Tiktokの将来:トランプ大統領の中国アプリ規制が意味するものとは
トランプ大統領はHuaweiに続いて、tiktokのBytedanceとWechatのテンセントに対しても取引停止の大統領命令を発表した。Microsoftなどの米国企業も巻き込んだ、中国アプリの規制は、今後中華企業の海外進出にどのような影響を与えるのだろうか。
Nov 22 2020 IN Translation
East Asia North America マーケティング 通信 スタートアップエコシステム

2020年夏、米国のドナルド・トランプ大統領は、中国企業によるアプリの中でも特に大きな成功をおさめている2つについて、国家的な「攻撃」を仕掛けた。数ヶ月間にわたって中国製アプリのもたらす国家安全保障上のロス国ついて主張してきたトランプ大統領は、8月にはTiktokとWechatのオーナー企業との取引を9月以降禁止するという行政処分に署名した。この出来事によって世界各国で本格化しつつある「アプリ禁止ゲーム」にアメリカも同調した形となった。

我々Technodeは、この出来事が実際にどんな影響をもたらすのか、その意味はどこにあるのか、という点について様々な解釈を行ってきた。

結論から述べると、この2つのアプリはオーナー企業が変わらないかぎり、アメリカでは利用が禁止されることとなった。BytedanceはMicrosoftTwitterのような企業と買収交渉を行っていると報道されているが、ことWechatに関しては、この世界的に見ても計り知れないほど大きな価値を持っているチャットアプリをオーナーであるテンセントが手放すとは考えられないだろう。

また、今回の禁止の度合いについては不透明な点が多い。すでにアプリをダウンロードしているユーザーも使用が禁止されるのか、またこの禁止令が国境を超えて影響を及ぼすのか、いずれも明らかになっていない。しかし、米国がいわゆる「クリーンネットワーク政策」を推し進めているように、多くの具体的な禁止事項が今後追加される可能性があると言えるだろう。

行政命令の意味するものと今後の影響

以下今後考えられる影響である。

大統領命令であることの意味

この命令は米国の管轄下においてBytedanceやWechat(テンセント)との「あらゆる取引」を禁止するものである。禁止令が発行されると商務長官は取引が存在していないかどうかの調査を始めるだろう。

何が禁止されているのか?

専門家はこの命令について「信じられないほど広範囲で曖昧」であるとしており、実際に実行されるまでその「取引」の概要は明確にならないであろうとしている。しかし、弁護士は命令の背後にある関連法や過去の事例に基づいた推測であれば、ある程度は可能であるとTechNodeに語っている。

  • 重要政策の先例としては、1977年の国際緊急経済大国法(IEEPA)と2019年の国家緊急事態宣言である。

  • カリフォルニアの弁護士によれば、中国のHuaweiをターゲットにしていると考えられている2020年5月の行政命令は、その取引の定義を「あらゆる情報技術やサービスの取得、輸入、譲渡、設置、使用」としているとのことである。またこれは例えばWechatで適用されると事実上の全面禁止にあたるという。

  • ロイター通信によれば、Tiktokをアプリストアに置いたり、広告の設置・購入、またユーザーとして利用規約を受け入れるなどの行為もホワイトハウスが「取引」として捉えていると伝えている。

  • シンガポール大学ビジネススクールのAlex Capri氏は「企業は45日以内に関連企業との取引を行う場合、ライセンスが必要となるが、おそらく許可されることはないであろう」と述べている。

好転の場合

法律事務所Pillar LegalのGreg Pilarowski氏はTechNodeに対して、前述のIEEPAに関連して、大統領が金融取引をブロックすることを制限する可能性があると述べた。

最もあり得る可能性

ホワイトハウスは、米国内でのアプリの全面禁止を目指しているとGreg Pilarowski氏は述べている。おそらく政府はAppleとGoogleのような企業に対してアプリストアからの強制削除を要請するであろうとのことだ。

国外での影響

アプリストアが削除を要請された場合、ユーザーは使用までブロックされるのであろうか?しかし、米国はおそらく中国が多くの外国製アプリをブロックするのと同じ方法ではアプリをブロックできない。アプリの使用自体をブロックできるのはアプリ自身だけである。

  • Tiktokはすでに香港、中国、インドのユーザーをSIMカードの国籍とIPアドレスに基づいてブロックしており、これはVPNだけではユーザーがアプリにアクセスできないことを意味している。

