米中の貿易戦争でシンガポールが潤うワケ

2年前に勃発した米中貿易戦争の影響で世界貿易に不確実性が生じている。中国への貿易に大きく依存するシンガポールへの影響にはどのようなものがあるのか。
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米中貿易戦争が世界経済にもたらす不確実性が懸念されている。

年初には「第1段階」の貿易合意に至り、両国の関係は一時的に良好になってきていたものの、Luckin Coffeeの会計スキャンダルを受け米国上院が同社を上場廃止にする法案を可決し、また米国側がコロナウイルス発生の原因を作った中国を非難したことで、関係が再び悪化してきている。

シンガポールは開放経済であり、国際貿易への依存度が高いことで知られている。2019年の総商品貿易額は1兆220億シンガポールドル(7億3800万米ドル)で、前年の1兆5550億シンガポールドル(7億6200万米ドル)から3.19%減少している。シンガポールは、アジア太平洋地域とインド亜大陸の主要な空路・海路の交差点であり、地理的にも戦略的な位置にある。

また、シンガポールの対GDP比は世界で最も高く、2008年から2011年までの平均で約400%、2018年には326%となっている。国際貿易の中心に位置しているため、米中貿易戦争がシンガポールにマイナスの影響を与えることは間違いない。

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シンガポールは中国市場への輸出比率が高く、中国本土向けが約25%(13%)、香港向けが約12%となっているのに対し、米国は7.64%にとどまっている。輸出品目の大半は電子機器と機械類である。

シンガポールの再輸出は、中国(13.6%)、米国(6.1%)が約20%(2,740億シンガポールドル、輸出総額の52%)を占めている。通商産業省によると、2018年の米中二国間貿易はシンガポールのGDPの1.1%を占めている。従い、アメリカと中国の間に軋轢が生じた場合、これらの数字は大きな影響を受けることになるだろう。

シンガポールに直接適用される米国の関税は、ソーラーパネル、モジュール、洗濯機、鉄鋼、アルミなどの比較的小規模な製品に影響を与えている。シンガポールのこれらの製品の対米輸出は、輸出全体の約 0.1%に過ぎない。関税の多くはシンガポールに直接影響を与えないが、中国サプライチェーンへの供給を担っている以上、波及効果は受ける。

一方、明るいニュースもある。北京が新国家安全保障法を香港に課せば、米国は香港に対する特別待遇を撤廃する可能性がある。

この特別待遇が撤廃されれば、米国が香港を中国と同等に扱うようになる可能性があり、これにより、関税の引き上げやセンシティブな技術に対する輸出規制などが行われる。それとは別に、香港の推定1兆米ドルを超える個人資産の半分以上が本土からのものであることから、中国政府は香港の富裕層の中国マネーを追跡し、押収することができるようになるだろう。

最終的には、香港の企業、金融サービス、私財はシンガポールへの移転を余儀なくされることになる。

ゴールドマン・サックスは、昨年の香港騒動の初期段階で、シンガポールに40億米ドルもの中国マネーが流出したことを報告した。2019年の世界のFDIは停滞したが、シンガポールの対内FDIは42%増の1,100億米ドルに跳ね上がった。

長期的な商品貿易の減少を相殺できるかなど懸念はあるものの、米中貿易戦争によりシンガポールが利益を得ることになる可能性は高い。

翻訳元:How can Singapore benefit from the US-China trade war?

記事パートナー
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執筆者
松尾知明 / Tomoaki Matsuo
中小企業診断士 / Web Writer
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