食品廃棄物問題の解決は、飢餓を減らし、経済活性化につながる

2019年、シンガポールでは7億4400万kgの食料が廃棄された。2階建てのバスが51000台分に相当し、国民1人あたり、ご飯2杯分を一日に破棄していることとなる。
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2019年、シンガポールでは7億4,400万kgの食料が廃棄された。これは、国民1人あたり1日にご飯2杯分、2階建てのバス51,000台分に相当する。

食品廃棄物は世界の経済・環境資源にダメージを与える非常に深刻な問題である。

2021年現在、世界の9人に1人は食料を手に入れることができない。しかしその一方で、全世界で生産されている食料の約3分の1が毎年失われていることを考えると、これは由々しき事態である。

また食料の無駄は食品価格上昇につながり、さらには土地や水、生物多様性の損失や気候変動の原因にもなり得る。

食品廃棄物の問題は、東南アジアにおいても最悪の状況だ。シンガポールでは食品廃棄物の発生量が過去10年間で20%も増加している。2019年だけでも約7億4,400万kgの食品廃棄物が発生しており、これは2階建てのバス51,000台分に相当し、国民1人あたり1日にご飯2杯分を破棄していることとなる。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)によると、インドネシアは一人当たり年間約300kgの食料を無駄にしており、世界で最も食料を浪費している国の一つであることが明らかとなった。SWCorp Malaysia(マレーシア国、固形廃棄物・公共清掃管理公社)によると、マレーシアでは1日に約16,667.5トンの食品廃棄物が発生しているという。

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ベトナムにおいては、87%の家庭が、週に平均して2皿分の食料を廃棄していると認めている。ホーチミン市だけでも、1日に発生する8,300トンの固形廃棄物のうち60%以上を食品廃棄物が占めている。

またフィリピンのマニラ首都圏では、毎日2,000トン以上の食料が廃棄され、年間では約30万8,000トンの米が廃棄されていると推定されている。

これらの問題に対処することは、世界の飢餓に対処し、地球を救うために非常に重要なことである。国連食糧農業機関によると、食品廃棄物の削減は希少な天然資源への悪影響を減らすだけでなく、2050年の人口需要を満たすために食糧生産量を60%増加させる必要性を減少させることができる。

技術の役割

ロンドンを拠点とするAquaa Partners社によると、テクノロジーとそれを駆使したビジネスモデルはバリューチェーン全体で食品廃棄物を削減する可能性を大いに秘めているという。

2021年現在、多くの国では食品廃棄物の管理は政府主導で行われている。しかしこの問題の深刻さを考えると、政府の取り組みだけでは十分対処できるとは言えない。

近年において、数名の起業家がこの問題に真剣に取り組み、革新的な技術的解決策を打ち出している。

食品廃棄物管理には主に「食品廃棄物の予防」「食料の再分配」「食品廃棄物のリサイクル」の3つのカテゴリーが存在する。

1:食品廃棄物の予防

これは食品廃棄物の発生を未然に防ぐことを意味する。基本的に、この分野を対象とする企業は、レストランやホテル、飲食店が食品廃棄物の発生を未然に防ぎ、最小限に抑えられるようサポートを行っている。

シンガポールのLumitics社はそのようなスタートアップの一つだ。同社のソリューションは、フィードバックループとして食品廃棄物を可視化することで、シェフによる食品廃棄物削減のサポートを行う。このソリューションは、画像認識とAI、データ分析で構成されており、無駄の元を辿るための有益な洞察を提供する。

マニラを拠点とするMosaic Solutions社もこの分野で事業を展開しているが、同社のコアミッションは食品廃棄物管理ではない。食品廃棄につながる問題を未然に防ぐために、バックグラウンドで活動している。同社が提供するF&Bビジネスツールの購買システムでは、在庫が所定のレベルまで下がったときにのみ食品が発注される。

