2022年6月16日・17日に「TNW Conference」がオランダの首都アムステルダムで行われ、SUNRYSEは現地にて参加予定である。今回は「TNW Conference」に関する基本的な情報や見どころについて解説する。
(出典:https://thenextweb.com/conference)
「TNW Conference」は、欧州の最新テクノロジーやスタートアップに焦点を当てたWebメディア「TheNextWeb」が主催するスタートアップカンファレンスであり、欧州を中心に120カ国以上の企業を集める欧州最大級のカンファレンスである。
「TNW Conference」は、2006年から運営されていて、AI / ML・暗号通貨からサステナビリティやビジネスの成長に至るまで、あらゆるテーマをカバーし、欧州を代表するテクノロジーフェスティバルとしての地位を固めている。
2006年には300人程の規模であったが、今年の「TNW Conference」には、120カ国から25,000人以上の参加者、6000以上の企業、1500以上のスタートアップが参加する予定である。
登壇者は、Google、IBM、Paypalなどの世界最大級のテクノロジー企業のCEO、CTOなど世界中の150人を超えるテクノロジーの専門家が予定されている。「TNW Conference」はユニークなフェスティバルの雰囲気でも知られていて、2,000平方メートルの会場には、さまざまな展示スペース、複数のステージ、ネットワーキングラウンジ、そして観覧車までもが用意されている。さらに、現地では参加者同士がつながることができる専用アプリも提供される。
今年のイベントでは、持続可能なエネルギー源を活用する取り組みが行われ、肉を使わないメニューの提供や、ゴミを可能な限り削減、再利用、リサイクルする段取りになっている。展示の観覧やトークセッションの合間に、会場内を散策してみても、新しい発見や将来の仲間との出会いがあるかもしれない。
今年の「TNW Conference」は、以下の8つのメインテーマを掲げている。
「Boost」では、企業がグローバル市場で戦うために必要なデジタルマーケティングを解説する。本セッションは、顧客体験を改善することをテーマとしたプログラムとなっている。Oatly社CCOのJohn Schoolcraft氏、DJでプロデューサーのTobias Topic氏らが登壇し、最新のグロース・マーケティングが実践の中でどう機能していくか、手法や具体例を交えて考察していく。事業推進担当者やマーケター、経営企画に携わる人にとって見逃せない内容となっている。
「Growth Quarters」では、経営者やファウンダーの成長戦略を資金調達の側面から解き明かしていく。過去のセッション内容としては、スタートアップ企業の成長戦略の基礎知識や、大企業が主体となっている市場でスタートアップが挑戦する意義などの議論が行われてきた。今年のセッションでは、成長戦略としての資金調達の位置付け、スタートアップ企業が最大の利益を実現するための体制構築、企業としてビジョンの実現と利益の追求を両立する意思決定といったトピックを扱う。「Solve for Happy」の著者で元Google X社CBOのMo Gawdat氏、Trinny London社CEOのTrinny Woodall氏らといった世界を代表するリーダーが登壇する。経営者や投資家、事業責任者などの方は必見の内容となっている。
「Futureproof」では、社会やビジネスの場で活用される新技術によって社会がどう変化するか推考し、個人、企業、産業、社会がより変化に強くなるための技術活用方法を紐解いていく。最先端の技術によるコンテンツ制作と消費活動の変化や、それらと共に持続的なイノベーションを繰り出せる組織体制構築手法を検討する。具体的には、IT/イノベーション人材の獲得や育成、人間中心設計をベースにしたAIの活用、メタバース環境下における人々の透明性や信頼性の確立などの最新トレンドに沿ったトピックを展開する。注目の登壇者には、Mind Foundry社CEOのBrian Mullins氏、Seldon社エンジニアディレクターのAlejandro Saucedo氏、Feelmore Labs社のFrancois Kress氏、Wellness Coach社CEOのD Sharma氏らがいる。研究開発や事業推進、人事育成の担当者には非常に啓蒙的な内容となっている。
「Impact」では、サステナビリティ、ダイバーシティ、インクルーシブエコノミーといった社会的な課題に対して、テクノロジーがどのように解決していくのか議論を行う。実際にこれらのテーマに取り組んでいる経営者や技術者から、直接現場のイマを捉えたインサイトを得られるセッションとなっている。さらに、投資家がESG目標を達成するために、どのようなデータを評価するべきかといった指標のガイダンスも実施される。主な登壇者として、The Ocean Cleanup社CEOのBoyan Slat氏といった社会企業家らが集う。経営者や投資家、技術者などの担当者は必見である。
