ブロックチェーン技術を利用する韓国の銀行【2021年完全版】

韓国では、銀行業界がブロックチェーン技術を受け入れつつあるようだ。詐欺の防止や排除、透明性の確保など、セキュリティ面の問題を常に抱える銀行業界にとって、匿名性と透明性を担保するブロックチェーン技術は重要なのである。
金融 ブロックチェーン

世界的に見て、新たに登場したブロックチェーン技術への反発が最も強かった業界は銀行業界である。しかしながら韓国では、銀行業界がブロックチェーン技術を受け入れつつあるようだ。

ブロックチェーン技術の登場当初、韓国の多くの銀行はブロックチェーン技術を競合相手とみなしていた。比較的早期の段階から、ブロックチェーン技術により既存の資金や顧客を奪われることを危惧していたのだ。

韓国の銀行には何十年という長い歴史を持つものも多く、通常は新しい技術の導入に後ろ向きであるが、ブロックチェーン技術に関しては古い考え方を捨て導入に至ったようだ。現在、多くの韓国の銀行はブロックチェーン技術を活用して既存サービスの改善につなげている。

ブロックチェーン技術は、特に金融分野において大きな可能性を秘めているとされている。具体的には決済プロセスの簡素化や短縮、国境を越えた決済の高速化、革新的なロイヤルティシステムや報酬システムの開発などが着目されている。

詐欺の防止や排除、透明性の確保など、セキュリティ面の問題を常に抱える銀行業界にとって、匿名性と透明性を担保するブロックチェーン技術は重要なのである。

韓国の銀行がブロックチェーン技術に注目する理由

2021年には、ブロックチェーン技術が単なる暗号通貨としてではなく、多くの可能性を秘めているソリューションとして着目されるだろう。ブロックチェーン技術の主な特徴として、セキュリティの高さ、不変性の担保、効率性の高さ、コスト削減、そして何よりも分散化が挙げられる。

現在、多くの韓国の銀行が、独自の研究開発部門の立ち上げやブロックチェーン技術をベースにした韓国のスタートアップへ投資している。また韓国の銀行がブロックチェーン技術を使用するテック企業と提携するというニュースは毎月のように報じられている。本記事では、ブロックチェーン技術を既に導入している、もしくは導入を検討している韓国の銀行一覧を紹介していく。

ブロックチェーン技術を利用する韓国の銀行一覧

Bank of Korea

ブロックチェーン技術を利用する韓国の銀行について「Bank of Korea」の話を抜きにしては語れない。同社は2021年、韓国における中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入により大きな波紋を呼んだ。

「Bank of Korea」のCBDC導入検討については、2018年から報じられており、昨年の2020年にはCBDC導入に関する専門家委員会も立ち上がっていた。2021年の今年、既にCBDCのパイロットプログラムを開始しており、仮想資産ではなく法的な不換通貨としての価値を示している。

Industrial Bank of Korea

「Industrial Bank of Korea」は、韓国最大級の通信事業者KTと提携しブロックチェーンベースの両替サービスを開始した。このサービスでは独自のモニタリングシステムにより、より迅速で安全な取引形態の両替サービスを提供することを目的としている。

同社はスマートフォンアプリやPCで両替予約することで、ホテルや空港などの様々な場所に設置された無人のキオスクでお金を受け取ることができるシステムの構築を目指している。

その他には、二重取引や誤作動を防ぐ目的からもブロックチェーン技術を活用する予定だ。この両替サービスは現在「Industrial Bank of Korea」とその技術実証研究所で検証中となっており、2021年中のサービス商業展開を予定している。

パートナーシップの拡大

「Industrial Bank of Korea」は提携先を拡大しており、パブリックブロックチェーンのプラットフォームを展開する「SymVerse」とMOU(了解覚書)を締結した。同社との提携では、ブロックチェーン技術を用いた身元や商品の認証技術により中小企業やベンチャー企業の経営改善につながるサプライチェーン管理システムの構築を目指している。

その他にもリアルタイムの情報を遠隔地に提供し、契約や決済の承認を迅速化したいと考えているようだ。同社は「SymVerse」以外に、ブロックチェーンベースの決済システムを運営する韓国発のスタートアップ「Terra」とも提携し、今後決済サービスや金融商品の開発を共同で行っていくという。同社は韓国国内の暗号通貨取引所からの資金処理においてトップの処理量を誇る。

