リモートワークは決してユニークな概念ではなく、これまでは働く上で主流の選択肢でもなかった。しかしかつては主にフリーランサーやオンラインビジネスのオーナーが利用していた選択肢が、今では「仕事の新しい常識」とみなされている。
フェイスブックのような世界的なテクノロジー企業の多くは、2020年の大半は在宅勤務に切り替えることを発表した。ツイッターは従業員に対して、リモートワークで働く選択肢を「永遠に」与えるとも言及している。
リモートワークへのシフトは、企業にとって健全なワークカルチャーを維持することほど難しくはないかもしれない。一方で生産性の欠如やチームへの相互作用、そして信頼性に対しての疑問が生じてきたことから、長年にわたり、リモートワークにはネガティブな印象もあった。
しかし新型コロナウイルス感染症という不測の事態により、企業は「ニューノーマル」と呼ばれる新しい生活様式へのシフトを余儀なくされている。
新型コロナウイルス感染症の大流行をうけて、「PropertyGuru」も決して惜しむことなく変化を遂げていった。「PropertyGuru」はシンガポールやインドネシア、マレーシアやタイ、そしてベトナムといった市場で強い存在感を示す、シンガポール拠点のプロップテック(不動産テック)の巨人である。新型コロナウイルス感染症の流行以来、同社も従業員が自宅で仕事をするために、様々な手配をしなければならなかった。
現在従業員の80%は生産性が向上したと報告している。「PropertyGuru」のChief People's Officer(CPO)であるGenevieve Godwin氏は、対面での交流がほとんどない期間において、生産性が高く、つながりのあるダイナミックなリモートチームを作るための鍵となる要素として、共感の価値を強調している。
「危機的な状況下でも従業員の面倒を見ていれば、好調な時に従業員があなたの面倒を見てくれる」と彼女はe27に話した。今回のインタビューにおいてGodwin氏は、強いチームの結束を維持し、予期せぬシナリオの中でダイナミックなリモートチームを確立することについても言及している。
オンラインなどの仮想空間での相互交流は物理的な交流とは同じではないという意見や、リモートワークは従業員の注意力を散漫にしてしまい、重要業績評価指標(KPI)の達成ができないという意見もいる。
Godwin氏は従業員の1時間ごとの追跡は現実的ではないと認めている。例えば、オフィスで仕事をしている場合は、マネージャーは従業員のなかで誰が多く働いていて、誰が遅刻しているかが簡単にわかる。しかしリモートチームではそれが不可能であるため、時間を重視したプロセスではなく、目標を重視したプロセスでなければならない。
さらに彼女は、リモートワークは社員の最も「本質的な」状態をみる機会だと捉えており、より深いつながりを形成するための重要な要素であるという。
「私はすべてのミーティングを、広がりやつながりのある質問から始めるようにしている。例えば『新型コロナウイルス感染症が落ち着いたら、休日はどこに行きたいか?』という些細な質問でも、人々が自分自身を表現したり、仕事で本来の自分を表現したり、他者とつながりをもったりするのに役立つ」
「世界的な感染症の大流行は、人々が本物の自分を職場で表現する例外的な状況である点も考慮しなければならないと考えている」と彼女は付け加えた。
「ビデオ会議中の家の様子がどのようなものであったとしても、会議中に子どもが膝の上に座っていたとしても、仕事には問題がない。状況によっては、子どもの3級の算数の問題に対応するために、ビデオから退出しなければならないかもしれない。今人々が本来の自分の姿で仕事に向き合うようになったことは、仕事を進めるうえで不可欠だと考えている。私たちは皆異なる時間帯に仕事をしているが、そういう状況だからこそ、リモートワークでは労働時間よりも結果や成果に焦点を当てるべきである」
ソフトウェア会社のSAPやQualtrics、Mind Share Partnersが公表した調査では、2020年3月から4月にかけて、オーストラリアやフランス、ドイツやニュージーランド、シンガポールや英国、そして米国の2,000人以上の従業員を対象に、研究者が調査を行った。その結果、仕事の燃え尽き症候群のレベルや孤立感が上がったため、40%の人がメンタルヘルスの低下を体感していることが判明した。
Godwin氏は、経営者がテクノロジーを活用し、従業員が物理的に近い場所で楽しんでいた社会的な取り組みを、バーチャルな環境でこれまで以上に実現しなければならないと考えている。
「究極的には私たちの“gurus(PropertyGuruの従業員)の健康と幸福が、常に我々の優先事項である。この考え方が、新型コロナウイルス感染症の流行の間に私たちが下した全ての決断を支えてきた」
「私たちは職場で楽しめる社会的な取り組みを作り、それをリモートで働く全社員に届けたかった。チームと一緒に料理セッションを開催するような小さな活動でも、社内にチームの絆を生み出すことができる」と彼女は話した。
しかし単に楽しいアクティビティを実施するだけでは、従業員が大切にされていると示すことはできない。チームメンバーのキャリアや個人としての成長に付加価値を与えることが、より強いつながりを育むためにも重要である。
Godwin氏は従業員が継続的に学び、成長できる環境を作ることが彼らのリテンションに最も重要であると考えている。
「私たちが現在実施している大きなプロジェクトの一つに、『ジョブ・アーキテクチャー・プロジェクト』というものがある。これは人々が自分たちの置かれている状況を十分に理解して、より明確な意識を持つことができるように、すべての役割の中で明確な能力を確立しようとするものである」
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ヨーロッパや中東、アジアやアフリカの様々な国で働いてきた経歴をもつGodwin氏は、異なる背景や文化を持つ人々との交流が、人々の才能の開発や構築への情熱につながっていると感じている。
私は人事のプロになりたいと言う子どもは多くないと思う。しかし、子供の頃の私は、国際的な文化や旅行、様々な国に興味を抱いており、それが現在の自分のキャリアにつながり、多様な背景バックグラウンドをもつ人々と働くことが、共感の価値を教えてくれた」と彼女は締めくくった。