エストニアのスタートアップ・ビザは、4年間でどのようにして3000もの成果を出したか

エストニアのスタートアップビザ制度の成果が出ている。世界が新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむなかでも、スタートアップの育成に取り組むエストニア。同国のビザ制度について、これまでの数字を振り返りながら解説する。
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今年の1月にスタートアップ・エストニアのチームに参加したとき、私は世界で最も優れたスタートアップビザ制度のひとつを率いることに興奮していた。しかし、この先に待ち受けているであろう旅を想像することはできなかった。そのため、昨年の統計には驚かされた。

国境の閉鎖やパンデミックにもかかわらず、スタートアップビザを利用してエストニアに移転した創業者達は、前年に比べて雇用税を72%多く支払い、会社の売上高も46%増加していたのだ。

スタートアップ委員会※は、この2ヶ月間、スタートアップステータス※の取得を希望する申請者の承認・却下に非常に厳しい姿勢で臨んでおり、これには私も感心させられた。スタートアップステータスが与えられなかった応募者は、委員会から改善するための素晴らしいアドバイスを受け、準備が整った時点で再応募することが期待されている。

私は、エストニアのスタートアップ・エコシステムが日に日に多様化していることを嬉しく思っている。事実、2020年だけでも88カ国から応募があったのだ。

では具体的にどれくらいの数字であるか、掘り下げてみよう。

すべてはスタートアップのステータスから始まる

スタートアップ企業が創業者や従業員をエストニアに移すことを希望する場合、最初のステップはスタートアップステータスを申請することである。革新的で再現性のあるビジネスモデルを持ち、グローバルな成長の可能性を秘めたスタートアップ企業の申請は大歓迎だ。詳しくは、エストニアのスタートアップビザに関するFAQを確認していただきたい。

エストニアのスタートアップ企業は、スタートアップステータスを申請することで、ヨーロッパ以外の国から人材を採用することもできる。実際、2020年にスタートアップステータスを取得した創業者のうち、約38%がエストニアの市民権を持っていたという。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

2020年のスタートアップステータスの申請件数は合計685件で、そのうち175件が成功となった。全体の成功率は、2017年の43%から2020年には25.5%に低下しており、これについて委員会は、エストニアのスタートアップエコシステムから恩恵を受ける企業にのみステータスを発行していること、またその逆もあることを示唆している。

プログラムの開始以来、合計2778件の申請があり、内761件が取得に成功している。

スタートアップ企業がスタートアップステータスを取得すると、創業者はエストニアでの登録が済んでいるかどうかに応じて、ビザや一時滞在許可証を申請することができるようになる。創業者がすでにエストニアでスタートアップを設立している場合は、最長5年間有効な滞在許可証の申請も可能だ。

エストニアですでに登録され、ステータスを持つスタートアップは、グローバルな人材を容易に採用できる。スタートアップの段階から成熟して成長するまで、このプロセスを繰り返す必要はない。

グローバルなファウンダーを重視

2017年にスタートアップビザのプログラムが始まって以来、697人の創業者が一時滞在許可証(TRP)またはビザを取得した。その結果、エストニアのスタートアップデータベースには、スタートアップビザを取得した創業者による226社のスタートアップが登録されている。これらの企業の主な活動分野は、ビジネスソフトウェアおよびHR(40)、アドテックおよびクリエイティブテック(28)、消費財およびサービス(23)である。

最近の数字を見ると、パンデミックの影響が出ていることがわかる。

2020年には、合計125人のグローバルファウンダーがTRPまたはビザを取得し、エストニアを拠点とする25のスタートアップが誕生した。2019年には291人のTRPまたはビザ取得者によって54社のスタートアップが設立されたため、これらの数字はいずれも前年から低下した。スタートアップビザを取得した創業者のうち、ロシア、イラン、インドからエストニアに移住した人が最も多いこともわかっている。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

グローバルな創業者達がエストニアのエコシステムに多くの価値を生み出していることは、非常に素晴らしいことだと思う。雇用税の納税額、売上高の創出額、従業員の雇用数は増加の一途をたどっている。2020年には、スタートアップビザで設立されたスタートアップで263人が働いており、この数字は2019年に比べて32%増加した。さらに、これらのスタートアップは260万ユーロの雇用税を支払い、売上高は2550万ユーロに達している。これらの数字は、前年に比べてそれぞれ72%、46%の増加となった。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