  • Wechatもインドのアプリ禁止に対応して、インド全土のユーザーを自主的にブロックしている。

最悪の場合

米国は、Huaweiに対する取引禁止のように、国境を超えてこれらのアプリを制限させようと考えている。このシナリオにおいては、スターバックスが中国でWechat Payを受け入れられ無くなったり、Google Playが米国以外の国でも該当アプリを削除したりするなどの可能性が考えられる。

  • 専門家によれば、これらの可能性は米国の自国企業にも悪影響を及ぼすため実際の可能性は低いと考えられている。

  • Greg Pilarowski氏によれば米国のリテール企業がWechatの受け入れ自体を禁止する可能性は非常に低いとのことだ。また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は米国の大手リテール企業がこのような禁止に反対するロビー活動を展開しているとも報道している。

  • もし世界中でアプリを強制的に「デリスト」する必要がでた場合、Appleなどは中国市場においてもはやこれ以上の発展を望むことはできないであろう。Appleは中国でも人気のブランドであるが、Wechatはそれ以上に重要なサービスであるのだ。アナリストによれば、このことを考慮すれば世界中でのアプリストアからの強制削除は非常に可能性が低いという。

  • Googleに関していえば、すでにGoogle Playが国内における自主的なブロックを行っていることから、今回の件においてはまだ影響は少ない方であると見られている。

TiktokとTencentが取り得る選択肢は?

  1. 売却BytedanceはTiktokを売却するためにアメリカの複数企業と交渉中である。これによって、同社は最悪の損失からは救われる可能性があるが、必ずしも良い取引とは言えない。特にテンセントに関してはWechatの売却を本気で考えている気配はなく、このまま行けば同社は毎日1900万人を超えるアクティブユーザーと米国市場での活躍を手放すだけになるかもしれない。Bytedanceは9月までにアメリカの企業と契約を結ぶ可能性があるが、Microsoftが約100億から300億ドルほどのコストで交渉を行っているとの報道もなされた。

  2. 訴訟Bytedanceはまた、法廷で今回の行政命令に意義を唱えることも考えている。今回は同社に対して猶予がなかったため、命令自体が違憲であるとの主張だ。テンセントはまだ法的措置をとっていないが、一部のグループからはWechat側も憲法と行政手続法違反であるとの主張で訴訟を起こすとの見方もでている。

しかし、裁判所の動きは遅い。11月の大統領選までに結果がでる可能性はゼロに近く、たとえ企業側が勝利したとしても、それまでに禁止令自体は効力を持ってしまうだろう。これに関してGreg Pilarowski氏は「大統領に実行の権利があるかないかは関係ない。この政権がこれまでの政権以上に中国へ厳しく接していることを示すデータポイントと捉えるべきである。」と述べている。

BytedanceにとってはTiktokを失うことよりも重大な意味が隠されている

  • Tiktokの地域事業を一部でも切り離す場合、同じソーシャルメディアアプリに対して2つのバージョンを作成することとなる。例えばMicrosoftが買収した場合、アメリカのユーザーが日本やイギリスの動画を見たいと思っても、それはMicrosoftがBytedanceから承認を得て初めて連携が可能になる。そしてこのことはトランプ大統領の行政命令に違反する可能性が高いという。

  • Bytedanceにとっては、Tiktokの米国サービスを切り離したとしてもヨーロッパ、日本、東南アジアにおいてはまだサービスを所有している状態が続く。インドはTiktokを禁止したばかりで、BytedanceはインドのRelianceと国内独自のアプリ運営を継続するための協議を行っているとTechCrunchは報じた

  • Bytedanceはさらに、中国独自のサービスであるDouyinも運営している。これは1日のアクティブユーザーが4億人を超える巨大サービスだ。

  • Tiktokの解散は、今年はじめに1400億ドルを記録したBytedanceの評価額にも影響を与えるだろう。同社の株価はもはやどうしようもない「国家レベルの途方もない圧力」に左右されているのだ。

