COVID-19の中でゲーム業界がファッション業界に教えてくれること

ファッション産業とゲーム産業という対極に位置する2つの業界の共通点を深く掘り下げ、パンデミックを介して、前者が後者から何を学ぶことができるのか見ていく。
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Fashion Unitedによると、ファッション産業は過去10年間で市場価値が4,060億ドルと絶大な成功を収めていた。

しかし、COVID-19の幕開きとともに状況は一変し、世界の小売業界はすぐにその影響で最も厳しい状況に陥った業界の一つとなった。McKinseyは、店舗の閉鎖期間にもよるが、アパレルやファッション企業の75%が近い将来、負債レベルの経営管理危機に直面する可能性があると明言している。

一方、世界のビデオゲーム業界は、ソーシャルディスタンスを保つことが「新しい規範」になりつつある世の中、繁栄している業界の一つだ。ゲームは現在、家庭で社会的な交流を求めている人々に、魅力的な気晴らしの時間を提供している。アジアのゲーム巨人である任天堂とテンセントの両方が第一四半期中に売上高の増加を確認している。

前者はゲーム製品のほぼ半分をデジタルで販売し、41%の利益増加を記録し、テンセントのオンラインゲームの収益は対前年同期比で31%増加した。GamesIndustry.bizの分析によると、50の主要市場での売上高は63%増加したという。

ファッション業界とゲーム業界を比較すると、両者は対極に位置している。

両者の共通点を深く掘り下げ、前者は後者から何を学ぶことができるのか、パンデミックを乗り切り、かつての栄光を取り戻すためにはどうすればいいのかを考えてみたい。

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製品にテクノロジーを取り入れるということ

COVID-19により、消費者や企業が加速的にオンラインの世界に引き込まれるデジタル化の時代に突入した。世界中で実店舗が閉店していく中、企業はデジタルイネーブルメントを通じた生き残りを図るため、オンラインでのプレゼンスを強化しようとしている。

教訓1:企業は、最先端のテクノロジーを可能性のあるリスクではなく、売上、収益、競争上の優位性実現の助けと捉えるべきである。デジタルトランスフォーメーションの進展により、新たなビジネスモデルや収益源を模索することが可能になる。

ケルンで開催されるヨーロッパ最大のゲーム見本市「Gamescom」では、これまでにないスピードでのイノベーションを目の当たりにすることができる。最新の技術トレンドや流行、ゲームなどが紹介され、消費者の五感に訴えかけてくる。また、APIや相互接続されたソフトウェアシステムなどの技術的なインターフェースは、製品開発やマーケティング、リアルタイムでのパーソナライゼーションの運用スピードを高めるための必須条件と言える。

パーソナライズ化された体験、よりインタラクティブなエンゲージメント、あらゆる形での利便性は、ゲーム業界における消費者の大きな期待として定着している。実際これらの期待は、ファッション業界を含む他の業界にもゆっくりと波及している。

多くの大規模小売企業は、ビジネスモデルのデジタルトランスフォーメーションを順調に進めてきた。しかし、それだけでは十分でない。多くの企業は、Eコマースの売上高が昨年の同時期と比べてまだ横ばいだと報告している。消費者から直接購入する特殊アパレル企業のように、オンラインでの普及率が高い小売企業でさえ、消費者が個人消費を控える中では、課題に直面しているのだ。

小売業のデジタルトランスフォーメーションへのシフトを認識し、デジタル戦略を推進するためのイニシアチブを取る企業は、今後より強い企業となるだろう。

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いくつかの注目すべき事例として、LazadaBenefit CosmeticsBazarが、オンラインショッピングの際に消費者にパーソナライズ化された体験を提供するために、拡張現実(AR)と3D技術を採用していることが挙げられる。

マーケティング戦略の再検討

もはや自社ブランドの差別化ポイントをマーケティングするだけでは十分と言えないのが現実だ。製品の品質だけでなく、サービス、配送、全体的な利便性をマーケティングするのは依然として重要だが、マーケティング戦略は、変化する状況に適応するために機敏でなければならない。パンデミックが顕著な例だ。

