インドネシアにおいて、クラウドキッチンはまったく新しいコンセプトでは無い。ある意味では「Domino’s Pizza」や「Pizza Hut」もクラウドキッチンであり、何年も前から存在している。これらのファストフードチェーンは、デリバリーとテイクアウトのみに特化した1つのブランドが1つのキッチンを管理・運営するというモデルを採用している。
このモデルは年々進化を遂げ「コワーキングスタイル」を採用するようになり、同じ敷地内での同一オーナーや異なるオーナーによる複数ブランドが営業可能となっている。
トレンドからは、インドネシアのフードデリバリー市場において、クラウドキッチンが急速に重要な役割を占めるようになっていることがわかる。「Savills Research」が2021年3月に発表したレポートによると、インドネシアのクラウドキッチン市場は成長軌道に乗っている。この分野の技術的先駆者は、「Grabkitchen (Grab)」と「Dapur Bersama (Gojek)」だ。
業界の成長に伴い、この分野に参入する企業の数も増えた。「Savills」の推計によるとジャカルタだけでも7つの事業者が、500以上のキッチン台からなる70のクラウドキッチンを運営しているようだ。これらの中には「Yummy Corp.」や「Hangry」、「Everplate」、「Kita Kitchen」、「Telepot Co-Kitchen」、「Eatsii」などが名を連ねる。
クラウドキッチンには、大きく分けて3つのビジネスモデルが存在する。
オンラインのフードコートやレンタルスペース(例:「Everplate」、「GrabKitchen」、「GoFood」)
オンラインレストラン(例:「Hangry」、「Dailybox」)
マネージドキッチン(例:「Yummykitchen by Yummy Corp.」)
また「Lookalkitchen」のように、利用されていない業務用キッチンとブランドのネットワークを繋ぎ、収益の共有機会を作り出すことを目的とした企業も存在する。
インドネシアでは2018年末にクラウドキッチンへの関心が集まり始め、2019年には本格的なブームを迎えた。既にブームを引き起こしていたフードデリバリー業界がこのブームを更に盛り上げたのだ。
また一部のF&Bブランドは、フードデリバリーチャネルによって、従来のレストランよりも大幅に高いROI(投資利益率)を獲得した。
ミレニアル世代もこの成長を加速させた。この新世代の若者たちはテクノロジーに精通しておりながら、都市部や地方都市で多忙な生活を送っているため、既にオンデマンドデリバリーに慣れ親しみ、依存していたのです。
しかしながら、この加速度的に進む成長に最も大きく貢献しているのはCOVID-19だ。
「Quest Ventures」のパートナーであるYiping Goh氏は「F&Bブランドが消費者に料理を提供するという伝統的なモデルを崩したことで、クラウドキッチンの分野はパンデミックの期間に驚異的な成長を遂げています。この傾向は、パンデミックが最終的にエンデミックへと移行しても続くでしょう。インドネシアの飲食店オーナーは何度も行われる長期のロックダウンに疲れ、エンデミックに耐えうる、より強力で新しいモデルを探さざるを得なくなっています」と述べる。
しかしながら、彼女はクラウドキッチンの成長物語はまだ始まったばかりだと考えている。このモデル、特にフードデリバリーとフードイクスペリエンスにおけるイノベーションは、今後も続くだろう。
「Momentum Works」は、主にCOVID-19のパンデミックにより、東南アジアにおけるオンラインフードデリバリーの市場規模が、2019年の43億米ドルから2020年には119億米ドルへと約3倍になったと指摘する。
上記において31%を単独で占めるインドネシアでは、キッチンによってはその成長が不公平感に満ちている。適応が遅く、急速なメニュー変更や新技術、新たなマーケティング戦略の取り入れができないキッチンは引き続き後れをとっているのです。
「概して、パンデミックはほとんどのデジタルサービスのデジタル化を大きく加速させました。オンラインフードデリバリーも例外ではありません。これは、人々がまだ家に閉じこもっており、外食という選択肢が実現できないためです」と「Hangry」のCEOであるAbraham Viktor氏は述べる。
