ブラジルにおいて「WhatsApp Payments」が破壊的とまでは言えない理由

果たしてWhatsAppがブラジルの決済やEC市場における「破壊者」と成りうるのか、その障壁は大きい。
金融

Contxto - 2020年6月、ブラジルのユーザーもWhatsAppで支払いができるようになるというニュースが流れた。もちろん、この計画の首謀者はWhatsAppを保有するFacebookである。しかし、当初の興奮も収まった今、このニュースはその輝きが全てゴールドというわけではないという見方が強まっている。

その裏付けとなる最も重要な証拠は、最近ブラジル中央銀行によって出されたWhatsAppの決済サービスの停止命令だろう。この通知は2020年6月23日に「適切な競争環境の観点」を根拠に通達された。

関連記事:Facebook’s WhatsApp debuts payment service in Brazil

果たしてフィンテックは一般的か?

この問題の根幹の一つは、WhatsAppで決済を行うためには、ブラジル銀行、Nubank、もしくはScredi(いずれもブラジルの銀行や信用組合)の口座を保有していなければならないという点である。

つまり、携帯電話にWhatsAppのアプリをインストールしているだけで、簡単に使えるわけではないのだ。WhatsAppの1億2,000万人の月間アクティブユーザー全員が、今すぐこのメッセージアプリを使って送金ができるようになることはないのである。

また、ユーザーの一部は自身の携帯電話がハッキングされた場合の、詐欺やセキュリティといった問題に関しても心配していることだろう。そのような事態に陥った場合、WhatsAppか、Facebookか、携帯電話の会社か、はたまた金融機関か、一体誰が責任を取ってくれるのだろうか?

法規制との闘い

Facebook/WhatsAppはブラジル当局ともちょっとしたいざこざを経験している。

2015年から2016年にかけ、様々な場面でブラジルの裁判所はWhatsAppのブロック命令を出している。その理由は、WhatsAppが同システムを介して行われた犯罪の捜査に対して、関連情報の開示を拒否したからであった。

皆さんもご存知だろうが、犯罪者を捕まえるためとは言え、テックカンパニーに対してデータプライバシーの侵害を働きかける行為は、その妥当性が大きな議論となっている。

また一方で、2019年後半にはFacebook本体がブラジル政府から罰則を受けるという出来事も起きている。この時は、このSNS界の巨人が「データの不正使用」という名目で100万ドル以上の罰金を課されるという結果になった。

関連記事:Brazil slaps Facebook with US$1.6 million fine for data misuse

つまり、同企業と政府の泥沼の闘いが繰り広げられてきた状況にもかかわらず、ブラジルの人々はWhatsAppを利用してきたのだ。

強力なライバルの存在

もう一つ、政府関連の話題を挙げるとすれば、同社のライバルの存在があるだろう。ブラジル中央銀行は2020年後半には完全無料の決済サービス「PIX」を開始する予定だ。WhatsAppが決済に1日から2日のギャップを要するのに対し、この「PIX」は即時決済が可能になると言われている。

現在、中央銀行はWhatsAppを「公正な競争」における脅威となるとの見方から、なんとその閉鎖を命じているほどだ。

さらに、Facebookは同プラットフォーム内の「Shops」のサービスにおいても、市場の取り合いで厳しい競争に晒されている。ブラジルでは「Mercado Libre」のみならず、地元大手の「Magazine Luiza」もライバル的存在として対処しなければならないからだ。

このように考えると、果たしてWhatsAppがブラジルの決済やEC市場における「破壊者」と成りうるのか、疑問に思わざるを得ないのである。

関連記事:Tech and startups from Brazil!

翻訳元:WhatsApp payments in Brazil may not be as disruptive as you think

記事パートナー
ラテンアメリカのスタートアップシーンの情報をカバーする、メディア・データカンパニー
執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
海外スタートアップの最新トレンドを
ニュースレターでお届け!
* 必須の項目

関連記事