May 8, 2020
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タンパク質危機:肉がなくなる日

人口増や環境問題によってその供給が揺らぎつつある人類最大のタンパク源、肉。今後我々はどうやってタンパク質を摂取するようになるのか。様々な取り組みの最前線を紹介する。
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この記事は翻訳転載であり、配信元または著者の許諾を得て配信しています。
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自身の健康や地球環境問題への関心の高まり、多様化する価値観、動植物のウェルフェア等の倫理課題への懸念…。様々な理由で消費者の食生活の形に変化が起きており、また今後も変化し続けるであろうことは想像に難くない。増え続ける人口に対して限りある資源。食品業界におけるテクノロジーの導入・活用の活発化。SDGsの第2項目「飢餓をゼロに」と言うこの目標達成を考えた際に、上記の様々な要素を掛け合わせて最善と考えられる新しい食生活スタイルの確立が急務である。

この消費者の食生活の大きな変化の1つとして挙げられるのが動物性タンパク質に対する意識・行動の変化だ。実際に「タンパク質危機」と言う言葉がメディアで頻りに取り上げられるようになって久しく、個々人にとっても身近な、差し迫った課題の1つとして多くの関心が寄せられるようになった。

タンパク質危機とは?

全世界の人口は現在約78億人であるが、国連の調査によると、2030年には約85億人、2050年にはおよそ100億人に到達すると予測されている。この人口の増加と世界的な食生活の向上(欧米化・肉食化)によって、食品の需要と供給のバランスが崩れる領域が出てくることは簡単に予測できる。タンパク質は正にその一領域である。1日に必要なタンパク質は体重の1/1000だと言われており、1人当たりの平均体重を50kgと仮定した場合、2050年には年間約1.8億トン(1日あたり50万トン)のタンパク質の供給が必要になる。つまり、2050年には2005年時のタンパク質の約2倍の供給量が必要になるとの計算だが、現在の農業・畜産業の在り方のままでは早ければ2025〜30年頃には需要と供給のバランスが崩れ始めると予測されている。この予測を「タンパク質危機 (global protein crisis)」と呼ぶ。

単純に考えるとタンパク質を含む肉の生産を増やす必要があると言えるが、現在の畜産方法では大量の穀物が必要となり、森林が破壊される点や、いずれ土地も資源も追いつかなくなるといった点が課題視されている。また家畜から発生するメタンガス・温室効果ガスは、全体の発生量の14.5%を占めるとも言われており、持続可能な食生活のスタイルを構築できない。畜産業・漁業等に用いられる魚粉と大豆(二大タンパク質と呼ばれる)についても土地の必要量が追いつかず、同様の課題が見られる。大豆の生産量は、1960年に比べて既に10倍になっているため、これ以上の増量は難しいと言える。また管理の悪い養魚場では、化学物質による水質汚染を引き起こしたり、バクテリアや病気を拡大させて結果的に自然の生態系に影響を及ぼすと言う問題も起こっており、課題が山積する領域である。

つまり現在の方法でのタンパク質の生成・提供では、世界全人口への供給がほとんど不可能であり、また様々な問題を付随して引き起こすと言う課題が見られるため、それに対してのソリューションの必要性が叫ばれている。

「タンパク質危機」に対するソリューション

上記のように、タンパク質危機に関しては20年程前から様々なコンテクストで議論されてきており、World Economic Forumでは2019年時点での世界全体での対応策として、3つのTO DOを挙げている。代替食品の普及、現在の産業農業(工業型農業)システムの改善、そして消費者の意識・行動変革である。ここではこれらTO DOに応えるための具体的な取り組みとして、3つの私たちの選択肢を見ていきたい。

1. 代替タンパク質 (alternative protein)

代替タンパク質とは、動物性食品(動物性タンパク質)の代わりに植物性の原料やその他を使って作られたタンパク質。その主な利点としては、家畜から発生するメタンガスや食肉として加工・処理するまでに発生する二酸化炭素を大きく削減可能であるため環境に優しい産業プロセスと言えること。また、食肉解体処理を要さないため動物のウェルフェアを考慮し、倫理的と言う点でも優れている。

代替タンパク質は従来、植物性のタンパク質・食品(大豆やエンドウ豆の繊維等を活用)を指す名称であったが、現在では植物由来の食品以外にも幅広く動物性タンパク質に取って代わる可能性を持つ食品を代替タンパク質として捉え、研究・開発が進められている。

