングの免許が必要となる。

 

投資コスト

ネオバンク:既存の金融インフラを活用できるため、投資にかかる費用を抑えることができる。

デジタルバンク:独自に金融インフラを確立する必要があるため、高額な投資がかかる。

 

プロダクトやサービス

ネオバンク:提携する金融機関の複数の金融商品を提供できる。

デジタルバンク:独自の金融商品を作成し、販売できる。また、独自のバランスシートを所有できる。

 

ビジネスモデル

ネオバンク:ソフトウェアとカスタマーエクスペリエンスに焦点が当てたビジネスモデルを展開できる。

デジタルバンク:バランスシートと既存の金融規制に焦点を当てたビジネスモデルを展開できる。

 

 

世界で最も成功しているフィンテック企業の一つである「Ant Financial」は、ネオバンクの開発スキームを踏襲している。エスクロー(第三者預託)でお金を預けるオンラインソリューションとしてスタートした同社は、次第に決済ソリューションへと進化を遂げた。

同社の直近のIPO目論見書によると、現在の収益の60%以上は「デジタルファイナンスプラットフォーム」によるもので、13億人以上のアクティブユーザーと保険や投資、クレジットなどの幅広い金融商品のパートナー企業を結びつけている。

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伝統的な銀行が「Ant Financial」と同じように、金融業界においてエコシステムを構築する企業になるのは非常に難しいだろう。

下の表にあるように、「Ant Financial」の時価総額の方が6~10倍の規模であるにもかかわらず、シンガポールの3大銀行に勤める銀行の従業員数は「Ant Financial」よりもはるかに多い。

 

今年の初め、電子商取引プラットフォームの「Shopify」は、ビジネスに必要なライセンスを自身で取得せず、ライセンスを取得した当事者と提携して、マーチャントバンキングサービスを顧客に展開することを発表した。これは、実際に非金融企業がネオバンクのビジネスモデルを立ち上げた好例である。

「American Banker」によると、「Shopify」の金融ソリューション担当ゼネラルマネージャーであるKaz Nejatian氏は「私たちは、銀行サービスを複製しているわけではない。従来の銀行が提供しているものよりも新しく、よりニーズに即した金融商品の提供を目指している」と述べている。

 

完全な銀行免許を所有する銀行は、たしかに社会で重要な役割を果たすだろう。しかし従来の伝統的な銀行やデジタルバンクが、ネオバンクやフィンテックと提携することで、新しいサービスが生まれる可能性は極めて高い。

 

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翻訳元:https://e27.co/why-neobanks-are-better-than-digital-banks-20201123/

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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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