今日、マレーシアはアジアにおける「人種のるつぼ」と表現される。イギリスによる植民地時代、中国とインドから多くの労働者が仕事を得るために移住し、20世紀中、両国からの人口の流入が続いたことが最大の要因だ。
全体人口3,100万人の内訳は、マレー人と先住民(62%)、中国系(21%)、インド系(6%)などを含み、人種が多様であることがわかる。また宗教については、国教はイスラム教だが、仏教やキリスト教、ヒンドゥー教、儒教、道教、およびその他の伝統的な中国の宗教など、様々な異なる宗教が信仰されている。
このマレーシアの文化的開放性は、グルメにもよく表れている。クアラルンプールのパビリオンメガモールにあるフードコートには、アジア料理やその他さまざまな国の料理の店が所狭しと並んでおり、それぞれの国の料理の味は、本格的である。
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この多様性は、マレーシアという国自体とそのスタートアップエコシステムにとってよい環境を構築している。特に中国系とインド系の人口が包括されているため、マレーシアとそれぞれ中国、インドとの関係は良好に保たれている。これにより経済的および商業的に、マレーシア市場に参入し、提携を結ぶための障壁が軽減されている。また、これはマレーシアがこの二国と東南アジアの架け橋という意義ある役割を果たし始めているということでもある。
たとえば、2017年後半、マレーシアは中国の技術コングロマリットであるアリババと提携し、中小企業向けの地域ロジスティクスハブであるデジタル自由貿易地域(DFTZ)を、中国国外では初めて立ち上げた。
アリババの創設者兼最高経営責任者であるジャック・マー氏によると、このゾーンは「中小企業がeコマースにより国際的な貿易に参加できるようにする」ことを目的としている。このプロジェクトの計画には、首都クアラルンプールの空港の近くにある出荷ハブと、すでに中国に設置されている別のゾーンである杭州ゾーンに接続するe-ハブプラットフォームも含まれている。
これとは別に、2018年にアリババはクラウドコンピューティングを用いた「CityBrain」と呼ばれるビッグデータサービスを首都クアラルンプールでも使用可能にする計画を発表した。このサービスでは、動画やソーシャルメディア、交通情報など、あらゆる種類のデータを処理し、日常の生活に役立つ情報を提供する。これは交通事故への対応や車両の混雑を減らすために都市再設計にも役立つ。
中国以外の国がこの技術を採用するのは初めてであり、他国に先んじたこの一歩はマレーシアにとって優位性の確保につながるが、同時にアリババのような巨大企業(および同国に投資する可能性のある他の企業)の存在感の高まりによって同国のスタートアップの成長を妨げられないようにする必要がある。マレーシアの理想は、これらの外国企業が国内企業の買収をおこない、撤退を増やすことだ。
マレーシアではその人種的・民族的多様さから、様々な集団から製品に関するフィードバックを収集できるという特徴があり、同国は新製品やアイデアの試験に適している。それぞれの集団を通じて、その母集団の本国における傾向も見出せる。ただし、この多様性によって、消費者の嗜好や消費が分散するという欠点もある。たとえば、イスラム教徒は控えめなファッションを好む一方、マレー人は派手なブランドものを好む傾向がある。
マレーシアでは消費者人口が国内のさまざまな宗教集団、地域コミュニティ、民族集団に分かれているのだ。
またマレーシアにおけるビジネス、特にB2Cでは、ターゲットを全ての人にするのか、一部の集団に絞るのかが重要だ。後者の場合、ターゲットグループから潜在的なユーザーがもれないように気をつけなければならない。
マレーシアの便利屋スタートアップ(TaskRabbitのローカル版)の例を見てみよう。同サービスはマレーシアの総人口の76%が住む都市部のみをサービス対象とした(最大の人口は700万人のクアラルンプール)。同社の展開するサービス内容は国内全ての人を対象とできるにもかかわらず、「ユーザー層は都市人口」として狭めた定義により、人口の4分の1を無視したのである。
初期段階のスタートアップがマレーシアにおいて、特定のグループのみをターゲティングすることは理にかなっている。しかしビジネスの全国的な拡大を狙うのであれば、最終的にはマレーシアの包括性と多文化主義への深い理解が欠かせない。
表題画像:Photo by Ishan @seefromthesky on Unsplash(改変して使用)