誰かのゴミが、宝になる:インドネシア発スタートアップの挑戦

海洋を漂うプラスチックごみの問題が、近年大きな注目を集めている。持続可能なプラスチック利用を目指すインドネシア発スタートアップの挑戦を追う。
SDGs・ESG

Dian Kurniawati氏とDinda Utami Ishlah氏は、2014年からインドネシアのリサイクル産業について研究を進めていた。2人はビジネスを通じて環境問題を解決する仕組みの構築を目指していたのである。

そして2人は2014年「Tridi Oasis(トリディ・オアシス)」を立ち上げたが、事業がスタートしたのは2017年のことだった。同社のCEO兼CFOであるDian Kurniawati氏は、e27に対して「私は2011年に事業計画コンテストに真剣に参加した時から、リサイクル業界について真剣に考えていた」と語っている。

工学と経営学を学んだKurniawati氏は、社会と環境に強い関心を抱いていた。彼女が将来の共同創業者であるDinda Ishlah氏(COO)と出会ったのは、2人が石油やガスを扱う会社で働いていた時のことだった。

「私たちが起業した2014年というのは、プラスチックがどれほど環境を汚染しているのか、ほとんど認識されていなかった。当時はテック系の新興企業ばかりに注目が集まっており、資金調達も難しかった。また、男性優位の業界において私たちが若い女性であることから、様々な質問を受ける場面も多かった」と Kurniawati氏は振り返る。

1.ゴミは新しい可能性になる

2人は環境ビジネスを立ち上げた経験やバックグランドをもっていなかったが、課題解決にむけて情熱を注ぐことで事業を拡大してきた。

「最初は自分たちですべての資金を調達。様々なプラスチックを使って実験を行い、需要を予想して、ビジネスモデルを作り上げた。そして研究を重ねるうちに、ペットボトルの廃棄物に焦点を当てることを決めたのである。わからないことは、なんでもグーグルで検索した」とKurniawati氏は振り返った。

現在はリサイクルPETを主要製品として導入している。PETとは、ポリエチレンの一種であるポリエチレンテレフタレートのことで、ペットボトルをフレーク状にした原料である。

「これらのフレークはポリエステル繊維に加工できるため、衣類や靴(ペットボトルを原料にした靴を作る『NIKE』などが好例である)の糸になる」という。それ以外にも、新しい包装材やダクロンの詰め物の材料にもなる。

この循環はまさに持続可能なサイクルの構築につながり、彼女たち2人がまさに目指していたものである。

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「私たちは普段、ゴミ収集家のほか、スカベンジャーからペットボトルを購入する人々から、ペットボトルを手に入れている。また、レストランや学校、集合住宅の廃棄物バンクから直接入手する場合もある」とKurniawati氏は話す。

新型コロナウイルス感染症が流行する前には、同社は定期的に海岸で清掃活動を行っていた。環境保全への取り組みとしてだけではなく、必要なペットボトルを入手するための活動である。ジャカルタを拠点としたビーチクリーンアップ組織も設立し、他の4つの組織と一緒に定期的に清掃活動を実施しているという。

トリディ・オアシスはペットボトルを集めた後、施設内の機械でペットボトルをフレーク状に処理し、顧客に再販売する準備を行う。

2.廃棄物問題を解決する需要の創出

インドネシアは世界第2位の海洋プラスチック排出国であり、プラスチック汚染はインドネシアにとって大きな問題となっている。インドネシアでは今後も人口と経済成長が期待されており、プラスチックの消費量も増加することが予想されている。

現在の廃棄物管理システムは、今後発生する大量の廃棄物を処理するのに十分なシステムとはいえないだろう。廃棄物の管理に関しては、インドネシアは周囲の国々からとてつもなく後れを取っているという。

Kurniawati氏はさらに、政府による廃棄物管理の重要性を強調している。「政府が義務的なリサイクル施策を導入すれば、より大きなインパクトを生み出せるだろう。例えば、プラスチックを含むパッケージを使用するすべての製品が、一定の割合でリサイクル素材を使わなくてはいけないというルールなどが考えられる」。

このような施策は、関係するすべての当事者に利益をもたらすだろう。「プラスチックを使用している企業は規制を遵守するために、リサイクル会社と提携する必要がある。このように様々なステークホルダーが意識を改善し、責任感をもつことが必須である」とKurniawati氏は語る。

3.プラスチックゴミの背景にある問題

より長期的に大きな絵を描くためには、廃棄物問題の原因を丁寧に洗い出し、その根源に迫ることから始める必要がある。「単にプラスチックを排除するのではなく、プラスチックを使用するうえでどこに問題があるのかを考えるべきである」とKurniawati氏は言った。

なぜプラスチックが必要なのか。プラスチックにはどのような価値があるのか。生産から再利用まで、どのように管理する必要があるのか。廃棄物をゼロに近づけるためには、どうすればいいのか。

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「現在の問題は、プラスチックの先を考えられないことにある。日本の例を見てみよう。日本は未だにプラスチックを日常的に使用しており、プラスチックの使用量が最も多い国としても知られている。しかし人々は、プラスチック廃棄物をリサイクルセンターに送れば、プラスチックが再利用できることを十分に認識している」とKurniawati氏は示唆する。

4.トリディ・オアシスの今後の展開

シンガポールを拠点とする投資会社「サーキュレート・キャピタル」は、「トリディ・オアシス」とインドの別のリサイクル会社に、「サーキュレート・キャピタル・オーシャン・ファンド(CCOF)」を通じて合わせて600万米ドルの投資を行った。

Kurniawati氏は「資金は設備投資のために使用する」と話す。「サーキュレート・キャピタルは資金を提供するだけでなく、ネットワークや市場へのアクセスも私たちに提供してくれた。彼らはまた、私たちのアドバイザーとしての役割も担っている」。

「トリディ・オアシス」が考える次の一手は、リサイクルを手がけるプラスチックの多様化である。「2019年12月に私たちは韓国の政府機関から助成金を受け、多層プラスチックの小袋廃棄物のリサイクル研究を始めた。小袋廃棄物はリサイクルするのが本当に難しく、そして身近にある廃棄物である」とKurniawati氏はいう。

翻訳元:https://e27.co/one-mans-trash-is-another-mans-gold-how-tridi-oasis-plans-to-transform-the-way-we-manage-our-plastic-waste-20200804/

記事パートナー
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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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