【現金主義の国】ミャンマーで進むキャッシュレス化とその課題とは?

東南アジアでキャッシュレス化が進むなか、ミャンマーではキャッシュレス決済の認知度や導入の水準が依然として低いとされている。同国で開拓の余地が大きいキャッシュレス決済や周辺サービスの展開、そして現状の課題について探る。
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ミャンマーには「ရော့ပတ္တမြား၊ ရော့နဂါး」ということわざがある。直訳すると「こちらにはルビーがあり、あちらにはドラゴンがいる」となるが、両者の間で現金や商品を前もって交換することで、お互いに損をしないことを重視するという意味をもっている。

ミャンマーではこうした現金主義の考え方や対面取引を好む傾向が、人々の日常生活に深く根付いている。例えばECサイトでも支払い時には現金払いが好まれており、その割合は全支払いの85%を占めるという。

一部の小売業者はデジタル化に舵を切っているが、支払いは伝統的な現金払いを導入しており、配達員はレジ係としての役割も担っている。しかし新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、ミャンマーでも物理的な接触が望ましくないと見なされるようになり、少しづつキャッシュレス化の波が訪れている。

1.ミャンマーのキャッシュレス化の背景

ミャンマーでは様々な関係者がデジタル社会に向けた取り組みを進めている。マクロレベルでは様々なステークホルダーがテクノロジーとインフラの重要性を強調しており、政府による支援の拡大を求めているケースもある。

ほかにも、不正行為を即座に検知するためのID認証システムの導入や、銀行間の相互運用の促進など、今後のキャッシュレス化に向けた実施可能な取り組みがたくさんある。

ミャンマーではキャッシュレスが普及するための条件が整いつつある。国民の携帯電話の接続率は95%を超えており、労働人口の4分の3が携帯電話を所有しているという。

さらに新型コロナが引き起こしたパンデミックをうけて、ミャンマー政府は人と人との物理的な接触を減らすために、デジタル化の実現に向けたサポートを提供する必要性にも迫られている。

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2.キャッシュレス化を阻む要因

東南アジア各国と比べて、ミャンマーはデジタル化の波に乗り遅れている側面がある。主な原因として考えられているのは、人々の文化的な習慣である。文化が進化するためには、時間がかかるのが一般的だ。これまで店舗のレジカウンターで物理的に現金で支払っていた人々が、店舗のウェブサイトやアプリにログインしてモバイルウォレットやカードで支払う行動に切り替えるのは、そう簡単ではない。

だからこそ、買い物客がオンラインで商品を購入した後、配達員に現金で支払いをするような「ハイブリッド型モデル」がミャンマーの人々の間で人気を博しているのだろう。

テクノロジーともに育った若い世代は、デジタル決済に何の問題も抵抗感もないだろう。しかし閉鎖的な社会で半世紀以上もの間育ち、2003年のミャンマー金融危機を経験した年配の世代からは、当然ながら懸念の声が上がっている。さらにミャンマーでは地域住民の70~75%に相当する4000万人の人々が、銀行口座を持っていないという。

3.これからのキャッシュレス化に必要なもの

アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として有名なMartin Luther King牧師の言葉に、こんなものがある。「飛べないなら、走ればいい。走れないなら、歩けばいい。歩けないなら、泳げばいい。なんにせよ、前に進み続ければいい」。この言葉の意味を、私たちは今一度考える必要があるだろう。

私たちにできることは対面支払いの選択肢を完全に排除するのではなく、デジタル決済の実現に向けて、利便性やメリットを伝えながら少しづつ社会や人々を誘導することである。

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小売業者や宅配業者は、様々な決済事業者と提携することで、顧客に対して幅広い決済手段を提供することができるようになる。

例えば2020年の5月以降、多くの小売店は複数の支払い手段を用意するようになった。顧客はスマートフォンの画面上で作成されたQRコードをレジで提示するだけで、現金を支払う必要もなくなる。このように対面での支払い方法を継続しつつ、デジタル決済ソリューションを提供することもできる。

人々がテクノロジーの利便性を体験するにつれ、デジタル決済への切り替えはより進んでいくだろう。いつでもどこからでも携帯電話やスマートフォンで支払いができるようになれば、電気代を支払うためだけに、炎天下に電力会社の前に何時間も並ぶ必要がなくなる。

キャッシュレス化の推進に必要なのは、人々の決済習慣の背後にある理由を理解することである。真のデジタル社会を実現するためには、様々なプレイヤーが今後も一丸となって努力し続けなければならない。

翻訳記事:https://e27.co/how-understanding-culture-can-drive-digitisation-of-payments-in-myanmar-20201013/

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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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