本記事では最終日となったSlush Day2の様子についてお伝えする。Day2では、女性起業家にフォーカスしたステージや、NFTやブロックチェーン(分散型システム)といったいわゆるWeb3.0に関連するステージが多く見受けられた。さらに、Slushの中でも北欧のスタートアップがピッチを行う「Nordic Showcase」や、ピッチコンテストSlush100のファイナリスト決定戦が行われ、Day1にもまして会場は熱気に包まれた。本記事では、Slush 2022 Day2の注目のステージやSlush100の結果についてお届けする。
「女性ファウンダーが少ない」というのはスタートアップ業界でも課題として挙げられている。これに対して、ヨーロッパ地域では女性起業家を支援する様々な取り組みが行われている。Female Founder Office Hours(FFOH)もその取り組みの一つであり、女性起業家を支援するためのヨーロッパ最大級のオフィスアワー構想として、2019年に「Playfair Capital」によって開始された。過去7回の開催で1300人の起業家が集まり、150人以上の投資家と5,230回の1対1のメンタリングとピッチミーティングが実施されている(参照)。
今回はSlushとコラボレーションをする形でAIを搭載したフランス発妊活プラットフォーム「Louise」、遊び心と応用力を重視したアプローチで、子どもたちがコーディングを勉強できるベルリン発エドテック「codary」、気候変動対策に特化した、フランス発サステナブルネオバンク「Helios」、イギリス発子育て支援プラットフォーム「Kami」からそれぞれ4人の女性起業家がピッチを行った。観客は女性が大半を占めており、女性ファウンダーが少ないことに対する課題解決に向けての強い姿勢が見受けられた。
写真:SUNRYSE
このステージでは、フェムテック「Jennis」のCo-CEOであるJessica Ennis-Hill氏、そして医療バイオテック「GFBiochemicals」のCEOであるMathieu Flamini氏がパネルディスカッションに登壇した。両者ともに元アスリートであり、元オリンピック陸上競技のゴールドメダリストとプロサッカーチーム「アーセナル」のプレイヤーだ。彼らはそれぞれの経験を通して、チーム内でのコミュニケーションの重要性や変化への適応能力がアスリートと起業家で似ており、アスリートの経験を踏まえた起業の可能性を紹介した。また、Jessica氏は、女性は生理学的に複雑な特徴を持っていることに触れた上で、特にスポーツ界・ビジネス界において女性の精神的な負担を示すデータなどが少ないことに言及した。
写真:SUNRYSE
NFTの急速な広がりにより、世界はWeb2.0からWeb3.0への移行の流れに面している。しかし、ブロックチェーンやスマートコントラクトなど技術的な複雑さゆえに、企業はそういった技術を取り入れにくいといった課題がある。Founder Stageで行われたセッションでは、フィアット通貨と暗号通貨間の変換をシームレスに行う決済プラットフォーム「Moonpay」のCheif Strategy Officerである、Zeeshan Feroz氏(写真左)と、同社へ投資を行う「Blossom Capital」のOphelia Brown氏(写真右)が登壇した。セッション内でZeeshan氏は、アメリカとヨーロッパのWeb3.0のエコシステムの違いに触れた上で、企業がWeb3.0の流れに乗るためにはテクノロジーとインフラの架け橋となるものが必要だと話した。
写真:SUNRYSE
本セッションでは「Blockchain.com」共同創業者のNicolas Cary氏(写真右)が登壇した。同社は、世界で最初にブロックチェーン検索エンジンと暗号ウォレットを構築した企業であり、同時にWeb3.0企業に積極的な資金提供も行っており、10年以上にわたって暗号空間の発展に貢献している。セッション内では今後Web3.0のエコシステムがどのように発展し、どこに向かっているのかについて彼の洞察が述べられた。
2023年の動向として、仮想通貨やブロックチェーン関連のスタートアップの出現スピードがこれまで以上に加速すること、そして特にフィンテック業界では分散型金融(DeFi: Decentralised Finance)を早い段階からの運用することがスタートアップの成功の鍵となると話した。さらに、今後Web3.0関連のスタートアップが頻出する中で技術の脆弱性を強化することや、不安定さが増している世界経済の中で生き残るための戦略が必要であることを強調した。
写真:SUNRYSE
Slush 100ファイナルはSlushにおける注目セッションの1つである。Day1にて「zeely」、「Sociability」、「Immigram」の3社にまで絞られたファイナリスト候補者は、Slush2022メインステージとなるFounder Stageにてピッチを行い、更なる選別を受け優勝1社へと絞られた。
写真:SUNRYSE
