COVID-19のパンデミックをきっかけに、デジタル技術に対する需要がかつてないほど高まっていることは間違いない。また、企業がビジネス活動の情報源としてデータを活用するようになったことで、分析やデータサイエンスのスキルは、世界の労働力市場で引き続き高い需要があると考えられる。
LinkedInによると、シンガポールでは、データサイエンティストの需要が非常に高く、この地域で最も注目されている職種の一つだ。
東南アジアのテクノロジーハブであるシンガポールでは、データ分析は経済の中心であり、少なくとも年間10億SGドル(7億3,000万米ドル)の利益をもたらしているという調査結果もある。一方、地域別のビッグデータおよびビジネスアナリティクスサービスの価値は、2022年までに270億米ドル(370億SGドル)に達すると予測されている。
シンガポールが「スマート・ネーション」への取り組みを加速させ、より多くの企業が回復や将来の成長のためにデータを活用する中で、データの分析結果を正確かつ簡潔に伝える能力は、今後最も価値のあるスキルセットの一つとなるだろう。
今回のパンデミックでは、業界全体でデータ駆動型の戦略の導入が加速された。特に、変化に適応する必要があったのは、小売、ヘルスケア、食品・飲料などのハイタッチ分野である。
また金融業界などでは、長年にわたりデータを活用してビジネス戦略を策定し、新たな課題を解決してきた。
現時点では、データは競争上の優位性と考えられている。将来的には、データはすべてのビジネスの基盤となるだろう。またデータサイエンスとアナリティクスの専門知識はエンジニアリング部門やIT部門だけでなく組織全体で共通のスキルとなるだろう。
そしてこのようなデータサイエンスの能力向上の必要性から、組織はこの分野で最高の人材を確保しようとすることが予想される。
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データサイエンティストが競争力を維持するためには、データ関連のソフトウェアやプログラムを完璧にこなすだけでは不十分だ。そのノウハウを、実用的なインサイトや、ステークホルダーの共感を得られるような説得力のあるストーリーに変換する方法を学ぶべきだ。
将来のデータサイエンティストが成功するためには、これらのスキルが特に重要となる。
データサイエンスは複雑な分野だ。Accentureの調査によると、75%の社員がデータを読んでいるにもかかわらず、"データリテラシーのスキルに自信がある"のは21%に過ぎない。このようなデータリテラシーの格差の拡大は、組織全体でデータスキルに投資する必要性を示している一方で、今日のデータサイエンティストはそのデータの背後にある基本的な事柄を分かり易く伝える方法を学ぶべきだ。
分散、標準偏差、分布などの異なる概念を簡潔に説明できる能力があれば、データサイエンティストは、データがどのように収集されたのか、サンプルからそのデータについて何がわかるのか、データが有効であるかどうかについて、より深い洞察を得ることができる。
このような基礎知識があれば、データの背景にある方法や理由を簡単に説明でき、経営者や他のチームの関係者からの質問にも的確に答えることができる。
優れたデータサイエンティストは、シンプルであることを重視し、必要に応じて複雑さを追求する。データに関する会話でも、同じアプローチを採用すべきだ。
ビジネス上の議論では、技術的な内容に踏み込みすぎず、ビジネスへの影響や潜在的な結果を示すことで、そのデータの価値に焦点を当てるのがベストだ。
物語性のあるストーリーテリングは、より高い情報保持率を可能にすることが示されている。データについてのストーリーを語る能力は、データの技術的な部分をできるだけシンプルに説明する能力と密接に関係している。
スタンフォード大学のChip Heath教授の研究では、講演会での参加者の記憶率を分析した結果、単独の統計値を覚えているのはわずか5%であるのに対し、ストーリーを覚えているのは63%であった。
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優れたデータサイエンティストは、データセットについて必要な文脈を提供し、全体像の中での重要性を説明する優れたストーリーテラーでもある。新しいデータセットやデータプロジェクトの結果を他のチームと共有する際には、聴衆が得られるべき上位3つの事柄を中心にストーリーを作り上げることに注力する。
聴衆の行動を促すためには、プレゼンテーション、電子メール、インタラクティブ・レポート、データ・ビジュアライゼーションなど選択した媒体でこれらのポイントを繰り返し説明するとよい。
データストーリーテリングは異なるステークホルダー間のコミュニケーション障壁を取り除くだけでなく、新しい情報を簡単に消化し、行動に移すことを促す。
ビジュアルメディアは、データコミュニケーションをさらに向上させる素晴らしい方法だ。しかしそれらはしばしば過小評価されている。例えば、シンガポールでは、COVID-19のパンデミックに関するデータセットが、さまざまな種類のグラフやチャートを用いて可視化されている。
シンガポールのCOVID-19追跡ダッシュボードから世界のパンデミック関連グラフ集まで、データの可視化は、データを正確に伝えるための効果的な方法であることが証明されている。
最高のビジュアルコンポーネントは、大量のデータを説明し、文脈に沿って表示することで、見る人(特に技術者ではないステークホルダー)が情報を素早く理解し、生のデータの中に埋もれていた重要なポイントを簡単に見つけられることだ。
明日の最高のデータサイエンティストは、生涯学習を信条とする人たちだ。それは、日々の生活の中で学習方法を見つけたり、データ技術やトレンドに関する最新の文献を読んだり、さらには新しいソフトウェアプログラムを試してみたりすることだ。
それは組織の中で自分の価値をアピールする新たなチャンスをもたらすだけでなく、役立つ視点を提供することにもなる。つまり、自分がどのように情報にアプローチしているかを知ることで、他人とインサイトを共有する方法を改善することができる。
これらのスキルに共通しているのは、データを組織の言語として理解し、行動に移せるようにすることだ。
時代に合わせて成長することは、特に今日の不安定な環境においては重要だ。より多くの企業がスマートなビジネス上の意思決定を行うためにデータ駆動型のインサイトを利用するようになると、データサイエンティストは組織内でより重要な責任を担うようになるだろう。
最先端のデータサイエンスを行うことは、戦いの半分に過ぎない。プロセスを説明し、発見を魅力的な方法で提示する方法を知っていれば、明日の一流のデータサイエンティストは不可欠な存在となり、組織は潤滑油をさした機械のように動くようになるだろう。
表題画像:Photo by Leon on Unsplash (改変して使用)