No Code: ソフトウェアエンジニアリングの民主的な未来

コーディングなしでソフトウェア開発ができるツール「No Code」を、その背景と代表的なプレイヤーから探っていく。
EC

「No Code」 とは?

「No Code」とは、本来プログラミングが必要なソフトウェアの開発・コンテンツの製作をプログラミングなしで行うことのできる環境、またそのサービスのことを総称する言葉であり、「コードがいらない」という意味で「No Code」と呼ばれている。

ソフトウェアの開発やコンテンツの製作をプログラミングなしで行おうという発想自体は、特別新しいわけではない。たとえば、CMS(Contents Management System)の代表格である WordPress は、2003年に産声を上げた。これも今風に言えば「No Code」の一種であると言える。さらに言えば、WordPress の中にも見られる「リッチテキストエディタ(WYSIWYGエディタ)」もHTMLの編集をビジュアルに行なっているため、「No Code」であると言える。つまり、「No Code」 というのは、「ソフトウェアが誕生して以来進んできた『コーディングやマークアップを簡単にやろう』という流れがビジネスとしても大きな注目を集めている」という状態とともに生まれた新しい言葉である。

今日のインサイトでは、なぜ「No Code」が注目されているのか、その背景と主要なプレイヤー、またその展望を見ていきたいと思う。

なぜ今注目されているのか?

なぜ今になって「No Code」に注目が集まっているのだろうか。

逆から考えてみたい。「No Code」が実現されれば、それまでプログラマーがやっていた業務を、プログラマー以外の人材が実施することができるようになる。これは、人材配置の観点でも生産性の観点でも利点があるため、何はともあれ「No Code」を採用すべきように感じる。

しかし、「No Code」は例外に弱いという弱点を持っている。たとえば「リッチテキストエディタ」で考えると、単純なHTMLの組み合わせで構成されるコンテンツであれば製作が可能だが、少し複雑な動作を実現しようと思うと、たちどころに無力になってしまう。もちろん、これらの例外をはじめから想定してツールを開発すればいいわけだが、「カスタマイズ」が求められる場面はあまり得意ではない。

そんな「No Code」に注目が集まっている背景には、アプリケーションやコンテンツが製作・運用される環境が成熟してきたことがある。

APIエコシステムの成熟

APIとは、Application Programming Interface の略であり、アプリケーション同士の通信の接点を意味する。それぞれのアプリケーションがAPIを用意することによって、アプリケーション同士の連携が用意になったり、APIで提供されるデータを利用した新たなサービスの開発などが可能になる。いわば、アプリケーション同士の「共通言語」といえる。APIによるアプリケーション同士の連携が容易になったことで、「No Code」ツールから見ると、APIの形式に合わせたデータの取扱いを実装すればよいということになり、「No Code」ツールのカバーできる領域が増加したと同時に、ツールの開発に専念できるようになった。

BaaSの登場

また、アプリケーションのデータの利用や連携のためにAPIを公開しようという動きは、この10年ほどでますます大きくなってきた。すると、特定の機能だけをAPIで公開し、サーバー部分の役割を担う「BaaS」(Backend as a Service) と呼ばれるプレイヤーが登場したのだ。

BaaSと連携することで、開発者はAPIを介して特定機能の実装を簡単に行う事ができるようになった。これにより、「No Code」ツールにとっては、簡単な操作でリッチな機能の実装を提供することができるようになった。

フロントエンド領域の「No Code」

「No Code」の中でも特に目立っているのがフロントエンド領域の「No Code」ツールである。

Website without code

ウェブサイト制作は、想像以上に手がかかるものである。しかも、同じような作業を繰り返さなくてはならない。デザインをコードに起こしたら、マルチデバイスのためにレスポンシブ対応をして、リンクのチェックをして、アクセシビリティのチェックをして、SEOのためのメタデータを入れて、分析ツールとの連携をする...。繰り返し作業は「No Code」の得意とするところだ。

Webflow

Webflowは今や、「No Code」の代表的なプレイヤーであり、豊富な機能を提供している。構造はHTMLのコーディングによく似ており、HTMLがわかる人はもちろん、その知識がなくても直感的にWebサイトを制作することができる。

外部サービスとのAPI連携、分析ツールの導入、SEO対策、Eコマース機能の導入、CMSなど豊富な機能が用意されており、Webサイトの運用で必要なものは全て揃っているというのが売りだ。

https://webflow.com より

Square Space

Square Space も Webflow 同様、コード無しでのWebサイトの制作を可能にするツールだが、テンプレートの美しさに定評があり、フォトグラファーやクリエイターに愛されているツールだ。

https://www.squarespace.com/ より

バックエンド領域の「No Code」

クラウドデータベース

コード無しで簡単にデータベースを構築し、APIを介してアプリケーションに接続できる「クラウドデータベース」と呼ばれるサービスが増えている。プロトタイプのためのデータベースとしてはもちろん、業務効率化にも活用できる。

Airtable

Airtableは、データベースとしても利用できるスプレッドシートだ。使い慣れたインターフェースでデータベースが構築でき、柔軟なUIを備えている。

https://airtable.com より

BaaS

BaaS (Backend as a Service) は、特定の機能をAPIを介して提供してくれるクラウドサービスである。Webサービスを構築する際に頻繁に登場し、かつその機能単体で見ると大きな違いがない、という機能を提供するケースが多い。

Auth0

Auth0 は、ユーザーの認証管理を提供するBaaSである。ユーザー認証はセキュリティの要であり、考慮しなくてはならない点が多くある一方、ほとんどのサービスで似たような機構が実装されており、ベストプラクティスが存在する。Auth0を活用することで、アプリケーションに堅牢な認証機能を簡単に導入することができる。

https://auth0.com より

Imgix

Imgixは、APIを介してリアルタイムに画像変換を行ってくれるBaaSである。Imgixを使えば、画像のURLに特定の文字列を足すだけで、様々な画像変換をしてくれるため、いちいち編集した画像をアップロードする必要がなくなる。

https://imgix.com より

「No Code」の未来 : ソフトウェア技術者は要らなくなるか?

「No Code」が向かっているのは、明らかに「プログラマーの必要ない世界」である。一部の領域ではこれは達成されていると言っていいだろう。たとえば今日、ECサイトの構築をフルスクラッチで開発することはむしろ稀なのではないか。

そして、Webサービスやモバイルアプリを「No Code」だけで作れるようにしようという動きもある。2019年には、Webflowがホストとなって No Code Conference が開催された。世界が注目しているのだ。

「No Code」ツールでアプリを作りきろうと思うと、まだまだ不十分な点もある。しかし、与えるインパクトが絶大であることは皆がわかってきている。一つ一つ、未踏の領域を潰すように、「No Code」は歩み続けるだろう。

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