ベトナムのスタートアップ最前線:新規事業の拡大とカンファレンスの役割についての独占インタビュー

スタートアップによる新規事業が急成長中のベトナム。政府の支援も手厚くなる中、今後どのような展開が見込めるのか。同国のスタートアップサポートを行う政府機関「BSSC」の専門家にインタビューを行なった。
VC/CVC ベトナム スタートアップ

※本記事はインタビュー記事です。

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近年、急速にスタートアップエコシステムが発展してきているベトナム。経済発展を促すために、政府はこれまで「スタートアップ国家」として支援策を打ち出し、政府ウェブサイトによると2025年までには2,000のスタートアッププロジェクト、600社のスタートアップが生まれることなどを目指す、としている。

どのようにエコシステムが発展してきたのか、また今後の展望について、SUNRYSE.のコミュニティパートナーであり、ベトナム最大規模のスタートアップカンファレンス「Startup Wheel」を運営するビジネススタートアップサポートセンター(BSSC)CEOのNguyen Thi Dieu Hangさんにお話を伺った。

BSSC CEO/Nguyen Thi Dieu Hang氏

Q:簡単な自己紹介をお願いします。

Nguyen Thi Dieu Hangと申します。ベトナムのホーチミン市にあるビジネススタートアップサポートセンター(BSSC)のCEOを務めています。

Q:ベトナムのスタートアップエコシステムにおけるあなたの役割を教えてください。アジアのスタートアップエコシステムにどのような影響を与えていますか?

私はエコシステムの構築者であり、国内外のリソースをつなぎ、エコシステムの発展を支援する立場です。

国内外のリソースをつなぎ、エコシステムを発展させることは、ベトナムだけでなくアジアのスタートアップエコシステム全体に大きな影響を与えるため、私はスタートアップ支援の分野に積極的に参加して、エコシステム全体の包括的な知見と深い理解を得るようにしてきました。特に、各国間の交流活動を推進し、多くの海外プログラムに参加し、海外パートナーとベトナムのスタートアップコミュニティを繋ぐことに熱を注いできました。

そこから、スタートアップ政策、経営ツール、ベトナム政府への支援プログラムを提案したり、国内外のパートナーと調整して、地域のスタートアップに適切な支援プログラムを提供したりしています。さらに重要なことは、これらの活動を通じて、異なるスタートアップのエコシステムに適用され得る政策を理解することができるということです。これにより、近隣諸国のパートナーとの連携が容易になり、スタートアップはより容易に移動し、地域の新たな市場に参入できるようになりました。

エコシステムの構築者として、私は常にベトナムに進出する海外のスタートアップを支援したいと考えています。今こそ、東南アジア市場だけでなく、アジア市場全体を見据えるべき時だと思います。アジア諸国は若い人口のおかげで、新興国を中心とした教育の受けやすい市場があり、インターネット利用者数は世界の上位にランクインしています。だからこそ、アジア市場にはブームや成長の可能性があり、アジアを世界のスタートアップのハブにすることは十分に可能だと思っています。

Q:これまでで最大の課題は何でしたか?

私や私たちの多くが直面している2つの大きな障害は、文化と言語です。

文化的な類似点は多いものの、アジアには共通言語がなく、日本、中国、韓国、タイ、ベトナムなどの国は母国語を話す傾向があります。

このような障害を乗り越えれば、アジア各国はより強力な国際貿易を推進できるのではないでしょうか。

Q:アジアのスタートアップのエコシステムを改善するにはどうしたら良いと思いますか?

個人的には、アジア諸国間でスタートアップ支援組織と経済資源を結びつけることは、地域に強力なスタートアップコミュニティを作るための前提条件だと考えています。これは、ベトナムで最も権威のある総合的なスタートアップ支援組織であるBSSCを運営する上での私の野望でもあります。

国内のスタートアップエコシステムのための強固な基盤を築いた後、私は活動範囲を近隣諸国に広げ、長期的なパートナーシップのための初期の協力関係を築いてきました。

ベトナムだけでなく、アジアのスタートアップエコシステムを構築したいという私の思いに共感してくださる方を常に探しており、一緒に仕事をしたいと思っています。

Q:BSSCとは何ですか?また、StartupWheelはどのように活動を開始しましたか?