Nonghyup Bank

「Nonghyup Bank」は「JPモルガン」の銀行間情報ネットワーク(Interbank Information Network:IIN)に参加している銀行であり、世界最大のコンソーシアム型ブロックチェーン「R3CEV」の一員でもある銀行だ。「R3CEV」は現在、ブロックチェーン技術の金融サービスへの適用を可能にするシステムを開発・テストする「R3」に力を入れている。

また2018年、同社は「theloop」とブロックチェーンプロジェクトを検討するためのMOU(了解覚書)を締結した。両者はブロックチェーン技術の研究やオープンセミナー、ハッカソンなどを通じて金融APIとブロックチェーンの導入や利用促進のために協力している。

同社は、韓国で初めてブロックチェーンベースのサービスを開始した銀行と考えられている。同社のアプリでは国税や罰金、公共料金、クレジットカード、保険料などに関する請求書の通知を受けられるが、ブロックチェーン技術を活用することで迅速かつ簡単な支払いを実現するとともに、高い透明性の担保や偽造の防止につなげているのだ。

Blockchain ID技術を利用したモバイル社員証サービス

「Nonghyup Bank」は、Blockchain ID技術を利用したモバイル社員証サービスを開始した。ブロックチェーン技術によりID認証を管理し、個人情報を狙ったハッキングに対するセキュリティを高めている。

ブロックチェーン金融サービスコンソーシアム

「Nonghyup Bank」は、法律事務所の「Bae, Kim & Lee」やブロックチェーン技術研究所の「Hexlant」とMOU(了解覚書)を締結し、暗号通貨取引所の研究開発のための共同機関を立ち上げている。共同機関によるデジタルアセットベースの金融サービスの開発を目指しているのだ。韓国政府は、暗号通貨取引所の認可制度を導入している。暗号通貨取引所が認可を維持するためには、韓国の商業銀行から実名認証された口座を取得した上で「FIU(Financial Intelligence Unit)」に運営状況を報告する必要がある。

同社のシニアバイスプレジデントJang Seung-hyun氏は「このコンソーシアムを通じて、韓国国内の暗号通貨産業をリードするための取り組みを強化していきます」と述べている。

イノベーションキャンパスフィンテックセンター

「Nonghyup Bank」の親会社「Nonghyup Financial Group」は、フィンテックのためのイノベーションキャンパスを開設した。既に、AIやビッグデータ、ブロックチェーン技術などに基づく独自のビジネスアイデアの商業化を目指す30社以上のスタートアップ企業が入居している。

KEB Hana Bank

「KEB Hana Bank」は、GLNコンソーシアムの主幹事を務める銀行だ。銀行や決済サービスプロバイダー等の連携を通して、自由な資金決済や送金の実現を目指すグローバルファイナンスプラットフォームである。ブロックチェーンを通じて分散型台帳の共有、口座の清算や送金を簡単かつ安全に行うことが可能となる。「Nonghyup Bank」同様「R3CEV」の一員であり、「Hyperledger」や「Ethernet Alliance」とも提携し、新たなビジネスチャンスを模索している他「JPモルガン」の銀行間情報ネットワーク(IIN)にも参加している。その他に、韓国のブロックチェーンスタートアップ「Kasa Korea」と提携し、デジタル不動産受益証明書の発行や「Kasa Korea」のブロックチェーンプラットフォームにおけるユーザーアカウントの開設などを手掛けている。

ファイナンスからデータへ

「KEB Hana Bank」は2021年、伝統的な銀行からテック企業への転換を目指し、ビッグデータやAI、ブロックチェーン技術などデジタル技術の開発を積極的に検討している。

「私たちの目標は、伝統的な銀行業務を維持しながらデジタルタッチを採用することではなく、商業銀行からデータ企業へとコアから変革することです。これが、当社のデジタル化戦略を他の銀行や企業から差別化する道だと考えています」と、同社のJi Sung-kyoo氏CEOは述べている。

次世代のブロックチェーン技術専門家育成

「KEB Hana Bank」はブロックチェーン技術の育成を目指して高麗大学とMOU(了解覚書)を締結した。ブロックチェーンデータを共有し、ブロックチェーン指向の金融サービスや商品の開発を進めるとともに、研究開発を通して人材育成につなげている。

