インド&中国の対立:インドのTikTok模倣アプリが苦境に立つワケとは?

インドによる中華アプリの規制制作。ここぞとばかりに登場した数々の「模倣」アプリだが、本家の規制にも関わらずその行末は明るいとは言えないかもしれない。
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インド政府のTikTok禁止政策

2020年になり、中国とインドはまたも国境問題を中心に対立を強めている。インド政府はTikTok、Likee、BIGO Liveなど59もの中国製アプリに対して「禁止令」を発表した。その結果TikTokのクローンアプリ、例えばRoposo、Spark、FriendsのようなアプリがGoogle Playストアを中心に乱立し、そこそこの人気を獲得している。しかし、これらのアプリは本家であるTikTokには大きく遅れを取っており、単に初動のダウンロード数がいいだけではあまり意味がないかもしれない。

模倣アプリが一筋縄ではいかない理由

このエンタメアプリ市場は「勝者が全てを手に入れる」とされており、その「勝者」になるためには、ユーザーの囲い込み、デジタルフットプリントの確立、そして何よりもそのアプリに「ハマって」もらうことが何よりも大事なのである。

業界でよく言われる指標だが、TikTokのような短時間動画アプリは約12~15%のユーザー維持率でも好成績とされている。つまり、たかだが数百万ダウンロード程度ではこの厳しい業界で勝ち残ることは非常に難しいのである。ほとんどのユーザーがアプリに完全に慣れ親しむまで、数百万ダウンロードという数字自体はあまり意味をなさないと言えるだろう。

これらのアプリのグロースに最高の技術力が求められることは大前提だが、それに加えてTikTokのような最強のアプリにするためには「パーソナライゼーション」と「おすすめ機能」の強化が不可欠だろう。そしてそれらを完璧にこなそうとすると、マーケティングから製作で少なくとも何十億ルピーもの投資が必要になることは間違いない。

グロースに必要なもの

TikTokが禁止される以前、インドはTikTokにとって中国国外における最大の市場であった。月間のアクティブユーザー数は2億人を超えていたのである。

この成長ぶりには、インドの有力電話会社Jioによる安価なモバイルアクセスプランの登場が大きく関わっている。インドにおけるTikTokのユーザー層は、その大部分が小さな町の住民によって構成されていた。それらの街でもモバイルアクセスが容易になることは、TikTokの成長を大いに促進させたのだ。そして今、TikTokが禁止されたことで、TikTokを中心に活動していたインフルエンサーなどは窮地に追いやられている。

また、インドで制作された「模倣」アプリは、いずれもバグが多発したり、サーバーに問題があったりで、完璧とは程遠い代物であった。多くのアプリでクラッシュが起きたり、当たり前のようにログインができなかったり、セキュリティ面でも不安があったりと、ネガティブな要素が数多く報告されている。アプリというのは、単に制作して配信するだけなら簡単だが、それを「ブランド」として普遍のものにするためには、並々ならぬ努力と工夫が必要になるのである。

新たな刺客「Instagram」

さて、面白いことに、この騒ぎに乗じてあのFacebookはInstagram Reelsをひっそりとインド国内で試験している。このReelはTikTokと同じように、ユーザーがカメラのエフェクトや編集、音楽を使って15秒の動画を作るというものであり、もちろん共有も簡単だ。便利なタイマー機能や速度調整などのオプションが充実しており、共有方法としてもストーリーや特定の友達に送信、またホーム画面に掲載することもできるなどその選択肢は広い。

Instagram Reelはすでにブラジル、フランス、ドイツなどでは正式に公開され、Facebookの国際的な価値を高める役割を果たしていた。Mitron、Chingari、Roposo、そしてBolo IndyaなどのアプリはTikTokをまさしく模倣していると言えるが、Instagram Reelはアプリ内での詳細な編集や保存機能、追加方法の選択性の高さなどをデフォルトで有している点において、他のアプリに対して優位性を持っている。

また、同国における多くのTikToker(TikTok上のスター達)はコンテンツの共有やファンとの交流用にInstagramのアカウントを持っている。Reelの機能は新しいアプリのダウンロードやプラットフォームへの登録が不要なので、その点においても利便性は高い。実際、世界的にもトップレベルのアプリ市場を持つインドにおいて、Statista.comの調査によるとすでに8800万人以上のユーザーを獲得しているInstagramが、ユーザー満足度と定着度をさらに強固なものにしようとしているという事実は間違いないだろう。

ショートビデオ市場の明暗

また、この先ショートビデオのプラットフォーム市場は低品質なアプリとそうでないものが差別化されるようになるだろう。このままいけば3~6ヶ月の間に、10個、もしくは最大100個もの「TikTokクローン」(=類似アプリ)が生まれるかもしれない。

例えばShare ChatyやDaily Huntなどの新しいアプリがすでに誕生している他、Gaanaもそのサービス内にTikTokのような機能を搭載しはじめている。もしかしたらショートビデオはSnapchatやInstagramの「ストーリー」のように、各アプリの「一機能」としての役割が大きくなるのかもしれない。

しかし、本当の意味で、市場における「次のTikTok」になるためには、一流のエンジニアリングチームと、マーケティング、質の高いユーザー、そして現在の模倣アプリにはない工夫と強力なパーソナライズシステムが必要になってくるだろう。

翻訳元:Why Indian TikTok clones are likely to fail

記事パートナー
インドのスタートアップエコシステムを支えるコミュニティプラットフォーム
執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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