宇宙ビジネス:真のラストフロンティアにビジネスチャンスを見出せ

近年、国家だけでなく営利の民間企業の活躍が著しい宇宙ビジネス。その現状と注目の企業を紹介する。
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ここ数年「宇宙ビジネス」という単語が注目を浴びている。

わかりやすいのは宇宙旅行であるが、それ以外にも衛星の民間利用や宇宙デブリ関連、資源探索、エネルギー分野など、多岐にわたる分野で宇宙空間の利用とそれに併せたビジネスが考案されている。まさしくムーンショット的なもの(例えば民間による惑星探索)から、すでに収益化されているモデル(衛星運用など)まで、その可能性は無限大だ。

そしてこの流れは、これまで国家の威信と安全保障に関する色の強かった宇宙開発に、国家も企業も「ビジネス」という営利要素を見出し始めていることを意味する。具体的な価値としては、衛星の利用価値向上、他惑星などに存在する資源の存在など、様々なトピックが挙げられるだろう。

今回はそんな宇宙ビジネスの現状と、そこに参入する注目プレイヤーを紹介する。

1. 今宇宙ビジネスがホットな理由

なぜ今宇宙ビジネスが注目を浴びているのだろうか。かつての国家事業からビジネスの分野へとシフトしつつある宇宙開発の様子を紹介する。

国家の威信と安全からビジネスの世界へ

現在の宇宙開発は、第二次世界大戦後、米ソを中心に世界中を巻き込んだ冷戦期になって本格的に開始された。

東西両陣営の軍事的な睨み合いが続く中で、宇宙という新しい領域はまさしく格好の戦場であった。それは、安全保障面での競争であり、それと同時に「国家の威信」をかけた競争でもあった。

1950年代の世界初の人工衛星打ち上げからわずか20年以内に、今度は月に人類が降り立つという偉業を成し遂げたことは、まさしく「大きな一歩」であったが、一方でとてつもない額の国家予算と世界中の英知がかき集められた結果であったとも言えよう。

そんな、国家が莫大な予算をつぎ込んで行う「公共事業」であった宇宙開発だが、冷戦の集結や、民間需要の高い通信衛星の登場などがきっかけとなり、段々とその性格は変化していった。

まず、通信分野における民間利用や宇宙旅行を目標とするベンチャーの誕生が起爆剤となり、多くの民間企業が参入するようになったのである。現在では測位、開発分野、エンタメなど様々な分野で宇宙空間の活用が行われている。

この流れには、国家による競争維持が困難になってきたという背景もある。ソ連のように単に財政的な問題で開発が停滞したケースもあるが、そもそも現在の宇宙開発は半世紀前に比べて圧倒的な広がりを見せており、経済的にも技術的にも国家だけではその全てに手が回らないのだ。

結果として、規制産業であった宇宙開発には民間の参入が相次ぎ、ビジネス分野として発展するに至ったのである。

ITの進歩と商業打ち上げの進展

技術力の高い民間企業、投資家の注目が高いスタートアップ、利益を最大限に求める衛星ビジネスなど、もはやかつてのような安全保障を中心とした開発ではなく、それぞれの分野で目的が異なる状況が生まれている。

特に今日では欠かすことのできないIT分野に関しては、国家よりも民間の方が技術力が高い場合も多い。アイデアと技術力さえあれば、スペースXのように投資家を味方につけることで、あらゆるプレイヤーが参入のチャンスを持てるのだ。

また、商業打ち上げの一般化も宇宙開発のビジネス化に大きな影響を与えている。

日本や米国、欧州をはじめ、各国のロケット打ち上げを商業利用のために行う機会が増え、それに伴って法整備などが進んだこともあり、現在では様々な国で商業打ち上げが行われている。

宇宙開発に関しては独自路線を進める中国やインドといった国でも活用は盛んで、特に小型衛星の人気が高い。

近年では米露合弁のILS社、前述のスペースX社のようにロケット自体を民間企業が開発・打ち上げまで行うケースも出てきており、ますます打ち上げのハードルは下がっていると言えるだろう。

競争のプレイヤーに民間企業が加わった今、宇宙開発は「ビジネス」という側面を持ってさらに加速しているのである。

2. 多様な宇宙ビジネスとプレイヤー達

近年多様化を加速させる宇宙ビジネスの種類と、各分野の注目企業を紹介する。

A. 宇宙旅行ビジネス

スペーストラベルはもっともわかりやすい宇宙ビジネスの分野だろう。ジュール・ヴェルヌに始まり、アーサー・C・クラークやアイザック・アシモフなどの名だたる巨匠達も宇宙を旅することの日常性に憧れを持っていた。

これまで、ISSに民間人が滞在したり、民間企業によるサブオービタル実験で、宇宙飛行自体は民間でも実現可能なものであった。とはいえ「旅行」と言えるような定期性や一般性を獲得するまでには至っていない。

