Netflixの台頭が目覚ましい。カリフォルニア発のスタートアップが世界をリードするコンテンツプラットフォームになると誰が想像しただろう。
Netflixは当初、いわゆるコンテンツ配信者としてサービスを開始した。しかし自社でのコンテンツ制作の重要性にいち早く気がつき、オリジナルコンテンツに数十億ドルを投じ(2020年には170億ドル強)、現在は多くの番組や映画が高い評価を受けている。
Netflixは単なる放送事業からストリーミング事業へと変化を遂げ、メディアの消費方法やあり方も変えた。彼らは米国外にも進出し、国際的に幅広くサービスを展開している。こうした海外展開のスキームは、すでに2010年には計画していた。「Disney」や「Amazon」、「Hulu」のようなプレーヤーが同時期に続々と登場していたため、Netflixはまずカナダから海外進出をスタートし、ラテンアメリカ、そしてヨーロッパへと展開していった。
Netflixが海外展開の初期段階でこうした地域に焦点を当てたのは、規制や文化的なハードルが低かったためである。そして視聴者に関するデータを継続的に収集し、Netflixは優れたユーザー体験の提供に注力してきた。
Netflixは、特定の地域に合わせた、コンテンツのローカライズ化を進めている。さらにコンテンツの拡大にともなって、アルゴリズムがユーザーにお勧めのコンテンツを生成できるようになっている。Netflixは、これまで以上に国際的なコンテンツ制作への投資を注力しており、現在は世界190カ国以上で事業を展開している。
Netflixが非常に素早くローカライズ化に成功したのは、特定の地域で利用できるコンテンツを形にする能力に長けていたためである。また、オリジナルの地域コンテンツの作成やライセンス契約にも力を入れてきた結果と言えるだろう。
Netflixは、ヨーロッパや中南米、カナダへの海外進出時と同様に、アジア市場への展開でも同じ戦略を採用している。同社は常に、ユーザーに対して素晴らしいUXを提供してきた。しかし、韓国市場での成功要因に関しては、韓国人を対象にした新たなコンテンツが鍵を握っている。
「Wavve」や「Tving」のような、韓国のローカルストリーミングの競合他社は、国内のコンテンツ制作に関して優位性があったため、Netflixが参入することは決して容易ではなかった。Netflixが優位性を得るためには、韓国の視聴者にアピールできる韓国のオリジナルコンテンツを作る必要があった。
2021年にNetflixは、韓国のプロジェクトに5億ドルを投資する計画を発表した。これは、2015年から2020年にかけて投資した7億ドルに追加する費用の分だ。つまり、Netflixは2021年末までに、韓国コンテンツに12億ドル近くを投資する計算となる。この投資額には、オリジナルコンテンツの制作だけでなく、既存の韓国コンテンツの独占ストリーミングライセンスを買収する際にかかる費用も含まれている。
Netflixは韓国のコンテンツが、日本や東南アジア、米国やラテンアメリカ、さらには中東など、世界中で幅広く楽しまれていることに注目して、同国に積極的な投資を行ってきた。
韓国はインターネットの普及率が97%と、最もインターネットが発達した国のひとつと言われている。そして、スマートフォンでコンテンツを視聴する人々が多い。
そのため、Netflixはモバイル体験を重視し、現地の通信事業者と提携して、容易に支払いができるシステムの導入にも注力している。また、NetflixはAWS上で運営されているため、韓国では現在4つのアベイラビリティゾーンを利用できる環境が整えられており、接続に関する問題も発生していない。
海外進出にあたっては、現地のローカライズは非常に難しい問題だ。ローカライズと一言で言っても、国ごとに文化や行政、技術的な違いもある。
Netflixの韓国市場への参入は大成功を収めたが、他のアジア諸国では同レベルの成功を収めているとは言い難い。例えば、中国やマレーシア、ベトナムやインドネシアの政府は、自国の検閲に関する政策を遵守していないとして、Netflixの進出を阻止した。インドではボリウッド映画を筆頭に、同業界の競争が激しい状況が続いている。
Netflixのチーフ・コンテンツ・オフィサーであるTed Sarandos氏は、「私たちの韓国市場へのコミットメントはとても強い。今後も豊富なジャンルやコンテンツを展開するため、韓国の映像業界に投資し、協力していきたい」とコメントした。
韓国の映画監督Bong Joon-ho氏のアカデミー賞受賞作「パラサイト」の勢いをうけ、韓国のエンターテインメント業界は、これまでにないほど世界的な注目を集めている。韓国ドラマやウェブドラマ、K-POPの成功を考慮すると、Netflixが韓国に参入するのは当然のことと言えるだろう。
例えば、「Crash Landing On You(愛の不時着)」や「It’s Okay Not To Be Okay(サイコだけど大丈夫)」、「Start-Up(スタートアップ)」などの韓国ドラマがNetflixで世界的な成功を収めている様子は、韓国発のドラマが世界中の視聴者を夢中にさせていることを証明している。
さらにNetflixは、韓国の人気ウェブトゥーン(韓国初のデジタルコミック)をドラマシリーズ化している。人気のシリーズの一例としては、「Sweet Home(スウィートホーム・俺と世界の絶望)」や「ラブアラーム(恋するアプリ)」、「梨泰院クラス」などがある。
韓国映画もまた、「オクジャ」や「生きている」、「スペース・スウィーパーズ」や「新感染」などのヒットに現れているように、世界的な成功を収めている。Netflixの「Blackpink ~ライトアップ・ザ・スカイ~」のドキュメンタリーは、K-POPファンを中心に世界的なヒットを記録した。
Netflixが制作した海外コンテンツは、アメリカの視聴者にも新たな娯楽を提供している。
Netflixは現在、顧客を失うことなく値上げに成功している。新規ユーザーを増やし続けながら、米国では1~2ドルのプランの値上げを実施、韓国の料金体系は9,000ウォンから14,500ウォンに設定されている。
あるデータによると、Netflixは既存のユーザーをあまり失わずに、さらに利用料を上げる余地すらあるという。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンなどの影響をうけ、人々がNetflixのようなストリーミングサービスをこれまで以上に必要としている結果とも言えるだろう。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き始めれば、すべてのストリーミングサービスが一定のユーザーを失うことは間違いない。そうすると、Netflixの新規加入率は確実に低下するだろう。
では、Netflixを取り巻く韓国市場は、今後どのように変化するだろうか?
