カーブサイドリサイクルとは、一般的なごみの回収ルートを通じて行うリサイクルのことだ。欧米のごみ収集は、家の前の道端(curbside)にごみ箱を出しその中身をごみ収集車が回収する形で行われているため、このようなワーディングとなっている。
カーブサイドリサイクルが可能な品目は地域のリサイクル設備によって変化するが、全ての地域でもリサイクル可能な品目は紙、金属、ガラス、プラスチックボトル(rigid plastic bottle)となっている。また、一部地域では設備の違いによってプラスチックのフィルム(ビニール袋、プラスチック包装など)もリサイクルが可能であるようだ。
多くの課題解決につながり、長期的に大きなアドバンテージを生む経済モデルとして転換が進められているサーキュラーエコノミーであるが、実現にはインフラ整備や関係各所において循環型社会に対応するための変化が求められ、多くのエネルギーが必要とされる。
カーブサイドリサイクラブルな製品の持つメリットとしては、既存の回収ルート・設備を利用したリサイクルが可能である点である。ゼロから構築する必要がなくサーキュラリティの確保が容易であるため、循環型の経済を構築する上で重要である。
カーブサイドリサイクラブルとは、文字通りカーブサイドリサイクルが可能であることを指す。厳密にいえばカーブサイドリサイクラブルな品目は地域の設備によって異なると言えるが、「カーブサイドリサイクラブルな製品」と言うと、「既存の一般的な回収ルート、リサイクル設備で資源化が可能である製品」が含まれる。言い換えれば、広い地域で利用可能な紙・金属・ガラス・プラスチックボトルの回収ルート・リサイクル工程を利用して、問題なく資源化できる製品が該当する。
リサイクル品回収方法で異なる点として、シングルストリームリサイクルとマルチストリームリサイクルがある。
マルチストリームリサイクルは、消費者側が分別を行い回収する方法である。回収業者側は、ごみの分別をする必要がなく、回収物を直接リサイクル施運ぶことができるため、分別機械への投資が不要で参入しやすい特徴がある。また、不純物が混ざりにくいためリサイクル品の品質を高めやすく、汚染されてリサイクル不能となる廃棄物の量を削減することができる。しかしながら、この方法は消費者に分別する労力と知識が求められ、リサイクルごみの回収率を高めることが難しい傾向にある。リサイクルを行っている多くの地域ではマルチストリームリサイクルの形式がとられている。
シングルストリームリサイクルは、消費者がリサイクル可能なごみを品目に関係なく一つのごみ箱にまとめ、リサイクル業者がMRF(材料再生施設)において機械と人力で分別した後、リサイクルする方法である。消費者に求められる労力が少ないため、リサイクルごみの回収率を高めやすい一方で、リサイクルを行う業者側に多くの投資が求められる点や、不純物によるリサイクル品の品質低下、リサイクル不能な廃棄物の発生が課題となりやすい。この方法は主に米国で用いられ、2016年に「THE RECYCLING PARTNERSHIP」が行った調査によると、同国のカーブサイドリサイクルプログラムのうち82%がこの手法を用いていた(参考)。一方で近年では、不純物の問題を解決するために紙のみ個別で回収するなど、マルチストリームの手法を取り入れる流れも起きているようだ(参考)。
MRFでの仕分け:https://www.detpak.com/news-and-events/latest-news/behind-the-scenes-at-a-mrf/
海外スタートアップでは、革新的なリサイクル方法の開発や、既存のリサイクル設備の能力を高めるソリューションの開発が進められている。リサイクル技術の革新によって、既存のリサイクル可能な製品の種類が拡大したり、効率的なリサイクルやリサイクルされた材料の品質改善が達成されサーキュラリティの向上が期待できる。これから海外のカーブサイドリサイクルに関連するスタートアップについて、3つの分類に分けて紹介する。
微生物を用いた精錬(バイオソープション)による電子ごみのリサイクル技術を開発するスタートアップ。従来の貴金属回収ソリューションでは強力な薬剤の利用や、特殊な設備とノウハウが必要であった。しかし、低環境負荷の薬剤と微生物による精錬技術によって金属リサイクルがよりサスティナブルで低コストかつ簡単なものとなり、設備も簡略化・コンパクト化を達成している。
一般的にリサイクルにサスティナビリティを求める方法の一つとして効率的なリサイクル方法の開発があるが、このようなソリューションはおおよそ革新的な技術を用いて様々な面での効率化を達成している場合が多く、結果的に設備の小型化・低コスト化につながりやすい。
このようなタイプのリサイクル施設は、都市部のゴミの発生源の近くに設置することが可能であり、ロジスティクス関連のコスト低減が期待できる。家庭ごみから回収するモデルにつながるかはわからないが、少なくとも今までよりも多くの地域で価値のある資源のリサイクルと再生材料の提供が可能となるだろう。
食品包装に用いられるプラスチック・アルミ、プラスチック・紙などのパッケージや、太陽光発電パネルの”ガラス・半導体・プラスチック”といった多層構造の複合材料を分離する技術を開発するスタートアップ。従来は分離する方法がなく埋め立て処分されることが多かった複合材料を特殊な液体によって層同士を分離し、リサイクル可能にする。分離液は繰り返し使用でき、リサイクルの手段自体もサーキュラーを意識している。