BSSC(ビジネススタートアップサポートセンター)はベトナムのスタートアップ業界のパイオニアであり、自身もまたスタートアップと言えます。私たちの目標は、ベトナムだけでなく世界のスタートアップコミュニティをサポートするために、既存のリソースをつなぎ、活用することです。

私たちは、ホーチミン市の強力なスタートアップコミュニティを開発するという最初のステップを成功という形で達成しました。次のステップとして、地域や5大陸の多くの国とのパートナーシップを獲得しました。私たちは、より大きなインパクトを与え、国境を越えたスタートアップコミュニティの成長に貢献するための正しい道を今まさに歩んでいると信じています。BSSCは、地域や世界に手を差し伸べるという精神を常に持ち続けています。そのため、私たちは常に新しいトレンドをアップデートし、日々変化を受け入れ、適応し、そして改善していきます。

BSSCは非営利の政府機関ですが、財政的には独立しています。ほぼゼロからのスタートであるため、ベトナムのスタートアップコミュニティのサポートとして経済資源をつなぐために、多大な努力をしなければなりませんでした。BSSCは、ベトナムの学生のクリエイティビティを評価し、彼ら若い世代のアントレプレナーシップを鼓舞し、育成するために、2013年に最初のStartup Wheelを組織として立ち上げました。現在までに、このコンテストはベトナムのスタートアップコミュニティに大きな影響力を持ち、その成長への貢献が証明されています。数々の成功からも分かるように、Startup Wheel Competitionはベトナムのスタートアップ・エコシステム成長への大きな一歩になると信じています。

Q:どのような問題を解決してきましたか?

スタートアップエコシステムの成否を左右する最大の問題は、隠れたスタートアップたちが利用可能なリソースを見つけられない場合と、その逆の場合です。

Startup Wheel Competitionは、スタートアップ、投資家、VC、大企業が積極的に参加し、様々な価値観をお互いに持ち寄る場となるように設計されています。具体的には、スタートアップはこのコンペティションを通じて、顧客にアプローチしたり、投資家と会ったり、パートナーを見つけたりすることができます。

一方、投資家は審査員、ゲスト、または参加者としてコンペティションに参加し、スタートアップのトレンドを知り、スタートアップと出会い、資金を投資する価値のある企業や起業家を見つけることができます。

Startup Wheelには、投資家とスタートアップの双方がお互いを知り、選ぶ機会があふれています。

Q:Startup Wheel の歴史を教えてください。

2013:ベトナム・ホーチミン市でStartup Wheelをローンチ。

2014:ホーチミン市で18歳から35歳までの大学生や若い起業家を迎え入れる。

2015:18歳から35歳までの人が参加するStartup Wheelが全国に拡大。

2016:2つのカテゴリーに縦割りされる:個人・チーム部門と企業部門という2つのカテゴリーに分けられ、年齢は18歳から35歳までと限定。

2017:世界中からの参加者を受け入れる。また、この年には初めてベトナム国外出身ながらもこの国で在学中の若手起業家の参加もあった。

2018:年齢制限を取り払い、Vietnam Startup Wheel Competitionに名称を変更。具体的にはこの年、最年少候補者が10歳、最年長候補者が74歳となった。

2019:ベトナムからスタートしたVietnam Startup Wheelは、他の国でキックオフイベントを開催し、インターナショナル・トラックを正式にスタートさせた。このトラックは、ベトナム市場への進出に興味のある国際的なスタートアップ企業のためのものである。

2020:Vietnam Startup Wheelは5大陸に拡大し、再度、名称をStartup Wheel Competitionに変更。ベトナム市場に進出したい、あるいはアジアのスタートアップエコシステムとのコネクションを作りたいという数多くのインターナショナルスタートアップを迎え入れた。

Q:他と比べた際の、Startup Wheelの特徴は何ですか?

Startup Wheel Competitionは、毎年3月から6月にかけて開催されるアクセラレータープログラムとして設計されており、ベトナムや東南アジアで最も長い期間開催されているコンペティションとしても知られています。

成長ステージや業種を問わず、世界中のスタートアップが参加可能です。

BSSCでは、ただのアイデアや願望の多分に含まれた思いつきであったとしても、早い段階から育成し、試作品や製品を完成させることで、6ヶ月間でトップ100に入るような成長を遂げることを期待しています。そのためBSSCでは、これらのスタートアップを支援するために、世界中のアクセラレータープログラムやVCファンドとの協力の機会を大切にしています。

このようにして、私たちはまだ頭角を現していないスタートアップのコミュニティを構築しています。

Q:ベトナムのスタートアップシーンの動向をどう見ていますか?また、他の地域と比較した際、どのような独自性が見られますか?

