製薬業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)

製薬業界にDXを導入するためにできることは何があるだろうか。ここでは実際にDXを推進している海外のスタートアップ企業の事例を紹介しながら、製薬業界に導入できるDXを考察する。
ブロックチェーン ヘルスケア LGBTQ ディープラーニング EC 研究機関

製薬業界にDXを導入するためにできることは何があるだろうか。ここでは実際にDXを推進している海外のスタートアップ企業の事例を紹介しながら、製薬業界に導入できるDXを考察する。

 

COVID-19がデジタル化をグイと強く後押ししたことは明らかだ。オフィスビルや実店舗は閉まり、しかしながらドラッグストアには客が押し寄せ、在宅勤務が一気に浸透した。

pharmaphorumによると、2020年6月、米国・英国・ドイツ・オーストラリア・フランス・スペイン・イタリア・シンガポール・日本の企業の意思決定者に質問したところ「医療関係者の74%が、COVID-19危機の結果としてデジタル変革を加速した」と述べたと言う。

 

 

2020年に製薬業界が受けた影響

新型コロナウイルス(COVID-19)により、製薬業界も影響を受けた。

  • 患者数、病床利用率の減少(受診入院抑制傾向)

  • MRディティールの減少(特に2020年4月、5月は前年同月比約70%近く減少)

  • 上記2点を起因とする、売上の減少

製薬各社、具体的な品目の売上が減少している。日本国内の企業や品目においては、協和キリン株式会社、塩野義製薬株式会社、久光製薬株式会社などの事例を調べることができた。協和キリン株式会社の抗アレルギー剤「パタノール」「アレロック」は、20年12月期上期、それぞれ前年同期比25%減、28%減となった。塩野義製薬株式会社は国内の感染症薬群が上期計画71億円に対して4~6月期は21億円にとどまった。久光製薬株式会社は消炎鎮痛剤「モーラステープ群」において3~5月期、前年同期比15.7%減となった。

売り上げの減少だけでなく、グローバルや国内戦略品目の浸透への遅れや、必要な臨床開発や治験にも影響が出た企業もあった。

 

 

「製薬会社に求められる対応力」

PwCは、製薬会社に求められる新型コロナウイルス感染症への対応を7つ挙げている。それは事業継続計画の見直し・人材の再配分・リモート業務へできる環境整備・情報共有のための仕組み整備・サプライチェーン・財政基盤の強化・事態収束後の準備、だという。

同社の提供するヒントの中には、「DXを推進するよう奨める」文言はほとんどない。導入が当然として論じられている点に注目すべきだろう。

「2020年に製薬業界が受けた影響」で実際に出た3つの影響を挙げた。もし、規制などが緩和され、医師と患者のオンライン診療や、テレビ電話やビデオ通話を経て医師とMRが連絡を取ることのできる手段や経路が構築され、薬が自宅に届く仕組みが浸透していたら、各社の数字や各業界の結果や何かが違った可能性は高い。

 

 

製薬業界が導入するべきDX

マッキンゼーは2014年に「製薬会社が手遅れになる前にデジタル戦略を導入(または再発明)しなければならない」と説いている。

挙げている理由は5つある。患者の行動が変化していること、政府機関が驚くほど速く動いていること、試験データは必要だがもはや十分ではないこと、ヘルスケアが進化していること、競争はより速くそしてより激しいこと。これらが提唱されていた2014年の時点でDXへすでに動いていた企業もあるが、そうではない企業はまさに5つ目の理由に巻き込まれるのかもしれない。「競争はより速くそしてより激しい」。

 

研究分野ではどのようなDXを導入できるだろうか。デジタルおよびデータ分析ツールでデータサイエンスを導入すると、臨床試験の一部のプロセスをリモート化もしくは仮想化することができる。慎重な温度管理を要する医薬品の温度管理や、管理における改ざんや盗難防止にもテクノロジーを導入し、問題点を解決できる。

営業分野ではどのようなDXを導入できるだろうか。クライアントである病院や医師に対して継続的に更新され続ける製品情報を随時提供することができるようになる。紙ベースのカタログや冊子を持ち運ばなくていい。また薬局での在庫管理が容易になる仕組みを導入することもできる。

 

 

患者や消費者は医療のデジタル化を歓迎するのか

では製薬会社が提供する医薬品を利用する患者や消費者は、デジタルトランスフォーメーションをどう捉えるだろうか。医療のデジタル化を歓迎するだろうか、いや、しない患者はいるだろうか。

