2020年のはじめ、COVID-19のパンデミックが私たちを襲い、我々の生活は崩壊した。一連のロックダウンと世界的な行動制限により、世界の労働者はある種の大規模な「実験」に参加することを余儀なくされたかのようであった。既存の業務プロセスが試され、企業は、状況に合わせて施行される施作へ対応しなくてはならなかったのだ。
パンデミック以前、世界最大のハイテク企業が唱えていた「Work smarter not hard」(一生懸命働くのではなく、賢く働こう)」という言葉により、無料のランチやオープンコンセプトのオフィス、育児休暇の日数延長などは革新的な職場のゴールドスタンダードとなっていた。これらのオフィスの特典のほとんどは無くなり、仕事というものは中心へと立ち返った。中心とはすなわち、人のことだ。
ある研究によると、幸せな従業員ほど組織の目標を達成するためによく働くことがわかっている。自分の居場所があると感じている意欲的で幸せな従業員は、仕事においても優れており、会社の業績にプラスの影響を与えるのだ。
私は自分の会社である「AlphaLab Capital」が発展していく過程で、このことを身をもって学んだ。共同設立者のMichal Krasnodebskiと私は、外部からの投資を受けずに、自分たちが信じるコアバリューに基づいて会社と文化を自由に作ることができたのだ。それはつまり、従業員が楽しく働くことのできる職場である。
私たちは従業員一人ひとりが貢献し、成長し、優れた成果を上げられる職場を作り、自分たちが働きたいと思える環境を作ることを大切にしてきた。
パンデミックのニュースが流れ、非エッセンシャルワーカーにおいては在宅勤務がデフォルトとなった。そのような不確実性を持ち急速に変化する状況の中であっても、私たちは乗り越えるための手段を講じていた。一方でパンデミックの前に設けたプロセスは、生産性を維持しながら混乱を減らし、会社を継続する上で大いに役立ったのだ。
人を大切にする文化を育むための万能なアプローチというものはない。そこで最善の方法を求めてさまざまな方法を試した結果、以下の通り学びを得られた。
物理的、精神的な環境が従業員の生産性に大きく影響することは周知の事実である。今世紀に入り、物理的な面においては、個人用のキュービクル式ワークステーションから「オープンコンセプト」のワークスペースへの驚異的なシフトを目の当たりにするようになった。
このシフトの目的がコスト削減であれ、コラボレーションや生産性の向上であれ、オープンコンセプトのオフィスは本当に全員にとってメリットがあるものなのだろうか?またパンデミックの影響でより多くの企業がハイブリッドな勤務形態を導入している今、すべての人にとって安全で、快適で、協力的な環境を提供するためにはオフィスをどのように再構築すればよいのだろうか?
技術系の環境、特にソフトウェア開発の現場では、オープンコンセプトは、直感的には有害無益かもしれない。従業員がお互いに接近しやすくなることで協力しやすくなるように見えるかもしれないが、個々人にとっては役立つどころか気が散ると感じられうるのだ。
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ソフトウェアエンジニアのために設計された「AlphaLab」のオフィスは、両者の長所のいいとこ取りだ。ミーティングや交流のためのゾーンでは情報のコラボレーションを促し、専用のワークステーションルームは気が散らずに仕事ができるようになっている。
Michalが「Shutterstock」に在籍していた頃行った社内調査によると、10,000件以上のミーティングのうち61%が2人ペアや小グループで構成されていた。その経験をヒントに私たちは2年分のミーティングを分析し、新しいオフィスとミーティングルームの設計に役立てた。
使われていない大規模な役員会議室を廃止、代わりに小規模な会議室を設置することでより迅速で集中的な議論を可能にし、広いスペースはソフトウェアエンジニアが安心して仕事ができるよう割り当てたのだ。
リモートワークやハイブリッドワークが当たり前になってきた今、職場におけるオープンなコミュニケーションと真摯なフィードバックの継続がこれまで以上に重要になってきている。社員が率直に発言できる環境を整えることで、チームメンバーにおける仕事への意欲と価値を維持することができるのだ。
「Google」が行った「Project Aristotle」の調査では社内180のチームについて調査を行い、チームワークを成功させるためには心理的安全性が最も重要だと判明した。「Harvard Business School」のAmy Edmondson教授は、心理的安全性を "belief that one will not be punished or humiliated for speaking up with ideas, questions, concerns, or mistakes."(アイデアや質問、懸念、ミスなどを発しても、罰せられたり辱められたりしないという信じられること)と定義する。
「AlphaLab」では、月に一度のアジャイルな(素早い)レトロスペクティブ(振り返り)において、役割や階層に関係なくチームの全員がフィードバックを共有し、アイデアや案を提示することを推奨している。