学生証の発行にブロックチェーン技術を適用するプロジェクトを皮切りに、これまでに45件以上のブロックチェーン技術に関する特許を申請した。

また同社は釜山市政府と共同でブロックチェーンベースの新通貨を開発している。釜山広域市は、「Dongdaekjeon」と呼ばれる都市ブロックチェーンベースの地域通貨を発表した。これは釜山広域市が発行するものであり、利用者は「Dongdaekjeon」モバイルアプリや「KEB Hana Bank」、「Busan Bank」のサービスカウンターからチャージ可能だ。

「KEB Hana Bank」、「Korea Expressway Corporation」と提携

「KEB Hana Bank」は政府支援を受ける高速道路会社「Korea Expressway Corporation」と提携した。韓国の高速道路全域に、ブロックチェーン技術を活用した通行料支払いプラットフォームを導入するため協力する。このプラットフォームは、「KEB Hana Bank」のアプリ「Hana One Q」と連動しており、ドライバーは通行料の支払いや払い戻し、支払いの延期などを行うことができる。ブロックチェーン技術の活用により、このプラットフォームでは、現金をクレジットカード決済同様に利用可能だ。自由な現金の利用を可能にした理由は、COVID-19を踏まえた非接触型ソリューションを促進するためである。このパートナーシップは、韓国の科学技術情報通信部「MSIT」と韓国インターネット振興院「KISA」から承認されている。

KB Kookmin Bank

「KB Kookmin Bank」は韓国最大と言われる銀行だ。2019年にMPC技術を用いてデジタル資産を保護するシステムを開発する「Atomrigs Labs」と提携した。デジタル資産預かりのサービスを開発し、デジタル資産管理と保護のソリューションを検討している。「the Technology and Service Alliance」に参加しており、前述の「KEB Hana Bank」における「Kasa Korea」の提携を通したデジタル不動産受益証明書発行に携わっている。さらに、LGとの提携により、トークン支払いを可能にするシステムの開発を目指す共同プロジェクト「Magok Pay」を展開している。これは、現金や銀行口座と紐づいたカードがなくても、スマートフォンのトークンで支払いができるようにするものだ。

これらは全て、同社の2021年の大きな焦点であり、AI、クラウド、ビッグデータなどブロックチェーン技術以外の多くの分野での改善を目指している。

2021年にはデジタル資産預かりのサービスを開始

「KB Kookmin Bank」は、暗号通貨業界に関連する20以上の分野でKBDAC(Digital Asset Custdy)を商標登録したいと表明している。これが実現すれば、ビットコインやイーサリアムなどのデジタル資産の取引、相談、管理が認められることになり、「KB Kookmin Bank」がいずれ投資ファンドでの仮想資産受け取り等を行うようになるだろう。

Shinhan Bank

「Shinhan Bank」は韓国のブロックチェーンスタートアップ「Ground X」及びブロックチェーン開発企業「Hexlant」と、ブロックチェーンセキュリティシステムの開発に関するMOU(了解覚書)を締結している。

両者は共同で銀行サービスのための秘密鍵管理システム(PKMS)を構築している。その他に「Directional」と分散型台帳技術(DLT)を活用した株式貸し出しプラットフォームの開発に関するパートナーシップを締結した。「Shinhan Bank」は、将来的に独自の暗号通貨を立ち上げるため、DLTや顔認証などの最新技術を用いたソリューションを開発することを視野に入れている。

また「Small Business Market Promotion Corporation(SEMAS)」と提携し、ブロックチェーンベースの融資管理プラットフォームを構築した。このプラットフォームは、韓国の中小企業やスタートアップ企業が補助金付き融資を申請する際の検証プロセスを支援するものだ。同社は既に、信用貸しなどのサービスで融資書類を検証するためのブロックチェーン証明書システムをすでに導入している。

独自のバンキングアプリ「SOL」にブロックチェーンベースの分散型ID(DID)を追加

「Shinhan Bank」は独自のバンキングアプリ「SOL」にブロックチェーンベースの分散型ID(DID)を導入している。DIDとはユーザーがスマートフォンに自分のIDを保存できるブロックチェーン技術のことだ。「Shinhan Bank」は「Iconloop」と共同でDIDサービスを開発した。このサービスの利用により、偽のIDの使用を防ぎ、認証によって金融取引を保護することが可能になる。またユーザーは追加の情報を提供することなく、他の金融機関のサービスを利用することもできるのだ。「Shinhan Bank」により利用者の名前が認証されれば、他の金融機関は利用者の指紋を確認するだけで済むようになる。