同じ日配達、カーブサイド・ピックアップ、オンラインで買うか、店頭でピックアップするかという選択肢の用意はテーブルステークスになり、これらを提示することで生まれる競争上の優位性がより重要になってくる。

教訓2: マーケティング戦略は消費者およびステークホルダーのための価値を創造する必要がある。組織は、ゲームプレイを微調整するために消費者の変化する行動を理解するとともに、これらの戦略が自分たち自身の価値の獲得に繋がることも確認し続けなければならない。

ゲーム業界は、超ハイエンドのゲームが引き続き人気を博しているようだが、Arcade(Apple)やGame Pass(Microsoft)のようなサービスの出現により、高度で高価なソフトウェア無しに、ゲーマーにビデオゲームの大規模なライブラリを提供できることが分かり、このトレンドも打破されようとしている。

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これに影響を受け、開発者が消費者に先行購入を強要することなく収益を上げられる、フリー・トゥ・プレイモデルが開発された。代わりに、アップグレードや拡張パックなどのゲーム内での課金機会が存在する。

不況期には安価なエンターテインメントが繁栄する傾向にあることは既に証明されており、こうした低価格ながら価値の高いサービスは、ゲーム業界が拡大するための重要な手段となっている。

ファッション業界は、マーケティング活動を強化するための投資を加速させなければならない。消費者のオンライン化が進む中、企業はデジタルマーケティング戦略の強化を検討し、Eコマースの存在感を強めつつも、営業再開時には実店舗に足を運ぶように顧客を誘導すべきである。

オンライン・マーケットプレイス・プロバイダーやホールセール・パートナーとのパートナーシップを模索することも選択肢の一つである。最近の例としては、WalmartとThredUpとの提携がある。前者は、再販サイトを通じて約75万点の中古衣料品を提供している。中古衣料品を持ち込むことで店舗へのトラフィックが促進され、既存の小売業者はThredUpに新規顧客を流入できるため、両者にとってメリットのある提携と言える。

同様に、Shopifyと提携する小売業者も増えている。Walmartは近年、消費者の嗜好の変化に合わせて、より多くの新興ブランドや専門ブランドを棚に並べる戦略を展開している。Shopifyとの提携により、Walmart.comの月間訪問者数は1億2,000万人を超え、小規模なニッチビジネスの認知度が向上し、加盟店と消費者の双方にとってより良い体験を提供できるようになっている。

妥協してでも課題を乗り越えるということ

COVID-19によって、あらゆる産業が供給面でのネガティブな影響を受けることで、ビジネスにおけるサプライチェーンの弱点が露呈された。ビジネスが効果的にサプライチェーンのボトルネックとなっている国や企業から離れていくやり方によって、その回復のスピードと持続可能性が決まる。

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教訓3:企業は、重要なビジネスプロセスに関して、外部関係者一人に依存してはならない。サプライチェーンを多様化するために、短期的に見た際の妥協やイノベーティブな行動を躊躇すべきでない。

ゲーム業界全般にとって、パンデミックの影響で世界中の工場がサプライチェーンの混乱に直面しているため、ゲームハードウェアの生産に遅れが生じている。パンデミックに関連した遅延は、Amazon、Sony傘下のスタジオ、そしてスクウェア・エニックスのゲーム開発者によってすでに発表されている。また、遠隔地で働く従業員が増えることで、効率性の低下も起こるだろう。

任天堂は、リモートワークの長期化は自社のプロセスに多大な影響を与えると警告を発しておりニューヨーク・タイムズ紙は、Sony、Amazon、スクウェア・エニックスと同程度の規模で開発者が困難に直面していると報じた。一部の開発者は、妥協無しにとは言えないものの、適応する方法を見つけている。『ボーダーランズ』シリーズを制作している Gearbox Software は、特定のプロジェクト(その中には未発表のものもある)の優先順位を下げることで、すでに約束していた納期の遅れを回避している。

このように、従来の小売業者は、Eコマースやデジタルネイティブプレイヤーが設定した新しい基準に合わせて、スマートサプライネットワークを再考する必要がある。サプライチェーンの評価として、在庫を再査定し、カテゴリーごとに在庫を細分化するという従来の方法は、もはや通用しないだろう。今、古きから一歩踏み出す新しい発想と勇気が求められている。