一方で「Yummy Corp.」のCEO兼共同設立者であるMario Suntanu氏は、COVID-19にかかわらず、過密する人口と悪化する交通事情のために、消費者の行動はフードデリバリーに向かっていったと考えている。
同氏は「クラウドキッチンは主に業者の問題を解決するものですが、業者の抱える問題は変わりません。ただ、パンデミック時には緊急性が高まっており、それにより採用が加速されたのです」と指摘する。
またSuntanu氏は、「私たちはデリバリーチャネルで売れる商品とモールやショッピングセンターで売れる商品は必ずしも一致しないと学びました。つまり、ショッピングモールがオープンすれば、支出を占める割合は変わるかもしれませんが、全体としては消費者の交わりは不十分になるでしょう」と述べている。
Viktor氏は、「Hangry」のブランドにとって最も大きなリスクは顧客からの愛の獲得ではなく、料理の品質(と一貫性)、そして、ブランディングを維持することだと考える。
同氏は「味、品質、パッケージなど、すべての店舗で製品の一貫性をいかに保つかが、大きな課題のひとつです。またブランドとして、他のF&B企業よりも目立ち、お客様が数あるブランドの中から当社を選んでいただけるようにしなければなりません」と述べている。
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もう1つの課題は、デリバリーする料理が最高の品質であることを保証することだ。Viktor氏は「店内飲食形式のレストランから始まった伝統的なF&B企業にとって、フードデリバリーを行うことはより困難なことでしょう。なぜなら彼らのオペレーションは、質の良い料理を素早く提供することを目的としているからです。しかしデリバリーとなると、調理して配達された後も同じ品質を維持することが難しいのです。私たちの場合、当初からオペレーションを効率化してきました。私たちのレシピは、料理がデリバリーされた後でも、可能な限り最高の品質と一貫性を維持できるように最適化されています」と訴える。
「Hangry」はマルチブランドの料理モデルを採用しており、すべてのブランドを自分たちで構築している。つまり、クラウド型キッチンにヒントを得た独自のコンセプトを開発し、それを自社ブランドのサポートに限定して使用しているのだ。
「Lookalkitchen」のようなスタートアップは、調理が簡単で味のクオリティが高い、拡張性の高いブランドを扱う。「LookalkKitchen」の共同創業者兼CEOで、「Gojek」の元VPであるPeter Choi氏は「ブランドは、パートナーであるキッチンとのレベニューシェアの仕組みを通じた拡大のための投資を行い、取引が行われた場合には全員が収益を得ることができます」と述べる。
また、「その結果「Lookalkitchen」はブランドの拡大を可能にする最も迅速な方法を提供し、2週間以内に新しい店舗をオープンすることを可能にしています。私たちは、店舗がデリバリープラットフォームに参加するのを支援し、それと並行して、技術とオペレーションのセットアップを行っています」とChoi氏は付け加える。
この分野への投資額が増加していることは、数年前と比較した市場参入プレイヤーの数からも明らかだ。VCや著名なハイテク企業、特に配車サービス大手は、インドネシアにおけるクラウドキッチン施設を倍増させている。
最近では「Yummy Corp.」が「BRI Ventures」の運営するファンド「Sembrani Nusantara」からの投資を受け、シリーズBラウンドを拡大した。このラウンドは、2020年9月に「Softbank Ventures Asia」が主導するシリーズBで1,200万米ドルを獲得してから1年も経たないうちに実現している。
また「Hangry」には最近いくつかの投資が入ってきている。同社は5月に「Alpha JWC Ventures」が主導するシリーズAラウンドで1,300万米ドルの"oversubscribed"(出資希望者殺到)な資金調達を発表した。
ところで、なぜこれほど投資家を惹きつけているのだろうか。
クラウドキッチンのスタートアップ企業は、運営者と客の両方の視点から、多くの業務効率化や苦悩の解決を行っているのだ。