このようなエクササイズを行うことで、マネジメントやワークプロセス、さらにはソリューションに関する貴重な洞察が得られ、問題に効果的に対処できるようになるのだ。これらのミーティングでは、より多くのアイデアがより良いアイデアへと繋がるように相互交換が行われ、さらには計画プロセスに変化をもたらしてきた。
オープンなコミュニケーションは月に一度の「全員参加」のミーティングにとどまらず、私たちはすべての問題について全社員からのフィードバックを常に求めている。私たちの社員は、非難を避ける改善の考え方によって厳しい真実を述べ、率直なフィードバックを処理する権限を与えられているのだ。これは、進歩と絶え間ない改善を促す学習環境を整備する上で非常に重要なことである。
また私たちは自己管理を重視しており、従業員が自分のアイデアやブレークスルーにオーナーシップを持つことを奨励している。トップダウンの管理体制ではない代わりに、従業員は自らの成果に全責任を負うのだ。分権化されたプランニングのためのミーティングにより、スタッフは自分の責任と残務を抱えるため、いつ、どのように仕事をするかはすべて彼ら次第となっている。
その他にも、社員には無制限の休暇を与えている。なお現在はパンデミックの影響で行動が制限されているため、この休暇は十分に活用されていない。ただ、この制度により、説明責任の文化が促進されるとともに、従業員は職場で力を与えられ、信頼されていると感じることができるのだ。
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私たちは、業務プロセスを超え、社内における自己管理とオーナーシップを奨励している。私たちはすべての従業員に、誇りを持ってインフラやコアトレーディングテクノロジー、さらには戦略策定などビジネスのあらゆる部分に幅広く関わる機会を与えているのだ。流動的な役割と責任を担いながら多様なチームと直接仕事をすることで、たとえインターンであっても、全員が自分の興味を発見し、潜在的な成長分野を開拓する力を得ることができるのだ。
当社には、最初はエンジニアとして採用されたものの、ビジネスのさまざまな側面に取り組むことを許されることでクオンツトレーディングへの興味と適性を身につけ、クオンツに転向した同僚が2人いる。
COVID-19があろうがなかろうが、この業界は前進し続けている。人を第一に考えることは、現在の状況を良好に保つだけでなく、将来のための基礎を築くことにもつながるのだ。私たちは、経済が回復する中でも成長を続けるために、将来の世代のエンジニアに投資することが重要だと気が付いた。
他の企業がインターンシッププログラムを中止し始めた時、「AlphaLab」は反対のアプローチを取り、桁違いのインターン生を採用した。現在8名のインターン生(高卒者を含む)がおり、彼らは十分なサポートを受けながらチームに大きく貢献している。
インターンシッププログラムは、単に採用パイプラインを強化するものではなく、教育と機会が人生を変える力を持つという信念に基づいたものだ。インターンシップ生は、実践的な経験を積むことで、入社するしないにかかわらず、希望するキャリアパスを歩むための足がかりを得ることができる。
大局的に見れば、情熱を追求するエンジニア志望の学生にトレーニングと経験を提供することは、シンガポールの未来に投資し、成長産業に貢献するための私たちなりのやり方だ。いわば”a rising tide lifts all boats”(上げ潮はすべての船を持ち上げる)である。
変化のペースが速く、技術の進歩が企業にとって創造的な力にも破壊的な力にもなり得る業界では、スキルアップが重要となる。従業員にはスキルアップの機会を求めることが奨励されており、私たちは彼らの成長をサポートしている。従業員は自分のスケジュールを管理できるため、勤務時間中に休みを取って授業に出席することや成果物に合わせて教育を受けることも可能である。
私たちは、機械学習の学位を取得したり、修士課程に進学したりするなど、入社してから学問への挑戦を始めた社員が何人もいることを誇りに思っている。
職場におけるオーナーシップと従業員のエンゲージメントを育むためのこれらの様々な方法は、新しい規範の中でも有益であることが証明されている。生産性と知識の共有は過去最高の水準を維持しており、これは物理的な距離の近さがすべてではなく、従業員のエンパワーメントが重要であることを示しているのだ。
私たちは、すべての従業員がイノベーションのための直感を刺激され、仕事を楽しむことができる適切な環境を提供するよう努めている。また最近には、誇らしいことに「Great Place to Work」認定を受けた。当社の、人を大切にする企業文化は、従業員が成長すれば、彼らを育てるために努力している会社も成長するということを反映しているのだ。
翻訳元:https://e27.co/power-to-the-people-ways-to-build-a-people-first-culture-20210804/
表題画像:Photo by Brooke Cagle on Unsplash (改変して使用)