2:食料の再分配

世界中には、レストランやホテルで余った食料を引き取り、貧困層に再配布しているテック企業や非テック企業、慈善団体が多く存在する。

シンガポールに本社を置くTreeDots社は、B2Bプラットフォームを提供しており、サプライヤーが売れ残った在庫を、受け入れ可能な組織に再分配する。TreeDots社は、レストランやケータリング、カフェ、ホテル、セントラルキッチンなど、さまざまなフードサービス事業者にサービスを提供している。

また、Treatsure社は、F&Bブランドの余剰食料を引き取り、再流通させている島国の企業だ。

タイに拠点を置くYindii社は、店舗やレストランが一日の終わりに廃棄しなければならない余剰な食品や、まだ食べられる食品を引き取り再分配している。これには、販売されなかった新鮮な食料品があるスーパーマーケット、毎日焼きたてを提供しなければならない高級ベーカリー、最後の1時間まで高品質の料理を補充しなければならないビュッフェレストランなどが含まれている。

UglyFood社も再分配の分野で活躍する地元のスタートアップだ。UglyFoodは、余った農産物(果物や野菜)を販売し、楽しく軽快な方法で食品廃棄に対する意識を高めている。

同社では多人数参加型のパズルゲームであるUglyfood Matchwarsを提供しており、通常の食料と汚い・傷んだ食料、腐敗した食料の違いを学ぶことができる。

インドネシアではGarda Panganと呼ばれる青年運動があり、食品廃棄物の撲滅と飢餓の救済に注力している。活動内容は、レストランやベーカリー、ホテルからのフードレスキューに加え、フードドネーションボックスの設置、農場からのフルーツや野菜の収穫、食品廃棄物とその影響についての教育などがある。

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マレーシアでは、Grub Cycleというソーシャル・スーパーマーケットが食料の再分配を行っている。賞味期限やパッケージの破損、見た目等の要因により棚から外されてしまう食料品や菓子類、生鮮食品等をお得な価格で販売している。

3:食品廃棄物のリサイクル

家庭や飲食店、企業などから排出される食品廃棄物のほとんどが埋立て処分されており、その分解により発生する温室効果ガスが環境に悪影響を与えている。一部の企業は、生ごみを堆肥やエネルギーに変換することでこの問題の解決を目指している。

マレーシアのMAEKO社は、生ゴミを農業用の生物有機堆肥に変換している。これにより、農場から出た生ごみを、将来の食料のための肥料として農場に戻し、持続可能な循環を形成することができる。

シンガポールのスタートアップ企業TRIA社は、食品包装材や廃棄物を24時間以内に堆肥に変えるBio24を開発した。

また、Flavorgator社も食品廃棄物のリサイクルに取り組む企業の一つである。食品の評価アプリを提供しており、メニューの中で人気のないものを把握することで、食品廃棄の問題に取り組んでいる。

マレーシアのHosokawa Micron社は、生ゴミを堆肥化し再利用している。廃棄物を自社の粉砕機で処理し、バイオガスプラントで使用している。

VCが注目

最近では、ベンチャーキャピタルがこの分野に資金を投入し始めている。Aquaa Partners社によると、2018年から2021年の間、世界中の食品廃棄物管理のスタートアップに約14億米ドルが投資されたという。

しかしフードデリバリーやクラウドキッチンなど、他のフードテックの垂直市場に注ぎ込まれてる数十億ドルと比較すると、この金額はわずかな額だ。

業界の専門家によると、2021年現在、世界中の食品分野に投資家からの注目が集まっているという。

「食品廃棄物は1兆ドル規模の問題です。しかし一般的に、大きな問題の解決には経済的なチャンスがあります」ホスピタリティや旅行に特化したVCであるVelocity Ventures社のMDであり、Lumitics社への投資家でもあるNicholas Cocks氏はこう語る。「大きな問題があれば、自然に投資資金が集まるものであり、これは将来も変わらないでしょう」