一方で、テンセントは米国市場に関して非常に軽視しているとの見方もある

同社は夏の決算報告にて、同社のグローバルビジネスにおける米国市場の重要性を軽視するような報告を行っている。

  • テンセントの最高戦略責任者であるJames Mitchell氏は「米国は当社の売上の2%を占めているに過ぎない。」と述べている。

  • また同氏によれば、今回の命令は米国の管轄地域にのみ影響を与えるため、中国市場に販売を行う米国企業は中国国内でテンセントのプラットフォームを引き続き利用でき、広告禁止などの影響はさらに低くなるという。

  • 同社によれば、第二四半期の営業利益は前年比で38%増の376.3億人民元となった。

  • 経済界の専門家によればテンセントの主張は概ね正しいという。深センに拠点をおく国仙証券はテンセントの株式に対して買いの評価を維持している。米国市場からの撤退の可能性も高い状況においても、同社全体の収益とサービスの質にはほどんど影響を与えないであろうとの見方が強いのだ。

  • 一方で同社の株式は命令の発表を受けて8.2%ほど下落した。

「シリコンカーテン」の形成か?

今回の行政命令はMike Pompeo米国国務長官が新たな技術戦争を助長するような発言を行った直後に発表された。彼は前日に「クリーンネットワーク政策」のもとで米国のネットワーク環境から中国の技術を完全排除するという発言を行ったのだ。

  • ポンペオ国務長官はチャイナモバイルやチャイナテレコム、アリババ、テンセント、百度などのクラウドプロバイダーが、米国市民や企業の膨大なデータの取り扱いに対しての阻止を行っているという。国務省は、機密性の高い個人情報や、COVID-19のワクチン研究などから中国企業を排除することを目標としているようだ。

  • また、トランプ政権のクリーンネットワーク政策の次の標的はクラウドコンピューティングである可能性が大きいという。次の目標はアリババなのかどうか、注目が集まっている。

Bytedanceとテンセントが直面した挫折は習近平国家主席が中国経済の国内依存度を高める政策にも起因している。この戦略は「国内循環」とも呼ばれ、企業が国内消費を優先することを推奨している。多くの中国企業が海外市場でブロックされる中、政府はこの政策の実行を急いでいる。

  • TechNodeの記者であるChris Udemans氏によると、アリババ、百度、テンセントなどの企業投資家はすでに米国からの撤退を始めているとのことだ。

しかし、専門家によると、これで中国のテック企業の世界戦略が終わるというわけではないという。中国企業が国内市場だけに集中すれば良いというのは簡単な話ではないのだ。

  • TechNode創業者のLu Gang氏は「最近は、中国のテック企業が海外市場に進出する際の方針転換が強まっている。米国よりも東南アジア、アフリカ、ヨーロッパへの進出が強まるかもしれない」と述べている。

  • また同氏は、個人データやビジネスデータの収集に関わる企業はより海外での展開に困難を伴う可能性があることを示唆している。米国がTiktokやHUawei、Iflytekなどの企業を標的にしたことはこのことに関係しているというのだ。また、海外市場の人々の感情は、もはや非技術的な面での要素が強いとの見方も示している。

さらに、中国のテック企業が米国で直面している「敵意」にも似たよう状況は、資金調達の方法にも大きな影響を及ぼす可能性があると一部のVCや投資家は述べている。

  • 「短期的には、国際情勢が緊迫していることから、米国などの市場に進出する傾向のあるスタートアップに対して、中国のVCはより懐疑的になるかもしれない」と、北京拠点のVCであるUnity VentureのXu Miaocheng副社長は語った。

  • 米国のドル建てファンドは、強いプレッシャーに晒されており、中国企業にとっては資金調達には向かない時期であることは確かだろう。

スプリンターネットの未来は?

今回の行政命令は、中国のテック企業の海外進出の終焉を意味するものではない。しかし、今後さらなる規制が予想され、中国のファイアウォール政策や米国のクリーンネットワーク政策が加わったことで、私たちの世界はまた一歩「スプリンターネット」の世界へと近づいたと言えるだろう。

参考・関連Understand the law: “POTUS bans Wechat” (Pillar Legal)The view from the boardroom: “Corporate America worries Wechat ban could be bad for business” (Wall Street Journal)Where is this ‘Clean Networks’ stuff going? “The strategic vision behind the Tiktok, Wechat bans” (Lawfare)

翻訳元:https://technode.com/2020/08/17/trumps-app-bans-and-what-they-mean-for-china-tech/

記事パートナー
TechNode
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Author
滝口凜太郎
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