なぜインドネシアは東南アジアにおける決済アプリビジネスの主戦場になり得るのか?

インドネシアの有力決済アプリ「Ovo」と「Dana」の合併から見る、インドネシアのEC市場における決済システムの実態について。
決済 EC

アジアにおける決済環境を考えると、真っ先思い浮かべるのはその複雑さであるだろう。東南アジアには、この1地域内だけで1,000を超えるローカルな決済システム(LPMs)が存在しており、それぞれがこの巨大なマーケットでしのぎを削っているのだ。

その中でも特に、東南アジア最大のB2B-EC市場を持つインドネシアが、この地域における決済ビジネスの次の主戦場になろうとしている。

COVID-19のパンデミックをきっかけにして、インドネシアの人々は以前にも増して、商品やサービスの安全かつ衛生的な提供方法としてECの重要性に目を向けている。この国の小売業者の中には、この危機によるオンラインサービスの需要急増に伴って、初めてオンラインビジネスへの参入を迫られたプレイヤーも多い。

マーケットサイズ

BilibliやBukalapakのようなユニコーンスタートアップなどは、この需要増加に対応するため、グロッサリー系の分野などのオンラインサービスに注力することで、マーケットにおけるシェア獲得に務めている。確かにCOVID-19の外的影響がECの取引量を増加させているが、そもそもインドネシアでは2025年までに1,300億ドル規模のディジタルエコノミーが完成すると言われていたほど、その市場規模は拡大の一途をたどっていた。

このような見通しもあり、ここ最近の市場注目度の高さは何ら不思議なことではないと言える。例えば、2009年から市場展開を始めていたGojekは、すでに100億ドルを超える評価額を記録しており、インドネシアを代表するまさに「スーパーアプリ」である。このGojekは東南アジアで1億7,000万人のユーザーを抱えるまでに成長しており、その存在感の拡大は未だ止まる所を知らない。

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今月、Facebookの保有するWhatsAppはPayPalと共同で、その額は非公開ながらも「意味のある」だけの金額をGojekに投資したと発表した。このことがGojek独自の決済システムであるGoPayにどのような変化をもたらすかはまだ不明であるが、業界としてはインドネシアの有名フィンテックスタートアップであるOvoとDanaの合併話が盛り上がっていることもあり、この市場競争の動向は注目に値するものと言えるだろう。

というのも、ディジタルペイメントのOvoとディジタルウォレットのDanaが合併は、インドネシアの決済市場の成長と維持に繋がる一方で、Gojekにとっては正面から勝負せざるを得ない巨大なライバルの出現を意味するからだ。

OvoとDana。その合併の目的とは?

Gojekと、今回合併したOvoとDanaに共通しているのは、どちらもいわゆる「スーパーアプリ」であるという点と、そして何よりもディジタル決済サービスをリード獲得のルートとして捉えているという点である。いずれのプレイヤーもこの戦略に基づいてライドヘイリング(e.g. Go-Ride)やフードデリバリー(e.g. Go-Food)、マッサージ(Go-Massage)、公共料金支払い(e.g. Go-Bills)、食料品販売(e.g. Go-Mart)などなど、様々なサービスを展開しているのだ。

OvoとDanaの合併は国内加盟店の統合と合理化を促進するという潜在的な好影響をもたらすと考えられる。インドネシアには大小約7,000もの島があり、その影響もあって国内の決済システムは分断状態にあると言われているのだ。

カスタマーにとっては、この合併は、自分たちが慣れ親しんだ信頼のおける決済方法によってより消費体験の質を向上させることになるだろう。

では、(このようなビッグプレイヤーの存在を考慮すると)新規の事業者がインドネシアの市場に参入するとしたら、一体どこにそのチャンスがあるのだろうか?

実は、ここまで紹介したインドネシアのユニコーン達による成功は、同国の野心的なフィンテック企業や、その他の市場拡大を目指す企業にとって、氷山の一角に過ぎないのかもしれない。というのも、インドネシアは2億7,350万人もの人口を抱えており、急速なディジタル決済の普及による成長は、今後も安定的に続くと見られているからだ。

この成長は、インドネシアの人口のうち、約3分の1にあたる9,500万人もの人々が銀行口座を保有していない、いわゆる「Unbanked」層であるという事実によって支えられているところが大きい。新たな決済市場(決済アプリなど)の開放によって、これらの層の多くが金融サービスにアクセスできるようになり、ディジタル取引も促進されるからだ。

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実際、インドネシアにおけるスマートフォンの普及率は年間約17%ずつ増加しており、これは新たな決済市場拡大の大きな後押しとなっている。私達は、これらの拡大傾向について、QRコード決済や「ロビンフッド型」の定額料金取引(事業者の規模によって支払額を変える方式)の導入をサポートするような政府の方針こそが、e-ウォレット支援における中小企業の発展に繋がると考えている。

2018年の時点で、インドネシアのe-ウォレット市場の規模はATMやデビットカードのそれを追い越しており、その点から見ても、インドネシアのディジタル決済の発展はもはや数値化しても青天井なのではないかと思ってしまうほどである。

このような助長的な環境があることで、インドネシアでディジタル決済やECサービスを提供しようとしている企業にとってのチャンスは十分に「熟している」と言える。実際、Global Payments Almanacによると、例えば中国、米国、そしてシンガポールの3地域はインドネシア人にとって商品やサービスの購入先として非常に人気が高く、インドネシアという市場は国内のみならず、世界中の商業者にとってチャンスのある魅力的な市場であることが伺える。

とはいえ、このインドネシアのマーケットには若干の面倒ごとも存在している。例えば、2021年11月には、同国に物理的な店舗や拠点を持たない事業者の参入に一定の規制をかける、新しい「EC取引法案」が施行される予定だ。

このムーヴメントによって、クロスボーダー的な視点においても、当面の間国際的なビジネス組織の参入が制限されることになるかもしれない。しかし、それは逆に言えばインドネシアの人々が海外と同じような商品やサービスの提供を受けるためにも、地元のマーケットとビジネスの発展を促進させることに繋がるだろう。

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さらに重要なのは、EC市場の統合が進むことには、ユーザーの信頼に足るローカルな決済方法を取り込めるという利点もあり、カスタマーサービスの観点からもより良い流れになるであろうということである。

以上のような理由により、OvoやDanaといったディジタル決済のプロバイダーは、インドネシアの人々により強力なサービスを提供しようと考え、そのソリューションとして合併を検討するのだ。その結果、もちろん巨大サービス同士の競争が発生する。今回のOvoとDanaの合併は、テンセントがバックアップするGojekとAnt FinancialがバックアップするOvo/Danaという、この独特なエコシステムの中における正面衝突であり、その勢力図の複雑さはさらに増すことになるだろう。

ECに慣れた消費者、もしくはその逆で新しくオンラインでの買い物を始めた消費者が、本当にそのサービスや商品にお金を払うかどうかは、そのサービスの顧客サービスによるところが大きい。支払いのしやすさ、や知っていて信頼のおける決済方法があるかという点は特に比重が大きくなるだろう。そして、その決済の種類には、LinkAja、Ovo、GoPayの他にも、Alfamartなどのコンビニチェーンやミニマートでの現金払い、もライバルに含まれると言える。

いずれにせよ、このインドネシアの決済市場への参入には、変化し続ける決済環境に詳しい現地のパートナーの存在と、現地の消費者の信頼獲得が何よりも必要なのである。

画像出典: Eka Sariwati on Unsplash

翻訳元: Why Indonesia is the hottest payments apps battleground in Southeast Asia

記事パートナー
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執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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