その上、2021年現在では投資トレンドとしてサステナビリティが人気を博しており、この潮流がバーティカルな分野への資本流入を加速させるだろう。

また、Nicholas Cocks氏は次のように続けた。「国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第2目標は飢餓への対処であり、食料の無駄に関わる重要な問題です。これらは相互に関連し、投資家の注目を集めています」

規制や施行の格差が課題に

食品廃棄物管理は規制が厳しく、政府との契約で処理されることが多い分野だ。一般的に廃棄物処理は政府が管理する施設で行われることが多く、これは東南アジアに限らず世界各地で見られる現象である。政府はこの分野に密接に関係しているため、成果を上げる大きなチャンスがある。政府が食品廃棄物の違法処理を管理し、リサイクルや持続可能性、廃棄物削減を促進するために課税や価格設定を行えば問題解決へのチャンスが生まれるのだ。

廃棄物処理にコストがかからなければ人々は廃棄物を路上に捨ててしまうだろう。コストがゼロであればリサイクルや廃棄物削減を中心としたビジネスを構築することは困難である。

一方コストが高ければ、廃棄物の排出者にとっては、新しいソリューションを導入して廃棄物処理のコストを削減するという経済的なインセンティブが非常に高くなる。

「規制とその実施状況は地域によって大きく異なります。政府にはリサイクルや廃棄物削減を奨励するために、税金やその他の賦課金で廃棄物処理のコストを増加させてほしいと思います。また、これらの規制強化も期待しています」とNicholas Cocks氏は述べている。

またCOVID-19のパンデミックの影響で多くのホテルが閉鎖され、多くの飛行機が欠航している。しかしこれは閉鎖や欠航により食品廃棄物の発生量が減少したとも言える。

Lumitics社のCEOであるRayner Loi氏はこう語る。「2020年は当社のお客様の殆どが休業を余儀なくされたため、当社にとっては厳しい年でした。しかし2021年現在では、かなりの回復を見せています」

サステナビリティレポートがトレンドに

近年ホテル業界では食品廃棄物の削減について真剣に考えるようになり、COVID-19のパンデミックは、この動きをさらに加速させた。

「ホテルには、食品廃棄物の発生量を減らすことで食品コストを削減し、同時に持続可能性を高めることができるため廃棄物削減は大きなインセンティブとなります。これは私達が目にしてきた大きなトレンドです」とLoi氏は語った。

ホテルチェーンや航空会社を含むアジアの多くの組織も、サステナビリティレポートの作成を始めている。また、顧客も企業に対し、サステナビリティレポートの作成を求めている。

「大規模なコンベンションや展示会を運営する当社のパートナー企業や顧客の中には、インパクトレポートを求めてくる者もいます。どれだけの食料が無駄になったのか、どれだけのプラスチックが使われたのか、さらにはイベントで発生するカーボンフットプリントについてもその情報のニーズが高まっています」とLoi氏は述べた。

また「ホテル側もこうした要望に応えるためにこれらの情報を追跡するソリューションが必要だと気付き始めています。私達はすでに食品廃棄物削減の枠組みの存在を示すことができました」と語った。

今後の展望

世界的に貧富の差が拡大する中、空腹のまま時を過ごす人が現在も増えている。また地球温暖化や気候変動も驚異的なスピードで進行してる。世界的な食料の浪費は世界経済に何十億ドルの損失をもたらし、より多くの人々を貧困へ追いやるだけでなく、地球そのものを破壊している。この2つは人類に対する大きな脅威となっている。

この危機の重大さから、特にアジアやアフリカ、ラテンアメリカでは、何千もの食品廃棄物処理会社に大きな可能性があると考えられる。


翻訳元:https://e27.co/tackling-food-waste-means-less-hungry-people-and-great-economy-20210603/

表題画像:Photo by Joel Muniz on Unsplash (改変して使用)

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執筆者
SUNRYSE / SUNRYSE
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