「Neural」のセッションでは、AI/MLが未来のビジネスや社会をどのように変化させるかが主題となる。過去に開催されたカンファレンスでは、量子コンピューティング、ディープフェイク、人類の行く先といった具体的かつ抽象的な議論が交わされた。今年のセッションでは、メインテーマとしてAI/MLの導入がビジネス推進に与える影響について取り上げ、機械学習のプラス面とマイナス面、個人クリエーター市場の未来、フェイクニュースやプロパガンダに対する企業や政府、個人としての対応手段といった内容を掘り下げていく。また、IBM社Chief AI OfficerのSeth Dobrin氏を筆頭に、Google社などの大企業から、ロボティクス専門の技術者、CTO、AI最高責任者らが登壇する。最新の技術に感度の高い方や、グローバルの視点を重要視する方にとっては非常に有益な内容となっている。
「Shift」のセッションでは、2050年の二酸化炭素排出量ゼロ目標を達成するために企業レベルで何ができるのかを考察するために、交通のありかたを再定義し、マルチモーダルモビリティの目的を改めて見直す。具体的な内容としては、次世代モビリティインフラの最新動向を取り上げ、交通面のデジタル化が各業界に与える影響や、環境に優しいデジタル化社会の実現のためにスマートシティや投資家、スタートアップが果たすべき役割について議論を交わしていく。また新たなテーマとして、横断的に多様な業界からの視点で、循環型経済の中で企業が直面するブランディングと顧客体験の保守の両立といった課題を取り上げる。本セッションには、PVH社Head of GrowthのPatrick Layer氏、Hardt Hyperloop社Co-FounderのMars Geuze氏ら一流の都市デザイナーやグリーンモビリティの専門家たちが登壇する。交通業界だけでなく、横断的な業界の企業にとって耳を傾けるに充分な議論となっている。
「Sprint」では、一流のデザイナーやマーケターが、最新のマーケティング戦略動向やリッチな顧客体験を実現する手法を解説する。具体的には、企業内に永続的なイノベーション文化を構築する生む方法や、開発促進の為のサービス設計、デザインが主導するイノベーションといったトピックを扱う。さらに本セッションは「ノイズを打ち破り、人々に愛される製品を生み出す」というテーマの下、アイデアからデザイン、コンセプト設計やUXまで、製品設計と開発における重要なファクターに沿って生じうる課題を深掘りする。The Texthelp Group社CEOのMartin McKay氏、Unity社SVP & GMのMarc Whitten氏らが登壇する。マーケターはもちろんのこと、製品開発者や経営意思決定に携わる方は見逃せない内容となっている。
「Tech & Money」では、これからのFintechの発展が、決済方法や通貨、金融市場、さらには経済に対してどのような破壊と変化をもたらすかについて検討する。具体的には、デジタルバンキング、フィンテックなどのトレンドの解説を踏まえ、ソーシャルメディアと資本主義の関係、Web3がクリエイターエコノミーに与える影響、デジタル資産の未来といった疑問の尽きないトピックの本質に迫る。本セッションには、Deutsche Bank API Program共同創業者兼Co-LeadのJoris Hensen氏、英司法省デジタル社会学者のLisa Talia Moretti氏らが登壇する。経済活動の羅針盤として、非常に興味深い内容となっている。
(テーマロゴ出典:https://thenextweb.com/conference/themes)
Tim Berners-Lee (Inrupt, CTO, Co-Founder)
TIME誌の「20世紀の最も重要な100人」の一人に選ばれ、1989年にCERNに在籍中にWebを発明した。Webの技術開発のための国際標準化フォーラムであるWorld Wide Web Consortium(W3C)と、World Wide Webが人類に貢献することを使命とするWeb Foundationの創設者であり、ディレクターを務めている。また、ロンドンにオープンデータ・インスティテュートを共同設立し、その代表を務める。Tim氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・AI研究所(「CSAIL」)の教授であり、彼の研究グループはウェブの”再”非中央集権化に取り組んでいる。2017年4月、Tim氏は「コンピューティングのノーベル賞」と言われるチューリング賞を受賞した。
Seth Dobrin (IBM, Global Chief AI Officer)