また、F&B業界では常に新しいトレンドが生まれており、十分に機会を提供している。その結果この分野には、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、さらには国内外の大手F&Bグループなど戦略的投資家が集まっているのだ。
「Alpha JWC Ventures」のパートナーであるEko Kurniai氏は「クラウドキッチンを利用することで、お客様は一度の注文で多くの選択肢に即座にアクセスできるようになり、企業にとってはオペレーションの効率化、ユニットエコノミクスの向上、より包括的な顧客データへのアクセスなどが可能になります。さらに、複数のブランドを展開することで、事業者はより多くの顧客データを活用することができ、次のブランドを決定する際の洞察力を高めることができます」と述べる。
同氏は加えて、今日、F&Bのインフラは、顧客対応からビジネスのサプライチェーン、オペレーションに至るまで、テクノロジーを前面に押し出して確立されていると指摘する。その結果地元のブランドが繁栄し、国際的な基準に達するようになったのだ。
「オンラインのフードアグリゲーターは、F&Bプレイヤーがそのカバー範囲を広げるのに役立ちます。持続可能なブランドを構築するためには、データを活用することが重要です。プレイヤーはアプリにより注文を受け、さらには配達することで、消費者への直接販売チャネルを確立しています。さらには、企業がワークフローをデジタル化し、経済性を継続的に向上させることを可能にするERPやPOSなどのサポートシステムが大量に採用されています」とKurniadi氏は説明する。
「BRI Ventures」のCEOであるNicko Widjaja氏は、フードデリバリーを利用しているのはわずか3,700万人であり、毎年数十億ドルに相当する開発可能性を秘めていると考える。インドネシアのクラウドキッチンは、利用者の選択肢を増やすことでビジネスを成長させるモデルとなっており、明るい未来が待っているのだ。
「クラウドキッチンは設備投資を抑え、「Grab」、「Gojek」、「Shopee」などのオンラインプラットフォームとの強力なパートナーシップを得ることができるため、中小企業がパンデミックの中で生き残るのに役立ちます」と同氏は述べる。
そして、「クラウドキッチンを運営するには多額の資金が必要なため、参入障壁はかなり高いといえます。そのため、このモデルの成長には、地元に合わせた微妙な調整が強く求められます。これは、中東における「Kitopi」や米国における「Kitchen United」、インドにおける「Rebel Foods」など、国内発のスタートアップ企業が一定程度成功しているのと同じです。標準化されたフードコートを提供しても、地域によって好きなF&Bの種類が異なるためうまくいきません。様々な料理と提携することで、クラウドキッチンはモジュール化され、インドネシアでの成長が期待できるモデルとなります」とWidjaja氏は続ける。
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インドネシアには豊かな起業家文化があり、食品販売はマイクロビジネスやスモールビジネスの中でも最大のカテゴリーだ。多くの人が食品を作り、ソーシャルメディアで販売し、「Gojek」や「Grab」などのサービスを利用して顧客に食品を届けている。
「この傾向は強まっており、この種のビジネスは人気を博しています。しかし、クラウドキッチンがこの大きな機会を利用しているようには見えません」と、筆者の同僚でジャカルタ出身のAnisa Menur氏は言う。
現在の消費や投資の傾向から判断すると、クラウドキッチンはこれからも存在し続けるだろう。一方で、このモデルが成功するかどうかは、可能な限り短時間で提供される料理の質にかかっている。「クラウドキッチンは、スピード、カスタマーサービス、パッケージなど、フードデリバリーの全体的な体験を向上させる独自の体験を切り開く必要があるでしょう」と「Yummy Corp.」のSuntanu氏は述べる。
翻訳元:https://e27.co/how-millennials-pandemic-driving-growth-cloud-kitchens-indonesia-20210811/
表題画像:Photo by Cristiano Pinto on Unsplash (改変して使用)