スタートアップとベンチャーの2語の意味は、同じなのか、違うのか

新しいものを生み出す企業を、スタートアップもしくはベンチャーと呼ぶ。実際、この2つはどう違うのだろうか?
VC/CVC HR スタートアップ 翻訳

歴史を動かすのは古いものへの不満や新しいものを求める人々が起こすアクションだ。

日本の近代化改革が進んだきっかけは、討幕運動である明治維新だ。ヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』で描かれたフランスの六月運動は、七月王政に不満を抱いた民衆の暴動だ。この2つは新規事業ではないが、旧体制への不満をもって新しさを求めた人たちのアクションが歴史を動かした。

新しいものを生み出す企業を、スタートアップもしくはベンチャーと呼ぶ。この2つはどう違うのだろうか。

「スタートアップ」はstartup、「ベンチャー」はventure、それぞれ英単語から派生したカタカナ語だ。多くの人が単語の違いを特に気にすることなく使っており、実際にも意味には大差ない。しかしこの2つの単語の厳密な違いは、ないようでいて、あるだろう。

 

 

スタートアップとベンチャーの違い

日本では「スタートアップ企業」と「ベンチャー企業」、どちらの言葉を使っても「新事業に取り組む新しい組織や会社」の意味合いで使われる。前者「スタートアップ」は単独企業、後者「ベンチャー」は会社の新規事業として発生した投機的事業を指す文脈で使われることが多い。

ベンチャーという言葉は、ほぼ日本独自の使われ方だろう。ventureを辞書で調べると「冒険、投機的事業、投機、やま・山」とある。*1

言葉の使われ方としては、企業の社内新規事業を指し示す文脈で「ベンチャー」「社内ベンチャー」などと使われる。しかしいずれも明確な定義はない。

例えばこちらの中小企業庁のスライドにはスタートアップとベンチャーの2語が混在している。こちらの中小企業庁のページにも混在している。こちらの経済産業省のページにも2語が混在し、同じく経済産業省関東経済産業局のこちらのページにも、「スタートアップ」と「ベンチャー」が混在している。

ハイリターンを狙う投資を繰り返す投資会社のことを英語でベンチャーキャピタル(venture capital, 略語VC)と呼ぶ。

Investpediaでventure capitalを検索した際の検索結果を直訳すると「ベンチャーキャピタルはプライベートエクイティの一形態であり、投資家が長期的な成長の可能性があると考えられているスタートアップ企業や中小企業に提供する一種の資金調達です。」とある。Wikipediaでventure capitalを検索し結果を直訳すると「ベンチャーキャピタル(VC)は、ベンチャーキャピタル会社またはファンドが、高い成長の可能性があると見なされた、または高い成長を示したスタートアップ、初期段階、および新興企業に提供するプライベートエクイティ ファイナンスの形式です(従業員数、年間収益、事業規模など)。」とある。

以上の両方の文章の原文では「スタートアップ(startup)」が使われ、ventureやventure companyなどの単語は使われていない。このことからもわかるように、英語の文脈で新興企業を指す場合はスタートアップと呼ばれ、ベンチャーやベンチャー企業という単語は使われない。新興企業をベンチャー企業と呼ぶのは、日本独自の使われ方だろう。

 

 

日本経済新聞で見る、スタートアップとベンチャー、2語の使い分け

日本経済新聞電子版は2010年3月23日に創刊した。電子版で検索できる範囲で「スタートアップ」と「ベンチャー」の2語がどのように使われているか、検索した。

「スタートアップ」が最初に使われている記事は2010年4月5日の記事だが、パソコンのセットアップに関する記事内でパソコンを起動する文脈で使われており、「スタートアップ企業」を指しているわけではなかった。

その後2011年1月24日、Googleの新CEO就任の記事で「大企業でありながら、スタートアップ(ベンチャー企業)の俊敏さ、情熱を持った会社にしたい」。という文脈で、スタートアップ企業を指す言葉で「スタートアップ」の単語が初めて使われている。

対して「ベンチャー」が最初に使われている記事は2010年2月18日の記事で、次の記事は翌日2010年2月19日の記事だ。いずれも「新素材開発ベンチャー」「家電ベンチャー」と使われ、文脈からは「新興企業」を指す単語として使われており、「会社の新規事業として発生した投機的事業」という意味合いではなく新企業を指している。

この4記事以外にも複数の記事を確認したが、記事によってこの2語が使われており、明確な定義付けや使い分けはされていないように読めた。

2020年12月現在、明確にこの2語の意味を定義づけて意味合いを分けて使っているわけではないのかもしれない。

 

 

日本のスタートアップ、世界のスタートアップ

もしあなたがスタートアップとベンチャー、どちらの単語を使おうか迷うようなことがあれば、文脈で使い分けるといいだろう。

世界のスタートアップ企業を3000社(2020年12月現在)以上紹介しているSUNRYSE.では、「スタートアップ」という単語を採用している。

英語圏を中心に海外の新興企業を紹介しており、英語の文脈では「スタートアップ(企業)」という単語が使われることなどから、英語に則ってスタートアップという用語を中心に使っている。

2020年にはNetflixで「スタートアップ夢の扉」という韓国のドラマが放送された。起業と新規ビジネスで大きな社会的インパクトと金銭的リターンを目指すスタートアップの世界が描かれ、要所にドラマらしい展開をにちりばめながらも、「スタートアップ業界」を舞台にストーリーが展開された。ここでも日本語の字幕は主に「スタートアップ」の単語が採用されていた。

日本人ではない相手とスタートアップ企業やスタートアップ投資について話をするときには「スタートアップ」を採用し、日本人を相手にするときはスタートアップもしくはベンチャー、両方を使っても話が通じるだろう。

現状の結論として、2語を使い分ける明確な定義はなく、どちらの単語が使われるかは文章の書き手次第だ。大きな違いはなく、目くじらを立てる必要もないと言っていいだろう。

スタートアップ企業もベンチャー企業も、社会を良い方向に変えて、好循環を生むために事業の成長を目指している。歴史を次々と良い方向に動かしてもらいたい。

 


執筆:古川絵理 

参考: https://signal.diamond.jp/articles/-/188

https://japan.cnet.com/article/35093001/

https://www.nikkei.com/article/DGXBZO05017010R00C10A4000000

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK24012_U1A120C1000001

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD160C8_X10C10A2X11000

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD1809Q_Y0A210C1X81000

*1:タトル・ポケット・英和/和英辞典[改訂増補版]発行所チャールズ・イー・タトル出版

執筆者
古川 絵理 / Eri Furukawa
PR / Writer
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