Seth Dobrin博士は、IBMのGlobal Chief AI Officerであり、企業のAI戦略をリードしている。Seth博士は、ビジネスの中核業務の変革を可能にするデザイン主導の戦略によって、AI開発をビジネス価値の体系的な創造につなげる役割を担っており、彼は、AIベースのビジネス成果を全社的に継続的かつ責任を持って提供することを保証するために、自身が作成した新しい方法論を通じてAIに人間中心のアプローチを採用し、ビジネスオペレーションから製品開発まで、会社のあらゆる領域を根本的に変えようとしている。2021年、Seth博士は「The AI Summit London」においてThe AIconics Solution Provider Innovator of the Yearとして認定された。
Renee Niemi (Products That Count, CPO)
Renee Niemi氏は、そのキャリアのほとんどを、消費者の生活に変化をもたらすようなインパクトのある製品やビジネスの創造に費やしてきた。現在、On Technologiesの取締役、Countableのオブザーバー、サンタクララ大学工学部長の諮問委員会の委員長を務める。また、コロンビア大学ビジネススクールの非常勤講師も務めている。さらに、Logitech社、Google社、Poly社において、製品責任者や経営幹部として数多くの役職を歴任。サンタクララ大学で電気工学の理学士号を取得している。
Alisa Cohn (Author, From Start-Up to Grown-Up)
Alisa Cohn氏は、Venmo、DraftKings、Etsyなどのトップ・スタートアップ企業のエグゼクティブ・コーチを務める。著書に「From Start-up to Grown-Up」がある。Thinkers50/Marshall Goldsmith Global Coaches Awardsで世界のトップスタートアップコーチに、2021年にはスタートアップのグローバルグルに選ばれる。Harvard Business Review、Forbes、Incに定期的に寄稿し、彼女の洞察はBBC World News、New York Times、WSJで紹介されている。
Faryar Shirzad (Coinbase, CPO)
Faryar Shirzad氏は、Coinbaseの最高政策責任者で、世界中の政策立案者との関わりをリードしている。Shirzad氏のリーダーシップの下、Coinbaseはグローバルな暗号規制の議論を推進する存在だ。Coinbaseに入社する前、Shirzadはゴールドマン・サックスで政府関連業務のグローバル共同責任者を務めており、また、ジョージ・W・ブッシュ大統領の国際経済問題担当の国家安全保障副顧問など、米国政府の最高レベルの顧問を務めた経験も持つ。
(登壇者出典:https://thenextweb.com/conference/speakers)
(出典:https://thenextweb.com/conference/pitch-battles)
「TNW Conference」では、多くのカンファレンスイベントと同じように、予選を勝ち抜いたスタートアップによるピッチコンペティションが行われる。2022年の「TNW Conference」のピッチコンペティション「Startup Pitch Battles」は、6月1日に予選通過企業が決定し、同月8日に最終ピッチの参加企業が決定する。また、本ピッチコンペティションは、「Bootstrap」と「Scale」という2部門に分けて行われる。「Bootstrap」では従業員15人以下のアーリーステージのスタートアップが、「Scale」には従業員100人以下のレイトステージのスタートアップが対象となり、それぞれ同月16日、17日に開催される。「Scale」で優勝したスタートアップには、The Walk the Talk Awardが授与され、賞金として50,000ドルが贈呈される。
また、ピッチコンペティションを通してスタートアップコミュニティを育成するという目的で、学生や新卒で設立されたスタートアップ6社〜8社によるピッチコンペティション「P!TCH XL by ASIF Ventures」も開催される。2022年の本ピッチコンペティションは6月15日現地時間の18時〜22時にASIF Venturesが主催となって執り行われ、「Startup Pitch Battles」と同じく優勝者には賞金が用意される。
本記事では、「TNW Conference」の概要、2022年の開催テーマについて紹介した。 次世代のテクノロジーやスタートアップ動向などのテーマに加えて、サステナビリティが重要なトピックとなっている。またEUは「2050年までにカーボンニュートラルを目指すためには全スタートアップ・全業界が取り組まないといけない」と主張しており、同カンファレンスでもサステナブルなイベント運営のための工夫が随所に見られる。
カンファレンス前日のサイドイベントから、カンファレンス当日のコンテンツまで引き続き現地レポートをお届けする。
表題画像:Photo by on Unsplash (改変して使用)