人材と企業のギャップを埋める

エストニアのスタートアップビザの恩恵を受けた企業の数は増え続けている。2017年以降、合計2237人の従業員が一時滞在許可証またはビザを取得した。2020年には、659人がスタートアップで働くためにエストニアに移住したのだ。297人が一時的な滞在許可証を取得し、362人が短期または長期のビザを取得した。そして2020年、国別で最も申請を成功させたのは、ロシア、ウクライナ、ブラジルの3カ国であった。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

エストニアのスタートアップで働くために移住した人の58%は高等教育を受けており、その過半数がトッププロとして働いている。

今後の展望について

私たちの目的は、テクノロジーやIT分野の人材に対する需要の高まりを、今後も継続させることにある。幸いなことに、2021年2月19日の改正により、EU圏外から来た従業員がITやスタートアップ分野で働くためにエストニアに移転する際には、その家族を帯同できるようになった。これはビザを取得して就労する場合にも適用され、パンデミック以前の状態に戻る形だ。これにより、世界が激動の時代に直面しているにもかかわらず、エストニアに移住するスペシャリストが増えるだろうと期待している。

エストニアの森には、かつてのような空き地はないかもしれないが、仕事する上で静かな場所は誰にでもあるはずだ。

また、エストニアに定住する際に直面する問題を解決するため、世界の創業者たちと協力して、プロセスをさらに容易にする方法を模索している。

エストニアファウンダーズソサエティの外国人創業者担当副社長で、Modashの創業者兼CEOのAvery Schader氏は次のようにコメントしている。「グローバルな創業者コミュニティの価値は、世界中で直面している問題に対して、多様な視点をもたらしてくれることです。彼らのユニークな経歴、出身国、職場の文化、解決する問題に対する認識が、彼らを強力にしていると言えるでしょう。

とはいえ、海外から来た創業者は、現地の人と同じようなあらゆる問題に直面し、さらに移住や統合に関する問題も抱えています。そのため、私たちは、これらの問題に対する解決策を共有する創業者コミュニティを構築することに焦点を当てているのです。顧客を獲得する方法から、銀行口座を開設するために必要なこと、移民局への書類提出や資金調達の方法まで。その目的は、グローバルに活躍するファウンダーを『ひとつ屋根の下』に集め、現地の人脈や情報にアクセスできるようにして、移民手続きを迅速に済ませ、エストニアの次世代ユニコーン企業の成長に注力することにあります。私たちは、世界のどこからでも、エストニアにいるすべての創業者が必要な支援を受けられる場所を作っているのです。

グローバルなスタートアップがエストニアに拠点を置くことは、グローバル市場で競争できるエコシステムを構築するチャンスです。エストニアは近いうちに、発展した企業のサクセスストーリーに初期から参加している人たちが何千人もいるような段階になるでしょう。グローバルな創業者や人材へのアクセスは、その人材をエストニアに留めておく上で重要な役割を果たします。これはフィンランドやスウェーデン、ドイツなどが次の1000億ドル規模の企業を作る手助けをしていることよりも大きな意味を持っているでしょう。

そして、より多くの創業者、より多くのアイデア、より多くの成功を私たち全員で分かち合うことができるのです」

読者の皆さまはどう感じているだろうか? 私は興奮している。激動の時代は、私たちに新しい視点で物事を見る機会を与えてくれた。そして、この旅が最高であると言えるような部分はまだこれからだと確信しているのだ。


※スタートアップ委員会:7つの組織で構成される。

Startup Estonia, Garage48 Foundation,Superangel VC,Tehnopol,Estonian Startup Leaders Club,Startup Wise Guys,Estonian Business Angels Network .

※スタートアップステータス:会社の創業者や従業員がDビザや一時滞在許可証を申請できる資格を与える特別なステータス。


翻訳元:How has the Estonian Startup Visa built 3000 bridges in 4 years

表題画像、本文差し込み画像は全て翻訳元記事より引用(無断転載厳禁)

記事パートナー
エストニアの政府系スタートアップエコシステム
執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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