アフリカの学習障がい者と支援技術のユニークな事例

アフリカにおける学習遅進児や学習障がい(LD)を持つ子どもたちは増加傾向にある。しかし一部の国ではデータが不十分なために、その数を判断することはほぼ不可能だ。
ヘルスケア 教育

2020年、マンチェスター・ユナイテッドのMarcus Rashford選手は、「読書や本はクールだ」とツイートした。しかし、残念ながらこれはすべての人に当てはまるわけでない。

ディスレクシアのナイジェリア人であるMary氏(本名でない)は、Rashford選手のツイートの下で、自分の読書への苦悩を語った。そして、数分後にはイギリスの彼のファンが、テクノロジーのおかげでディスレクシアやディスカリキュリア、ディスグラフィアなどの学習障がいを持つ人たちの学習が容易になったことを提示しつつ、彼女を批判した。

2017年に世界銀行が中低所得国19カ国で行った調査によると、障がいのある子どもの10人に3人は学校に入学したことがなく、入学しても半数以上は小学校を修了していないことが明らかになっている。

同様に、障がいのある子どもの6人に1人は識字能力があるものの、中等教育を修了しているのはそのうちわずか2人だ。

アフリカの学習障がい者の生活

学習障がいは、子供や大人が情報を受け取り、処理する方法に影響を与える神経学的な障がいだ。

米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)は、学習障がいが、話し言葉や書き言葉の理解や使用、数学的計算、動きの調整、注意力といった能力に影響を与えると定めている

アフリカの社会問題を扱うブログ「Africa on the Blog」では、ウガンダの一部の学校が、学習障がい(LD)を理由にディスレクシアの少年を拒否したことを紹介している。

また別の調査によると、アフリカにおける学習遅進児や学習障がい(LD)を持つ子どもたちは増加傾向にある。しかし一部の国ではデータが不十分なために、その数を判断することはほぼ不可能だ。

世界保健機関(WHO)のファクトシートによると、必要な支援製品を利用できるのは10人に1人しかいないことが明らかになっている。

2017年、International School of Disability Studies(ISDS)は、LDのほとんどの人が診断を受けていないと結論づけている。その結果、彼らの家族は、必要なケアやサポートを提供するための情報を十分に得られていない。

おそらくMary氏は、学習障がいとは何かを知らなかったり、支援技術を十分に知らなかったりする平均的なアフリカ人の典型なのだろう。

2016年に、学習障がいと共存する一般的な障がいである注意欠陥・多動性障がい(ADHD)と診断された若年層のFejiro氏は、「支援技術のことは聞いたことがありません。読書をするときは、電子書籍やウェブ検索を利用していますが、すぐに気が散ってしまいます。勉強は正直言って大変です」と話している。

結果として、LDを持つ人の中には、「バカ」などの蔑称で呼ばれる人もいる。

Oladoyin Idowu氏は、アフリカにおけるディスレクシアに特化したイニシアチブである「One Word Africa」の創設者だ。彼女自身もディスレクシアを患っているが、教師から「バカ」と言われ、自尊心を傷つけられたと言う

彼女は学校を辞め、インテリアデザインで自信をつけるまで戻らなかった。

20代半ばの若いナイジェリア人で、オンラインで個人診断テストを行っているDare氏(本名でない)は、「去年、自分がディスレクシアとADHDかもしれないことがわかりました。もしかすると、学校に行っている間苦労し、最終的にドロップアウトしてしまった理由の一つかもしれません。支援技術については、聞いたことがありません」と述べている。

学習障がいのある子どもたちは、学校での対応が難しく、引きこもりがちになるが、支援技術(AT)は、子どもたちの能力を開発・向上させる機器やサービスによって、学習を容易にすることができる。

支援技術(AT)とは?