Netflixは韓国で380万人の利用者を獲得しており、全世界でみると2億500万人以上の利用者を抱えている。これを業界内の競合他社と比較してみよう。
アマゾンプライムー1億1,200万
ディズニープラスー9,500万人
Huluー3,900万
Apple TVー3,300万人
韓国の人口は5,170万人のため、Netflixのサービス利用者数は人口の7%強という計算になる。今後数年間でさらに利用者を増やせるチャンスがあるだろう。Netflixは、オリジナルコンテンツの作成のみに注力しているわけではなく、韓国人に人気のある韓国の番組や映画をストリーミング配信する重要性を十分に理解している。そのため、これらの番組のライセンス料は支払い続ける方針だという。
例えば、韓国企業の「CJ ENM」傘下のドラマ制作会社「studiodragon」とは3年契約を締結している。両社が協力してオリジナルコンテンツを制作することで、Netflixは彼らのライセンスタイトルにアクセスできるようになる。
また、Netflixは韓国のプロデューサーである「JTBC Content Hub」とも番組供給に関する契約を結んでおり、ゴールデンタイムのドラマを共同開発する計画もあるという。
Netflixはすでに3年前から「JTBC」と提携していた。同社は「SKYキャッスル」や「ライフ」、「私の国」や「新時代」、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」などを作成しており、Netflixは、600時間以上のテレビ番組をライセンス契約に基づいて配信している。
これらの契約は、韓国のNetflixにとって重要な役割を果たすだろう。しかし、Netflixが独自に韓国のオリジナルコンテンツを制作することも重要だ。Netflixは将来的に、韓国で映画の配給会社になるプランも計画している。すでに「ザ・コール」や「狩りの時間」、最近公開された「スペース・スウィーパーズ」など、2021年には韓国映画で5作品の配給権を購入している。
今後は映画館ではなく、Netflixで最新の映画が配信されることが当たり前になるかもしれない。
Netflixは今後も多くの韓国オリジナルコンテンツや映画を制作するために、ソウル郊外の2つの制作施設とリース契約を締結した。パジュ市の「Studio 139」では、9,000平方メートルの敷地にステージが6つ用意されている。漣川郡の「Samsung Studio」では、3つのステージが7,000平方メートルの敷地内に併設されている。Netflixの韓国オリジナルコンテンツの多くが、今後はこの2つのスタジオで撮影される予定だ。
スタジオ運営の副代表であるAmy Reinhard氏は「新しいスタジオを通じて、Netflixは韓国で素晴らしいストーリー制作の機会をこれまで以上に増やせる。また、才能豊かなプロフェッショナルに制作関連の仕事を提供できるようになるだろう」と語った。
オリジナル作品を作るには、非常に高いコストがかかる。しかし、制作したコンテンツのすべての権利を所有できるため、価値の高い投資とも言える。
新たなスタジオでは、韓国映画の制作も行い、2021年には2本の制作を予定している。Netflixが韓国で韓国映画を制作するのは、今回が初めてとなる。1作目はJung Byung-gil監督のアクション映画「Carter」で、2作目は韓国のウェブトゥーン・ロマンス「Moral Sense」をベースにしたPark Hyun-jin監督の作品である。
Netflixが韓国に拠点を構えていることは、韓国経済にとっても大きな後押しとなっている。Netflixは、韓国のクリエイティブ・コミュニティの才能あるプロフェッショナルたちに、すでに多くの制作関連の仕事を提供している。Netflixが成長を続けるにつれ、今後もさらに多くの仕事が生まれていくだろう。
翻訳元:https://seoulz.com/netflix-in-korea-an-overview-of-their-expansion-plans-in-south-korea/
表題画像:Photo by Juraj Gabriel on Unsplash (改変して使用)