韓国のブロックチェーンスタートアップ「Block」への投資

「Shinhan Bank」は、韓国のブロックチェーンスタートアップ「Blocko」に投資することで韓国のスタートアップの育成にも貢献している。「Shinhan Bank」は「JPモルガン」の銀行間情報ネットワーク(IIN)に参加している5つの銀行の1つだ。また、「the Technology and Service Alliance」の一員でもある。

CBDCのためのパイロットプログラムを開始

韓国初のCBDC(中央銀行デジタル通貨)は「Bank of Korea」から発行される可能性があるが、「Shinhan Bank」はデジタルウォンの流通と使用促進において主要な役割を果たす可能性がある。「Shinhan Bank」は最近、「LG CNS」の協力を得て「Bank of Korea」によるCBDCの発行に備えたパイロットプログラムを開始した。このプラットフォームでは、CBDCの発行を個人向けの一般資金と、支援企業や地方自治体が発行する災害支援資金に分ける予定だ。

Woori Bank

「Woori Bank」は、韓国で最初にブロックチェーンに関心を示した銀行の一つだ。2017年には「DAYLI Intelligence」や「theloop」と事業契約を結び、ブロックチェーン技術を用いたID認証システムやデジタル通貨の形を共同で開発した。

また2018年には「Ripple」のブロックチェーン技術による海外送金のテストを行っている。このテストにより、暗号通貨を使うことで、より費用対効果が高く、時間効率も高い形で海外送金が可能になることが判明した。同社は近年、「Ground X」との提携によりブロックチェーンサービスを共同開発した。2019年末には空港のレストランやファストフード店、店舗、駐車場などで、顧客が外国通貨や国内通貨を両替したり、850ドルまでの現金を引き出したりできる取り組みも開始している。

同社もまた、前述の「JPモルガン」の銀行間情報ネットワーク(IIN)にも参加している銀行の一つであり、「the Technology and Service Alliance」の一員でもある。

Busan Bank

釜山市は、韓国のブロックチェーン特区の一部である。また、中小ベンチャー企業部(MSS)は、釜山をブロックチェーン特区として指定している。そのため「Busan Bank」は、釜山デジタルバウチャーというローカルデジタルバウチャーをリリースできたのだ。同社はデジタルバウチャーの流通プラットフォームを構築し、その運営を担当する。デジタルバウチャーは法定通貨と交換できる安定したコインとして機能するのだ。これは釜山ブロックチェーン経済エコシステムを形成するための最初のステップである。

同社のデジタルファイナンス部門部長Han Jeongwuk氏は「ブロックチェーン規制フリーゾーンのサービスプロバイダーに選ばれたことを嬉しく思うとともに、釜山デジタルバウチャーがブロックチェーン産業発展モデルの成功事例となるよう最善を尽くします」と述べている。

また同社は「KEB Hana Bank」とともに「KT」と協力して、釜山の「Dongbaekjeon」カードのリチャージを行う。さらに、釜山のフィンテックやブロックチェーンのスタートアップを支援する「BNK Fintech Lab 1st Stage」を立ち上げた。

医療観光のためのローカルなモバイルプラットフォーム(Regional Mobile Medical Tourism Platform)を構築

「Busan Bank」は地元企業と協力して「Regional Mobile Medical Tourism Platform」と呼ばれるスマートフォンアプリを立ち上げる。「Busan Bank」は、ブロックチェーン技術を活用したスマートフォンアプリを通じて、医療観光に関連する全ての取引を処理するのだ。これには、釜山における整形手術やその他の美容整形を希望する人も含まれている。また、このプラットフォームでは両替や口座開設のサービスも提供する予定だ。

韓国国内の暗号通貨取引所へ銀行サービスを提供する計画

韓国の暗号通貨取引所は、ISMS(Information Security Management System)認証制度により、顧客から実名と社会保障番号を収集することが義務付けられている。「Busan Bank」は「Copax」のような中小規模の取引所に暗号通貨サービスを提供する予定だ。これは、ISMS認証の要件を満たすのに苦労する可能性のある中小規模の取引所や、これらの遵守に高額な費用を費やす中小規模の取引所にとって朗報だ。


翻訳元:https://seoulz.com/korean-banks-using-blockchain-technology-complete-list-for-2021/

表題画像:Photo by Ciaran O'Brien on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
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執筆者
井田 新 / Arata Ida
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