安全にタンパク質危機に備える:抗生物質ゼロな家畜の栄養剤とは?

近年、畜産業における抗生物質の消費量が増加傾向にあることから人への健康被害が生じ始めている。オーストラリアのバイオテクノロジースタートアップ企業であるProAgniがこの問題にどのように取り組んでいるのかについて解説する。
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世界的にタンパク質ニーズが増加する一方、タンパク質産業は持続可能性、バイオセキュリティ、倫理の問題にさらされている。より安全、より持続可能、かつより倫理的な食品の選択を求める消費者が増えている中、家畜生産者がそのニーズに対応できていないことは明らかである。

近年、人類の薬剤耐性は増加傾向にあるが、これは畜産業における抗生物質の消費量が増加していることを考慮すれば至極当然のことである。東南アジアなどの地域では、政策の実施とインフラの不足がこの問題を特に深刻化させている。

家畜における抗生物質の使用は、人の健康を直接害する。

これは産業界の構造的な問題となっており、結果として農家の経済的持続可能性を脅かすものとなっている。

抗生物質

オーストラリアのバイオテクノロジースタートアップである ProAgni は、この問題に真正面から取り組んでいる。ProAgni は、集中的な家畜生産における非治療用抗生物質の使用をなくすことを使命としており、家畜の消化を最適化する栄養剤ProTectの開発を通じてこれを達成した。無論、この技術には抗生物質が一切使用されていない。また、特許も取得済みである。

この飼料添加剤技術は、体内微生物の発酵を促すことで、体重の増加と健康状態の安定化を図り、家畜の成育環境を最適化することが可能である。これにより、抗生物質を使用せずとも動物の健康上の安全性を維持しながら、生産性を大幅に向上させることができる。

カンガルーの生態

ProAgniの共同設立者たちは、創業アイデアを起案する際、カンガルーが「どのようにしてわずかな食料と水で成長しているのか?」、「どのようにしてメタンを発生させずに生きているのか?」、「農場の動物にも同じことができたとしたらどうだろう?」を考え続けたという。

結果、彼らは反芻動物からメタン排出量や草、水の使用量を減らし、抗生物質の使用をなくすことにチャンレンジしようと決意した。畜産業の経済性と持続可能性の向上に貢献できると考えたからである。

共同設立者の Fiona氏は、同社の技術を採用することで、メタン排出量や抗生物質が少なく、より効率的な食肉生産が可能になるという。この技術は欧米や新興市場における畜産業にも応用可能である。

ProAgni 社にとって最大の成果は、製品の性能が当初の予想を超え、生産者からの好意的なフィードバックと力強い売上の伸びに支えられたことである。もう一つのマイルストーンは、嫌気性細菌を保存安定化できることを証明したことである。

Fiona氏は、Future Food Asia のファイナリストに選ばれた。今後、露出を増やすことで、安心・安全な食品供給に情熱を注ぐ志を同じくする人々と出会いたいと語る。

業界構造に変革を

ProAgniのProTect製品ラインは、過去2年間、オーストラリアで商業販売されており、科学的にも商業的にも検証されつつある。一方、Fiona氏が求めるほど業界が変化を迅速に受け入れておらず、多くは新技術の導入に対して二の足を踏んでいるのが現状である。

Fiona氏は今後、コラボレーショ ンの継続により、持続可能な食品生産のためのイノベーションを生み出し、業界構造に変革をもたらしたいと語る。

翻訳元:How ProAgni is shaping the future of sustainable animal production

記事パートナー
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執筆者
松尾知明 / Tomoaki Matsuo
中小企業診断士 / Web Writer
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