これらの審査員には「Meta」や「Stripe」、「Airbnb」といった様々なスタートアップを送り出してきた「Accel」、「General Catalyst」、「Lightspeed Venture Partners」、「NEA」、「Northzone」という5つのトップVCを代表する人々が名を連ね、優勝企業はこれらのVCから100万ユーロ(約1.5億円)に及ぶ投資を受けられるだけでなく、各ファンドのパートナーから1対1のメンタリングを受けられる。
写真:SUNRYSE
審査の結果、2022年のSlush 100優勝企業は「Immigram」であった。ファイナルにおける審査員の審査基準、選考過程は明らかにされていないものの、社会貢献性や収益性、目新しさが評価されたと考えられる。SUNRYSEでは優勝決定直後の同社CEO、Anastasia Mirolyubova氏に対して取材を行い彼女の心境や今後のビジョンについてコメントを頂いた。これらの取材の様子については追って詳細を公開する予定だ。
写真:SUNRYSE
メインとなるFounder Stageには機材と共にDJが登場し、アップテンポなミュージックと共に会場の雰囲気を一変させることで、賑やかで楽しいAfter Partyを彩った。また複数あるステージのうちの1つ、Builders Studioには銀色に光り輝く衣装に身を包んだMCが登場し、フィンランド発のスタートアップ「Singa」が開発・提供するオンラインカラオケプラットフォームを利用したカラオケ大会が始まった。会場内の各所にはアルコールやソフトドリンクを配布するステーションが出現し、参加者は飲み物を片手に話し、踊り、歌うことで互いに交流を深めながらSlush2022は幕を閉じた。
写真:SUNRYSE
なおSlush2022のAfter Partyは現地時間22時半頃閉場となり、その後23時から新たにClosing Partyと呼ばれるパーティが別会場にて開催された。世界の動向・スタートアップシーンを見据えたセッションやビジネスの発展を目指す真剣な商談が行われるSlushという空間がまるでクラブのような空間に生まれ変わることは幾分不思議な話のように思えるが、Slush含め多くのスタートアップイベントではイベント内におけるセッションやピッチと同程度に、参加者同士の交流が重視されている。アイデアを持ったスタートアップや投資家、またメディアやイベントを形作るスタッフといった多くの異なるバックグラウンドを持った人々が関わり合い、繋がりを生むことが新たなイノベーションの創出につながるのである。
Slush 2022は4,600人のスタートアップ起業家、2,600人の投資家が集まり、来場者は約12,000人にのぼった(参照)。コロナ禍での開催となったSlush2021と比較して、かなりの盛り上がりがあったように感じる。さらに、ヨーロッパのスタートアップだけでなく、アフリカやメキシコからのスタートアップによるステージも設けられ、参加国の多様性も向上しているように見える。
しかし、日本含めアジア圏からのスタートアップはいまだに少なく、来場者に占める割合も決して高くはない。一方で、日本からは福岡市や仙台市、JETROなど団体規模でのブースを複数出展しており、それら各団体が日本のスタートアップと一緒に参加し、投資家やメディアとのコミュニケーションの場を設けていた。同様の現象は日本に限らず韓国でもみられ、今後アジア圏に限らず幅広い国と地域からの参加が広がるのではないかと期待される。
次回のSlushは約1年後の2023年11月30日から12月1日にかけて、2日間の開催が予定されている。
Slush100の優勝が発表された翌日11月19日、移民のためのプラットフォームを運用する「Immigram」は、ロシアとの関係でソーシャルメディアにて批判を浴びることになった。ウクライナのテックメディア「AIN.Capital」は、ロシアのテック技術者を採用し出国を支援している「Immigram」がファイナリストとして選出されたことを、物議を醸す決断であると述べている(AIN.Capitalの記事)。
Slushの主催者は本件に関する見解をTwitterで表明し、「ロシアの企業やファンドと提携、また、ロシアに拠点を置く企業からのスタートアップや投資家の申請を受け付けない」とし、優勝企業の経歴を「徹底的に調査する」と述べている。また、Slush翌週の11月21日月曜日には、Slushの公式Twitter上で同社の優勝取り消しを発表している(参照)。
この度、SUNRYSEチームがSlush 2022の報告会イベントを開催致します。SUNRYSR MAGだけではご紹介しきれない個別のスタートアップ事例やインタビューの様子、会場内の設置ブースや白熱したピッチバトルなど現地でしか得られないリアルな雰囲気をご紹介いたします。奮ってご参加ください。
場所:オンライン開催(ZOOM)
日時:2022年12月20日(火)19:00~20:00
費用:無料
※本イベントは終了しております。スタートアップ紹介のソリューションをご希望の方は、こちらへお気軽にお問い合わせください。
表題画像:Photo by SUNRYSE
執筆:鬼頭 清香、井田 新
編集:中嶋 清楓、藤澤 みのり
表題画像作成:鬼頭 清香