その市場規模は、Global Information, Inc.によると2018年時点で88億米ドルであり、また2019年から年平均9.5%で成長し、2025年までには179億米ドルの市場規模に到達するとされている(参考)。代替タンパク質の例としては、エンドウ豆の繊維や大豆、マッシュルームなどが挙げられ、ユニークなものでは二酸化炭素由来のタンパク質も出現している。牛乳由来のタンパク質も主流な食品として挙げられるが、牛乳を生産するためには家畜を育てる必要があり、これら家畜から放出されるメタンガスが世界の温室効果ガスの排出量の約14.5%を占めており、広大な土地も必要とすることから環境への悪影響が懸念されている。また既に数多くの製品が出回っている植物由来の代替タンパク質であるが、これらは結局のところ水・土地が必要になり、十分にサステイナブルなシステムを構築できないとの考えも出てきた(ソイフリーの流行理由)。これらの課題の解決策の一つとして現在、昆虫食が注目されている。

昆虫食はその日常への取り入れがグローバル規模で画策されている段階である。一部地域では主要なタンパク源として食されてきた長い歴史を持つ。また、栄養価が非常に高く、少ない天然資源で生成が可能であるため、サステイナブルな産業システム構築のポテンシャルと言う点でも優れている。例えば、1グラムのタンパク質生産のために、牛の飼育には254平方メートルの土地が必要であるのに対し、昆虫は18平方メートルで事足りる(参考)。昆虫を食べる習慣のない国・地域の人々にとっては精神的な障壁が大きいのも事実であるが、2017年にはイギリス、オランダ、ベルギー、オーストリア、フィンランド、デンマークで昆虫食が合法化したことを皮切りに、これまで昆虫を食する習慣のなかった欧米においても抵抗感の小さい昆虫食の提供が進んでいる。

ここで、昆虫を用いた代替タンパク質の研究・開発を進めるスタートアップを2つ取り上げたいと思う。

Entis:コオロギ由来のタンパク質を含む食品を提供するフィンランド発スタートアップ。同社は、昆虫食が人々の日々の食生活に取り入れられるような世界を創出することを目的として、コオロギ由来の食べやすい昆虫食を販売している。昆虫食として高タンパクであるだけでなく、その他の栄養素も多分に含んでおり、鉄分が多いため健康志向の高い女性やベジタリアンなどからも人気が高い。昆虫食の問題である見た目であるが、同社ではチョコレートでコーティングした製品やパウダーにした製品を販売することで、誰にでも気軽に食べられる昆虫食の提供を目指している。

エリー株式会社:世界で初めての蚕由来のオルタナティブフード・代替タンパク食品を提供する日本発のフードテックスタートアップ。

先日、同社が表参道に期間限定でオープンしたシルクフード販売店舗に実際に足を運んだ。

「シルクフード」と銘打った同社の商品は「シルクバーガー」をはじめとして、いずれも“徹底した美味しさ”を追求しており、実際に食べた感想としてもほとんど違和感を覚えない出来であった。実感できたのは、蚕(シルクフード)の特徴でもある“コク”、通常のバーガーよりも若干強い苦味程度であった。

昆虫食以外にも現在注目されている代替タンパク質として、藻類由来のタンパク質が挙げられる。

Algama微細藻類(マイクロアルジェ)を美味しく、健康的にそしてサステイナブルな食品に加工して提供することで、主流の食品原料の1つとして世界中の食卓に取り入れられることを目標とするフランス発スタートアップ。同社は、食品開発のプロフェッショナルとの共同研究・開発を通して“食品イノベーションプラットフォーム”としての地位を築き、近未来的な代替食品を微細藻類を利用して作り出すことを目指している。微細藻類は大きな環境変化に耐えうる生命力の強さを備えており、現在およそ20万〜700万の植物に人間の食生活に取り入れられるポテンシャルを備えた3種類が見つかると算定されている。またその栄養面を見ても、人体にとって有用な様々な成分が多数含まれている。微細藻類の一種であるスピルリナには平均して65%のタンパク質が含まれており、栄養価の高い代替タンパク質として、その生産プロセスでの環境への影響の小ささとともに、革新的な飲食品の開発が期待されている(参考)。

さらに近未来的な一例として二酸化炭素からタンパク質を生成する研究機関も台頭している。

Airprotein: ハイドロゲノトロフ(hydrogenotrophs)という微生物を活用して二酸化炭素からタンパク質を生成。この微生物生成のタンパク質は、動物由来タンパク質と似たアミノ酸スコアを有し、9つの必須アミノ酸を含んでいる。これらの技術は、1960年代にNASAの研究チームが宇宙飛行士への食料供給の方法として発見したものが起源となっており、無臭褐色の粉末上のタンパク質として生成されるため、人工肉に混ぜる方法やプロテイン飲料やバーとして摂取することが予定されている。既存のタンパク質との大きな違いは、水や土地を要さない点である。植物由来のタンパク質と比較して2,000分の1の水分量で、さらに従来数ヶ月かかる収穫を微生物を用いることで数時間で生成可能となるため、サステイナブルな早いサイクルを作り出すことが可能であり、将来的には大量生産が可能になるのではないかと期待が寄せられている。