アメリカでは患者の70%以上がオンラインでヘルスケア情報を検索し、40%以上の人がネット調査で自分の状態を診断し医師の診断も受けた。

日本のスマートフォン保有率は約78%、アメリカは約93%だ。自分の健康をケアするためのアクションがスマートフォンを通じて行えるあるいは自宅で完結するかもしれないサービス等があれば「利用してみたい」と思う人はいるだろう。自宅内を歩くことさえ困難な人は、病院に行くために家族や医療従事者のサポートを要する。もし手にしているスマートフォンでいつもの先生と話ができたら、どうか。

また、患者は治療や自分の服薬する薬に関する情報の透明性を求めている。治療の有効性を「うまく噛み砕いた医師からの説明」ではなく、データとして自分で把握し、自分にできることには何があるのか正確に捉えたい人もいるはずだ。少なくともわたしの知るかつての癌患者の女性はその時、自身の診断結果と置かれている状況を正確に知りたいと言っていた。

患者の情報にブロックチェーンを導入すると製薬会社や研究機関は改ざんされていないデータを利用でき、患者は自身のデータ提供を通じて利益を得るなど経済性を持たせることもできる。

DXの導入は、医療機関、製薬会社とその研究機関、そして患者を幸せにする。我々が手にしていた携帯電話がスマートフォンに代わり、3Gから4Gへ、そして5Gを利用しようとしていることと同じように自然に、業界に浸透していいものだと言える。

我々が2020年の事態に対してスペイン風邪を引き合いに出したように、新たな感染症が流行し拡大する未来はまた発生し、その時、COVID-19は事例として引き合いに出されるだろう。

今、DXを推し進めて、「その時」に人類がよりうまく対処することができる未来を描きたい。

 

 

ヘルスケアや製薬にDXを導入し課題を解決しようとする世界のスタートアップ企業とそのテクノロジーと製品

関連業界連動型

Med+me

https://sunryse.co/app/startups/r_nj7Z6AHCzcaKcBC

ブロックチェーン技術の活用により、医師と患者、病院、保険・製薬会社をつなぐ総合医療プラットフォームを提供

 

Forward Clinical Ltd

https://sunryse.co/app/startups/r_qxwutzvpfzubamt

医療関係者のためのヘルスケアコミュニケーションサービス

 

BrainTrip

https://sunryse.co/app/startups/r_fkgwprmdsuqxedo

安価・安全・短時間での認知症検査を実現

 

Swift Medical

https://sunryse.co/app/startups/r_fmzjubyvzwybjad

創傷の写真を撮ることで症状の分析や治癒過程の記録を行えるソフトウェアを開発

 

R&D

GINKGO BIOWORKS

https://sunryse.co/app/startups/r_qzbdpasdrnzunyh

機械学習と生物工学を活用したDNAプログラミングを通じ、様々な業界の革新を目指すアメリカの研究機関

 

OaCP

https://sunryse.co/app/startups/r_nwQJg2k6Mms3hWS

癌患者の遺伝子検査時間とコストを大幅に減らす試薬を開発・提供

 

Sano Genetics

https://sunryse.co/app/startups/r_2bhMEoxphJakzkn

DNAデータ分析 個人に最適化された医療データを提供するとともに、研究機関にDNAデータを提供

 

Senorics

https://sunryse.co/app/startups/r_sZjtmjZ4ooM0zgL

あらゆる素材の成分や構成要素を認識・分析するハードウェアとアプリを提供するドイツのディープテック企業

 

FINNADVANCE

https://sunryse.co/app/startups/r_ryjzrqlhestlseh

in vitro微小血管ネットワーク生成用のマイクロ流体デバイスを開発

 

biotx.ai

https://sunryse.co/app/startups/r_qfeogvytmwrigoi

ワイドデータの分析で「ノイズから価値を発見」

 

GNS Healthcare

https://sunryse.co/app/startups/r_cmrbnpszaqnzlyv

機械学習と因果推論を融合した技術で、医薬品に対する患者の反応とその原因を探るプラットフォームを展開

 

BenevolentAI

https://sunryse.co/app/startups/r_vgmtpisfkwyfhps

機械学習によって創薬プロセスを改善・加速

 

Roivant Sciences

https://sunryse.co/app/startups/r_gpycvkuqnekxsyd

大手製薬会社が開発を中止した新薬候補を買い取り臨床試験を成功へ

 

 

自宅完結、toC製品

Legacy

https://sunryse.co/app/startups/r_pu2l8ISQzh7WcwJ

クリニックを訪問する必要のない自宅で完結する精子検査キットや精子の冷凍保存のサービスを提供

 

Queerly Health

https://sunryse.co/app/startups/r_YIG9VbDWwxxHXGH

LGBTQコミュニティの人々にヘルスケアを提供

 

