学生起業家がカンボジアのフィンテックエコシステムに参入する方法

銀行サービスの普及率がわずか5%と言われているカンボジア。「社会課題を解決するうえで、学生起業家はスタートアップエコシステムの重要な部分を形成している」と語るシンガポールの学生起業家の視座を探る。
金融 決済 VC/CVC

私がソーシャルスタートアップに魅了されたのは、カンボジアのシェムリアップで行ったボランティア活動中の2017年の出来事だった。

私たちは現地の若者たちに基本的な金融概念について教えるためにカンボジアに向かった。また、お金の健全な関係を支える原則がどのようにコミュニティのニーズを満たすために取り入れられ、現地の生活にポジティブな影響を与えることができるのかを探求する目的もあった。

原体験となったボランティア活動

若者たちに教えた10日間は、私が教育期間でうけたこれまでの12年間の教育の中で、最も示唆に富んだ1週間となった。

シンガポールという都会のコンクリートジャングルに住んでいた10代後半のフレッシュな大学生として、私が若者たちに教えた毎日は、これまで私たちが豊かさを支え、成長させるための素晴らしい政府や金融システムを備えている特権的な社会に住んでいたということに気づかせてくれた。

残念ながら、カンボジアのシステムはシンガポールのものとは異なっていた。

カンボジアの学生たちが私から学んだ以上のはるかに多くのことを、私は彼らから学んだ。私は当時、金利や銀行の預金口座といった基本的な金融用語や内容を教えていた。しかし彼らは私に、彼らの年齢で自身に課せられた責任や夢の力について、とても多くのことを教えてくれたのである。

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カンボジアで村の学校に通えるという事実は、彼らが家族の希望の代表であることを意味していた。彼らは兄弟や両親、そして親戚の将来の大黒柱になることを期待されていたのである。

しかし彼らはその責任の重さに押しつぶされてはいなかった。それどころか、たとえ困難に直面しても、さらに頑張ろう、努力しようという意欲をプレッシャーこそが与えていた。学びや知識の吸収に対して、純粋な欲求を抱えていた。

こういった態度は彼らが初歩的な英語を使って私に質問をしようとした時に最も顕著であった。彼らは間違えて恥ずかしいと感じることを恐れず、現地の先生に翻訳を手伝ってもらいながら、言語の壁を解決する方法を模索していた。

この燃えるような学びに対しての探求は、彼らを助けたいという私の欲求も高めていった。イラストを使用したりロールプレイで比較的難しい金融概念を説明したりと、様々な方法を模索していった。

クラスで生徒と一緒に昼食を食べていると、私はまた新しい視点を得ることができた。それは夢の力である。シンガポールにいる私のような大学生は、皆同じ実利主義的な夢を持っている。最高の学位を取得し、企業で大金を稼ぎたいといったものである。

しかしカンボジアの学生との会話を通して、大金を稼ぐという夢より大きくなかったとしても、例えどんなに小さな夢だったとしても、夢であることには変わりがなく、同等のものであると実感した。私の学生の多くはバイクを所有したいという、シンプルな夢を抱いていた。

バイクを使った方が通学時間が短くて済むため、学校にいる時間を最大限に活用できると彼らは論じていた。私が教えていた村の学校は、近隣の多くの村から生徒が通える場所に位置しており、通学に徒歩で45分かかる場合もあった。こういった状況は、私たちが生活のなかで当たり前に享受しているものを気づかせてくれた。

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私たちの間の年齢差は、日常生活や特権の違いに比べて小さくみられていた。しかしカンボジアの現状に対して、冷ややかな見通しや洞察を描く報告書もあった。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、カンボジアは世界で最も金融リテラシーの低い国の一つだという。

今後の成長チャンスがある国

シンガポールに戻る飛行機の中で、カンボジアで何世代にもわたって解決されてこなかった社会問題を、未来のスタートアップがどうやって解決できるかを考えた。

そして問題の解決に向けてボトムアップ型のアプローチを採用し、若者の金融に対するマインドセットとカンボジアの教育システムにおける金融教育の欠如という根本的な原因から取り組み始めようとした。

金融リテラシーを促進する教育系のスタートアップは、若者の基本的な金融リテラシーを構築するために、カンボジアの教育システムに参入できる。スタートアップはカンボジアの若者が成人になり収入を得る時に、利用可能な金融ツールやリソースを効果的に活用するための十分な金融知識を与えることができる。

2017年に実施されたKPMGの調査によると、カンボジアの銀行普及率はわずか5%と、この地域で最も低いと言われている。そのためフィンテック系スタートアップが参入し、学校などで教育を受ける際に培った金融知識を活用してもらうための持続可能なデジタル金融ソリューションを提供できる可能性がある。

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このようなスタートアップはテクノロジーを活用して、農村部に住む若者に手を差し伸べるべきである。従来のカンボジアの銀行は物理的に銀行の支店を設置する必要があり、農村部には金融機関としてのインフラを提供できていなかった。

テクノロジーを活用することは、この地理的な課題を解決するための最も効果的な手段である。そして若者がテクノロジーに対しての知識や判断力をもつことは、収入をしっかりと守り資産を成長させるための金融ソリューションへのアクセスに役立つはずである。

上記のソリューションには、多額のリソースをもつスタートアップと、それらを率いる起業家が含まれているが、現代の学生や若者にも役割がある。

学生起業家は、社会問題に対する意識を高めるうえで、スタートアップエコシステムの重要な部分を形成している。ソーシャルメディアの力と若者のデジタルインフルエンサーの存在により、以前であれば耳にすることがなかったであろう地域の問題に対して、若者も広くアクセスできる。社会問題を知ることで、彼らはソーシャルメディアを活用して問題解決のために行動を起こそうと挑戦することもできる。

彼らは、社会問題の代弁者となり、スタートアップが問題解決に向けて参入するための目的を支持することで、スタートアップとそれぞれの課題を結びつけるだろう。従ってスタートアップは、コミュニティがどのような問題に直面しているかという感覚を掴むために、若い起業家を探し、問題に関連する解決策を見つけるために彼らとつながる必要がある。

本質的には、学生起業家はコミュニティの課題とスタートアップ業界の間の最初の接点でもあるため、スタートアップエコシステムの最初のレイヤーを形成する必要がある。

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私は学生起業家として、地域の経済格差を減らし、現地がもつ本来の力を奪うものを減らすことを目的としたソーシャルフィンテックのスタートアップに関わることが目標である。

スタートアップは社会の規範を壊し、その過程においてコミュニティの人々に価値をもたらす問題を解決することを目的としているという点で、ビジネスエコシステムにおいて非常に重要な役割を担っている。

2017年のカンボジアへの旅は、カンボジアの若者が直面している多くの問題に気づかせてくれた。課題に対する認識を高め、解決の可能性のある方法についての私の意見を共有することで、十分なリソースを持ったスタートアップ企業が参入し、問題に取り組めることを願っている。

最終的にスタートアップは、カンボジアの若者の生活にポジティブな影響を与え、彼らが成功する機会に満ちたより経済的に快適な生活を送るチャンスを提供できるだろう。

翻訳元:https://e27.co/how-student-entrepreneurs-tap-into-the-fintech-ecosystem-in-cambodia-20200618/

記事パートナー
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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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