本記事では、Project NINJAとNINJAビジネスコンテストの概要と選出されたスタートアップを通して、アフリカの現状、スタートアップ、データから見るアフリカ市場を紹介する。
今回SUNRYSEは、JICAから特別な許可をいただき、「JICA NINJAビジネスプランコンテスト」のレポート記事を出す運びとなった。
アフリカでは、現在も高い失業率や公共インフラの未整備等、多くの社会課題を抱えている。現地では13億人(総務省統計局「世界の統計」)のマーケットを巻き込み、テクノロジーを応用しながら社会的な問題解決を目指すスタートアップが増加している。
開発途上国の起業家による多くのスタートアップ事業は、先端技術を取り入れた事業というよりは、必需品の代替や不便な点を改善するサービスなど、社会的な問題解決を目的とするものが主流となっている。
JICAは2020年1月より、開発途上国の社会課題解決に挑戦する起業家に対して、起業家育成活動、ビジネスマッチング、ベンチャー投資/インパクト投資の促進、エコシステム強化に向けた政策提言などの支援を行う、「Project NINJA(Next Innovation with Japan) 」を開始した。
JICAはポストコロナ時代の革新的なビジネスモデル・テクノロジーを生み出すスタートアップ支援を目的として、アフリカ19カ国を対象としてビジネスプランコンテスト「NINJA Business Plan Competition in response to COVID 19」を実施し、応募総数2,713社の中から優秀企業69社を選定した。
今回はその中からさらに選抜された10社が参加した「アフリカ新興テック ピッチ決勝戦」において、視聴参加者により選ばれた上位3位と、日本企業からの特別賞を受賞したスタートアップを紹介する。
Mobile Scan Solutionsウェブサイトより引用
ウガンダ発のヘルステックスタートアップ、「Mobile Scan Solutions (M-SCAN)」は、妊産婦死亡率の危険因子を検出できる携帯型超音波診断装置を提供している。M-SCAN は遠隔画像診断を通じ、妊産婦が自宅からでも超音波診断を受けられるサービスを提供する。
ウガンダでは既に180の医療機関でサービスを開始しており、家庭用超音波診断装置を導入し、年間2,400件以上の診察を見込んでいる。CEOのMenyo Innocent氏は今後2~3年で超音波エコーデバイスを150万人の妊婦に使用してもらうことを目標としている。
アフリカスタートアップの中でも新型コロナウイルスの影響を受け成長してきたヘルステック分野に今後も注目していきたい。
TranSoniCaウェブサイトより引用
ガーナ発のスタートアップ、「TranSoniCa」は日本でも流通している非接触型ICカード技術を活用し、効率的な支払い・決済サービスを提供している(SUICA等と同様のサービス)。
カード決済手段の導入により、①決済の効率化、②店舗での従業員による現金盗難リスク軽減、③非接触によるCOVID-19への対策、を可能とする。更に、導入した店舗の決済情報を信用情報(クレジットスコアリング)として、銀行融資等に活用することも可能となる。
「TranSoniCa」を含むフィンテック(FinTech)は、アフリカスタートアップにおける各Tech分野の中で、資金調達額が全体の25%とトップの割合を占めており、注目が集まっている。
CEOのDaniel Elliot Kwantwi 氏は東京大学大学院修士課程に在籍し(2020年2月時点)、日本とアフリカの架け橋となることを目指す、Kakehashi Africa(NGO)の関東地区マネージャーを務めており、今後日本との更なる連携が期待される。
Agrinfoウェブサイトより引用
タンザニア発のスタートアップ「Agrinfo」は、農家の生産性向上に必要な情報を活用するデジタルプラットフォーム「JembeKilimo」を提供することで、小規模農家への融資を促し、農業ビジネスの成長を促進する。
タンザニアでは農業が主要産業であるにもかかわらず、農家の信用力評価が困難であるため、多くの金融機関が小規模農家への融資を避ける傾向にある。また、農業に関する相談サービスは農家全体の65%にしか行き届いておらず収入低迷に繋がっている。
そこで「JembeKilimo」は、生産性向上に必要な農地状況や天候情報などのスマートファーマー情報(GPA情報)を活用し、金融機関が農家の信用力を数値化できるシステムを提供する。その結果信用力評価(クレジットスコアリング)を高い精度で行うことができ、より多くの小規模農家が融資にアクセスできるようになっている。
視聴参加者により選ばれた上位3位を含む、日本企業からの特別賞を受賞したスタートアップを紹介したい。
Emergency Response Africaウェブサイトより引用
ナイジェリア発のスタートアップ、「Emergency Response Africa(ERA)」はナイジェリアを中心に、安全かつ手頃な価格の緊急医療を提供しているヘルスケア・テクノロジープラットフォームである。
同社の緊急対応管理プラットフォーム「ResQ」は、訓練を受けた隊員、機材、車両を効率的に現場に派遣するとともに、救急隊員・病院間の円滑なコミュニケーションを実現し、事態発生から数分で緊急事態に対処することができる。今後、同システムをアフリカ全土へ展開し、医療システムの社会的課題解決を目指す。
Lifestores Healthcareウェブサイトより引用
「Lifestore Healthcare」は薬局に対して、医薬品の効率的な在庫管理及びグループ購入割引システムをを提供しているスタートアップである。
