代替肉だけじゃない?:持続可能な畜産業を実現するイノベーションとは

世界中で代替肉に注目が集まるが、より持続可能な畜産業を実現するイノベーションは、すでに投資へのリターンも生んでいる。投資額では前者が後者の10倍の規模を持っているが、当面畜産業はなくならないことを考えると、後者にも目を向けるべきだ。
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畜産業の持続可能性向上にアプローチする技術革新には、二種類ある。動物を一切使わない代替肉と、現行の畜産業を改善する技術だ。イスラエルでは、両者の技術どちらも活用されているが、後者の方が市場で展開しやすく、より多くのリターンも期待できるにもかかわらず、投資家からの注目度は前者に比べはるかに低い。

近年、前者のソリューションは投資家の関心を世界的に集めている。植物ベースのハンバーガーを手がけるBeyond Meatは世界的に有名となり、外食産業に広がり続けている。Pitchbookによると、これらのソリューションは、2019年に世界で7億ドルの投資を集めたが、その投資元には、代替肉に特化した新しいVCから、世界最大の畜産企業までが含まれている。2015年から2019年にかけて、イスラエルでは同分野のスタートアップの数が3倍以上に増え、年間投資額はゼロから3300万ドルに増加している。アグリフード・テックで、これほどまでに企業数や投資資金が急成長した例は他にない。

 

 

代替肉ではなく、持続可能な畜産

代替肉ブームの背景には畜産業の環境的負荷と倫理的問題がある。畜産は人間の活動による温室効果ガス排出量の15%を占める(国連食糧農業機関, Tackling Climate Change Through Livestock, 2013)。また、飼料用作物栽培には世界の農地の35%、取水量の20%が使われ(Water Use of Livestock Production Systems and Supply Chains、FAO, 2018)、牛乳の生産1Lにつき3Lの水が消費される(FAO, 2018)。倫理的問題としては、家畜の飼育環境や、間引きを含めた毎年数十億羽規模の雛鶏屠殺が挙げられる。

資源を大量に消費する上に残酷で、地球温暖化を促進する畜産業は、持続性には欠ける(一部の研究では、2035年までに畜産業は崩壊すると予測されている)ため、植物や細胞培養による代替肉のソリューションは、今テックメディアや投資家の間で非常に人気がある。

 

 

代替肉人気の一方、畜産業は今後も残り続ける

しかし、畜産業はその経済的・栄養的重要性から、すぐには代替できない。畜産業は世界中で営まれており、特に中間所得国から高所得国において、畜産業は他の産業と結びついているため、畜産業の拡大は他産業も意味し、全体的な経済成長をもたらす。栄養面では、動物製品が世界のタンパク質摂取量の33%を占めており、畜産業が22.5兆ドルの価値を超えているのも納得ができる。

世界における畜産業の規模とその多面的な価値から、同分野での技術改善には大きな意味があり、イスラエルでもこの研究が進められている。

 

  • ネゲブのベン・グリオン大学のミズラヒ研究室は最近、牛のマイクロバイオーム操作成功を発表した。これによってGHGの発生が抑えられ、環境負荷が軽減される。

  • SGTechは、GHGを排出する糞尿をバイオエネルギーに転換し、環境への負荷を軽減している。COEXIST は、同社のデジタル農場管理ソリューションにより、酪農における二酸化炭素とメタンの排出量を最大 63%、廃棄物の排出量を 40% 削減できると試算している。

  • 同様に、DairyionicsmiRobot の搾乳自動化による生産性向上により、酪農家は乳牛の個体数、そしてそれに伴う温室効果ガス排出と使用水量を削減できる。

  • 畜産業の土地やその他の資源への需要を減らすために、FreezeMINOSECTは昆虫をベースとした飼料の栽培と加工を行っている。

  • 畜産業の土地やその他の資源への需要を減らすために、FreezeMINOSECTは昆虫をベースとした飼料の栽培と加工を行っている。

このような技術革新によって既存の畜産業を残しながらも、家畜の扱いと利用をより持続可能なものにしている。

 

しかし、2017年以降イスラエルにおけるより持続可能な畜産技術分野は、代替肉産業の10分の1以下しか資金を調達できていない。この格差は、肉の「未来」として謳われる後者に対する警戒心と興奮によって、投資家の関心が強く駆り立てられていることを反映しているのかもしれない。しかしこれらは動物を使用しない「畜産業」への世界的なシフトを予見しているものであるが、現在代替肉のターゲットは主にベジタリアン、ビーガン、フレキシタリアン(動物由来の食品摂取量を最低限に抑えている人々)である。

一方で、既存の畜産業をより持続可能なものにするための技術は、成長を続ける畜産のグローバル市場全体がターゲットとなる。さらに、同分野では十分なリターンがあることもすでに示されている。Merck'sは2019年初頭に、イスラエルのSCRも関与したAntelliqを24億ドルで買収した(アグリテック買収では最高額)。投資家は、同分野におけるイノベーションに投資することを検討すべきだろう。

 


翻訳元: https://blog.startupnationcentral.org/agritech/livestock-cows-alternative-proteins-israeli-agritech-startups/

表題画像:Photo by Jean Carlo Emer on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
イスラエルのスタートアップエコシステムを支援するために設立された非営利機関。スタートアップや企業、行政をつなぐイスラエル発スタートアップデータベース・メディア。
執筆者
山崎悠介 / Yusuke Yamazaki
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