2. 人工培養肉 (cultured meat)

第二の選択肢としては、研究室等で生成される人工培養肉が挙げられる。代替タンパク質に加え近年注目を集めているタンパク質危機へのソリューションだが、代替タンパク質と比較して現時点ではあまり研究・開発が進んでいるとは言い難く、そのポテンシャルと課題は未知数とも言える。

基本的に培養肉とは、牛や豚から幹細胞を採取して特定の栄養を与え続けることでシャーレ内で出来上がる人工肉を指し、大きさにもよるが、数週間から2ヶ月程度で完成する。従来の畜産業においては、牛の飼育から解体処理、生産に至るまで大量のエネルギーが消費される。また、牛の消化器官から発される大量のメタンガスも温室効果ガスとして環境・気候変動に大きな影響を与えてきた。この点が問題視されているため、牛を飼育・加工処理する必要のない培養肉の存在は、環境に優しい新たな選択肢として期待を集めている。

培養肉の研究・開発を進めるスタートアップの一例としてはオランダの「Meatable」社が挙げられる。

Meatable:食肉業・畜産業におけるタンパク質危機や倫理的課題に対するソリューションの一形態として、本物(自然肉)と区別できないクオリティーの培養肉を研究・開発している。同社は大前提として、肉が好きで肉を食べたいという人間の気持ちが自然のものであると考えており、その上で地球環境全体に悪影響を与え、動物に対して残酷な仕打ちをしでかす工業型農業(産業農業)の現在の形を改善し、農業・畜産業のあるべき姿形を模索すべきであるというミッションを掲げている。豚や牛を全く傷つけることなく細胞組織レベルでそのサンプルを採取し、その資質や筋肉の成長をそっくりそのまま研究室で再現する。この手法を用いることで、動物の食肉解体処理を行う必要がなく、また本来3年かけて行われる畜産業のプロセスを3週間ほどに短縮することも可能であるため、よりサステイナブルな循環を作り出すことができる。従来の畜産業で要される水の96%を、土地の99%を削減可能であり、また再生可能エネルギーを生産プロセスに導入することによって温室効果ガスの発生もさらに減少できるため、より環境に優しいタンパク質を作れると期待が寄せられている。

しかし上述のように、研究と開発が十分ではないため、そもそも培養肉が「本当に環境に優しいのか?」という疑問もまた否定できない。WIREDにおいても、ラボで生成された培養肉の安全性と環境への影響の実情について議論されている。確かに現在の畜産業において、環境問題の大きな要因が見られるが、同時に培養肉生成のために要されるエネルギーやそれに伴う二酸化炭素の排出等、環境への影響が未だ数値化できていない側面が大きく、今後、日常生活に人工培養肉を取り入れていく上でも課題の1つとなるだろう。

3. ベジタリアン・ヴィーガニズム

第三の選択肢として、肉をそもそも食べないと言う選択肢があげられる。所謂ベジタリアン・ヴィーガンと呼ばれる志向の消費者がこれを選択した人々であり、欧米を中心にその人口は拡大している。アジアではまだそこまで浸透していない文化だが、近年のグローバリゼーション、価値観の多様化、より健康なライフスタイルへの関心の高まり等、ベジタリアン・ヴィーガンが普及する土壌は既に整っていると言える。

ベジタリアン以上に徹底した食生活を送るヴィーガンの健康面での懸念についても、その志向の広がりと共に多様な製品が開発・提供されるようになり、十分に健康的にヴィーガン生活を送ることが可能になった。ヴィーガン食品の検索サイト「Bestie」を覗くとその種類の豊富さに驚く。上記の代替タンパク質や培養肉を一例に、その他の関連製品についても様々な代替食品が存在し、ますます多くの消費者がその食生活に、あるいはその一部としてこの選択肢を採る日も近いのではないだろうか。

私たちの選択肢と新しい食生活

我々の食生活には多くの選択肢と自由が広がっているのと同時に、様々な外的要因もあり、最善の食生活スタイルの確立もまた急がれている。個々人がただただ自身の食生活に満足感を覚えているだけでは、サステイナブルな世界観を創出することはできない。より環境に配慮し、かつ個々の健康促進も可能である新しい食生活の選択肢として今回は代替タンパク質・食品を見てきた。その勢いのある発達・発展に将来性を見出せるのは事実であるものの、課題が山積する領域の1つであることもまた間違いない。そこに存在するだけではなく、実際に消費者が選択できる距離感にこれらの存在を置く必要があり、グローバルに見ても、日本国内で見ても、そこに大きな課題が転がっているように思える。

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