先進国を席巻する不眠問題とスリープテックの挑戦

不眠問題をはじめ、人類は睡眠におけるトラブルに悩まされている。先進国で顕著なこの問題に対し、今世界ではスリープテックと呼ばれる分野が急成長している。
ヘルスケア IoT 経営者

スリープテックが今、熱い。

Global Market Insightsの報告によると、2019年にスリープテック機器市場は109億USDの規模を超え、2020年から2026年にかけて年平均成長率は16.6%となる見込みだ。

睡眠時間の少なさから職場を含め公共の場で人々が居眠りし、「karoshi」まで起きる奇異な国、そしてその市場にとって、このトレンドは無視できない。

    

不眠問題

成人では平均的に約8時間の睡眠が適切とされているが、OECD加盟国と中国、インド、南アフリカを対象としたOECDによる2016年度の調査では、日本における15-64歳の平均睡眠時間は7時間22分と、調査対象国最短だ。

不十分な睡眠が問題になっているのは日本だけではない。先進国を中心に不眠は共通かつ深刻な問題となりつつある。

AVIVAによるとイギリスにおいては31%の人々が不眠に悩み、30%が不眠に悩むアメリカでは、疾病予防管理センターがこの状況をPublic Health Epidemic(公衆衛生疫病)と宣言している。

不眠は、肥満や心臓病、糖尿病などの健康問題を引き起こし、また寿命を縮める要因となる。不眠の解消が現代社会の喫緊の課題の一つであることは明らかだ。

    

      

パンデミックによる影響

COVID-19パンデミックにより、睡眠に関する問題を抱える人は増えている。

世界中に34万人(2021年2月時点)のユーザーを抱える睡眠計測アプリの"Sleep Cycle"の分析によると、若年層において、気分の落ち込みや孤独感、オンライン学習時間の増加によって、最も睡眠の質が低くなっている。また、アンケートの回答では、「ネガティブなニュースやテクノロジーに触れる時間の増加により睡眠の質が低下したこと」「37%の人々が眠りに落ちるまでの時間が長くなったこと」「半数の人々がパンデミック以前よりも強い不安や心配を感じていること」などがわかった。

    

   

スタートアップの挑戦

このような状況下で、スリープテック業界は活況の様相を呈している。

大手ではBeddit (Apple Inc.)やFillips、Xiaomiなどが続々と市場に参入する一方、英米をはじめとして、今欧米諸国では人々の睡眠不足改善に取り組むスタートアップが多くある。

睡眠の質の向上や入眠を助けるこれらのスリープテックは、COVID-19によるパンデミックにより世界的に睡眠の問題に目を向ける人が多くなったことの後押しも受け、成長している。

不眠と一言にいっても、不眠症から、睡眠時無呼吸症候群 、むずむず脚症候群、ナルコレプシー、睡眠麻痺など、その症状や原因、改善方法は多岐に渡るが、これらのスタートアップでは、睡眠中に検出される生体信号に基づいて、温度や体の位置、睡眠の物理的環境を調整するというソリューションを提供するものが多い。

以下、アプローチ別にそれぞれのスタートアップの具体例をいくつかを紹介する。

     

1. 入眠を妨げるストレスや不安の解消・瞑想アプリ

多くの人々にとって不眠の最大要因となりうるストレスや不安を、アプリ上でのプログラムによって軽減するというアプローチだ。音や指導によって瞑想を促すプログラムが補助的に組み込まれているものも多い。

    

Big Health

効果立証済みの不眠対処方法をアニメーションで提案するプログラム

Big Health

    

Sleep Cycle

睡眠のサイクルを可視化し、ユーザーに快適な睡眠と目覚めを提供するアプ

     

2. いびき防止

いびきは多くの人がかくものであるが、その音が過度になる際、同室で眠る人の睡眠を妨げることがある。閉塞性睡眠時無呼吸の場合には同室で眠る人だけでなく、本人にとっても不眠、そしてさらに深刻な健康問題を引き起こす要因となる。いびき防止のソリューションには、その音量に応じ本人に対して目覚めない程度の物理的刺激を与え、いびきを止めるものが多い。

  

Smart Nora

いびきの前兆を捉えて頭の角度を調整する、革新的な非接触いびき対策機器

Smart Nora

  

Nyxoah

神経刺激により閉塞性睡眠時無呼吸を解消する人体埋め込み型機器

Nyxoah

  

3. 生体信号系

生体信号計測を活かしたソリューションでは、睡眠時の脈や体温、脳波などの生体信号の計測に基づいて睡眠の妨げとなる要因を排除する。スマートフォンのアプリとIoT機器が連携して動作するものが多い。

   

Lumos Tech

眠りを遮ることなく時差ぼけを防止できるスマートアイマスク

Lumos

  

Arenar

脳波計測と光、音によって快眠を促すヘッドバンド

Arenar

  

Kokoon

脳波センサーによって快眠を手助けするヘッドフォン

Kokoon

   

Eight Sleep

機械学習で温度を自動調整する多機能マットレス

Eight Sleep

    

ŌURA Health

医療機器と同程度の精度を持つ指輪型の生体信号測定器

    

新素材・非テック寝具

睡眠中に身体に接触する寝具には主にマットレス、ブランケット、そして枕がある。

枕とマットレスは、フォームの登場以来大きな革新が起きていない寝具であり、多くのスタートアップが革新をもたらすべく挑戦を続けている。

もともと感覚障害を持つ人々のために医療用で使用されていた加重ブランケットは、適度な重みにより安心感を生み出す効果から現在、市場で注目を集めている。

   

Simba Sleep

新素材を活かした多層構造の寝具

Simba Sleep

  

Casper

睡眠を売る、リアル店舗での営業販促というマットレス業界の常識を覆したアメリカ発のスタートアップ

Casper

   

Calming Blanket

適度な重みで安心感を生み出し、快眠を促すブランケット

Calming Blanket

   

以上紹介したスタートアップはほんの一部でしかないが、スリープテックには様々なアプローチがあり、日夜その技術やアイデアは進歩している。

   

SUNRYSEでは会員向けに上記のスタートアップに関する分析を日本語で配信しているほか、世界中のスタートアップの事例紹介や最新動向を提供している。

執筆者
山崎悠介 / Yusuke Yamazaki
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