スペースX社をはじめとする宇宙ベンチャーは真剣に自分たちの力でスペーストラベルをビジネスにしようと考えている。場合によっては数十億単位の費用がかかることが予想されるが、それでも民間人が民間の宇宙船で宇宙を旅行することができる未来にかかる期待は大きく、大小様々なスタートアップが参入を試みている。

SpaceX - 言わずもがな世界で最も知名度のある宇宙ベンチャー。PayPal(X.com)やテスラなどでも有名なElon Reeve Musk氏が率いており、自社開発のロケットによって様々な衛星等を打ち上げ、衛星インターネット事業やISSへの宇宙船ドッキングなど、その功績は大きい。一般販売による宇宙旅行ビジネスを計画しており、今最も実現が近い企業の一つである。

Blue Origin - Amazon創業者のJeffrey Preston Bezos氏によって設立されたスペーステック企業。有人宇宙飛行計画をはじめ、月面着陸船の開発を進めている。サブオービットフライト(弾道宇宙飛行)に関する技術では創業当初から多くの実績を残してきた。

B. 衛星関連ビジネス

スペーストラベルのようなドリームフューチャーはないが、一方で私たちの実生活に大きく関わることですでに巨大市場に成長している。衛星ビジネスの特徴は、すでに世界各地でその需要が存在しており、宇宙ビジネスとしてはかなりの古株であるという点だ。

よって、老舗の大手企業、日本では三菱などのプレイヤーも多い。また、地上設備も必要になることが多いため衛星やその運行管理だけでなく、アンテナなどの地上部品を専門に取扱う会社も多い。

Kepler Communications - トロント発。超小型衛星を無数に飛ばし、次世代型の衛星ネットワークを構築する。省電力でIoTに直接接続できるネットワークなど、これからの社会に合わせた通信システムのパイオニアを目指している。

Kymeta - 衛星通信用アンテナを開発するスタートアップ。湾曲しないフラット型の汎用アンテナの開発でリードしており、可動部を無くして携帯性を高めたアンテナなど、衛星通信のハードルを下げることに貢献している。地上設備ではあるが、宇宙開発には欠かせない重要な分野のトップリーダーである。

iSpace China - 中国発。主に衛星開発とロケット開発を行うスタートアップ。中国には他にもLandSpaceなどのライバル企業が存在しているが、打ち上げと衛星展開に関しては同社が最もリードしている。

SpaceX - 同上。独自の小型人工衛星を使った衛星ブロードバンドサービスの展開を検討している。場所の制約を受けず高速な通信を可能にする次世代型通信であり、すでに400基以上の衛星を打ち上げている。

C. 打ち上げビジネス

衛星や探査船を宇宙で運用するためには、まずはロケットで宇宙空間まで打ち上げなければならない。ロケット自体を開発することは非常に困難であることから、民間の企業が衛星などを飛ばす場合は、他所のロケットを利用することが多い。

現在では日本のH2ロケットをはじめ世界各国のロケットが商業打ち上げに対応しているが、民間企業が打ち上げを行うケースも多く、今後ますますの発展が見込まれる分野である。

なお、この分野では中国の長征ロケットの参入などで低価格打ち上げが加速している他、ESAによるアリアンロケットと米露合弁のILS社という超大手が大きなシェアを誇っている。

International Launch Services(ILS) - バイコヌール宇宙基地からの商業打ち上げに関して独占販売を行っている。ESAのアリアンスペースと並んで大型打ち上げ事業においては世界でもトップシェアを誇る。

iSpace China - 同上。中国で初めて民間による打ち上げを成功させた。2016年設立ながらその技術進歩のスピードは驚くものであり、中国における衛星打ち上げの今後を担う注目のスタートアップ。

SpaceX - 同上。ファルコンシリーズなどの独自開発ロケットで打ち上げ事業に取り組む。発射したロケットの一部を再利用できるシステムや高い打ち上げ成功率など、その技術力は非常に高い.

D. 地上測位

衛星関連ビジネスの一種でもあるが、単体で非常に大きな需要を持っている重要分野である。

軍事目的で開発が始まった測位システムだが、GPSをはじめとする測位システムはもはや我々の日常生活には欠かせないインフラの一つとなっている。

Xona Space Systems - GPSをはじめとする現在の全球測位システムに対して、独自の測位システムを開発している米国発スタートアップ。同社の開発する衛星測位システムは、これまでのGPSなどに比べてより精度の高い測位情報を瞬時に提供できるように設計されているという。

Satelles - Xonaと同じく現在の全球測位システム(GNSS )とは異なる低軌道の新規格衛星測位システムを開発している。GNSSは現在ほぼ全ての測位システムで採用されているが、現在の規格では速度やセキュリティ面で問題があり、その問題を解消するSatellite Time and Location(STL)サービスを展開している。