ファッション企業はオンショアやニアショアを視野に入れ、低コストのサプライチェーンよりも柔軟性のあるサプライチェーンに焦点が移ってきている。Deloitteは、小売業者がサプライチェーンの課題に取り組む際に考慮すべき主要なデジタル小売のトレンドとして、次の4つを取り上げた:都市部のフルフィルメント、在庫戦略、柔軟なネットワークとデータ、そしてテクノロジーの導入という4つである。

ポストコロナの時代に備えて

パンデミックは、先を見越した発想の重要性を浮き彫りにした。リーダーは、将来に向けてエコシステムを再構築する際には、疫学や販売データの枠を超えたところに目を向けるべきである。

不測の事態や競合他社につぶされないよう、より顧客中心の体制を築くことに焦点を当てるべきだ。

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教訓4: 決して安住すべきでない。消費者の体験を常に省み、そこからロードマップを構築することが重要だ。

好景気が謳歌される一方で、ゲーム業界のリーダーたちは将来を冷静に見極めている。彼らは、モバイルやクラウドベースのプラットフォームを介したゲーム配信へのシフトが加速していることを認識しており、この配信モデルに可能性を見出している。

Googleは最近、クラウドゲーミングサービス「Stadia」の登録料130米ドルを撤廃したが、これは消費者が納得して長期的な利用を試みるだけの価値を提供するためだ。 メジャーリーグベースボール、NBA、NFL、FIFA、F1、NASCARのライセンスビデオゲームがFox、Fox Sports、NBC、ESPN、ESPN2のプライムスロットで様々な形で放送されることで、ここ数ヶ月のビデオゲームの台頭は、eスポーツにも活気を与えている。eスポーツはさらに、スポンサーからのより充実した投資を求めることで、その収益構造をサステイナブルなものにしている。

BMWは、米国、英国、ドイツ、韓国、中国の4つのeスポーツ団体のスポンサー契約を発表している。アイウェア企業のZenniもまた、今回の契約に新たに2つのeスポーツ団体を追加し、その足場を拡大している。

消費者の買い物行動が恒常的に変化し、オンラインでの取引やカテゴリーが増加していることから、最近のMcKinseyの調査では、小売業者は、これまであまり浸透していなかったカテゴリー(ランジェリーなど)や消費者セグメント(ベビーブーマーなど)において、Eコマースがより広く採用される可能性があると強調している。

ファッション業界はこの機会を利用して、オンラインチャネルにより大きなシェアを割くという意味で、チャネルミックスのターゲットと投資配分を見直すべきだ。そうすることで、ブランドエクイティを保護しながら、これらのチャネルを通じた勢いのある成長に繋げることができるだろう。

オーガニックや天然素材よりも品質を重視する消費者が増えているため、小売業者はこのような消費者層に目を向けることで、それが自社のブランドや戦略にとって何を意味するのかを見極められる。

結論として、今回の危機から得た最大の教訓は、顧客に焦点を当てるということだ。顧客はすべてのビジネスの成功の基盤である。顧客を理解することで、製品やサービスが顧客の満足度を高め、長期的な目標であるリピーターを増やすことにも繋がる。

もしも企業が顧客のニーズを満たすために、コンスタントな開発や技術革新を行わなければ、多くの顧客が離れていってしまうだろう。例えば、PUBGは半年以内に50%のプレイヤー(顧客)を失っている。その理由は、プレイヤーへのフォーカス不足、ゲーム内の修正されないバグ、プレイヤーとのコミュニケーション不足などが挙げられる。

相互依存的な世界でますますデジタル化が加速する今日、企業が確かに事業を継続するためには、その成功の計画段階で消費者中心のアプローチを行う必要がある。

顧客体験を優先しない企業は、ウイルスそのものよりも、企業の存続を脅かす深刻な風評被害を受けることになるだろう。

翻訳元:What gaming industry can teach the fashion industry amidst COVID-19

記事パートナー
アジア各国のスタートアップシーンを世界に発信するオンラインメディア
執筆者
武田彩花 / Ayaka Takeda
Contents Writer
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