※本記事は「Breadnbeyond」創設者のAndre Oentoro氏がContxtoに寄稿された記事を翻訳したものです。
Contxto- ラテンアメリカのデジタル環境はこの数年間で大きな変化を見せている。この地域では、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)が貧困問題の解決や福祉政策、そしてその他社会的なインディケーターにとっての重要な要素になっている。
世界的なパンデミック下において、ラテンアメリカの国々は、様々な分野におけるテクノロジー化を推進し、新しい日常(=New Normal)への移行を画策している。
もちろん、その適応は歴史的に見ても困難なものであった。しかし、ラテンアメリカのDXは、世界中の他の国々にとっても新たな日常の獲得に向けた最適なモデルとなるだろう。
そしてそれにはどのような理由があるのだろうか。
かつてラテンアメリカでは、現金がもっとも重要視されていた。この地域においては、経済のベースは現金であり、銀行口座を持つことのできない、いわゆる「Unbanked/Underbanked」といった層も多く存在している。
このパンデミック下における公衆衛生的な観点から、この地域では現金ではなくカードやモバイル決済への置き換えが迅速に行われた。
言い換えれば、パンデミックのおかげで世界の国々は、より安全で迅速な決済への移行を促進させ、その可能性を模索する必要に迫られているということだ。以前は、単なる「新技術」の一分野であったフィンテックは、もはやなくてはならない存在になっている。
キャッシュレス化とモバイルペイメントがブームになる中で、とあることが表面化してきた。それは、従来の古典的な銀行システムがもはや「時代遅れ」と化してきているという事実だ。
(この問題に対して)企業や各関係団体は、パンデミックの拡大に先駆けてレガシーシステムの刷新を行っていたため、その結果としてリターンを得ることができたのである。
わかりやすい例としては、メキシコの事例が挙げられるだろう。メキシコ政府は、パンデミックのせいで銀行にいけなかったり、そもそも仕事や収入を失ってしまった人々に、資金援助するための方法として「Ualá」と「Cuenta DNI」の2つのモバイルウォレットに依存している。
「Ualá」はロックダウン開始からわずか1ヶ月の間で、通常の2倍に当たる、少なくとも14万枚以上の従量制(pay-as-you-go)デビットカードを発行した。そして「Cuenta DNI」はわずか15日間で50万人のアクティブユーザーを獲得し、現在ではその数は100万人を超える規模となっている。
ラテンアメリカは、グローバルスタンダードになりつつあるテクノロジーを理解し、その地域のニーズに適応させ、そして自国にとってのメリットを獲得するためのモデル構築における好例である。
インターネットが確実に4億5,370万人以上のラテンアメリカの人々(地域全体の60%以上)にリーチしていることで、青少年がより良い学習機会を得て、デジタル世界をフル活用できるようになり、そしてその重要性は増している。
大流行の影響で、オンライン学習が日の目を見ることになったが、ラテンアメリカでは実際のところ、ほとんどの国において自分のペースで学習できるeラーニングシステムが開発されている。とはいえ(繰り返しになるが)パンデミックの拡大は、テクノロジーの地域的な発展を加速させただけであることを忘れてはならない。
ラテンアメリカの各国政府は「Aprendo en Casa (I Learned at Home) 」や「Tu Escuela en Casa (Your School at Home) 」を設立した。これにより学生は、政府による学習管理システム(LMS)を介して教材にアクセス可能となった。
WhatsAppや他のソーシャルメディアのようなツールは、教師と学生を接続するために使用されている。保護者もまた、学習プロセスにおいて、子供を指導し、支援することに深く関わっているからだ。
チリやウルグアイのように、国家規模でed-techを持っている国々は、堅牢でなおかつ正確に構造化されたeラーニングシステムを利用することができる。「Educarchile」や「Plan Ceibal」(子ども一人に一台ラップトップを支給する)といった形で全ての子ども達のeラーニング環境が完璧であると保証できるからだ。
対照的に、インターネットアクセスが少ない層(特に農村部)においては、教育省がテレビや教育向けのラジオを通じて、あらゆる生徒に学習ガイドを配布するなど、誰もが学習できる環境構築を目指している。
ラテンアメリカにおけるDX戦略には、医療の質や効率を向上させるという側面も含まれている。同地域のほとんどの国で電子カルテ(EHR)の導入やそれらのシステムを用いた包括的な医療システムの新規構築や体制刷新が起こっている。
過去5年間(2014年~2019年)で、同地域のEHRシステム市場は年平均で7.15%もの成長率(CAGR)を達成した。
EHRがラテンアメリカにおける全体的なヘルスケア戦略の根幹を占めるようになった昨今、EHR関連のアプリケーションが(医療の)ワークフローを自動化・合理化することによって、医療従事者の生産性をシームレスに向上させ、包括的な効率向上を実現している。もちろん医療過誤などの削減も含まれるだろう。
COVID-19の発生によって、EHRシステムはラテンアメリカの医療システムを改善する上で、もっとも関連性の高い情報技術の一つであると捉えられるようになってきた。遠隔地に住んでいても専門家によるサービスをいち早く受けることができるようになったのもその影響と言えるだろう。
ブラジルやメキシコ、チリなどの一部の国々では、日常的な市中感染が4~5%まで増加しており、より多くの病院がクラウドベースのEHRシステムを求めるようになっている。
例えば、ブラジル最大の医療グループの一つである「Grupo Fleury」は、医者と患者をオンラインで繋ぐことのできる遠隔医療プラットフォームの構築に成功した。EHRの導入で、医療従事者は自宅でもCOVID-19の陽性患者をモニタリングすることができるようになったという。
EHRはその患者の病歴や、薬、統計情報、支払い記録などを含む詳細データを医療データとして維持するのに役立っていると言える。
つまり、EHRは運用コストの抑制、収益の改善や向上、といった面でも貢献的であり、AIを使ったより新しいEHRの導入は医療サービス全体のスピードアップにも繋がるだろう。
もちろん、経済や社会の複雑さのレベルには差があり、全ての国々がテクノロジーの恩恵を完璧に享受できるわけではない。
しかし、他の国がこのラテンアメリカのDXから学べるのは、政府自身が現実の生活ももはやデジタルライフであるということを認めているという事実だろう。
ラテンアメリカにおけるDXの長い道のりは、特にフィンテックやeラーニング、eヘルス、など様々な分野がこの地域で飛躍的に発展するチャンスを与えることとなった。
COVID-19の発生はラテンアメリカ全体に対してデジタライゼーションの波をより加速させることに繋がっているのである。
市民社会、テックコミュニティ、その他のステークホルダー、そして政府全体を含めた、積極的なアプローチがラテンアメリカにおける人々と社会全体のためのDXを形成を実現した。しかし、将来的にはさらに多くの可能性を秘めていることもまた重要だろう。
そして、世界の国々はこの直近のパンデミックをきっかけに、最善策や潜在的なソリューションの獲得において、ラテンアメリカ(という好例)に注目すべきだろう。
翻訳元:How Latin American’s digital transformation can be a global model