E. リモートセンシング

比較的低高度の位置から地球の表面状況を観測する衛星技術である。

リモートセンシングは地表調査や災害調査、また農地などの分析など幅広い活用がなされている。

画像ベース、レーダー(SAR)による観測の主に2パターンが存在しており、農業や漁業をはじめとする関係各所に観測されたデータを販売することでビジネス化されている。

Airbus Defence and Space - エアバス社の子会社。軍事産業で培った技術で商業リモートセンシング分野でも活躍。

SpaceKnow - リモートセンシング画像を農業や環境などの面でビジネスに活用しているアメリカ発スタートアップ。特定地域の発展度合いや、特定期間の環境の変化などを取得画像から解析できる。

F. スペースデブリ

近年問題になるスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去することをビジネス化するものである。

これまで、スペースデブリはその責任の所在がわかりづらいことや宇宙空間というどの国にも属さない領域(=法整備が進んでいない)での事態であることから、放置され無秩序に増加してきたが、デブリの増加は人工衛星の安全な運行などに支障を及ぼす影響があるとして問題視されている。

このデブリの除去をビジネスにしようという取り組みが各国で始まっており、日本でもスカパーが事業開発に着手している。

スカパーJSAT - アジア最大の衛星通信事業者。17機の通信衛星でネットワーク事業などを展開している。2020年6月、世界初のレーザー方式によるスペースデブリ除去サービスの開発を発表した。2026年には正式にサービスをローンチする予定である。

G. 惑星資源開発

月や火星、小惑星といった別の天体に眠る資源を探査・開発しビジネス化しようというものである。

特に月に関しては月面探査機の開発を行うスタートアップがいくつも存在し、2007年から2018年までGoogle主導で行われたGoogle Lunar X-Prizeなどをきっかけとして競争が盛んになっている。

MoonExpress - 名前の通り、月面への到達を目標とする米国発スタートアップ。X-Prizeでは他プレイヤーに先駆けて資金調達や許可取得を行いリードした。現在はNASAのサポートプロジェクトに参加し、月面への物資輸送などを実現するための輸送機や探査機の開発を行なっている。

Spacebit - イギリス発の探査スタートアップ。独自のロボットを使った惑星探査ミッションを計画している。2021年には実際に月面探査を行う予定。

ispace - 日本発。日本と欧州を拠点に、「宇宙への移住」をテーマとしたプロジェクトを進めている。現在は月面での資源探査を行うための探査機などを開発中。

3. 宇宙ビジネスに参入するために

技術の進歩がいまだ成熟に至っていないことや、通信・測位等の高需要な分野を含んでいることから、宇宙ビジネスは今後も安定的な成長を続けると予想される。

もし宇宙ビジネスへの参入を考えているとしたら、それはアイデア次第では十分勝算のある新規事業になるかもしれない。

しかし、その際は以下の点について慎重な調査・検討が必要になるだろう。

1. 法的課題のクリア

宇宙はいまだ法整備が不十分な領域である。国内法では宇宙基本法や宇宙活動法、国際法では宇宙条約や月条約などのハードロー/ソフトローが存在しているが、とはいえ未確定の部分も多いため、新規事業の立ち上げに際しては十分な調査が必要である。

また宇宙法に精通した法務人材は少なく、専門の弁護士やコンサルタントなどを活用すべきだろう。

2. ビジネスモデルの不透明さ

宇宙ビジネスにはビジネスモデルが不透明な部分も多い。例えば惑星探査や打ち上げビジネスは、競争も激しく技術力によって成功が左右される面も大きい。実際に資金繰りの問題で事業を断念するスタートアップも多く存在してきた。

3. 宇宙ビジネス特有のリスク

宇宙という未知の領域に挑戦する以上、そのリスクは時に計り知れないものになるかもしれない。打ち上げに伴うリスクやトラブル時の対処が難しいといった独特の問題もあり、失敗に際する損失も相当な額を覚悟する必要があるかもしれない。とはいえ近年では宇宙関連事業にも対応した保険なども登場しており、事前の対策が重要になるだろう。

宇宙は広い。

最近では、宇宙よりも海底の方が探査が進んでいないと言われて、"未知の世界"として深海の資源調査や生物調査の話題が挙がることも多い。とはいえ、単純な広さで言えば圧倒的に宇宙の方が広い上、その中で人間が知っているのは衛星や望遠鏡、もしくは数式の上で観測された宇宙空間と、わずかな数の選ばれし人類のみが生身で探索した、せいぜい大気圏外から月までの範囲である。

宇宙を舞台に展開されるビジネスは、そんな未知の領域を相手にする必要がある。

これまでは国家を背負った一大プロジェクトでしか触れられることのなかった世界に、民間企業をはじめとする多くのプレイヤーがビジネスの場を求めて進出している。

人類にとってのラストフロンティアを舞台に、発展を続ける宇宙ビジネス。その動向には今後ますますの注目が集まるだろう。

執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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