東南アジアの注目すべきハッカソンやスタートアップイベントといえば、「Startup Weekend」が頭に浮かぶだろう。「Carousell」や「Shopback」などの大手テック企業も参加しており、「GIC」や「GovTech」、「Temasek」などからも支援を受けている。
「Startup Weekend」が2020年9月に開催したハッカソンには、環境問題やメンタルヘルスといった東南アジアの課題解決に向けて、450人以上の若者たちが参加。シンガポール副首相のHeng Swee Keat氏もイベントに登壇した。
Startup Weekendの歴史は、2012年に創設者のDurwin Ho氏がシリコンバレーのNUS Overseas Colleges (NOC)プログラムから帰国したタイミングに遡る。
彼は東南アジアのスタートアップ市場に可能性を見出し、ボランティアたちの協力を得て、構想から2年後に第1回「Startup Weekend」を開催した。
「Startup Weekend」にはCSOにJoyce Tay氏が、COOにRaymond Doraisamy氏が参加している。そして2018年には「スタートアップと企業間のギャップを埋めることで、よりインパクトのあるイノベーションを世界規模で推進する」という目標を掲げ、「StartupX」が設立された。
同社はアクセラレータープログラムの運営やスタートアップコミュニティーの形成、そしてハッカソンなどのイベント運営を手がけている。東南アジアを中心に250人以上のメンターや投資家が取り組みをサポート。シンガポールを拠点にしながら、国内外のスタートアップの創業者や経営者などをつないでいる。
さらにシンガポールの投資会社「Temasek」との提携を通じて、サステナビリティに焦点を当てたハッカソン「HyperX」も運営。また、住宅開発委員会(HDB)と提携して、HDB団地内で持続可能な生活をテーマとしたハッカソン「HDB Cool Ideas Hack」も運営している。
「多くの人々は私たちをイベントの主催者と見ている。しかしどちらかというと、イノベーションプログラムの専門家である。私たちが提供しているのは、企業がイノベーションを起こすためのサポートだ。ハッカソンを開くこともあるが、時にはアクセラレーターとしてサポートすることもある」と、Ho氏はe27のインタビュー語った。
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過去に数々のイベントを主催した経験をもつ「StartupX」は、イベント企画に関する情報を収集している企業に対して、様々なアドバイスを提供している。
ここでは、下記の3つのポイントを中心にご紹介しよう。
イベント企画の原則とは
イベント開催にはスピードが命
トラブルを解決するためのヒント
Ho氏はStartup Weekendを運営するなかで、イベント企画時に重視していたポイントが変化してきたという。初期段階では、参加者のための食事やお土産といった細部に気を配っていた。しかしその後は、スピーカーや審査員、そしてメンターを通じて「質の高いコンテンツ」を提供することに注力するようになった。
この経験からチームが学んだのは、2つの原則だった。Ho氏はこの原則こそが「StartupX」の本質だと考えている。1つ目は、まずステークホルダーの期待と目的の整合性を意識すること。そして高品質なコンテンツの提供に注力することである。彼は「目的に沿わない人やイベント企画に納得していない人、そしてお金のみを目的としている人の参加は避けた方がいい」と強調する。
Ho氏によると、クライアントなどの外部関係者と取引する場合は、何よりもまずは彼らが望むものを明確にする必要があるという。
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そして2つ目の原則は「Todoリストをこなすだけのイベント主催者になってはいけない」ことだ。バーチャルなプラットフォームは整備されているか、スピーカーの準備はできているか。こうした基本的なポイントをチェックするだけでなく、どのようなプラットフォームが必要なのか、そしてそれがどのように自分たちのニーズに合っているのかを考えなければいけない。
Ho氏は「多くのイベント主催者が、利害関係者やスポンサーの期待に応えることを過度に気にしすぎている。最も大切な参加者の視点を忘れてはいけない」と話す。
「イベントの目的が達成されているかどうかは、事前に必ず確認しなければならないポイントである。知識の共有や創業者からの経験の共有など、人と人とのつながりを育もうとするのであれば、それが本当にイベントで重要なことかどうかを確認する必要がある」(Ho氏)
過去に成功したイベントについて、そして「StartupX」がどのようにして成功したのかという質問に対して、Ho氏は2つの例を挙げている。1つ目はコロナ禍に開催された「Startup Weekend Singapore」である。
「2018年には200人規模のイベントを開催しており、2020年の当初は500人規模のイベント企画を予定していた。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ、ゼロから計画を練り直す必要があった」とHo氏は語る。
チームはその後急いで調整を進め、バーチャルイベントを開催した。結果的には約750人が参加し、チームの努力は実を結んだと言えるだろう。
もう一つの成功例は「Temasek」の「HyperX」のアクセラレータプログラムに関連するものだ。このプログラムでは2020年4月に「デモデイ」を開催しようとしていたが、COVID-19の影響を考慮してデジタル化を進めた。
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「私は、StartupXが非常に大きな成功を収められた理由は、変化への対応の速さにあったと考えている」とHo氏は言う。ミクロな視点であれマクロな視点であれ、仕事やプロジェクトは外部の変化やトレンドに大きく左右される。そのためいかに変化に気付き、それに迅速に対応するかが重要である。
イベント開催にはトラブルがつきものだ。Ho氏はトラブル対応の秘訣を尋ねられた際に、オフラインのイベントでは必ず「ステーションマスター」を配置していると答えた。ステーションマスターとは、問題を解決するために適切な人材を配置する能力をもち、現場の状況を管理する役割を担う人を示す。
「ステーションマスターは自分自身で問題を解決するのではない。現状を冷静に客観視し、問題を解決するのに適した人物を考え、仕事を割り当てる人物である」(Ho氏)。
Ho氏はインタビューの最後に、世界経済フォーラムがシンガポールで、そしてスタートアップイベント「RISE」がマレーシアで開催されるなど、世界的なトップイベントが東南アジアで開催されることについて言及し、今後のオフラインイベントの復活に楽観的な見方を示した。
「周囲を見渡すと、オンラインとオフラインの間には大きな壁がある。しかし今後はハイブリッドモデルを検討する必要があるだろう」と締め括った。
表題画像:Photo by Headway on Unsplash(改変して使用)