ベトナムのスタートアップの動向については、まず、ベトナムは農業国として知られており、この分野はかつてベトナム経済の70%を占めていました。そのため、現在では農業にハイテクを応用してその生産性を向上させようとする動きが顕著になってきています。

第二に、東欧諸国では伝統的な学問の精神があるため、現代の家庭では教育が重要視されています。そのため、この分野のスタートアップ企業が増えており、投資家からも多くの資金を得ています。

第三に、ベトナムは長い海岸線や豊かな天然資源、多くの美しい風景のある地域に位置しており、その料理も有名です。そんな理由から、ベトナムは観光客にとって最も魅力的な旅先の一つとなっています。それだけでなく、好条件が揃っているため、ベトナムから東南アジアの他の国への移動も容易です。そのため、トラベルテック系のスタートアップは、この市場を開拓し、発展させる可能性を秘めた分野と言えます。

最後に、SaaSのスタートアップについてですが、ベトナムの若者は技術に精通しているため、テクノロジー系のスタートアップが急速に発展しています。これらの技術にはビッグデータ、機械学習、IoTなどがあり、スタートアップの様々な業界で幅広く利用されています。

ベトナムのスタートアップエコシステムの特長として、その若さとダイナミズムについてもお話しします。ベトナムのスタートアップ創業者の平均年齢が28.8歳であることから、世界で最も若い起業家が多い国の一つでもあります。

また、総人口は9,730万人、平均年齢は32.5歳と、スタートアップにとって潜在的な益の多い市場であると考えられています。

また、ベトナム人は勤勉であるため、起業家は非常にオープンマインドであり、学習を続ける中でサービスやプロダクトを改善・発展させることに意欲的です。これら3つの要素がベトナムを「新星」にすることに貢献しています。

特に、この時期は世界経済の新しい局面のために、ベトナムが強力なブームになる可能性があります。

大企業は縮小し、特定の国に依存することを避けます。彼らは生産リスクを最小化するために、複数の国に工場を分散させます。そのおかげで、ベトナムは新たなグローバルサプライチェーンを提供する上で多くの利点を持つことになるでしょう。

安定した政治・社会体制、交通の便の良さ、東南アジアの玄関口である水路、陸路、航空路、若い人口と膨大な労働力、これらの条件から、ベトナムがグローバルなサプライチェーンを提供する上で重要な役割を果たすと考えられます。

また、ベトナムへの一連の投資資本を誘致する上でも重要な役割を果たすと期待されています。

Q:日本のオーディエンスにおすすめのスタートアップは?また、その理由は何でしょうか?

日本の強みは高度な技術革新と科学技術であることは誰もが知っていることなので、この分野のベトナムのスタートアップは紹介しません。

その代わりに、商業、つまりサプライチェーンのスタートアップをオススメしたいと思います。現在、日本とベトナムは非常に近しい関係性であり、例えば、ベトナム人が日本に出稼ぎに行ったり、逆に日本人がベトナムで働いていたりします。そこで、これらのコミュニティをサポートできるスタートアップの一つである、「Kohi」を紹介したいと思います。

これは、日本で生活したり仕事をしたりするために、日本の文化や言語をより深く学ぶことができる日本語学習アプリです。日本は世界でも最高の品質の商品を持っていると評価されているため、ベトナムと日本が協力することで、日本の商品をより広く流通させることができます。

また、介護施設や病院などへの人材提供など、健康分野へのサービスを提供するベトナムのスタートアップも、日本市場への進出の可能性を秘めています。

Q:COVID-19はスタートアップシーンにどのような影響を与えましたか?何か興味深い反応や議論はありましたか?

ポジティブな面としては、COVID-19は人々にオフラインからオンラインへの活動の切り替えを余儀なくさせたことが挙げられます。また、オンライン部門のスタートアップが新たな市場シェアを獲得する絶好の機会とも言えます。その上、今はすべての企業がデジタルトランスフォーメーションに真剣に取り組まなければならない時期です。

ネガティブな面としては、経済危機になると、世界のサプライチェーンが影響を受け、スタートアップと大企業の両方が被害を受けることになります。大規模な工場閉鎖のために、製品を完成させることができなくなりますし、バックアップ計画も財源もこの期間中には期待できません。

COVID-19期間を通じて、市場を拡大するための「体力」を持っているのは誰なのかが分かります。要するに、COVID-19は企業を不況から立ち直らせるための試練であり、この期間に努力することができれば、将来、他のどんな困難をも簡単に克服することができるでしょうね。

Q:今後の課題や現地で楽しみにしていることは何かありますか?また、「ニューノーマル」について何か考えていることはありますか?

パンデミックの後、起業家は自分のビジネスのコアバリューにもっと集中することになるだろうと考えています。この期間、合理化を促し、スマートに働き、そして会社の内と外の様々な要素に焦点を当てるために、彼らは短期目標・長期目標の両方を見直す必要が出てきます。

同時に、本当に顧客が対価を支払っても構わないと思えるような、顧客のニーズを満たす製品・サービスへと自身も変化していく必要があります。

それこそが、「ニューノーマル」だと、私は考えています。

以上。

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表題画像:Photo by Katherine McCormack on Unsplash (改変して使用)

執筆者
武田彩花 / Ayaka Takeda
Contents Writer
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