環境制御型農法 - アグリテックスタートアップが取り組む島国における持続可能な農業

国土面積の狭いシンガポールにおいて、大規模農業は不可能に近く、国民は新鮮な野菜を手に入れることが困難である。本稿ではアグリテックスタートアップであるSustenir Groupが目指す、狭い土地での持続可能な農法を紹介する。
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国土面積が724.2平方キロメートル(279.6平方メートル)しかないシンガポールにおいて、大規模な農業を行うハードルは高く、不可能に近い。

シンガポール食品庁によると、同国の国土のうち農業に利用できる土地はわずか2平方キロメートルだという。この数字は、隣国であるマレーシアが既に農業に利用している土地の11分の1以下という少なさだ。このため、シンガポールでは食料品の90%以上が輸入品である。

シンガポール政府は、農業分野の改革に積極的に取り組んではいるものの、実際には根菜類や果物、ハーブ、ヤギの乳、カエルの肉などの栄養価の高い食材が十分にサポートされていないと、地元の農家からは不満の声が上がっている。

しかしこれらの課題は氷山の一角に過ぎない。従来の農法には、環境問題という大きな課題が隠れている。

一般的に、伝統的な農法は温室効果ガス排出の最大の原因となっている。人口の増加とそれに伴う需要増加により、農家は収穫量を増やすことを強いられている。結果として、収穫量を増やすために窒素系肥料への依存が強まっているのだが、これが亜酸化窒素の排出につながり、気候変動をさらに悪化させる要因となっているのだ。

この問題に正面から取り組むため、Benjamin Swan氏は2015年にシンガポールでアグリテック企業を設立した。この企業では、より効率的で持続可能な農業の方法を採用している。

グリーンストップ

オーストラリア人のSwan氏は、シンガポールの食料品店で新鮮なサラダを見つけられなかった体験から垂直農園のアイデアを思い付いたという。

同氏はe27のインタビューに対し「12年前にオーストラリアからシンガポールに移住してきたとき、おいしい野菜を手に入れるのがとても難しいことに不満を抱いていました」と語った。

しかし、Swan氏はその問題がシンガポールの流通業者や農家にあるのではなく、各国からシンガポールに空輸された時には、すでに袋の中で枯れてしまっていることが原因であると知っていた。

また、同氏は「12時間以内に食べなければ、生ごみとなってしまうことにも不満を抱いていた」と付け加えた。

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しかし面白いことに、Swan氏が垂直農法を深く追及する決定打となったのは、Facebookの投稿であった。

「Facebookで垂直農法についての記事を読んだとき『これはいい、自宅でおいしいサラダを育てられる』と思ったのです」と彼は語る。

Swan氏はこの業界についての知識を深めるため、様々な国を巡り、伝統的な農業の専門家を訪れていった。そして知識を深めていくうちに、従来の農業は環境に悪影響を及ぼしていることに気が付いたという。

そこで同氏はフルタイムのエンジニアの仕事と並行し、室内で野菜の栽培を始めた。

当初はプールの地下室で、42度以上の温度でケールを育てていた。しかしケールは18度から20度の温度で育つため、この環境での栽培は前例のないことであった。

そして1年半の研究期間を経て、共同創業者のMartin Lavoo氏とともに垂直農法の農場「Sustenir Group」を立ち上げた。2021年現在、同社の野菜はRedmartやCold Storageなどシンガポールの大手スーパーマーケットで販売されている。

屋内農園

Sustenir Groupでは環境制御型農法(CEA)や垂直農法、水耕栽培などの手法を用いてケールやレタス、ホウレンソウなどの野菜を栽培している。

この屋内農業施設では24時間稼働のセンサーにより、湿度や温度、光などのデータを収集し、すべての野菜の健康状態とステータスを管理する。

収集されたデータはシステムへと送られ、それをもとにそれぞれの野菜に適した環境が調整・維持されるのだ。

また、一般的な農家は野菜や果物の見た目を整えるために農薬を使用するが、Sustenir Groupは農薬を一切使用していない。

「Sustenir Groupでは農薬を一切使用していません。ご存知のように、オーガニック製品には有害ではないものの農薬が使用されています。私たちの農産物は100%クリーンであり、それはオーガニックを超えたものです。また、私たちは農薬を使わないだけでなく、栽培環境の衛生管理にも力を入れていいます」とSwan氏はコメントした。

さらに、化学薬物質を使用していないため、野菜や果物の栄養価が高いだけでなく味も良いと主張している。実際、子供が野菜を喜んで食べたため、どこで野菜を仕入れたのか知りたいと尋ねられることもあったという。

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従来の農業は激しく照り付ける日光のもと、何時間もかけ作業する非常に手間のかかる職業であったが、Sustenirの従業員にとっての農業体験は従来のそれとは完全に異なる。

「屋内農園では誰かが昼夜を問わず働くのではなく、すべてが事前にスケジュールされています。そのため私たちは野菜をいつ移動し、いつ収穫しなければならないのかを事前に把握できます。すべてが事前に計画されているのです」

「屋外の農場のように、今月は雲が多すぎるからもう2、3日野菜を置いておこう、ということはありません。すべてが計画され、予定されています。すべてが私たちの手の中にあるのです」とSwan氏は説明する。

今後の展望

今後、Sustenir Groupは屋内と屋外の両方の農法を活用していく予定だという。

Swan氏は「現状では白菜のような野菜を屋内で栽培することはできません。そのため屋外の技術を活用して改良し、栽培をより効率的にする必要があります。屋内栽培では限られた野菜しか栽培できないのが現実です」とコメントした。

2020年、Sustenirは香港とマレーシアへの進出を果たした。

「2020年、Sustenirは香港とマレーシアへ進出しましたが、私たちはまだ2つ目と3つ目の市場を手に入れたばかりです。今後はこれだけにとどまらず、東南アジアや北アジアにも進出していきたいと考えています」と語っている。

翻訳元:https://e27.co/how-sustenir-group-makes-sustainable-farming-possible-in-the-island-nation-20210401/

表題画像:Photo by ThisisEngineering RAEng on Unsplash (改変して使用)

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執筆者
岩切優 / Yu Iwakiri
Media Writer
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