Assistive Technology Industry Associationによると、ATとは、障がい者の能力を向上、維持もしくは改善するためのアイテム、機器、ソフトウェア・プログラム、製品システムのことだ。

ATは、聞く、書く、読む、計算、整理、記憶に影響を与える学習障がいの困難を改善する。ATには、特殊な筆記具のようなローテクなものから、子どもの特定の学習ニーズに合わせて設計されたiPadのようなハイテクなものまである。

音声増幅システムや音声生成装置などのハードウェア、音声合成システムなどのソフトウェア、そして専用アプリを搭載した最新のデバイスといった特別な学習教材やカリキュラムを包括的に使用することで、学習をサポートする。

利用しやすい支援技術の種類

音声読み上げソフト

このソフトウェアは、ディスレクシアやADHDなどの学習障がいを持つ子供や大人が、読み上げられたテキストを理解するのに役立つ。

簡単に利用できるこのタイプのATは、デコーディング、単語認識、流暢性、読解力に影響を与える。ただし、読むことよりも聞くことで情報を認識する人にのみ有効だ。

同様に、ディスレクシアやディスグラフィアの人には、読み書き、勉強、整理のサポートを提供する。

2009年の研究で、Hsin-Yu Chiang氏とKaren Jacobs氏は、このタイプのATが子供の作業認識を向上させ、文章を表現力豊かにすると言及している。NaturalReader、Ivona、iSpeechなどがその例だ。

Speech-to-text AT

書くことには、手書き文字、綴り、句読点、文法などの低い転写スキルと、構成計画、コンテンツの生成、修正などの高い構成スキルが必要とされる。

したがってこのタイプのソフトウェアは、言葉を書き起こし、ディスレクシアやディスグラフィアの人の助けとなる。このソフトウェアを使えば、タイプや手書きをせずに済むため、生徒の生産性が向上すると考えられている。

このタイプのATは、学習障がいのある子供たちの単語認識、綴り、読解力を向上させる。

その他の支援技術ツール

オーディオブックや出版物、略語展開ツール、電子算数ワークシート、校正プログラム、情報・データマネージャー、光学式文字認識、可変速度テープレコーダー、単語予測プログラム、音声機能付きの電卓、音声認識プログラム、音声合成・スクリーンレコーダー、代替キーボードなどのツールが学習障がい者をサポートする。

WHOは、2018年のファクトシートで、学習障がい者が健康的に、自立して、生産的に生活するために、テクノロジーがどのように役立っているかを説明した。また学習障がい者が教育、労働市場、市民生活に十分に関与していることを強調している。これは学習障がい者が自分の可能性を認識し、解き放ち、最大限に発揮できることを意味しているのだ。

なぜ支援技術なのか?

学習障がいは、知能に影響を与えるものではなく、学習に関連する1つ以上の認知プロセスに障がいを与えるものだ。

そのため支援技術を導入することで、数学、読み書き、整理整頓、抽象的推論、長・短期記憶、注意力、時間計画などの学習スキルを向上させることができる。

ATを採用した理由について、Idowu氏は「私は支援技術を使っていますが、本当に生活が楽になりました。SpeechifyアプリとOneNote Immersive Readerは、ノートをスキャンして音声に変換するのに役立っています。また自分のノートをアップロードすることもできます。Grammarly、QuillBot、The Mindアプリも使っています」と語る。

そのほか、学習障がい者にとって、健全なサポート体制は助けになる。

「純粋に気にかけてくれて、助けたいと思ってくれる人たちがいるという、優れたサポートシステムの力は、いくら強調してもし過ぎることはありません。私には、私が書いた文章の再構成、校正、編集を手伝ってくれる友人がいます」と彼女は話す。

「以前、試験の前に身体的なパニック症状を起こしたことがあります。私はとても怖くなり、私の沽券にかかわるような出来事だったのですが、友人たちが率先して、状況を収めてくれました」

現在、学習障がいの治療法はない。しかし、ATが、学習障がいのある子どもたちの学習を改善することは証明されています。この研究では、学習障がいのある学生が音声テキスト変換ツールであるDragonを使って口述を行った。その結果、有意な効果が得られ、支援技術が学習障がいによる障がいを解消することが証明された。

学習障がいの原因は不明だ。しかし、早産や母体の病気、出産時の合併症による子供の脳への酸素供給の低下などとの関連が指摘されており、遺伝性の場合もある。魔術の影響ではないのは確かだ。

治療法が確立されていないなか、支援技術を取り入れながらサポート体制を充実させることで、LDの子どもたちは自分の可能性を引き出し、成功することができる。


翻訳元:https://techpoint.africa/2021/06/24/learning-disabilities-assistive-technology/

表題画像:Photo by Blaire Harmon on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
アフリカのスタートアップシーンやイノベーションをカバーする、アフリカを代表するデジタルメディアプラットフォーム
執筆者
佐藤 八起 / Yaoki Sato
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