【AI時代】IT化が進む社会において、人文系の人材が必要になる理由とは?

技術が高度な発展をみせ、AIが将来的に人間に近い存在となることが予見される現在、テック業界にこそ人文科学系の知見を持つ人が必要となる。
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多様な社会の中でバランスを保つためには、歴史や文学、芸能、哲学などの分野が重要だ。

  

産業の大半が高度に技術化した昨今、人文科学系の人材の必要性について懐疑的な見方が広がっていることは否定できない。

StudyMalaysiaでは、「人文科学は人間の状態や様々な文化的側面を研究する学問であり、その主な特徴は、質的なデータを幅広く活用し、分析的・批判的に研究することにある」と説明している。

世界的に人文科学系の学問を専攻する学生の数が減少しているのは、多くの企業がこれらの人材より、科学や技術、工学、数学(STEM)のバックグラウンドを持つ人材を求めていることの表れかもしれない。

イギリスのThe Art Newspaperは、イギリス高等教育統計局(HESA)が、2017年からの2年間で歴史・哲学専攻の学生数が5%、語学専攻の学生数が6.2%減少した理由を分析した。

同様にマレーシアのNew Straits Timeは、Malaysia Kelantan大学のCreative Technology and Heritage学部に出願する学生の数の過去3年間における激減について分析している。

歴史や文学、舞台芸術、哲学などの分野は、異なる文化的・倫理的価値観で構成された社会内のバランスを維持する上で重要な役割を果たす。

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技術革新への注目の高まりにより、人文科学の重要性はしばしば見落とされがちであるが、第四次産業革命が間近に迫り人工知能や技術が世界を主導するいま、この傾向がすぐに消え去ることはないだろう。

  

  

STEM vs Art

こんにちのテクノロジー社会において、人文科学系の学生がサイエンスやIT系の学生に遅れをとる理由は無数に考えつくことができるが、実際のところ多くのテック企業が人文科学系の学生を採用していることを考えると、これは思い込みにすぎない。

Vidyardの共同創設者/CEOであるMichael Litt氏は、LinkedInの記事中において、テック企業を経営する上でいかにアートとテクノロジーの融合が重要なのか、そしてこの融合がテック企業の活況の礎となっているか、ということを明らかにしている。

同社はまた人文科学系の学生が生み出せるその創造性を求め、常に意図的に同分野の学生を雇おうとしていた。

FacebookやGoogleのオフィスは、従業員が創造的な仕事をできるよう、そのオフィスは想像をかきたてるようなデザインが取り入れられているとLitt氏は述べる。

そもそも、テック企業の運営は、開発者やエンジニアだけではなく、人事部やマーケティングチーム、営業チームなども含まれている。

消費者が真に求めるものを見極めることなしに、ターゲット層を選定し効果的なマーケティングキャンペーン打つことはできない。Analysis of 101 Startup Postmortemsによると、結局のところスタートアップが失敗する主要因は、ターゲット市場におけるニーズの欠如なのだ。

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Infosys(ITコンサルティング会社)の社長であるMohit Joshi氏の記事では、ビジネスリーダーたちがより全体論的かつ創造的な手法によって出資を受けているこんにち、人文科学出身の学生がテック一辺倒のマーケットにおいてどのようにその価値を発揮しているのかを説明している。

Joshi氏は同記事でAlexaを例にとり、いかに非STEM出身の人材がAlexaへの人間性の付加によってその価値を高めたかということを紹介している。

STEM系人材にはこのようなスキルがないというわけではないが、人文科学系の学生は、曖昧な情報を分析的に評価し、定性的なデータに基づいて解決策を編み出す技能を、それぞれの分野の研究において特別に訓練されている。このことからも、人文科学系の学生を雇う価値は十分あることがわかる。

  

例えば、女性ドライバーが女性客を乗せるuber-for-womenは、ライドシェアにおけて女性におよぶ危険やハラスメントの増加を受けて立ち上げられた。これは創業者が女性が安全に利用できる交通手段の必要性と市場の大きさを認識しているからこそ実現したものだ。

女性の安全確保には、どのような種類の対策が必要かをさらに理解することは、ソフトウェアやプロトタイプ開発以前に重要なプロセスである。

起業家には社会の問題に対する深い理解が必要であり、そのスキルと知識を持った人文科学系の学生が起業家としての能力に劣るということは決してない。

  

  

テクノロジーに人間性を

さらに、テクノロジーがより人間中心になり個人化されていく中で、人間に近づくAIに価値を与え、正しい方向にその進歩を導くためには、人文科学系の知見が重要になる。人間の個人的な興味や趣味、嗜好は、AIによる人的な思考の模倣の観点において、その発達の土壌を形成する要因となる。

参考記事:COVID-19はフィンテック分野の雇用にほとんど影響を与えないという報告結果

MicrosoftのBrad Smith社長とAI・研究部門のEVPであるHarry Shum氏は、Business Insiderに掲載された記事の中で、同社が最先端を行くAI研究開発においては、テック業界にも人文科学にも深い理解のある人材が必要だとの結論に至ったと説明している。このことからも、テック企業がこの先人文科学系人材を不要とするわけではないことがわかる。

また、AIがその存在感を増す将来において、何が非倫理的で不道徳的なのかを定義する前に、人間と機械の融合が倫理的、道徳的に正しいと判断することはできない。

2018年にはGoogleのAI倫理諮問委員会が解散し、AIの倫理的進歩には常に遅れがあったことが明らかになったが、これはテック業界には文化や倫理的な知識に精通した人材が必要であることを示している。

リーダーたちは現在、アプリケーションやソフトウェアから生まれる倫理的なジレンマについての理解を深めている。また、テクノロジーの倫理的な意味合いを専門に扱う新しい部門を設立した企業もある。

例えば、Salesforceは、ハーバード大学で博士号を取得し、新しいアイデアがどのように主流なものになるかについての論文を書いたPaula Goldman氏を、同社初の最高倫理・人材活用責任者に任命した。

このように、テクノロジーと人間の価値観の相関関係に焦点を当てている企業もあり、人文科学の研究によりテック企業はそのあり方の倫理的正しさを確保し、潜在的な訴訟を回避するための理解ができるようになる。

スティーブ・ジョブズは「テクノロジーとリベラルアーツ、人文科学との結婚こそが、私たちの心を歌わせる結果をもたらす」と言っている。テックスタートアップの根幹に、最新機器のコーディングとプログラミングを開拓した開発者とエンジニアがいることは否定できないが、人文科学を専攻する学生は、テック業界全体にとって同様に重要なのだ。

テクノロジーの存在意義は、人類が問題に対処するのを手助けすることにあるが、一方、その問題を理解することには人文科学が欠かせない。

  

  

翻訳元:https://e27.co/humanities-students-and-entrepreneurship-in-the-technologised-world-20210115/

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執筆者
山崎悠介 / Yusuke Yamazaki
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