VC投資の未来:シリコンバレーよりも、アジアを見据えるべき理由
2019年の調査レポートによると、VCの資金調達の世界的な中心地として、2020年までにはアジアが北米を追い抜くと予測されていた。VC投資では今後、アジアの重要性が高まることが期待されている。その理由と現状の課題を紹介する。
Nov 22 2020 IN Translation
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アメリカの投資家の多くが、スタートアップといえば、スタンフォードやシリコンバレーを思い浮かべるだろう。「Google」や「Apple」、そして「Facebook」の3社は市外局番が同じエリアに位置している。シリコンバレーのマウンテンビューでは、起業家精神を持つ最も優秀な人々に直接アクセスできる。

しかし一部の投資家は、シリコンバレーこそが成功への近道だと勘違いしており、市外局番が650のエリアに拠点を構えただけで、市場を獲得できる考えている人々もいる。

過去6年間の調査と調査結果に基づいて、私は世界のスタートアップとベンチャーキャピタルのエコシステムをマッピングしようとしている。そこで判明してきたのは、多くの業種において、最高の案件がアメリカから出ていないという事実である。シリコンバレーにいる多くの投資家は、この意見に耳を傾ける必要があると感じている。

多くのテクノロジー関連の投資はグローバルな規模で行われており、地理的な制限をかけてしまうのは、愚かで奇妙な行動と言えるだろう。アメリカのベンチャーキャピタルが厳しい環境下でもトップに立ち続け、リターンを最大化したいのであれば、自身の能力を伸ばし、グローバルな視点や視座を持つ必要がある。

1.多様な市場が広がる海外マーケット

第二次世界大戦後、アメリカの大規模な多国籍企業は、発展途上国の安価な製造能力を利用してアジアや南米に進出を果たした。これらの大企業の多くは、政府の規制や文化や言語の壁、そして基本的なインフラの不整備など、様々な困難を乗り越えてきた経験をもっている。製造業のブームがさらに拡大した80~90年代には、さらに多くの投資家に道が開かれた。

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そして今日、同様のパターンがアメリカのテック投資家の間で再現されている。ちょうど10年前、例えばインドネシアのような国においては、政府が支援する助成金プログラムの規模を超えたベンチャー投資はほとんど見られなかった。しかし現在は「KKR」や「500 Startups」、「Tencent」や「SoftBank」、そして「PayPal」などの大物の投資家が現地にオフィスを構え、10億ドルを超える資金調達ラウンドに参加している。

インドネシアには現在、6つのユニコーンと、ライドシェアサービスを手がける「GoJek」の「デカコーン」が登場している。国内の評価額は急上昇しており、VCや独立系VC、PE(プライベートエクイティ)、そしてアクセラレーターなど、様々なプレーヤーによる競争が激しさを増している。インドネシアでは、アメリカからの資金が流入する第二の波に備えて、準備が進められている。

2019年には、インドネシアを拠点とするVCが5億8,200万ドルを調達した。前年の調達金額である3億2,500万ドルと比べて、79%増加した。これらの数字は、シンガポールの20億ドルの調達額と比較して、はるかに成長の余地があることを示している。

インドネシア政府は2018年、地元のテック系スタートアップに資金を投入するVCに対して、所得税の優遇措置を発表した。同措置は、デジタル経済と電子商取引の展開をさらに後押しするために導入されている。

2億6,700万人の人口を擁するインドネシアでは、少なくとも5,000万人が中産階級と言われている。そのため今後も多様なサービスやスタートアップの台頭が期待されており、アメリカのVCは、これまでに培ってきた専門知識とベストプラクティスを活用することできるはずである。

2.各地域が専門性を確立している

もちろんすべてのVCが「Sequoia」や「Accel」のように、アジア太平洋や南米に大規模な拠点を築けるわけではない。VCのなかには、自分たちの強みを活かし、特定のセクターへの投資にだけ注力しているものもある。

これまでにアメリカのVCが投資したことで、特定の地域や経済圏が、特定のセクターのハブとして機能するようになった事例もある。ここでは、ヨーロッパの事例を参考にしてみよう。

ブレグジット以前から、ルクセンブルクやドイツはすでに金融のハブとみなされていた。そしてブレグジット後には、ベルギーやリトアニアなどの国々が、フィンテックのハブと呼ばれるようになり、投資家を引き込むために協力的なアプローチを実施している。

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言語や文化の壁がある国に進出する場合は、アメリカのVCは、資金調達ラウンドで現地のVCに力を貸すことができるはずである。実際にアメリカが欧州のスタートアップに対して行う投資の事例は増えつつある。

セクター別にアプローチしたいVCは、以下のような地域の動向に注意を払うことをおすすめしたい。

・フィンテック

ハブはヨーロッパ。伝統的な既存の銀行システムを破壊し、強力な財務やハイテク人材の基盤が構築されている。

・ヘルステック

ハブは中国と北アジア。中国では一人っ子政策の結果、高齢化や高齢者の健康などに焦点があてられている。

・アグリテック

ハブは南アジア南アメリカ。農業の効率化や、農家の資金調達をサポートするサービスが拡大している。

・サイバーセキュリティー

ハブはイスラエル南アジア。同分野のスタートアップの創業者の多くは、情報サービスや防衛力のバックグラウンドを持っている。

・ロジステック

ハブは南アジア東南アジア。島国など地理的な特徴が他国と大きく異なる国々には、解決する必要のある課題が多く存在している。

・ゲーム

ハブはアジア太平洋。モバイルゲームやeスポーツ、ゲーム開発スタジオ、ゲームインフラなど、多様なサービスが展開されている。

3.パンデミックの中で足元を見極める

2019年のレポートによると、VCの資金調達の世界的な中心地として、アジアが2020年までに北米を追い抜くと予測されていた。新型コロナウイルス感染症がアジアの若年層へ与えた影響は、米国に比べればそれほど大きなものではないが、VCは依然としてリスク回避の姿勢を貫いている。

しかしVCのなかには、新型コロナをきっかけに海外ファンドとのパートナーシップを構築している。また、海外のデューデリジェンスの調査を開始し、次のステップを模索し始めている。ニューノーマルの環境下においては、ゲームやエデュテック、電子決済といった分野で成功するか、既存のサービスの収益性と高めるか、様々な選択を行っている。

多くのVCが既存のスタートアップ企業のポートフォリオに集中している。そのため、グローバルに投資を行うVCは、競争に直面する機会は少なくなるだろう。過去4~5年で急騰していた評価額(特にアジア)は、現在では落ち着きを見せ始めている。アメリカのVCにとっては、地域的にも世界的にも、規模を拡大できる企業への非常に魅力的なエントリーポイントとなっている。

アメリカの経験豊富なVCが海外に資金力を発揮する時が来たとすれば、今がその時である。2020年の先を見ようとしないVCは、すぐに深刻な課題を抱えることになるだろう。

翻訳元:https://e27.co/looking-east-why-the-future-of-vc-investment-is-beyond-the-silicon-valley-20200909/

記事パートナー
e27
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Author
土橋美沙
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