音波技術により、オスのヒヨコがメスに生まれ変わり、窒息死から救われる。
世界の商業施設で毎年孵化する150億羽のヒナの半分は、価値のないものとして屠殺されている。オスのヒヨコは卵を産むことができず、家禽として売れるほど太ることもできない。
しかし、ヨーロッパでは淘汰に反対する法整備が進んでいる。イスラエル南部のベエルシェバにあるスタートアップ企業Soosは、文字通り卵の中のヒヨコ胚をオスからメスに変える性転換プロセスのパイオニアである。
「孵化期間の大半において音の振動を伝え、孵卵器内の湿度や温度を変化させて環境条件をコントロールする」とSoosのCEO兼共同創業者のYael Alter氏は言う。
卵はスピーカー付きのトレイに収納され、3週間の孵化期間中、振動させられる。Soosの研究者たちでさえ、なぜこの方法が有効なのかはよく分かっていないが、メスの割合が50から80にまで増加することは分かっている。家禽の世界では、60億羽のオスのヒヨコを救うことができるのである。
哺乳類以外の動物の多くは、環境条件によって孵化期間中に性転換をする。例えば、クマノミは遺伝的にオスであっても、華氏89度(摂氏32度)以上の気温ではメスとして孵化する。
ニワトリの胚の性別は、3週間の孵化期間のうち6日目まで決定されない。この時点で生殖腺(一次生殖腺)は、個体の染色体に従って卵巣か精巣のどちらかに発達するのだ。
そこでSoosは、孵化期間に音の振動エネルギーを導入することで、オスのヒナでも卵巣が発生する可能性を高めることに成功した。
つまり、遺伝的にはオスのままだが、生物学的にはメスのニワトリになるのだ。
孵化場の各スマートトレイには、卵が感知する音波振動エネルギーを測定するモーションセンサーと、孵化した胚に音波振動を伝達する伝達装置が設置されている。振動はトレイを伝わって卵に到達し、卵は音を伝える膜となる。
Soosの共同設立者であるNashat Haj Mohammad氏は、イスラエル北部のアラブ系イスラム教徒の村、カウカブ・アブ・アル・ヒカでこの現象を自ら発見した。彼は、イスラエルの病院で血液検査室を経営する傍ら、趣味で裏庭でニワトリを育てている。
庭の電柱の近くに鶏舎を移動させたとき、メスのヒナがオスより多く孵化していることに初めて気がついた。当初は電柱の磁場が関係しているのではと思ったそうだ。その後、鶏舎をいろいろな場所に設置したり、音量や時間を変えて音を流したりして、5年がかりで実験を行い、どのような条件でメスのヒナが多く生まれるかを突き止めた。
Alter氏とHaj Mohammad氏は家禽学会で出会い、イスラエルの孵化場で「レイヤー」(卵を産むメスのニワトリ)を使った実験に乗り出した。そして、何年もかけて性転換のプロセスを改良していった。
孵化した卵の性別を判別する技術は存在するが、高価な装置を使う必要があり、卵にとっても危険な作業である。最も商業的な技術では、卵の殻に穴を開けて性別を識別するための液体を取り出すが、これは時として感染症を引き起こし、胚を殺してしまうことがある。
「卵産業は、世界で唯一、年間生産量の50%を捨てている産業だ」とAlter氏はNoCamelsに語っている。「我々の技術はゲームチェンジャーになるかもしれない」
同社の技術は、すでにニューヨーク州北部の卵農場で商品化されており、1,200羽の「逆ヒナ」を飼っている。また、イスラエル最大の卵農場の一つでは、200羽の「逆ヒナ」を飼っている。同社の卵は、スーパーに並んでいる卵と何ら変わりなく販売されている。
またSoosは、イタリアの農業食品セクターの大手企業Amadoriと、ベルギーの最大手鶏卵生産者との2つの共同研究試験を率いている。
Soosは、卵産業への技術導入を促進するため、世界各地に拡大し、より多くの商業的な試験運用を行いたいと考えている。「農家は非常に保守的で、うまくいくものはうまくいくし、それを変える理由はないと思っている」とAlter氏は述べる。今後2年以内に2,000万ドルを調達し、アメリカとヨーロッパの孵化場への進出に力を注ぎたいと考えている。
翻訳元:https://nocamels.com/2022/08/soundwaves-save-male-chicks-by-making-them-female/
表題画像:Photo by Karim MANJRA on Unsplash (改変して使用)