Nectarine Health

https://sunryse.co/app/startups/r_ordwhedpcggfacb

高齢者のリモートケアを可能にするリストバンドを提供

 

thriva

https://sunryse.co/app/startups/r_zdrqtgwrohhuxul

自宅でできる針刺し血液検査を用いて、現在の健康状態を簡便に知ることができる

 

NURX

https://sunryse.co/app/startups/r_zqbghqxrgsecbtp

避妊をもっと手軽に。オンラインで避妊手段を確保

 

Vivoo

https://sunryse.co/app/startups/r_Jl2PnQKZuMgGvEC

尿から健康状態を分析し、人々の食生活や生活習慣の改善を支援する検査キットを開発・販売

 

DotLab

https://sunryse.co/app/startups/r_owjeggqvjmagrpl

自宅で簡単にできる採血キットの送付で、女性の10人に1人が持つと言われる子宮内膜症の早期診断を実現

 

 

患者が利用、toC製品

VineHealth

https://sunryse.co/app/startups/r_CuBDKpULgZ4K139

ガン患者の闘病生活の自己管理をAIでサポート

 

Halodoc

https://sunryse.co/app/startups/r_2P0SjdcGICDhCX4

患者を医師、保険、研究室、薬局と結び付ける医療技術プラットフォームアプリケーションを提供

 

Nutrix

https://sunryse.co/app/startups/r_R0j8SiTWXCOL2LB

スイス発、巨大市場「糖尿病」にナノセンサーを活かしたモニタリングサービスを提供

 

Vezeeta

https://sunryse.co/app/startups/r_ltqlelsjnzfbgbx

医者をアプリ上で選択し予約できるサービスを提供

 

Popit Ltd

https://sunryse.co/app/startups/r_owbnhztiledaecl

毎日の服薬をトラッキングして「あ、今日飲むの忘れた!」を防ぐスマートデバイス

 

Ciitizen

https://sunryse.co/app/startups/r_dalxajkhmtupggf

進行性および転移性乳がん患者へ診療記録を完全無料で100%公開するプラットフォーム

 

Alto Pharmacy

https://sunryse.co/app/startups/r_irxorcyplppjowf

処方薬をより低価格で家まで配送してくれる、デジタル薬局サービス

 

Liki24

https://sunryse.co/app/startups/r_gmxxgbynjtdlzzh

5000以上の薬局にサーチをかけ通常の30%安い薬を配達

 

Ro

https://sunryse.co/app/startups/r_htffgniuzzeriej

診断から薬の配送まで、オンラインでのヘルスケアサービスを提供

 

Cove

https://sunryse.co/app/startups/r_zqzutfmudasrzxv

偏頭痛患者に特化したカウンセリングやパーソナライズ処方サービスを提供

 

 

診療関連

Ferrum Health

https://sunryse.co/app/startups/r_cwassvkgwqbzkmq

医療過誤の防止に取り組むAIモニタリングプラットフォームサービス

 

Clinikk

https://sunryse.co/app/startups/r_avnoflzzbpujiim

インド中にヘルスケアを!オンライン受診を可能に

 

 

ヘルスケア分野で流用できるEdTech

UtilityAR

https://sunryse.co/app/startups/r_hjcqbllcgvohjlr

ARスマートメガネで「インダストリー4.0」を実現

 

InSimu

https://sunryse.co/app/startups/r_ydmsokdkqgqegpw

医学生のスキルアップのための臨床推論シミュレーションアプリを提供

 

Digital Surgery

https://sunryse.co/app/startups/r_qlwfrqqwrasocqu

いつでもどこでも手術トレーニング 外科医のためのAI搭載トレーニングアプリ


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SUNRYSEは組織をアップデートし続けるための世界のイノベーション情報データベースです。最先端の海外スタートアップ情報を得ることができます。導入企業ではDX・新規事業・経営企画・人材育成・オープンイノベーションにご活用いただいています。

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日本語での情報が圧倒的に不足している海外スタートアップ情報を、 独自の取材とグローバルネットワークによりリサーチしたレポートを読むことができます。世界30ヵ国以上のスタートアップ企業情報を日本語にて累計6000社以上配信する、 法人会員型データベースです。

SUNRYSEの活用方法 新規事業のリソース探しや、M&A•CVCでの利用に加え、オープンイノベーションへの人材育成等、海外スタートアップを探すさまざまな目的で活用が可能です。

ぜひお気軽にお問い合わせください。

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参照:

  • 日刊薬業「製薬業界へのコロナ影響、徐々に浮き彫りに 各種データや業績発表で」

  • PwC Japan「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を機に考える製薬会社に求められる対応力」

  • McKinsey & Company「A digital prescription for pharma companies」

   


執筆:古川 絵理

執筆者
古川 絵理 / Eri Furukawa
PR / Writer
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