多層構造をもつフィルム材料のリサイクルを実現する技術を開発するスタートアップ。プラスチック同士の間に水溶性の層を追加することで、フィルムを素材ごとに分離しリサイクルすることが可能となる。
DSC(示差走査熱量測定)による回収したプラスチックごみの分析ソリューション。DSCによる検査では、リサイクルしたプラスチックの正確な組成・劣化度合いなどの評価が可能となる。また、カメラを用いた仕分けソリューションで仕分けが難しいダークプラスチック(黒い色のプラスチック)にも強い。DSCは一般的に実験室レベルの少量のサンプルしか調べられなかったが、「Veridis」はこれを工場レベルの量とスピードに対応させた。
リサイクルされたプラスチックの組成が分かるシステムが導入されれば、低価値であった再生プラスチックの高付加価値化・品質の安定化につながり、利用用途の拡大と需要の増加につながるかもしれない。
金属の仕分けソリューション。自動車リサイクルのシーンで発生する金属を効率的かつ正確に仕分けする。仕分けはAIを搭載したロボットによって自動的に行われ、金属の種類だけでなく組成まで識別が可能であるという。不純物を避けて正確に分別された金属は、高品質な素材として利用が可能となり、再生金属材料の価値をアップグレードすることができる。
再生不可能資源であり、しばしば精錬に多大なエネルギー消費と二酸化炭素の排出が伴う金属を再び材料として回収できるという点は、サーキュラリティ向上に大きなメリットとなる。
再生材料の品質が高まると何が起きるか?再生材料は、捨てられるごみが一定でないことや、正確な分別が難しく、品質の低下や不安定化につながりやすい。このようなソリューションによって再生材料の品質が高まれば、製品に使う材料としてリサイクル材料を積極的に使うシーンが出てくる可能性も考えられる。リサイクル材料の価値・需要が高まると、それに伴って材料となる廃棄物の価値も高まる。最終的に、は今まで回収されてこなかった廃棄物の回収による収益化や、積極的な回収のシステムの充実化につながる。リサイクル材料の品質を高めることは、回収の仕組みを作るイニシアチブとなり得ることから、サーキュラーエコノミー実現の重要なファクターと考えられる。
ディープラーニングを用いた画像認識と、パートナーシップを結んでいる「FUNUC」のロボットアームを組み合わせた仕分けの自動化ソリューションを提供しているスタートアップ。リサイクルプラントの自動化は、稼働効率の向上と運用コストの削減というメリットがある。また、「Recycleye」は廃棄物の画像データセットである「WasteNet」を所有しており、自社製品への応用の他、学術・非営利目的向けにデータの提供を行っている。
同社をはじめとして、AI・画像認識・IoT・ロボティクスの技術がリサイクルの工程に応用されつつある。
このような画像認識やAIを用いたソリューションでは、識別能力を高めるために高い質の学習データを蓄積することが重要となる。その一方で、サーキュラーエコノミーが経済・開発における持続可能性の確保や環境問題の解決といった全体の利益を目指しているという性質上、AIを利用したサーキュラリティ向上のためのソリューションが有益な学習データを独占してしまうのは循環系全体の価値が下がってしまう懸念も考えられる。今後サーキュラーエコノミーにかかわるソリューションが普及した場合、学習データの共有ソリューションや政府による学習データ共有のためのイニシアチブが必要となるかもしれない。
将来的にカーブサイドリサイクルに対して新しい技術の導入が進んだ場合、リサイクル可能な品目の拡大や処理能力の効率化によってリサイクル材料の高品質化が実現し、未利用の資源(ごみ)の積極的な活用が可能となる。未利用の資源の価値が高まることは最終的に資源の回収から利用を含めたマテリアルフローの変化につながり、多くのステークホルダーに影響を与える可能性が高い。例えば、未利用の資源の回収や提供を行う新しいビジネスの機会が生まれたり、新たに利用可能となった資源を循環するためのインフラ整備が必要となる。また、人工知能といった新しい技術の応用によりリサイクル業界へ新たに参入する企業が出てくるといった変化も考えられる。
リサイクル技術の発達はサーキュラーエコノミーの観点において資源を循環から漏らさないための基盤となり、循環のためのインセンティブをもたらす重要な要素の一つとなる。
リサイクルはループを閉じる重要な役割となる一方、製品を材料まで分解する必要があるためエネルギーが多く必要であることから、あくまで製品の再利用や修理が出来ない場合の最終手段という位置づけとなる。製品の価値があらゆる場面で無駄になりにくい完全なサーキュラーエコノミーを実現するためには、リサイクルによるループの形成に加えてシェアリングや再利用、修理といった循環の内側(参考:バタフライダイアグラム)を含めた全体の補強が進められる必要がある。
引用:エレンマッカーサー財団(https://ellenmacarthurfoundation.org/circular-economy-diagram)
表題画像:Photo by Pawel Czerwinski on Unsplash (改変して使用)