圧倒的成長を遂げるケニア: コロナ禍のイノベーションに必要な支援とは?

過去10年間で圧倒的な発展を遂げてきたケニアのスタートアップエコシステム。アフリカにも新型コロナウイルス(COVID-19)の脅威が迫る中、発展の継続にはイノベーションハブの存続とそれを支援する政府の戦略が必要である。
VC/CVC HR 研究機関

(写真引用元:Photo by Cytonn Photography on Unsplash)

ケニアのスタートアップエコシステムは過去10年間で目覚しい成長を遂げてきた。これは国内のイノベーションハブの増加(GSMA2019レポートによればその数は48に達している)やスタートアップの資金調達(アフリカにおけるスタートアップの資金の約18%が資金調達によるもの)の増加(AVCA2020)、Afrilabs and I4Policyなどの大陸系プラットフォームの垂直的連携など郡や国家レベルでのロビー活動の支援機関の設立、などの要素に起因している。

ケニア政府の支援策

また、ケニアにおけるイノベーション・エコシステムの活性化には以下のような政府の支援も大きく関わっている。

  • 世界標準のテクノロジーハブとして「Konza data centre」と同様に評価されている「Konza Technopolis」の設立

  • ICT省によって設立された「Whitebox」。政府政策に沿った開発やイノベーションを促進させるための民間向けチャネル「ICT Authority」など。

  • 国によるICT政策の策定と2019年に成立したデータ保護および個人情報保護法の存在。

  • インターネットアクセスを向上させる全国規模の光ファイバーバックボーンの開発。

  • 産業・貿易・開発省主導のイノベーションと起業家精神のエコシステム強化を目的とした「The Kenya industry and entrepreneurship project」。

イノベーションハブの役割

ケニアのイノベーションハブは、起業家に向けた様々なサポート体制や施設から成り立っている。インキュベーターやアクセラレーター、大学主導のハブ、メーカースペース、テクノロジーパーク、コワーキングスペースなどが挙げられるだろう。また、そのうちの25%は技術に特化したサポートや資金提供ではなく、コワーキングのための施設運営に特化している(GSMA2019)。しかしながら、そのビジネスモデルに適切な戦略がないことや、組織構造や助成金頼りで収益性の低いモデルなどが原因で、既存の独立系ハブの半数以上は5年以内に閉鎖せざるを得ないのが現状である。同国におけるイノベーションハブの持続可能性は大きな課題であると言える。

COVID-19に関する対応

COVID-19のパンデミックによってあらゆる物理的なスペースは閉鎖を迫られ、これはスタートアップエコシステムにも大きな影響を与えた。コワーキングスペースの運営に収益を依存していた25%のイノベーションハブは特にその影響が大きく、残りの75%も助成金頼りの運営で存続の危機に瀕しているところが多い。

この現状を考えると、ケニアのイノベーションハブは岐路に立たされていると言えるだろう。前述の「Konza Technopolis」「Whitebox」そして「the Kenya industry and entrepreneurship project」などの政府系の団体や取り組み主体は、中小企業の信用保証スキームなどより高次元な案をもって、いかに残されたコミュニティを受け入れるかを検討する必要がある。

そして、イノベーションハブは、各ファームレベルから国全体を巻き込むレベルへとシフトし、単一の事業体としてではなく国家のエコシステムとしての役割を自覚して事業を展開する必要がある。つまり、イノベーションハブはスタートアップに対する集合的な価値提案を、個々の機関単位よりも単一のユニットとして評価する必要があり、また一貫性のあるワーキングメカニズムを確立しなければならないだろう。

COVID-19が少なくとも2年間はその影響を残し続けるという短期的・中期的な予想を考慮すると、現状の考え方をシフトすることは非常に重要である。コワーキングスペースの収入が見込めない以上、イノベーションハブはパラダイムシフトに踏み切らなければ、資金供給源の優先順位次第では閉鎖せざるを得なくなってしまうのだ。

この文脈における国家戦略とは、パンデミックのピークにおける短期的なオープンイノベーションのことである。そしてそれは、今この社会が直面している喫緊の課題を特定し、優先順位をつけ、有効なリソースを把握し、価値を生み出し、あらゆる人に恩恵がいきわたるような政策を打ち出すことを意味している。

ケニアにおけるイノベーションハブの存続とエコシステムの継続的な発展は今後の政府戦略にかかっていると言えるだろう。

翻訳元:KENYAN STARTUP ECOSYSTEM 2020 OUTLOOK: EXPLORING OPEN INNOVATION IN RESPONSE TO COVID-19

記事パートナー
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執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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