薬局業界が未発達のナイジェリアでは、偽物の薬が出回り、全ての人に医薬品が行き届いていない現状がある。同社の効率的な在庫管理及びグループ購入システムを導入することで、患者は必要な医薬品を求めて薬局回りをする必要がなくなり、また、より安価に医薬品の購入が可能となる。テクノロジーの導入が遅れている薬局業界に対して、今後更に同サービスの普及拡大を進め、全ての人に対して質の高いヘルスケア提供を目指す。
「And Africa」は、南アフリカで「ECD(Easy Collect & Drop)」と呼ばれるIoTロッカーを使用した配送サービスを提供し、ラストワンマイル物流*の課題解決を目指す。
現地における宅配は、高い送料、宅配便を受け取るための長い待ち時間、対面受け渡しによるCOVID-19感染リスク、など、通販業者と消費者それぞれが課題を抱えている。「ECD」では、高額な再配達コストを削減するため、IoTロッカーで消費者への配達を行う。この技術の導入により、通常の宅配便受け取り、及び発送に関わるプロセスが効率化され、24時間365日最安値での利用が可能となった。
同社はアフリカと日本・アジアの技術投資を通じた連携を促進しており、今後も更なる連携が期待される。
*ラストマイル物流とは、顧客にモノ・サービスが到達する最後の接点を指す。EC市場が拡大する一方で、ラストワンマイルににかかる配送コストが高く、利益を上げることが困難になっている。その背景には再配達手数料や、渋滞、不明瞭な住所、未整備の道路などさまざまな課題が関係している。
アフリカの市場とスタートアップに関して、注目したい情報は以下の9点である(NINJA Business Plan Competition詳細冊子より引用)。
1. アフリカの人口と増加率
2021年現在、アフリカの人口は13億人を超え、毎年4.1%ずつ増加している。2050年には約25億人と、世界人口の4分の1を占めることが予想されている。
2. アフリカにおけるインターネットアクセシビリティの増加
モバイルブロードバンドを中心とした高速回線のインターネット利用増加は、アフリカスタートアップ増加の要因の1つであると考えられる。
3. 2020年アフリカ各国におけるTech Hubs数の増加
2018〜2020年の過去3年間で、アフリカ Tech Hubs の数は50%増加し、アフリカ大陸におけるスタートアップカルチャー・イノベーションカルチャーが醸成されている。
4. 2020年アフリカスタートアップの資金調達額と調達件数の増加
アフリカのスタートアップにおける資金調達額は2020年に14.3億米ドルに達し、前年比44%増と注目度が高まっている。
5. 過去5年間(2015〜2020年)におけるアフリカスタートアップ資金調達件数の増加
新型コロナウイルスの影響を受けたにもかかわらず、件数の増加が続いており、依然として注目度が高い。
6. 2020年アフリカスタートアップ資金調達ラウンドサイズごとの調達額及び件数
5,000万米ドル以上のメガラウンドでの資金調達が減少傾向にある中、5,000万米ドル以下の案件では活動レベルの向上が確認され、特に100万米ドルまでの案件はほぼ倍増し、増加傾向が続いている。
7. 2020年アフリカスタートアップにおける各Tech分野別の資金調達額とその割合
フィンテック(FinTech)は、全体の25%である3億5,600万米ドルの資金を調達し、依然としてトップを占めている。2020年では、農業テック(AgriTech)、ロジステックと運輸・交通(Logistics & Mobility)、オフグリッド・エネルギー*(Off grid/Energy)、ヘルステック(HealthTech)など、新しい経済セクターにおけるIT・データ化への投資が増加傾向にある点に注目したい。
*オフグリッドとは、電気・ガス・水道などの主要ライフラインが公共事業に依存せず、独立して設計・建設された建物や生活様式を指す。
8. 2020年アフリカ国別スタートアップにおけるファンドからの資金調達合計額ランキング
アフリカにおけるベンチャー企業への投資は、1位ナイジェリア、2位ケニア、3位エジプト、4位南アフリカ、の上位4カ国に集中しており、全体の約80%を占める。また、前年度比102%増でガーナが5位にランクインし、注目を集めている。
9. 2020年資金調達額が大きなアフリカベンチャー企業Top10
前年同様、フィンテック(FinTech)がアフリカスタートアップで最も大きな額の資金を調達している。再生可能エネルギーへの注目から、オフグリッド型の太陽光発電事業がランクイン。また、新型コロナウイルスの影響もあり、ヘルステック企業がランクインしているのも特徴となっている。
今回選出された優秀企業69社の業種は、医療・農業・物流・教育・金融と多岐にわたるが、ドローンや衛星を活用した小規模農家向け営農支援プラットフォーム、AIを活用したCovid-19のゲノム解析システム、妊産婦向けの持ち運び可能で低価格な超音波装置など、アフリカ特有の社会課題に対応した革新的なビジネスモデルとなっている。
前述した、アフリカスタートアップにおける資金調達額・件数の増加傾向などからも、アフリカへの注目度の高さが伺えるため、今後もぜひアフリカスタートアップの動向に注目していきたい。また、本ビジネスコンテストを通じて、現地の企業家の成長を促進するとともに、日本とアフリカの協力体制がさらに促進されることが期待される。
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行なっている。開発途上国が直面する多岐にわたる課題を解決するためにさまざまなメニューを効果的に活用し、世界の150以上の国と地域で年間1兆円を超える規模の事業を展開している。
NINJAビジネスコンテスト優秀企業69社のデジタル冊子はこちらからダウンロード可能だ。
表題画像:Photo by Mike Von on Unsplash (改変して使用)